No.   2007,1,11.発行   編集:佐々木直子(H4年度生)

     ろうあ者の要求ー堺編11 

 

手話講師派遣活動

 いつも行くお店の人が手話ができたらいいな。
 いつもいく病院の看護師さんが手話ができたらいいな。
 道ばたでふと困った時、手話のできる人がいたらいいな。

 これらは、ろうあ者なら誰でも考える夢です。堺市の手話通訳派遣要綱では、病院や公共機関、保護者として学校に行くときなどは、派遣ができますが、日常的に生活している場での派遣はされていません。だからそれ以外の場所ではどこでも困っているのですが、手話のできる市民が徐々に増えていくことによって、意外な場所で手話のできる人と遭遇して、この上ない喜びに満たされることがあります。これは単なる偶然だけではなく、実は以前からの先人たちの地道な努力が実を結んでいると言えます。
 手話ができる市民を増やすことと(奉仕員養成等)と、手話通訳できる専門家を増やすこと(手話通訳者養成)はそれぞれ求められるカリキュラムや達成度が格段に違いますが、奉仕員養成等を中心に今回は書きたいと思います。

 手話奉仕員養成「等」としたのは、堺市が主催する手話講習会(厚生労働省手話奉仕員養成テキストに準拠)の他に、単発での講習会や、堺市内の私的な団体が主催する講習会も今回は含めるからです。
 堺市ろうあ者福祉協会を中心に、8つの団体で構成される「手話講師派遣等運営委員会」があり、2ヶ月に1回会議が開かれています。手話を学びたいというニーズがある場合、ろうあ協会から推薦する講師(ろう者)と助手(健聴者)を派遣する事務を行なったり、また、手話講師の派遣のできることを宣伝し、手話講習会の場を広げていくための活動を行なっています。
 堺市主催の手話講習会は2カ所(堺市総合福祉会館と障害者国際交流センター)の昼夜4講座行なわれています。これについてはろうあ協会から直接講師を推薦して、運営は堺市とろうあ協会が共同で行なっています。
 その他に、連続講座では、人権ふれあいセンターや総合生活支援センターで行なわれるものがあり、これにも講師と助手を派遣しています。
 学校関係では、堺東高校、堺西高校、歯科衛生士専門学校。
 最近珍しいところではエンゼルライオンズクラブ(社長の奥さんで構成)からの依頼もありました。
 1回だけの講師派遣依頼を含めると、その数は年間20カ所にも及びます。かわいい小学生を相手にしたのびのびルーム(学童保育)での手話講習会もあります。
 ろうあ者なら、誰でも手話を教えられるのではないか、と誤解されるかもしれませんが、場によって求められる内容が違うので、講師の推薦についても気を配っています。連続講座で養成講座に準じるような内容が求められる場合はテキストの把握のための、大阪で行なわれている講師養成講座を受けていなければなりません。単発の場合は、ろうあ者の困っていることなどを端的に話さなければならないため、例えば看護科のある高校ならば、病院関係の問題に詳しい方を推薦する、歯科衛生士専門学校なら歯科技工士の経験のあるろうあ者を、など、工夫をしています。また、たくさんのろうあ者に講師を経験してもらえるよう、講師の発掘についても熱心に行なっています。
 手話に少しでも触れた人が、のちのちになって「学校で手話について少し習ったから手話サークルに入った」という場合もあります。また、志を高く持って、さらにサークルでの経験を積んで、手話通訳養成講座にチャレンジしたり、堺市の手話通訳登録試験に挑戦したりする場合があります。また、少しだけの授業で手話で話すまでのスキルアップには至らなかったけれど、のちに病院の看護師さんになって「昔高校で手話のお話を聞いたので少し手話ができます」とろうあ者が言われて非常にうれしかった、というお話も聞きます。まいた種が少しずつ芽を出し、立派に実っていくようにと、今もこれからもろう講師はがんばっています。
 昨年の手話の授業の感想をひとつ紹介します。

「高校に入って手話を学んだのは2回ですが、今回は、今後私たちが病院で働く場合に必要な手話がたくさんあった。教えてくださった先生の話を聞いてても、病院で働いている人みんなが、聴覚障害者の事を理解して、手話が出来る方がいいことが分かりました。そうすれば入院中でも1人で寂しい思いをすることがないし、病院に来ても不安になることが無くなると思います。やっぱり治療の方法とかが分からなかったら、私みたいな障害を持っていない人でも不安です。だから障害がある人の方が何倍も不安だと思います。その不安が少しでもなくなるように、手話の重要性を考えるべきだと思います。
 もし、私が病院で働く事になったら、手話が出来る理学療法士になって聴覚障害者の不安や悩みを減らせるよう努力したいです。そのためにはコツコツ勉強することと、聴覚障害者たちとふれあうことが必要だと思いました。」   
   (S高校1組 女子)

手話講師団

 上記のような手話講師派遣活動を支えるために、堺市内のろうあ者で結成した「堺手話講師団」が今年から活動を始めました。「堺手話講師団」では毎月、奉仕員養成テキストの勉強をします。毎回違う人が模擬授業をやって、お互いに教え方を批判したり学んだりしながら、テキストの内容、つまり講座の目的やねらいを押さえていきます。
 ろうあ者の使う手話はどれも魅力的ですが、教える場になると、テキストの日本語の文章に縛られて、いつもの「◯◯さん節」が出てこないことがあります。言葉ひとつひとつを翻訳するにとどまってしまって、単語は分かるけれど表現全体のコツが見失われることがあるのです。とくに奉仕員養成テキストの「入門」を終えて「基礎」に入ると、手話の基本文法の学習に入りますが、普段は文法ばっちりで話すのに、教える場になると、なんだかうまく伝えられません。こういうことを克服しなければ、奉仕員養成のテキストにそって教えることが難しくなってしまいます。幅広いろうあ者が手話を教える事業に携われるために、堺手話講師団は毎月苦労を重ねながら「手話を上手に教えて、しかも、受講生の頭に残るやり方とは?」と探究を続けています。
 それから、講師団の横のつながりで、ある講師の教えている講座に何人かで乱入、受講生と交流してろうあ者とのつながりを強く持つこともなされています。
 またあるときには手話サークルの例会を見学して、サークルの中でがんばって手話を教え続けているろうあ者にエールを送ることもあります。
 堺手話講師団が今後、もっと若いろうあ者にも参加してもらって、堺市内で手話をどんどん広められるよう、願っています。
 まだまだ、これからどう展開して学習をしていったらいいのか模索している講師団。学習内容は府県レベルからはまだ遅れているのですが、息長く学習を続けて、より質の良い手話講習会を提供できることをめざしています。

 意外と思われるかもしれませんが、手話の講師をしているろうあ者が、サークルの健聴会員の悩み相談を受けることがよくあるそうです。手話を教えることにとどまらず、しっかりとした関係を築いている個々の努力には、ほんとうに頭が下がります。手の先、手話表現だけではなく、人間として信頼されているのだと感じるとき、手話講師をやめられなくなるそうです。「あいうえお」もおぼつかない頃から、懸命に手話を教えた相手が、手話ができるようになりコミュニケーションが成立し、そしてかけがえのない友人になっていく。これも手話講師をする人の感じる醍醐味といえるでしょう。
 いくつになっても張り切って、手話を覚えたい、話をしたいという声を聞けば飛んでいく。
 そんな先輩方を誇りに思います。