聾学校幼稚部教育課程について (99年11月25日 up)

 ここでは、以下の講座・大会の概要を掲載します。
 1.平成9年11月13,14日(鹿児島):特殊教育諸学校(幼稚部、小学部)教育課程改善講座(西部地区)
 2.平成9年12月4,5日(東京):特殊教育課程研究大会

1.特殊教育諸学校(幼稚部、小学部)教育課程改善講座(聾学校幼稚部分科会)

行政説明
 「特殊教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議の第二次報告について」(以下、報告1と記す)
 聾学校幼稚部に関する重要部分として、以下のようなものがある。
1.養護・訓練の指導内容と方法について
 重度・重複化が進む中で個別の指導計画の重要性が再認識されている。
 報告の中で、「・・養護・訓練における個別の指導計画の作成の必要性を、学習指導要領上、より明確に示すことについて検討する必要がある。・・」とある。討議の柱の1に。
2.重複障害児の指導
 報告の中で、「・・個別の指導計画を作成するなど、個に応じた指導の一層の充実を図る必要がある。・・」とある。
 重複学級の定員が決められていないこと、今までにノウハウの蓄積が少ないなどの問題が指摘されよう。討議の柱の2に。
3.教育相談の位置づけ(聾学校のセンタ−化)
 報告の中で、「・・、0歳からの教育相談に関する事項を幼稚部教育要領に明記し、教育相談及び幼稚部教育を充実する必要がある。・・・」とある。幼稚園と保育園の一元化についての議論が続いている中で、早期教育の重要性を認め今までよりも踏み込んだ形になっている。文部省と厚生省の協議がいい方向に進むことを期待したい。討議の柱の3に。
  
発表3件

1.和歌山県立和歌山ろう学校(中岡 理子教諭):
     幼児期における養護・訓練について 〜個々の発達をみつめて〜
2.高知県立高知ろう学校(野ア 明彦教諭):
     高知ろう学校幼稚部の現状と今後の課題 〜本校幼稚部の養護・訓練の指導と、
     県下唯一の聾学校としてのこれからの聴覚障害教育のセンタ−的役割について〜
3.熊本県立熊本聾学校(大塚 久美子教諭):
     ひとりひとりを大切にする養護・訓練の教育課程のあり方

討議の柱
1.養護・訓練の指導内容と方法について
 報告1の中で、「養護・訓練のねらいや内容等については、・・・小学部、中学部及び高等部との一貫性や他の領域との関連を踏まえてその示し方を検討する必要がある。」と指摘されている。また、目標、名称についても「・・実際の指導と異なる印象があるとの指摘がある。・・・自立を目指した主体的な活動であることを一層明確にする観点から、目標及び名称について検討する必要がある。」と述べられている。
 大半の聾学校は、幼稚部から高等部までが設けられているので、難聴学級に比べ一貫性が長所になると思われるが、現実は学部ごとに計画が立てられ指導が行われている所が多く、学部間での連携が十分とは言えない。
 教育課程編成上の方針としては、養護・訓練単独で考えるのではなく、6領域相互の関連を図る所が多く、幼児の実態に応じて弾力性を持たせることが定着しているようだ。言語指導至上主義とでも言えるような教育課程はなく、幼児の日常生活全般が豊かに送れることが最優先されている。
 養護・訓練の指導はクラス担任が生活全体の中で、個々の子どもの発達や障害程度を考慮しながら進めている。別に個別指導として聴能や発音等の専科がおかれている場合、全体の人数や重複障害児の数によって、一人一人の幼児に対する指導時間はかなり幅をもたせている。

2.重複障害児の指導について
 報告1の中で「幼稚部教育要領に、重複障害の幼児への配慮事項を明記することや、・・・指導計画作成上の配慮事項を更にきめ細かく示すことなどについて検討する必要がある。」と述べている。聾学校幼稚部の在籍児に占める重複障害児の割合が高くなっている現在、これまでの一斉指導による指導形態や聴覚口話法による指導では十分な指導効果があげられない状況に至っている。
 残念ながら、重複障害児の指導のノウハウについては十分な蓄積がないのが現状で、教員に対する研修機会を増やしたり、養護学校との連携が図られねばならない。

3.聾学校のセンタ−化について
 今後聾学校がセンタ−化することを想定すると、教育相談の一層の充実が望まれる。報告1でも、「0歳からの教育相談に関する事項を幼稚部教育要領に明記し、教育相談及び幼稚部教育を充実する必要がある。」と指摘されている。これまで、制度上聾学校が対象とするのは3歳以上しか認めらず、3歳未満は厚生省管轄の施設・機関が対象とすることになっていたが、幾つかの自治体では、保健部(民生部)と教育委員会とが連携して聴覚障害乳幼児の療育事業を実施している。それらの先駆的取り組みを他の自治体が参考にしてくれることを望んでいるのだが、残念ながら大半の地域では、行政や地域社会での認知度がまだまだ低く、制度上の問題に手がつけられていない。極端な場合、聴覚障害児の存在を聾学校側で把握できるのが小学校入学段階でしかないという県もあった。相談窓口や情報収集の場を一元化するなどの改善策が考えられているが、実現までの道は険しいようだ。聾学校側から施設等に働きかけて連携を求めていくしかないだろう。
 外来相談をサ−ビスとしてやっていると担当者に負担がかかり、時には外来の相談数が在籍児数を上回ってしまい、本務であるべき在籍児への指導にまで影響が及ぶことにもなる。また、聾学校でのみの指導だけではなく、地域の幼稚園・保育園との連携を考えた場合、聾学校から教員を地域の幼稚園・保育園に派遣できるシステムもセンター機能の1つに加えるべきである。

 以上が講座の概要です。渡辺研先生(筑波技術短期大学名誉教授)が助言者の1人としていらっしゃったので、毒舌あり、お笑いあり、終始和やかな雰囲気で進みました(大阪では、「551のぶたまんがある時」と形容します)。また、鹿児島の先生方も人情味あふれる方ばかりで、講座の進行や出席者への心遣いなど、素朴ながらも行き届いていて「故郷の暖かさ」を実感させてもらいました。出席者の熱心な意見交換・情報交換もでき、とてもいい想い出ができました。関係者の皆さんにお礼申し上げます。
そして、「おやっとさぁ−じゃした(鹿児島弁でご苦労さまでした)」

交換資料の集計(集計協力:院生の小森雅史君。謝謝!)
 当日配布された24校の資料を集計し、上記の討論をもとに考察を加えてみました。

太田 富雄(1999)「聾学校幼稚部における『養護・訓練』の指導計画作成について」
 福岡教育大学附属障害児治療教育センタ−年報、12号、pp.39-45
.より

T 聾学校幼稚部の教育課程における「養護・訓練」の登場まで
 聾学校の教育課程については、昭和32年4月に実施された「ろう学校小学部・中学部学習指導要領一般編」と、翌年実施された「聾学校高等部学習指導要領一般編」によって、聾学校における小・中・高等部の教育目標、教育課程の編成、授業時数の標準等が示されることになった。そして、その後聾学校児童・生徒の障害の種類・能力等の多様化や急速に発展してきた聴能学の導入の必要性が認識されたことを受けて、「各教科」「道徳」「特別活動」の他に「養護・訓練」が新たに加えられた新しい学習指導要領が昭和46年度から実施されるに至った。聾学校の教育課程をこの4領域で編成するという基本路線は現在も変わっていない。
 一方、聾学校の幼稚部教育については、幼稚部設置が全国的に普及してきたのが昭和30年代後半からで、昭和31年に制定された一般幼稚園用の「幼稚園教育要領」が基本となって幼稚部教育の目標、幼稚部教育の内容、教育時間等の標準化が図られた。では、昭和30年代前半までは聾学校幼稚部はなかったのかというとそうではない。全国的な普及は昭和30年代後半からだが、聾学校の幼稚部教育の試みは他の障害児学校よりも早く、私立の日本聾話学校では大正9年の学校創立時より開始されており、官立の東京聾唖学校では昭和3年に正式に学級が設置された。もっとも東京聾唖学校では、正式に設置する以前から就学前教育を試みていたようで、大正13年5月に改正された東京聾唖学校規定には、すでに予科の学科課程の記載がある(表1)。それを見ると、「遊戯」が週時全体の1/3である。また、現在でいうところの「養護・訓練」に相当する内容が談話という科目の中で取り扱われていたことがわかる。また一般の幼稚園数が大正15年当時で全国でも1000を越えたばかりで、大正15年に公布された「幼稚園令」の中で「観察」が加えられたが、その「幼稚園令」が公布される以前から「観察」をすでに取り入れていたことなどは東京聾唖学校予科がかなり進歩的であったことが窺える。

表1 東京聾唖学校予科学科課程(大正13年5月)

保育科目 第1学年 週時 第2学年 週時
遊戯 自由遊戯、共同遊戯
観察 身体および周囲の事物
談話 呼吸、発声、発音および読唇
手技 書き方、簡単なる細工
18 20


 その後の幼稚部教育の変遷について、文部省「特殊教育百年史」によれば、『戦前の聾唖学校では初等部予科として幼稚部教育の発展をみたが、その入学者の年齢は、昭和十二年の調査でも三歳から十六歳にまでわたるなど幅があり、年齢差、失聴の時期の相違、聴力損失程度の違いなども大きく、教育効果がなかなか上がらなかった。』(p.365)という記述がある。教育課程の編成にも苦労していたことは想像に難くない。
戦後は、聾学校も小学部・中学部が義務性となり、幼稚部の入学年齢の差が解消されるようになったことで幼稚部教育の目標・内容等の検討が急務となった。しかしその後、昭和45年文部省から「聴覚障害幼児の理解と指導」という手引き書が出されはしたが、幼稚部教育の枠組みを示したものは制定されないままに時を経てしまった。
 ようやく平成元年になって「盲・聾・養護学校幼稚部教育要領」が制定され、障害の種類や程度に対応し、種々の困難を克服するために必要な知識・技能を授け、個々の能力を最大限発揮でき積極的に社会参加・自立する人間の育成を図ることを明確にした。この要領の中で取り扱われる領域のうち、『幼児の心身の障害に対応する側面から、その状態の改善又は克服に関する領域』(p.7)として「養護・訓練」が設けられた。
「養護・訓練」のねらい及び内容については『この領域は、幼児の心身の障害の状態を改善し、又は克服するために必要な態度や習慣などを育て、心身の調和的発達の基盤を培う観点から示したものである。』(p.7)と明記してある。ねらいを達成するための指導計画作成について、現在の聾学校幼稚部が観点として挙げているものは何だろうか。また、指導上の課題とは何だろうか。次の項で検討する。

U  聾学校幼稚部における「養護・訓練」指導計画作成の現状と問題点
 ここでは、西日本地区の聾学校24校における平成9年度教育課程の編成に関する資料を分析してみた。養護・訓練指導計画作成上の観点(以下『観点』と記す)と指導上の課題(以下『課題』と記す)を表2に示す。

 表2 養護・訓練の指導計画作成上の観点と指導上の課題

           観点にしている学校数 課題にしている学校数
個人差 21       15
重複障害        2        5
指導形態        8            7
コミュニケ−ション手段        5         6
両親指導        1         9
専門性        5        14
他機関との連携        3         6
教材・教具        4         4
交流保育        1        4
設備・機器        0        4
領域       11         7
障害の受容・認識        3        2
教師との信頼関係        1        2
人工内耳        1            2
聴覚活用       17        3
発音・発語       14        5
言語指導       11        4
生活習慣        6        0
主体性・興味        7         5


 『観点』、『課題』それぞれ上位の項目を挙げると、『観点』では「個人差」、「聴覚活用」、「発音・発語」、「領域」、「言語指導」、『課題』では「個人差」、「教師の専門性」、「保護者指導」、「指導形態」、「領域」となる。「個人差」が『観点』、『課題』ともに重要視されていることがわかる。「聴覚活用」、「発音・発語」、「言語指導」は、多くの学校で『観点』に挙げられているが、『課題』としている学校は少ない。これは、指導が十分になされ、成果があがっているので課題とは認識されていないのだろうか。これらについては、聾学校の養護・訓練では最も中心的領域であり、そのため観点=課題と認識するのが一般的であり、むしろ重要視すべき課題が他にもあるためであろう。教師の専門性は、直接には指導上の観点とならないが、指導成果を上げる際の重要な要因になると認識されていることがわかる。以下、各項目ごとに現状と問題点を検討していく。
A. 個人差
 『観点』、『課題』ともに最も多くの学校が挙げている。指導計画作成においても、先ずもって個人差への配慮が前提になっている。個人差について、欧米では個別指導計画(IEP)の作成が常識となっており、日本でも早急に検討すべきである。平成10年11月の文部省「教育課程の基準の改善の基本方向について」(以下、報告1と記す)の中でも、個別指導の在り方について検討することの必要性が示唆されている。個別指導計画の作成にあたっては、先ず客観的評価が前提となるが、評価のためのテストバッテリ−や結果の解釈、評価のためのスタッフ編成等が問題となるだろう。
B. 重複障害児
 『観点』、『課題』とも挙げている学校は少ないが、これは子供の状態像ということでA.の個人差のカテゴリ−に含めて考えているものと思われる。幼稚部在籍児に占める重複障害児の割合は、資料から判明した8校だけでみると23%となる。中には在籍児の半数が重複障害児という学校もあった。資料に記載のなかった学校でも実態はこの値に近いものと思われる。
C. 指導形態
 在籍児数の減少で集団が確保できない所が多く、たとえ集団が確保できても個人差が大きいため一斉指導が困難な状況にある。個々の子どもにこれまで以上のきめ細かな指導の充実が求められているので、個別指導と集団指導についての時間配分や担当者の配置の問題等、新たな問題が生じそうだ。
D. コミュニケーション手段
 障害の重度化・重複化、多様化への対応として、先ず問題となるのがコミュニケーション手段であろう。子ども一人一人の障害の状況に応じたコミュニケーション手段の選択がなされる必要がある。重度化・重複化した子どもに対する伝達効率の面からだけではなく、もっと踏み込んで聾者のアイデンティティや言語指導法上の課題として捉えている学校はなかったが、それらについて検討する段階に来ていることを示唆する学校はあった。
E. 保護者指導
『観点』として挙げている学校は1校しかないが、『課題』として挙げている学校は3番目に多い。以前よりも保護者指導が難しくなっているとの指摘が多かった。保護者における障害の受容がスムースでない例、過度の期待を持っている例が述べられたり、一般校への就学が当たり前のように考えられてくると、家庭での日常的な指導を重要視しない保護者が増えてしまうことなどから、保護者指導を課題に挙げている所が多い。
文部省「時代の変化に対応した今後の幼稚園教育の在り方について」(以下、報告2と記す)の中でも、家庭の教育力の低下といえる状況が次のように指摘されている。
「第1には、子育ての大切さや喜びを実感できず、子育てを他者に依存しようとする傾向が出てきていることである。第2には、家庭教育の重要性は認識していても、子どもにどう対応したらよいかわからず、マスメディアの情報に頼って、自分の中に閉じこもり、育児に強い不安感を抱き、『育児ノイローゼ』に陥る親が増えていることである。第3には、家庭教育には熱心だが、必ずしもその方向が適切とは言えないいわゆる早期教育に向かう傾向がみられることである。」
 早期教育段階での成否を問う際に最も重要なのは保護者の意識や関わりではないだろうか。その意味でも、今よりももっと保護者指導が観点として取り上げられるべきだ。
F. 教師の専門性
 観点として挙げている学校は少ないが、課題として挙げている学校は個人差についで多い。以前より、聴覚活用や発音・発語指導などの専門性は重要視されていたが、幼児の障害の重度・重複化、多様化への対応が急務となっている現在、聾学校教員も養護学校における教育内容や指導方法についても習得しなければならなくなってきた。そのための研修機会や研修の場が提供される必要がある。また、適切な就学指導や学校間の連携もこれまで以上に重要となろう。
文部省「特殊教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議の第二次報告について」(以下、報告3と記す)では、「教育課程の改善について」と「教職員の資質の向上について」が2本柱になっており、教師の専門性向上が大きな鍵を握っていることが指摘されている。教師の専門性については他の稿で論じたい。
G.他機関との連携
 聾学校がセンター的役割を果たすことが求められており、病院・施設、他の教育機関等との連携が必要になる。この事項に関しては地域差、学校差が大きく、文部省だの厚生省だのといった管轄にとらわれることなく自治体として障害児の早期療育に熱心な所もある一方で、行政の縦割り主義の弊害が出ている所もある。
障害児教育の中でも聾学校は教育相談には長年の歴史と実績とを持っているけれども、それが正しく評価されず、聾学校の孤軍奮闘に終始している悲しい現状もある。報告書2の中でも3歳未満の乳幼児を含む教育相談に関する事項を幼稚部教育要領に明記することについての検討が示唆されており、早急な実行が望まれる。
H. 教材・教具
 学校の所在地によっては、自然との触れ合いを深める体験学習等が実施しにくい状況にある。また、生物等の生きた教材の確保に苦慮していることなどが述べられている。「幼稚園教育要領」の「幼稚園教育の基本」の項の総括として「環境による教育」というサブタイトルがついている。環境との関わりの中で得られる体験がいかに重要なものかを示唆するものであり、この点は聴覚障害児教育についても同様である。人的環境、物的環境、社会環境、家庭環境等、教育課程編成時に最大限考慮されるべきものとして位置づけられている。聾学校独自に開発すべき視覚教材・教具や使用方法に関するノウハウ等は個々の教師の専門性とも絡んで子どもの生きた体験や直接的な経験・知識につながるので重要である。
I. 交流保育 観点、課題として挙げている学校は少ない。しかし、文部省の報告では、交流教育が人間性や社会性を育成する上で大きな意義があることを認めるとともに、地域社会の人々の障害者に対する理解と認識を深める上で重要であるとの立場から一層の充実を求めている。聾学校がセンタ−としての機能を果たすことを考えても交流保育でノウハウを蓄積しておくことはとても重要だと思われる。しかし、実際に交流を行っている幼稚部では、出席扱いにするか欠席扱いにするかというような内容以前の問題すらあり、早急な法制面の整備が望まれる。
J. 設備・機器
 ループシステムの整備や聴能機器の活用等が課題として挙げられていたが、観点として挙げている学校は1校もなかった。設備・機器のハ−ドウェア面の整備に頼らざるを得ないという状況ではなく、指導内容・指導方法等のソウトウェア面が重要視されている。以前のように、聴覚機器の何を揃えるかではなく、どう使いこなすかに変わってきているとも言える。1例として、発音指導のための機器操作に関して全校的な学習会を開いたりしていることが挙げられよう。
K. 領域・教育内容
 単に養護・訓練のみでなく、6領域全体の関連を考慮して、個々の児童の実態に応じた弾力的編成、計画作成の必要性が指摘されている。報告書2の「教育内容の改善に当たり重点とすべき事項」の中で、自然体験、社会体験などの直接的、具体的生活体験を重視することが指摘されている。聾学校幼稚部では、以前より生活体験に基づく言語指導、いわゆるトピックス指導に力点が置かれ、この点に関しては一般幼稚園よりも先行しているものと思われる。ただ、H.教材・教具の項で述べたように、「環境による教育」をいかに教育実践として具現化していくかについては、各校とも苦労している様子である。
L. 障害受容・認識
 観点、課題に挙げている学校はまだ少ない。報告書2の中では、自我の発達に関する項と関連するが、現行の幼稚園教育要領では、その具体的手がかりが明示されていないと批判し、幼児期の発達の特性に応じた具体的な手がかりを配慮事項として示すことの必要性が述べられている。
重複障害児、コミュニケーション手段とも関連するが、聴覚障害児・者の人権、聴覚障害児・者のアイデンティティの観点から手話導入を検討し、我々の側での幼児観の問い直しを指摘している学校もある。
M. 信頼関係
 観点、課題に挙げている学校は少ない。聾学校幼稚部における独自性というよりも教育の本質に関わる問題であり、教育がなされる前提である。なかなか職員会議等での話題にはなりにくい性質のものであるが、
保護者と腹を割って話す機会を設けるのも必要ではないだろうか。保護者や成人聴覚障害者が中心となっている研究会等では盛んに聾学校批判が出されている。同じ土俵で議論することがもっと必要だ。
N. 人工内耳
 一番ホットな話題であるが、観点、課題に挙げている学校は少ない。手術をした医療機関が装用後の指導についても主導権を握っている例が多い。残念ながら、手術後の指導について、病院側と聾学校とが事前に十分協議し、親の理解も得た上で手術が行われるケースばかりとは言えない。聾学校と喧嘩別れをしたとしか思えない不幸なケースもあり、術後の指導に不安・不満を持つケースへの対応が急がれなければならない。
O. 聴覚活用
 観点として挙げている学校数は個人差についで2番目に多い。人工内耳を装用して定期的に聾学校に通って来るだけのケ−スに対して個別に指導することやその子を含めたグル−プ指導のあり方等、教師が配慮しなければならないことが益々増えるだろう。また、手話の導入も視野に入れると、聴能だけ専科をおいている学校では専科そのものの設置に関しても再検討が必要になる。専科設置の意義・目的の検討を含めて学校全体としてどう取り組むかの意識作りや体制作りが必要だ。
P. 発音・発語
 観点として挙げている学校数は3番目に多い。発音指導の機器が全国的に導入されている実態もあり、以前のようにベテランのみに許された職人芸としてではなく、誰でもが比較的取り組みやすくなっているのも事実だ。だからと言って発音指導に携わる教師全員が思い通りに子どもの発音・発語の力を伸ばしているとは言い切れない。聴覚活用とならんで聾学校幼稚部の「養護・訓練」を代表するものである。
Q. 言語指導
 観点として挙げている学校数は4番目に多い。聾学校幼稚部の教育課程の中で最大の目玉でもあり、専門性の第1位に挙げられると言ってもよい。手話を言語として認める立場をとる学校も出てきたので、多様な考え方や方法が提唱され実践研究がなされていくものと思う。また、聴覚口話法の立場をとる学校であっても、子どもの障害の重度化・重複化への対応を考える際には、手話の導入は避けて通ることのできないものであり、1つの学校内で幾つもの教育方法が採られるのは必至である。導入に際しては、音声に対応した手話か伝統的な日本手話かという議論はもとより、教師の実際の手話使用能力についての問題が大きく、研修の在り方が問われる。
R. 生活習慣
観点として挙げている学校は6校あるが、課題として挙げている学校は1校もない。報告2の「幼児の発達の状況」の中では、基本的生活習慣の形成が不十分なことが指摘されており、心身の健康を培う活動を積極的に取り入れることの重要性を説いている。聴覚障害の有無で左右される要因が少なく、聴児に対する指導、配慮等で片づいてしまう例が多いと思われるが、障害の重度化・重複化への対応などが今後求められてくる。
S. 幼児の主体性・興味
観点として挙げている学校が7校あり、7番目に多い。報告2の「幼稚園教育の役割」の中でも、幼児の主体的な遊びを十分に確保することの重要性が指摘されている。
 では、いったい主体性とはどういうことだろうか。報告2の中でも、現行の幼稚園教育要領ではこの点に関する十分な記述がなく、教師の間での共通理解ができていないこと、自由に遊ばせておけばいいといった誤解を招いていることなどの批判が述べられている。そして幼児の主体的活動が確保されるように、人とのかかわりとものとのかかわり両面について十分配慮して環境を構成していく必要性を説いている。どんなにすばらしい教育課程や指導計画を作成したとしても、幼児の主体性・興味の確保が底流になければ、指導効果は上がらないだろう。

 幼稚部での生活全体が子どもの調和的な発達に寄与できるものとなるためには、上述したこれら『観点』や『課題』について、個々に検討を加えるのはもちろん、『観点』や『課題』相互の関連や教育課程全体の中での位置づけ等についても検討することが必要である。

V 聾学校幼稚部における「養護・訓練」指導計画作成を改善するための視点
ここでは、前項で述べた「養護・訓練」指導計画作成の現状と問題点を踏まえた上で、指導計画作成を改善するためには考慮すべきだと思われる点について述べる。

1 領域間の関連と学部間の連携
今回対象とした聾学校の教育課程編成上の方針としては、養護・訓練単独で考えるのではなく、6領域相互の関連を図る所が多く、幼児の実態に応じて弾力性を持たせることが定着しているようだ。言語指導至上主義とでも言えるような教育課程はなく、幼児の日常生活全般が豊かに送れることが最優先されている。
 養護・訓練の指導はクラス担任が生活全体の中で、個々の子どもの発達や障害程度を考慮しながら進めていくのが基本となっている。個別指導として聴能や発音等の専科がおかれている場合、全体の人数や重複障害児の数によって、一人一人の幼児に対する指導時間はかなり幅をもたせている。領域間の関連という水平の次元については、どの聾学校も可能な限りの配慮をしているようだが、学部間の連携という垂直の次元については問題があるようだ。
 報告1の中で、「養護・訓練のねらいや内容等については、・・・小学部、中学部及び高等部との一貫性や他の領域との関連を踏まえてその示し方を検討する必要がある。」と指摘されている。また、目標、名称についても「・・実際の指導と異なる印象があるとの指摘がある。・・・自立を目指した主体的な活動であることを一層明確にする観点から、目標及び名称について検討する必要がある。」と述べられている。
 大半の聾学校は、幼稚部から高等部までが設けられているので、難聴学級に比べ一貫性が長所になると思われるが、現実は学部ごとに計画が立てられ指導が行われている所が多く、学部間での連携が十分とは言えない。文部省「幼稚園教育に関する実態調査の結果」では小学校と合同の研修会を実施している幼稚園が48.7%もある。この調査が10年以上も前のものであることを考え併せると聾学校も学部を越えた研修体制作りを早急に行う必要がある。学部独自の内容・方法を主張するのはもっともだが、お互いの学部の独自性を認めた上で聾学校全体での整合性をどう図るかの議論がもっと盛んに行われるべきだ。

2 重複障害児の指導
報告1の中で「幼稚部教育要領に、重複障害の幼児への配慮事項を明記することや、・・・指導計画作成上の配慮事項を更にきめ細かく示すことなどについて検討する必要がある。」と述べられている。聾学校幼稚部の在籍児に占める重複障害児の割合が高くなっている現在、これまでの一斉指導による指導形態や聴覚口話法のみによる指導では充分な指導効果があげられない状況に至っている。
 残念ながら、重複障害児の指導のノウハウについては十分な蓄積がないのが現状で、教員に対する研修機会を増やしたり、養護学校との連携を図って対応できるようにする必要がある。聾学校の人事異動が問題にされることがあるが、養護学校を経験した教員が聾学校に転任してくることは、重複障害児への対応を考える際にはプラスに評価されてよい。あるいは、次に述べるセンタ−校的役割をも考えた場合、聴覚的指導については聾学校、聴覚以外の障害に関わる指導については該当する養護学校での指導を受けるシステムに変えたり、総合養護学校として設置された学校内にいろいろな障害に対応できる教員を配置し、それぞれの子どもの必要性に応じて様々な障害担当教員の指導が受けられるようなシステムも考えられてよい。

3 センタ−化
今後聾学校がセンタ−化することを想定すると、教育相談の一層の充実が望まれる。報告1でも、「0歳からの教育相談に関する事項を幼稚部教育要領に明記し、教育相談及び幼稚部教育を充実する必要がある。」と指摘されている。これまで、制度上聾学校が対象とするのは3歳以上しか認めらず、3歳未満は厚生省管轄の施設・機関が対象とすることになっていたが、幾つかの自治体では、保健部(民生部)と教育委員会とが連携して聴覚障害乳幼児の療育事業を実施している。それらの先駆的取り組みを他の自治体が参考にしてくれることを望んでいるのだが、残念ながら大半の地域では、行政や地域社会での認知度がまだまだ低く、制度上の問題に手がつけられていない。極端な場合、聴覚障害児の存在を聾学校側で把握できるのが小学校入学段階でしかないという県もあった。相談窓口や情報収集の場を一元化するなどの改善策が考えられているが、実現までの道は険しいようだ。現段階では聾学校側から施設等に働きかけて連携を求めていくしかないだろう。
 外来相談をサ−ビスとしてやっていると担当者に負担がかかり、時には外来の相談数が在籍児数を上回ってしまい、本務であるべき在籍児への指導にまで影響が及ぶことにもなる。また、聾学校でのみの指導だけではなく、地域の幼稚園・保育園との連携を考えた場合、聾学校から教員を地域の幼稚園・保育園に派遣できるシステムもセンター機能の1つに加えるべきである。交流保育が重視され、「養護・訓練」も自立活動と名称が変更される方向が打ち出され、ますます地域での生き様が問われるようになってきた。地域での生活実態から聾学校幼稚部での「養護・訓練」で何をすべきかについてのフィ−ドバックが益々重要な意味を持つことになる。

W まとめ
 我々を取り巻く社会状況がどんどん変化している現在、教育観や児童観も社会状況の変化に無関係ではいられない。そのため、社会状況の変化に対応した教育課程の編成が必要で、とりわけ障害児の場合、障害による不便さを改善・克服し社会自立を果たすための根元的な教育である「養護・訓練」の編成には一層の配慮が要る。聴覚障害教育の専門と言われる「聴覚活用」「発音・発語」「言語指導」に偏重した従来型の教育だけでは社会に通用できる聴覚障害児を育てることはできない。一般社会の価値観や生活様式に対応できる聴覚障害児を育てていくためには、先ず綿密な「養護・訓練」指導計画を作成していかなければならない。
本稿では、指導計画作成の現状と問題点を述べ、改善のために考慮すべき点についても述べた。今後もより良い指導計画を作成するための検討を加えていきたい。

文献
文部省(1978)「特殊教育百年史」
文部省(1985)「幼稚園教育に関する実態調査の結果」
文部省(1990a)「幼稚部教育要領」
文部省(1990b)「盲・聾・養護学校幼稚部教育要領」
文部省(1997)「特殊教育の改善充実に関する調査研究協力者会議の第二次報告について」
文部省(1998)「教育課程の基準の改善の基本方向について」
東京教育大学附属聾学校(1975)「東京教育大学附属聾学校の教育−その百年の歴史−」


2.特殊教育課程研究大会(聾学校幼稚部)

研究発表7件
1.宮城県立ろう学校小牛田分校(三島 淳子教諭):
     聴覚障害児の概念理解について −本校3歳児の実態把握から−
2.福島県立聾学校平分校(五十嵐 早苗教諭):
     幼児の主体的な活動を中心とした養護・訓練のあり方について
3.石川県立ろう学校(岩原 真由美教諭):
     幼児の実態に合った援助を考える −T児との関わりを通して−
4.大阪府立生野聾学校(谷口 尚子教諭):
     本校におけるコミュニケ−ション手段について
5.山口県立聾学校(山下 恵子教諭):
     早期教育への取り組み
6.福岡県立福岡聾学校(河野 京子教諭):
     「自由遊び」を取り入れた教育課程の取り組み
7.沖縄県立沖縄ろう学校(金城 由美子教諭):
     「話し合い活動」の実践 −絵日記指導を通して−

討議
1.交流保育
 参加した学校に訪ねたところ、出席扱い(10)となるよりも欠席扱い(17)となる方が多かった。また、学校間交流ならば出席扱いだが、地域(個人)交流ならば欠席扱いとなることもわかつた。聾学校の教育課程として扱うのであれば、出席扱いとなるのが当然だが、まだまだ法制面での整備の遅れが教育現場での迷いを生じさせている。
2.遊び
 子どもに主体性を持たせるのには最良だが、放っておけば遊べるというものではなく、教師がある程度きっかけ作りやリ−ドをしなければならない。やりとりによることばの獲得だけでなく、認知、社会性、情緒など様々な側面の発達に寄与する。教師自身が遊びを楽しめなければ子供との共感にはつながらない。養護・訓練の個別指導が自由遊びの中にどう活きているかという観点も大切だろう。
自由遊びの後、その遊びを話し合いの時間の中でトピックス的扱いをしてやることも必要だろう。
3.コミュニケ−ション手段
 障害受容の観点からも手話の導入には意義がある。成人聾者の意見を聞く。手話により言語・文化を築き、伝えることの重要性を認識しなければならない。親の願いとのずれについては、合意作りが必要。そのためには不断の意見交換が重要。
4.絵日記
 友だちの経験を追体験することで、知識の範囲が広がる。新たな疑問を生じさせたり、疑問を解く方法を考えさせたり、といった発展性がある。教師も子どもの視点に立ち返ることで、ともに喜び、発見し、感動できるだろう。そのため、系統性や段階等は十分に理解しておく必要がある。
5.重複障害児への指導
 個別指導の時間を増やしたり、指導者の加配やティ−ム・ティ−チング等を検討。養・訓の内容を充分に検討する必要がある。
6.他機関との連携
 特に保健所との連携は早期発見、早期の指導開始に大いに役立つ。さらに、病院や障害者センタ−、一般の保育園・幼稚園、市町村の教育委員会等。パンフレットの作成・配布、PR活動、聴力検査のスクリ−ニングに協力する等、積極的に行う必要がある。。

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