No.   2007,1,29.発行   編集:佐々木直子(H4年度生)

     ろうあ者の要求ー堺編12 

 

手話通訳養成講座と担当講師養成

 前回は「手話奉仕員」といわれる、手話で日常会話ができる程度のボランティアの育成をめざすものを取り扱いました。
 今回は「手話通訳者」といわれる翻訳のプロの育成についてお話しいたします。

 「手話を教える」ということ自体も難しいことですが、「手話通訳者を育てる」ということはさらに難しいことです。この二つともできる、ろうあ者の数はかなり少なくなります。もちろん私はできません。
 ある方(ろうあ者)が、「手話通訳を受けたときに『今日の通訳は分かりませんでした』と素直に伝えることが手話通訳者の育成につながる」とおっしゃっていました。手話通訳もかなりの労力を要するし、その手話通訳の場面で活躍するまでにも、手話通訳の方はかなりの努力を要しているはずですから、もっとがんばってほしいという意味で「わかりやすかったです、ありがとう」と、ちょっとわからないことがあっても、そう言ってしまうことが多々あります。それではいかん、という意味なのですね。
 手話通訳の養成については、都道府県で行なうことになっています。
以前は政令指定都市も含まれていましたが、障害者自立支援法の施行に伴って、政令指定都市の「大都市特例」が外されたため、大阪市ではこれをやめてしまいました。ですが、堺市の場合は、大阪府の手話通訳養成講座の会場である大阪市から若干離れていることと、ろうあ者手話関係団体が「やめないでほしい」と強く要望したことにも関連して、現在も行なわれています(政令指定都市でない市町村でも開かれている場合があります)。
 手話通訳養成講座は3年間受講しなければなりません。
 1年目 基本課程 
 2年目 応用課程
 3年目 実践課程

 これは誰でも受講できるわけではありません。手話サークルなどでの手話の実践経験が3年以上ないと(堺市の場合は)受講できません。
 堺市では2004年度から「基本課程」がスタートしました。2005年度は堺市の予算の関係で新規の受講生の募集はなく、2006年度に新規の募集がありましたので、現在「基本」と「実践」の2課程が開講されています。残念ながら、堺市内のろうあ者でこの養成講座を担当できる資格のあるろうあ者がいませんでしたので、他の市町村から来ていただいています。

 せっかく市内で手話通訳養成講座が開講されているのですから、堺市内のろうあ者の中で講師を担当できる人を養成することも、ろうあ協会の仕事です。今年度は、「全国手話研修センター」の担当講師養成研修に2名参加して学んでいる途中です。
 手話通訳とは翻訳の仕事です。ですから翻訳技術の勉強が中心になります。英語やフランス語を聞いても日本人の大多数は分かりませんね?
相手が英語で話す場合、通訳が必要となります。また自分が相手に伝えたい場合も通訳が必要となります。聞こえる人で語学に堪能な方はもちろん、通訳を必要としないですが、ろうあ者の場合、日本語を聞くことそのものが難しいので、視覚的な言語(動作言語とも言われます)である手話に置き換えて話を理解することが必要ですし、手話で訴えても気持ちや言いたいことが伝わらない場合は、日本語の音声でしゃべれる人に、音声日本語に置き換えてもらわなければなりません。後者の「読み取り通訳(または逆通訳)」も含めて「手話通訳」です。
 「聞き取り通訳」(音声日本語を聞き取って手話に翻訳する)のほうは得意だけれど、「読み取り通訳」は苦手。
 こんな話をよく聞きます。
 手話は講習会で習うものだけではなく、ろうあ者によっては、他の地方から転入してきたり、あるろう学校の中で頻繁に使われていた共通言語のような、独特の手話を使っていたりすることがあります。講習会(奉仕員養成講座のこと)の中で、例えば「岩手」という手話は「岩」と「手」で表す、と教えられていますが、昔の表現で5本の指で頭をかきあげるようにする手話も存在します。「できない」という手話は「難しい」とか、こぶしを重ねてそれをいきなり両側に離れさせる表現で教えますが、堺市内では「後悔」によく似た手話を使う人もいます。つまり、「聞き取り通訳」はテープを聴きながら手を動かす練習が独学でもできるのですが、「読み取り通訳」になると、たくさんのろうあ者の手話に慣れていなければなりません。

 「ある人に読み取り通訳をしてもらったが、途中で通訳が止まっているのに気づかなくて、そのまましゃべってしまった。だから、話の途中からは伝わっていなかったらしい。そのことを怒ったらあとで『こう表した手話は何ですか?』と聞かれたので、その意味を答えたら、『そんな手話は講習会では習ってないし手話の本にも載っていなかった』と逆ギレされた。参った」
 と愚痴っておられた方もいます。
 読み取り通訳をしてもらっても、聞こえない側からは、読み取っている音声が分かりませんので、もちろん、「そこそこ、それはそう言いたいんじゃない」とその場で指摘することは不可能です。対市交渉の場では、パソコン要約筆記がスクリーンに映し出されて、「言っていることと違うことが画面に出ている」と怒った方もいました。
 研修で、ビデオに手話表現を録画しておいて、ろうあ者講師がそれを確認するために、読み取ったものを文に書いてほしいと要求して、それをしたこともありますが、書くスピードとしゃべるスピードは明らかに違うため、現場で生かせる技術につながらないと批判も受けました。
 どなたかよい研修方法があったら教えてほしいものです。

 この養成講座、今年で3年目の修了者が出ます。その際に、ただ学んで終わった、ではなく、具体的には「堺市の登録試験に修了者が何名合格しているか」「手話通訳士の試験に何名合格しているか」という数字的な成果がどうなるか、今心配しています。もし、何の成果もない(とみなされた)のであれば、政令指定都市で義務づけていない、手話通訳者養成講座が今後も存続するか、という問題が浮上してきかねません。
 ですが、ぜひとも手話通訳養成講座を続けていただいて、堺市内の手話通訳派遣のニーズに十分答えられる「手話通訳者の質と数」を向上させていかなければならないと考えています。

登録手話通訳者研修

 これは、年に1回「堺市手話通訳者登録テスト」が行なわれ、合格した人たちを対象に行なっているものです。もともとはB研修(奉仕員程度の技術の方)対象に行なわれていましたが、現在ではCD研修も同時に開催しています。このランクですが次のようになっています。
 テストの点数
 低い         高い
 A     B  C  D
(不合格)     (実際に派遣される回数が多い) 

 講師はろうあ協会の会員と設置通訳者で担当します。
 以前は堺市障害福祉課にまかせきりだったこの研修に、2年前から、ろうあ協会が加わるようになりました。2年前から毎年、研修時期の9月から12月の前とあとに、堺市との話し合いを行なっています。今年については、手話通訳養成講座との兼ね合いを考えて、堺市のろうあ者の手話を読み取れるように、また、それぞれの登録手話通訳者の技術の課題を考えられるようにカリキュラムを検討しました。ろうあ協会の中で、会員に手話のビデオ収録に協力していただいて、独自の教材づくりも行ないました。
 手話通訳の経験の長い設置通訳の方々に協力していただくことで、日頃からの勉強の仕方や翻訳の基本的な考え方など、一緒にやりながら学べてとてもよかったと感想をいただいています。
 頭の中で考えた通りに進まなかったり、伝えきれないこともたくさんあったりしたのですが、登録している限り何回でも受けられる研修ですので、1回1回丁寧に、また楽しく真面目に学べるようにこれからも工夫をしなければならないと考えています。


 今回のお話は、私もまだ手話関係のことを専門的に考え始めて日が浅いので、記事自体も浅くなっていると思います。ですが、手話を学ぶのに終わりはなく、技術を高めるのに方法はひとつだけではなく、手話というのはなんと難しいんだろうと気づかされています。もし興味を持たれたら、手話をできるだけ長く続けて、ろうあ者の友人または支援者になっていただきたいなあと感じます。

 下記は、3月18日に行なわれる、チャリティイベントのホームページです。
 大阪近辺の方でご興味のある方は、ホームページからアクセスして、 ご連絡ください。

 堺市ろうあ者福祉協会施設募金チャリティイベントのお知らせ


写真1 西本願寺堺別院
 昔、奈良県も含めて「堺県」という大きな県があった時期がありました。
その時期、県庁が置かれた建物です。
説明しているのは元生野高等聾学校の藤原先生です
写真2 堺市堺区にある千利休屋敷跡。
井戸は椿井と言って、ここから水を汲んで、お茶を点てていたと、言われています。