
平成15年2月13日(月) 17:00〜19:00


我が国の高等教育において障害者への門戸を開放する機関は増加しているものの入学後の学習支援は個別の大学や学生個人の自助努力にまかされてきた。現在、その支援の輪を広げ協力して取り組もうという姿勢が各地でめばえつつある。本研修では、SCS(スペースコラボレーションシステム)を利用して、問題関心を共有する各地の大学を繋ぎ、障害を持つ学生が直面している問題やその解決策などを議論する。SCSのテレビ会議システムは、移動困難な人には遠隔地の人々との交流を容易にし、聴覚や視覚に障害を持つ人には手話や音声をとおしてより自由なコミュニケーションを提供する。障害者への学習支援の問題を討議すると同時に、障害者にとってより有意義なSCSの活用法を模索したい。
話題提供者
| 話 題 提 供 者 | 話 題 | 関 連 事 項 |
| 広瀬 洋子 | ともに学び、ともに生きる社会を目指して −米国の高等教育における障害をもつ学生への支援の歴史的展開と現在− |
PPT |
| 白澤 真弓 | 聴覚障害学生サポートとガイドブック作成の試み | PDF |
| 太田 富雄 | 福岡教育大学の入試における障害者への配慮 | |
| 花熊 暁 | 愛媛大学の取組 | |
| 立入 哉 | 音声認識ノートテーク |
参加機関
| メディア教育開発センター | 愛知教育大学 | 東京大学 | 岡山大学 |
| 筑波技術短期大学 | 広島大学 | 熊本大学 | 鹿児島大学 |
| 福岡教育大学 |
過去の研修
| 平成14年12月16日 |
| 平成14年11月1日 |
| 平成14年7月1日 |
| 平成14年2月12日 |
話題資料
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[特別講演] ともに学び、ともに生きる社会を目指して
米国の高等教育における障害をもつ学生への支援の歴史的展開と現在
広瀬洋子
文部科学省大学共同利用機関 メディア教育開発センター
総合研究大学院大学 メディア文化専攻
〒261−0014千葉市美浜区若葉2−12
E-mail: hirose@nime.ac.jp
あらまし 本稿は米国の高等教育における障害をもつ学生への支援の歴史的展開と現在を、関連資料および2001年度から2002年度までの3回にわたる現地調査からの知見をもとにまとめたものである。高等教育機関の障害者支援が、米国の社会・歴史的土壌の中でいかに培われ、関連法案の成立にいたったのか、またITの潮流がいかに障害者の教育に影響を与えていったのかについて検討する。米国の実践から日本が学んでゆくべき道を探る。
キーワード U.S.A, 高等教育, 障害者, 米国
Heading Towards Studying Together & Living
Together
The Development of the Support Systems for
the Students with Disabilities in Higher
Education in U.S.A.
Yoko Hirose
National Institute of Multimedia Education
2-12 Wakaba, Mihama-ku, Chiba-shi, 266666661-0014Japan
Abstract
The purpose of writing this paper is to present
the development of the support systems for
the students with disabilities in higher
education institutions in U.S.A. I would
like to introduce how this system has been
successfully promoted in accordance with
the reform of disability laws, and to consider
how the advancement of information &
communication technologies can further opportunities
for disabled students in higher educational
settings. As a conclusion, I would like to
make some comments on how Japan can develop
our systems on its way from learning the
U.S. cases.
Keyword Higher Education, Disability, U.S.A
1.障害者の高等教育と米国の社会背景
1.1アメリカの価値と建国の精神
アメリカ合衆国憲法の草案者たちは、啓蒙主義思想からの影響を受けて「すべての人間は平等に創られた」と宣言した。人間には強者も弱者もおり、貧富の差もあるが、ここでいう平等とは、精神性をもった存在としての人間の平等である(1)。それから200年の歳月の中、米国は幾多の困難を乗り越えて、奴隷解放、女性の参政権、黒人の隔離教育の撤廃、公民権の獲得などを実現させてきた。利潤追求に最も価値をおく米国資本主義社会の中で、ADAなどのように強制力を持った障害者関連の法案が成立してきた背景は、米国の建国の精神に連なる人権獲得運動の流れの中で理解しなくてはならない。障害者への人権的配慮は、人種差別の撤廃と並んで「アメリカの価値」である「自由と平等」を体現する運動だからである。
1.2 米国社会の障害児と教育
米国では成人の約17%にあたる3.700万人が障害者で、日本ではその数は4%、500万人といわれている。また米国では(3歳から21歳)の人口の10%近くが障害児教育を受けており、日本の1%とは比較にならない(2)。この数字の差は「障害」の定義の違いによるところも大きい。例えば日本では障害者として扱わない学習障害者を、米国では「障害者」に含めており、その数が障害児全体の約半数近くを占めている事実にも注目すべきであろう。
1.3 障害児教育の歴史:寄宿制から統合へ
米国では1817年に初の聾学校が設立され、その後、盲学校・聾学校・養護学校(訓練校)は寄宿制が主流となった。その後19世紀末から20世紀初頭にかけて大都市を中心に通常の学校内に特殊学級が設けられるようになり、第2次世界大戦後にその数を増やしていった。1950年代の障害児の就学率は50%であったが、1960年代には、黒人の公民権獲得運動と呼応するように、障害児を就学させないという法律が憲法の平等規定と矛盾することが指摘され始めた。70年代にはカリフォルニア大学バークレー校の車椅子の学生たちが始めた「障害者自立生活運動」に加えて、ベトナムから帰還したおびただしい数の負傷兵のために「リハビリテーション法504条」(1973年)が成立した。教育の面でも統合教育(インクルージョン)が主流を占めるようになった。学齢教育としては、国の責任ですべての障害児に適切な公教育を保証する「全障害児教育法」(1975年)が制定され、子供のニーズにあった教育と交通サポートや作業療法などの関連サービスが連邦政府から支出されるようになった。これは以来数回改訂され、現在では「障害者教育法」となって統合教育を支えている。すべての障害をもつ子どものために、親・学校の教師・校長・診断の専門家・教育行政者がチームを組んで、個別教育計画(IEP)及び個別移行計画(ITP)を作成し、幼・小・中・高校からコミュニティカレッジや大学進学まで視野に含めた一貫したサポートシステムの整備に取り組んでいる。
1.4. ADAの成立
1990年には雇用、交通、公共施設、コミュニケーションシステム等の差別を禁止する包括的なADA法(障害をもつアメリカ人法)が成立した。これは1964年の黒人の参政権を認めた選挙法以来の公民権に関わる法律の集大成であり、建国以来目差していた「最後のアメリカンドリーム」の実現とも言われるほど画期的なものであった。福祉へ依存していた障害者に学習の機会を与え、就労を促進させ、自立したタックスペイヤーに成長させることが国家の利益に繋がるという考えが、時の共和党政権の価値観と合致したと言われている。また、この法律が運用される際に連邦政府の財政負担はゼロという形で進めたところに成立成功の鍵があるという意見も多い。
大学での障害者支援は1950年代に始まり、上記の法律制定などによって60年代から70年代にかけて確立されていったが、ADAのような強力な法律を持つにいたって、障害を理由にした差別や配慮の欠如から大学が告訴され、敗訴すれば大学は連邦政府からの助成金が打ち切られるほか、高額な賠償金を支払わなければならなくなった。ここで障害者への支援は人権への配慮という道徳的な命題であると共に、大学運営にとっても不可欠な課題となった。州から地域にいたるまでの公的機関、図書館、大学も含めて、一定規模以上の機関には必ず
ADAコーディネータを置くことが義務づけられ、機関長直属の立場から、提供されるサービスや雇用においてADAが遵守されているのかを内側から監視する役割をまかされている。
「いずれの社会同様、米国にも“差別”は存在する。しかし、法的に行政的にそれを防ぐ手立てがあるか、法のもとに意義申し立てをできるか否かは、障害者の人権にとって大きな違いである。」(3)
2. K12(初・中・高)から高等教育へ
2.1 高等教育における障害者教育の最前線としてのコミュニティカレッジ
高等教育への進学率が6割という米国では、初・中・高(K12)を修了し高等教育に移行するための様々な方法がある。全国共通の大学入試資格試験にあたるSATなどを受験し、その成績をもとに4年制大学に入学するケースの他に、カレッジと呼ばれる2年から3年制の短大から4年制の大学に編入することもできる。中でも各州に展開するコミュニティカレッジと呼ばれる地域密着型の公的高等教育機関は、職業教育を含めた多様な教育を提供している。その特徴として無試験入学、4年制大学の約半額の授業料、手厚い学生サポートなどがあげられる。ここで、筆者が2002年5月に訪問調査したオレゴン州の事例を検討してみよう。
<オレゴン州のコミュニティカレッジ>
オレゴン州の人口は330万人、その面積は約25万平方キロで、日本の本州と四国を足したくらいである。
大学・カレッジを含め州内には41の高等教育機関があり、うちコミュニティカレッジは17校ある。
2000年から2001年にかけての州全体の高等教育への入学者数は18万6千人。うち、コミュニティカレッジに入学したものは98600人で全体の53%にあたる。このうち32%が2年ないし3年の職業訓練コースに、38%が4年制大学へ編入するための大学コースに進んだ(4)。
<レインコミュニティカレッジ(LCC)>(5)
オレゴン大学と同じユージン市に位置するレインコミュニティカレッジ(LCC)は、17校のコミュニティカレッジの中では2番目、41校の高等教育機関の中では4番目の規模を誇る。在学生16000名を擁し、年間予算は5600万ドルで、4つの地域学習センター、7つの高校に分校を持っている。58のアカデミックコース、48の職業訓練(歯科技工士や看護師、料理免許等)多様なコースが提供されている。各コースは段階的に組まれており、誰もがすぐにすべてのコースを履修できるわけではない。しかし、ここで一定の単位を一定の成績で取得すれば、オレゴンのトップスクールであるオレゴン大学への編入もそう難しい事ではない。無試験入学で多様な学生が学ぶコミュニティカレッジは概してドロップアウト率も高いが、日本のように一回の入試選抜で合否が決定するのではなく、努力する者には時間をかけて這い上がるチャンスが与えられている。
コミュニティカレッジが高等教育への第一歩として高い人気を誇っている理由として、手厚い学生サービスが上げられる。LCCでも、本部ビルディングの2階には障害者支援室、シングルマザーなどを支援する女性支援室、少数民族や留学生、性的少数者である同性愛者を支援するマルチ・カルチャー支援室が並んでいる。こうした支援がすべて人権への配慮として位置づけられている。とくにここで目を引いたのはTRIO
トレーニング支援室(6)である。高等教育を受けたことのない家族の子供の学習を支援する連邦政府のプログラムである。移民や低所得層の子弟を対象に有償のボランティアが週に数回学習方法や苦手科目を1対1で教えている。コミュニティカレッジでは障害者のみならず、社会階層やジェンダー、人種などマイノリティへの支援を含めて、大学の大衆化を支え、米国の大義である「機会の平等」を目指した多様な学習支援が行われている。
2.2. レインコミュニティカレッジ(LCC)の障害者支援
LCCの障害者支援室は年間予算2万ドル、5人の常勤スタッフと25人から30人のパートのスタッフで運営されている。学生はK12(初・中・高)での手厚いサービスとは異なり、大学では自分の障害の状態を申告し、どんなサービスをどのように必要とするのか要求しなくては何も配慮されない。また大学の教職員は、強制的に障害者サービスを受けるように指示することもできない。プライバシーの侵害にあたるとみなされるからだ。
学生は通常、医師による障害の証明書を支援室に持参し、ディレクターやカウンセラーと具体的な支援方法について話し合い、適切な配慮や支援をとりきめる。履修するクラスを4週間から6週間前に決定し、手話通訳者やノートテイカーをアレンジしたり、教材を使用可能なものに変換する。
ここでLCCの障害者支援のWebページ(7)にそってその内容を吟味してみよう。
●障害者支援室のスタッフの仕事
(1)学内規則や法律のカウンセラー (障害に関する証明書への対応や配慮の判断)
(2)一般窓口カウンセラー(学習支援のアシスト・教員へのコンタクト等)
(3)学生カウンセラー (各種支援コーディネート)
(4)ノートテイク・試験等のコーディネータ
(5)朗読コーディネータ (録音サービス)
(6)手話通訳スタッフ
(7)アダプティブ・テクノロジー・アドバイザー(ラボやコンピュータトレーニング・活用アシスト)
●支援内容
(1)コース履修(優先履修受付・教室再配置)
(2) 教員との連携(教員や学部への配慮要請)
(3)教員への文書による配慮の要請
(4)ノートテイク(学生有償ボランティア)
(5)朗読テープ (朗読支援センターへの連絡).
(6)手話通訳
(7)試験時の配慮
(8)教室内の配慮(前列席の確保、配布資料への配
拡大文字、OHP対応等)
(9) 機器の貸し出し(テープレコーダ・TTY・音声計
算機/音声辞書・FMシステム・簡易ワープロ)
(10) その他の授業支援(FD支援・ウエッブ制作)
●学生および教職員のための関連リンク
●学内サービスとの連携
(1) 学生生活:学生窓口・カウンセリング
(2) 学習面:アカデミックラーニングセンター、チュータ・TRIOトレーニング
(3) テクノロジー・アダプティブコンピュータ指導・電子リソース・TTYサービス
(4) 医療サービス
(5) 学内移動サービス
(6) 評価:ADAフォーラム会議
(7) 教育機会均等部門・雇用部門・マイノリティ配慮
(8) ADAコーディネータ
(9) 就職サービス
(10) テストサービス
●地域サービスとの連携
(1)失読症のための朗読テープサービス
(2)オレゴン州立図書館
(3)盲人委員会(Commision of the Blind)
(4)職業リハビリセンター(Vocational RehabilitationDivision
(VRD)
(5)モビリティ・インターナショナル USA (MIUSA)
LCCでは支援室のスタッフ以外に学生ボランティアを活用している。たとえば学生は障害者専用リハビリテーションルームで障害者の介助をすることによって単位が認められる。また食堂などでも障害を持つ学生が優先的に働いている姿もある。しかし、学習障害や精神障害から、教室で一般の学生とともに学ぶことが困難なケースも少なくない。そうした学生には、オフキャンパスや遠隔学習などが遠まわしに勧められることもあるが、履修に条件がないダンスや陶芸等のアートクラスやクッキングクラスなどで学ぶことがかけがえのない教育的意味をもつ。疎外され閉じこもりがちな障害者がコミュニティーの一員として社会性を学ぶとともに、一般学生にも障害者と暮すことを日常的に学ぶ貴重な機会となる。カレッジ運営から言えば、そうした講座は卒業するしないにかかわらず高等教育の機会を享受したい、させたいという障害者本人と家族の熱い思いに応えるための救済的役割としても大きな意味を持ち、より多くの学生を集めることにも役立っている。
3.障害者支援の特徴と課題
3.1. 障害者支援とは法の解釈と適用
多様な文化背景の人々が混在する米国社会において法こそが万人にとってのルールであり、それが良くも悪くも訴訟社会と揶揄される由縁でもある。大学も絶えず訴訟を抱えており、LCCの障害者支援室ディレクター、ハート氏によれば「訴訟を通じてサービスが見直され、補強されていくのだ。」という。大学側が敗訴する場合はめったにないというが、支援室のディレクターの仕事は配分された財源でいかにADAや関連法案の「reasonable
accommodation」(適切な配慮)や、何が学生生活にとって「major
life activity」(生活において主要な活動)なのかを判断し、円滑な学生生活を支援することにある。極言すればつまるところ、米国の障害者支援とは法の解釈と適用の問題ともいえる。
2002年3月にシカゴで開催されたバーモンド大学主催の「高等教育と障害者支援ワークショップ」(8)に筆者も参加したが、全米各地から障害者支援関係者が40名近く集まり、2日間の日程でこの分野の弁護士として著名なキンケード氏の講義を聴いた。参加者の最大の関心は学生からの苦情の処理に集中し、それを法に照らして、どのようにどこまでサービスをすべきかが話し合われた。学生が教育機関の対応が差別的であると感じた時、なるべく早い段階で対応し、サービスを見直すとともに、学生に法にのっとって納得してもらう事の重要性が繰り返し指摘された。支援室のディレクターとは、限られた財政から最大のサービスを法にのっとってコーディネートする仕事であり、苦情処理能力も大きく問われている。
| 担当の教師・現場の責任者 |
| 支援室のディレクター |
| 学内ADAコーディネータ |
| 自治体の教育委員会 |
| 自治体の公民権オフィス |
| 訴訟 |
3.2. 職業としての障害者支援ディレクター
全米の各大学には何らかの形で障害者支援のディレクターないしコーディネータが存在するが、その処遇は大学や地域によって一定ではない。LCCのディレクターは50代の女性で精神科の看護で修士を取得し、病院勤務の経験がある。
またオレゴン大学の障害者支援室(9)のディレクターは自身が車椅子の障害者であり、カリフォルニア大学(UCLA)で社会政策の修士号を取得し、最近、UCLAの支援室からオレゴン大学に移ってきた。
前述したワークショップの参加者へのインタビューからも、ディレクターの職業的バックグラウンドは様々であり、とくに決まった資格もない。経歴も看護師、弁護士、カウンセラー、教育行政経験者、手話通訳者などと多様である。しかし後述するAHEADなどでは今後、支援室ディレクターの職業的安定とプロフェッショナルな労働的品質管理という観点から、資格制を検討する動きがあるという。
3.3 障害者支援の評価と見直し
障害者支援室の活動をいかに評価するかについては、オレゴン州では今のところ一定のスタンダードな評価システムはできていない。LCCでも年に1度、フォーラムを開催し、質疑応答やディスカッションが行われているという程度である。苦情への対応や訴訟そのものが現状を見直す契機となっていることは間違いがない。
4. 高等教育における支援の変遷(10)
4.1.AHEAD
高等教育機関の障害者支援の連携活動として、1977年にNPOのThe
Association on Higher Education and Disability(AHEAD)が組織され、以来障害者支援に関わる教員や支援局のディレクターやコーディネ-タを対象に研究、ワークショップ、会議、出版等が続けられ、現在は会員数2200名を誇っている。過去20年間に視覚障害・聴覚障害・肢体不自由への支援体制は確立されており、2001年の第24回大会のテーマ“Widening
the Umbrella”が示すように、支援の対象が学習障害や精神障害に拡大している。ここで6日間にわたり89の分科会に分かれて熱心な報告や討議が重ねられた。筆者なりに整理してみると、分科会は14の分野にわたり、障害サービス(17)、コンピュータラボ(16)、法・政策(8)、テクノロジー(8)、就職・技術訓練(7)、キャンパスライフ(7)、中等教育からの移行(7)、ユニバーサルデザイン(6)、学習障害(5)、障害学(4)、視覚障害(1)、国際(1)、聴覚障害(1)、多様性(1)である。近年の就職・技術訓練の多くがIT・コンピュータ関連であることを考えると、コンピュータ、テクノロジー、技術訓練のカテゴリーは総計31にのぼり、全体の35%を占める点が特筆すべき事柄であろう。
4.2 障害:枠組の再検討
日本の大学では、いかに、運動障害、聴覚障害、視覚障害、健康障害、言語障害等をもつ学生をサポートしていくか、そのための朗読サービス、ノートテイク、手話通訳、学内の移動などのサポートをいかに組織するかが中心課題となっている。ところがAHEAD会長によれば、米国では過去20年間に視覚障害・聴覚障害・肢体不自由への支援体制は確立されているという。現在の課題は、学習障害や精神障害への対応に焦点が移り、2002年の25回大会のテーマは「Reframing
Disability」(障害の枠組の再検討)であった。たとえば、日本では障害者支援というと、まず視覚・聴覚・肢体不自由という枠組でとらえているが、現在米国の大学の障害者支援局の仕事の多くは学習障害者支援といっても過言ではない。現にオレゴン州のレイン・コミュニティカレッジでは、支援室のサービスの80%は学習障害者へのノートテイカーや機器の貸し出しなどで占められていた。
4.3.学習障害
学習障害は、障害の程度も内容も個人差が大きくトップスクールの学生の中にも存在する。たとえばレズリー大学の障害者支援局のディレクターである弁護士は、Dislexia(失読症)という学習障害を抱えており、読書を苦手とする障害を持っている。彼女はハーバード大学ロースクール時代にテキストの朗読テープによって弁護士試験に合格したと語ってくれた。
ハーバード大の教育学部(11)やCAST(12)等では脳生理学的知見をもとにコンピュータを使った学習障害者用の学習ソフトの開発等が着々と進められている。
AHEADの分科会でもオルタナティブ教材やコンピュータを活用した学習方法などが検討されていた。AHEADにおける学習障害への関心の高まりは、視覚障害、聴覚障害、身体障害をもつ学生への支援の端緒を開こうと模索する日本から参加した筆者を困惑させるものであったが、AHEADの会長によれば、20年前の米国も現在の日本と同じであった。また欧州での取り組みもスカンジナビア諸国を除けば米国のレベルには達していないと言う。建国の精神や公民権運動といった社会的背景が違うとはいえ、高等教育の重要性への認識を共有する日米両国において、いったい何がこの差を生み出してきたのか、今後さらに検討する必要があるだろう。
5. 米国の高等教育機関とIT活用
5.1. 大学のADAに対する姿勢を学内外に示すとともに、障害者支援室(Office
for the students with disabilities)が学生と支援システムの仲立ちをする上でなくてはならないのが大学のIT環境である。大学のWebページを見れば、その大学がどの程度、障害をもつ学生へのサービスを実施しているかは手に取るようにわかる。障害学生支援室のWebページは、必ずAssistive technologyのサイトにリンクされ、コンピュータの活用が障害者にとって欠かすべからざるものになっている。
オレゴン大学では、障害者関連の法令を遵守するためのタスクフォースが1992年7月に組織され、学部教育、教室、建物、サービスなど学内のすべての項目にわたって点検・整備が進められ、進捗状況が常にウエッブで公開されているが、同じようなことは全米各地の大学で行われている。
障害者支援の研究・実践で有名なUniversity
of WashingtonのDOIT(13)が1999年に制作した『Working
together』という障害をもつ学生への学習支援の紹介ビデオでは、良い教師の条件の一つに、授業を3つの方法で提示することがあげられている。通常の講義をWebページ上で展開すれば、聴覚障害者はプリントアウトして読み、視覚障害者は音声読み上げソフトでアクセスすることが可能になる。ディスカッションボードを利用すれば多様な障害をもつ学生が議論に加わることができる。ビデオ教材作成はクローズドキャプション(字幕)や、視覚障害者用にナレーションを加えたバージョンを作成する。こうしたITとメディアの活用は障害者のみならず、言語的ハンディキャップをもつ留学生にとっても強力なサポートとなり、大学のユニバーサルデザインに貢献している。実際にこのビデオ自体、二つのバージョンがあり、一つは聴覚障害者のための字幕つき、もう一つは視覚障害者のための詳しいナレーションつきである。
5.2高等教育機関のWebページから見た現在の状況
米国では高等教育機関のWebページは視覚障害者が 音声合成ソフトで読みやすいようにデザイン的な配慮がなされている。
とくに、「リハビリテーション法の1998年修正第508条(電子・情報技術)」によって、連邦の財政援助する公的な機関の情報のアクセシビリティの保障が義務づけられたことに起因している。 カナダ、オーストラリア、英国においても同様の法律が近年成立している。上述したように、日本の高等教育機関のWeb情報の貧弱さから、多様な学生の受け入れや、研究や授業の改善にIT活用が唱えられているにも関わらず、政府も教育機関側もいまだに本気になってIT活用に本腰を入れていないことが見てとれる。それと同時に、たとえ情報をアクセシブルにしたところで、障害者への支援システムそのものが根本的に確立しておらず情報として伝える内容そのものが欠如しているともいえるだろう。
6.おわりに:日本への含意
情報技術の進展は、大学教育の教授法や学習法を大きく変化させ、そのIT活用技術は今後必要とされる一生を通じた学習の基本的技術となりつつある。とくに障害者はIT活用によって革命的とも言える恩恵を受けることができるようになった。読み、書き、聞く、議論する、という学習にとって欠かせないコミュニケーションをコンピュータ等の機器によって獲得することが出来るようになったからだ。
この分野で最先端の技術水準を誇る日本にありながら、障害をもつ学生がIT学習を享受しているとは言い難い。それを実現させるには、国家レベルの法的整備や財政的援助とともに、学内の制度や目標、責任の所在を明確にし、学内外の関係機関との連携を支えるヒューマンサポートが重要である。
一方、日本と米国の高等教育における障害者支援を比較して、専門的な点訳能力やサポートなどは日本の方がアクセスしやすく、米国のシステムが必ずしも良いとは思えないという意見を米国に留学した日本の盲学生から聴いた。確かに米国の支援方法がすべてではないが、熱心なボランティア活動に支えられた日本の盲学校のトップスクールにおける経験を土台に、日本と米国の支援体制を比較するのも早急すぎる。点字よりもテープが主流という米国の盲文化との違いもあろうが、米国では法によって国のどこにいようが、教育的支援を求めることができる。
近年、日本の文部科学省は「多様な学生に柔軟な学習形態を可能にするオープン&フレキシブルな新しい高等教育」を提唱している。私たちは、この“多様な”という言葉に、年齢、性別、宗教、障害の有無、国籍、性的嗜好といった具体的な例に対応してゆく覚悟があるのか、を再度問い掛ける必要がある。その時、米国の「多様な人々への大学の開放」の実践の歴史とその意味の深さは、日本の今後の大学にとって大きな糧となるだろう。
<参考文献>
(1) 1996.キャサリン・キャッツ・ロスマン「母性をつくりなおす」(広瀬洋子訳)けいそう書房
(2) 2001.安藤房治「インクルーシブ教育の真実」p.16-p.38
学苑社
(3) 2002.5月 モビリティ・インターナショナル会長へのインタビューから
(4) オレゴン大学 http://www.uoregon.edu/
(5) レインコミュニティカレッジ(LCC) http://www.lanecc.edu/
(6) TRIO トレーニングhttp://www.ahead.org/TRIO/participate.html
(7) LCCの障害者支援室http://www.lanecc.edu/disability/index.htm
(8) バーモント大学http://www.uvm.edu/
(9) オレゴン大学障害者支援室
Disability Service University of Oregon http://ds.uoregon.edu/
(10) AHEAD: The Association on Higher Education
and Disability http://www.ahead.org/
(11)ハーバード大学教育学部
560: Neuropsychology and Instructional Design Harvard
Graduate School of Education Spring, 2001
http://inclusivemedia.net/commons/commons.cfm
(12) CAST http://www.cast.org
(13)DOIT(Disabilities,Opportunities,Internetworking,
and Technology) http://www.washington.edu/doit/
●広瀬洋子 1997『障害者の高等教育とメディア・アクセスの研究』p.165-187,共同研究者/香川邦生、都築繁幸/三ツ木任一,放送教育開発センター
●広瀬洋子 2000『共生の時代』p.87-104、放送大学教育振興会
●広瀬洋子(研究代表)2002『高等教育における障害を持つ学生への支援システムの研究』、メディア教育開発センター研究報告33号
●広瀬洋子研究室ウエッブページ
http://www.nime.ac.jp/~hirose/gaiyou.htm
* 文中の図が不鮮明な場合はpdf版をご覧下さい。
聴覚障害学生サポートとガイドブック作成の試み
筑波大学大学院心身障害学研究科 白澤 真弓
1.はじめに
聴覚障害学生に対するサポートの内容は大きくフォーマルサポートとインフォーマルサポートの二つに分けることができる(図1)。ここでは、大学におけるフォーマルサポートの現状と、インフォーマルサポートを個人の「やさしさ」に頼ることなく、大学全体として組織化し、提供していくための取り組みについて報告する。

図1 聴覚障害学生に対して提供できるサポート
2.大学におけるフォーマルサポートの動向
音声を解して授業を受講することが困難な聴覚障害学生にとって、授業の情報を文字や手話を介して伝える「講義保障」の取り組みが不可欠となる。大学における講義保障の形態としては、従来友人のノートを見せてもらう、手話サークルや有志団体による補助などのインフォーマルなサポートが中心とされてきており、現在もなおこうした不確実な手段をとらざるを得ない大学が多数を占めているのは事実である。そうした中、いくつかの先駆的な大学では、90年代前半以降、学生が集めてきた通訳者に対して謝金を支払う「身分保障型」のサポートが実施されてきた。これにより通訳を行う学生や通訳者が最低限度の保障を受けることができ、聴覚障害者自身の心理的負担もいくらか軽減されたが、身分保障型サポートの範囲内では、聴覚障害学生自身が毎日の講義のために通訳者を探し、依頼し、謝金の管理をしなければならないという負担は取り除くことができず、安心・安定した学生生活の実現には至っていないのが現状であった。
これに対し、ここ数年大学が独自に通訳者(多くはノートテイカー)を募集し、聴覚障害学生の授業に配置する「コーディネート型」サービスが出現し、徐々に定着しつつある。この中には、大学が独自に養成講座を開催するものや、地域サークルと連携して派遣を行うものなどさまざまな形態があるが、いずれにしても従来より聴覚障害学生の間で提案されてきた「サポートセンター構想」を不十分ながらも具体化した取り組みのひとつであり、注目に値する。しかしながら、コーディネート担当者によりサービスの質が大きく変動する、緊急に養成された通訳者では十分に情報が保障されないなどの問題はぬぐいきれず、今後一層の発展が要求されている。
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| 図2 身分保障型サポート | 図3 コーディネート型サポート |
3.インフォーマルサポートの組織化
大学が聴覚障害学生に提供できるサポートの中には、前節で述べた通訳者派遣などのフォーマルサポートのほかに、板書を増やす、レジュメを作成するといった授業担当教官や周りの一般学生ひとりひとりの手によるインフォーマルサポートが挙げられる。こうしたサポートの内容は、従来各個人が気づいたときに提供するものとされ、個々の「ボランティア意識」あるいは「やさしさ」にゆだねられるところが大きかった。しかし、聴覚障害学生が受講する授業の担当教官の93%が、参加している聴覚障害学生に対してどのように対応すればよいかわからず戸惑ったことがあるとする調査結果を参照すると(白澤麻弓(1997)「大学における聴覚障害学生のサポートの内容に関する研究」)、本来インフォーマルに提供されるサポートの内容を、ガイドブックやマニュアル等を利用して具体的に解説し、誰もが必要なときに提供できるサポートへととらえなおしていく必要があるだろう。さらに、このようなガイドブックをテキストとして、大学職員、教員、学生に対して講座を開催することで、聴覚障害学生にとって本当に必要なサポートの内容が周知徹底されていくことと考えられる。
| ■ 障害学生とは ‐ 個々の障害について ‐ 大学進学の実態 ■ どのようなサポートが必要か? ■ 授業における配慮事項 ■ 学内の組織 ■ 活用できる資源 ■ 予算 |
図4 職員向け一般的研修会の例(60分)
| ■ 聴覚障害学生と大学進学 ‐ 大学進学の実態 ‐ 聴覚障害について ■ コミュニケーション ■ 講義保障 ■ 授業時の配慮 ■ 授業形態によるサポートの違い ■ 学内生活上の配慮 ■ サポート事例 ■ 利用できる資源 |
図5 授業担当教官向け研修会(120分)
<参考文献> 白澤麻弓・徳田克己(2002)「聴覚障害学生サポートガイドブック」日本医療企画.
1.事前相談
募集要項に「身体に障害を有する者で、受験上及び修学上に特別な配慮を必要とする場合は、平成○年○月○日までにあらかじめ本学に申し出て相談してください」と表記。期日を限っているが、この期限を過ぎても応じている。志望先の講座や障害児教育講座の教官が本人からの希望、必要な配慮等について検討する。
必要に応じ、本人、保護者、学級担任等と直接会って、配慮事項の確認を行う。例えば集団討論の際に手話通訳者とのコミュニケ−ションが確実に行えるかどうか。
2.障害に応じた配慮
視覚障害者
・問題冊子を点字に
・問題冊子及び解答用紙を拡大(本人の希望する倍率)
・拡大鏡の使用
・試験時間の延長(1.3倍)、別室受験
脳性マヒによる書字困難
・パソコンによる解答の入力
・試験時間の延長(1.3倍)、別室受験
聴覚障害者
・FM補聴器の使用
面接時間の延長(集団討論)
・指示事項等の文書による伝達
・手話通訳者の配置(集団討論)
面接時間の延長
・パソコンによる要約筆記(集団討論)
面接時間の延長
3.他の受験生への指示(集団討論)
集団討論の際、聴覚障害者がいるグループの受験生に対して、発言する際に手話通訳がしやすいようにゆっくり話すことや、FM補聴器による聴き取りが確実なことの確認、発言内容の確認(パソコンによる文字入力をスクリーンに投影)を行ってから次に進めること等を指示する。
また、グループ分けを発表した後、本番を迎える前に手話通訳が入ったり、FM補聴器を使用して予行演習を行い、お互いリラックスして確実にコミュニケ−ションがとれるような雰囲気作りに努める。
試験とは言え、うち解けて仲良くなり、帰り際にはメールアドレスの交換をしたりしている。また過去には夏休みのオープンキャンパスに来て知り合い、文通をしていた者もいた。
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愛媛大学の取組
花熊 暁(プレゼンテーション)
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音声認識ノートテーク
立入 哉(プレゼンテーション)
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オーストラリアの大学の障害学生支援室の一覧
University of Canberra
日本の大学の障害者支援
日本福祉大学
立命館大学
筑波大学
早稲田大学
全国障害学生支援センター
広島大学ボランティア活動室
情報をお持ちの方はお寄せください。
最終更新 2003,2,12.