No. 2010,8,2.発行   編集:吉田優子(H12年度生:ドイツ駐在員)
                   
 ドイツ滞在レポート No.42


「ミュンヘンの聾学校 その2」

前回、紹介した聾学校の放課後クラスで、6月に2週間、実習をする機会をいただきました。
 日本でも最近、「学童」などの名前で、働くお母さんを支援するために、放課後の預かりクラスがありますが、特にドイツでは、放課後クラスは、重要です。ドイツの学校は高校まで、基本的に半日。12時半くらいに終わります。そこで、放課後クラスは、12時半から、16時半、もしくは、17時までと、かなりの時間を占めています。
 とくに、聾学校のように、広範囲から生徒の来ている学校では、近所に学校の友達がいないことが多く、放課後クラスに来ることで、友達との時間を持てるという意味でも、重要なようです。
 私が実習をした学校の放課後クラスのスケジュールは、13時から、食堂で昼食。14時から、15時まで、宿題の時間。その後は、フリータイム、16時におやつの時間があって、16時半、帰宅というふうになっています。年中行事などに併せて、フリーの時間に、みんなで何かを作ったり、料理をしたりすることもあるようです。
放課後クラスには、専任の先生がいて、学校の校舎の一角が、専用の教室として、用意されています。6つのグループに分かれていて、一グループに6〜8人の生徒がいます。グループは、手話を必要とする生徒と、口話のみの生徒に分けられていました。が、グループでの活動は、宿題の時間と、おやつの時間のみ。他の時間は、好みのあう子供同士で、一緒に遊ぶ姿が見られました。専任の先生のうち、一人は、難聴、一人は聾者でした。そのため、初日、子供から受けた最初の質問は、「あなたは、健聴?聾者?」というものでした。
 私の主な仕事は、宿題の時間の援助でした。多くのクラスの主な宿題は、ドイツ語、算数、英語です。算数では、日本同様、文章題になると、つまずく子供が多いのが印象的でした。文を読みながら、図式化したり、絵を描いたり、一緒に手話で表現することで、理解が深まるのは、どこでも同じだなと思いました。
 3年生のあるクラスの生徒は、ドイツ語の宿題で、同じ文の書き取りを1週間課されていました。教師が読み上げた内容を、聞き取り、正しくスペルアウトする、聴覚障害児にとっては、かなり難しいと思われる課題ですが、1週間続けることで、耳がなれたり、推測して聞く力がつくのだと、近くで見ていて感じました。金曜日には、授業の中で、同じ文の書き取りテストがあるそうです。私は2日間、文の読みあげをしたのですが、一人の難聴児からたどたどしい発音で、「あなたの発音は正しくないから、聞き取りにくい」と言われました。また、4人まとめて、聞き取りの宿題をしたときには、一人の生徒が、他の生徒に、「その席だと聞き取りにくいし、先生の口元も見えにくいから、席を代わったほうがいいよ」と指摘していました。10歳でも、自分だけでなく、お互いの障害を認識して、指摘したり、アドバイスしたりできるというのは、すごいことだなと思いました。
 この2週間、フリーの時間に子供たちがしていたことと言えば、天気のいい日は、外でサッカー。天気の悪い日は、室内でサッカー選手のカードゲーム。食事の時間の話題も、前日のワールドカップの試合の話。1度は、ドイツ戦をみんなでTVで観戦もしましたが、ルールの手話を覚えられて、よかったです。また、人工内耳をつけている子供の多くは、テレビのアナウンスも聞き取ることができ、「静かに!聞こえない!!」というやりとりも見られました。
 フリーの時間に、それぞれの生徒とゆっくり話す時間もあり、いろいろ質問してみましたが、多くの生徒がしっかりと、自分の障害を認識できていること、また、その受け止め方が決してネガティブではないことに驚かされました。
 一人の11歳の男児に、「いつから人工内耳をつけてるの?」と質問してみました。「ええと、僕は、生まれたときから、ほとんど何も聞こえなくて、まず、1歳のときに右耳に、人工内耳をつけたんだ。左耳につけたのは、その後、2歳くらいのときかな。この人工内耳っていうのは、耳の中の聴神経に直接・・・。」とここで、人工内耳についてもかなり詳しく説明してくれました。私は、日本で同じ質問を、11歳の子供にしたことはありませんが、どのくらいの子供が、人工内耳をどのような手術で装用するのか、いつ、どのような形で自分が手術を受けたのかなど、答えることができるだろうと疑問に思いました。さらに彼は、「手術の後、パパ、ママ以外で、僕が始めてしゃべった言葉は、『ボール』なんだ」と、とてもうれしいそうに、そして誇らしげに教えてくれました。
 この2週間の実習中、午前中の学校での授業を参観する機会も与えていただきました。次回は、その様子について、報告します。