ドイツにおけるユダヤ人
−中世ユダヤ人迫害における地方支配層の役割−中里昌弘
【目次】
はじめに ………………………………………1第1章 中世ユダヤ人の経済活動
第1節 栄華の時代 ………………………3
第2節 暗転 ………………………………6
第3節 ユダヤ人保護 ……………………9
第2章 中世におけるユダヤ人迫害
第1節 十字軍の猛威 ……………………14
第2節 儀式殺人と聖体冒涜 ……………17 第3節 黒死病と共に ……………………21第3章 ケルンにおける大司教・都市参事会とユダヤ人
第1節 大司教と都市参事会 ……………25
第2節 2つの保護状 ……………………28 第3節 1349年の迫害 ………………32おわりに ………………………………………36
註 ………………………………………………38 参考文献一覧 …………………………………45
中世ヨーロッパにおけるユダヤ人問題に関しては、民族・宗教・政治・経済・文化・思想といった各方面から、多岐にわたる研究が為されてきた。各種の個別研究や地域ごとのユダヤ人史の研究も膨大な数にのぼる。当然こういった研究の中には、反ユダヤ主義やユダヤ人迫害の原因に関するものが多く含まれており、本稿で扱おうとするのもこの分野である。しかし今日では、ユダヤ人迫害の原因に関する議論は出し尽くされた感があり、すでに時代遅れであると見做されている。
1)したがって本稿は、迫害の原因論に関して新しい要素を提供するものではない。迫害の原因に関するこれまでの研究の成果を簡単に纏めるならば、それはキリスト教信仰の浸透と共に増大した宗教的憎悪と、ユダヤ人が果たした経済上の役割に基づく諸要因とが密接に結び付いた結果であったと言える。そのため中世におけるユダヤ人迫害には、常に財産の略奪や没収が伴ったのである。しかしながらこれまでの研究の多くは、主に直接の迫害者であり、略奪者である大衆の心理を論の中心に据えたものであり、迫害の結果度々利益を得る事になった各支配層の果たした役割については、二義的に扱われる事が多かった様に思う。
そこで本稿では、特に地方支配層に注目し、彼等の金銭的欲求とユダヤ人迫害との関わりを、原因論の中心に据えた立場から検討する。ここで言う地方支配層とは、封建制社会の中で支配的な地位にいた者のみならず、都市参事会や高位聖職者など、当時の社会に何らかの影響力を持ち得た上層の人間を指す。筆者は、迫害において彼等が直接的、または間接的に果たした役割は、迫害が形成・助長されていく過程において、大きな意味を持っていたと考えている。
この様な前提に基づき、本稿各章では次の事を論じていく。
まず第1章では、中世初期から中期にかけてのユダヤ人の経済活動と、彼等を取り巻く社会状況について概観する。また、ユダヤ人が支配層から与えられた保護が、如何なるものであったかについて論じる。
第2章では、11世紀から14世紀までの期間における主な迫害事例を取り上げ、地方支配層が、迫害の前段階もしくは迫害時において果たした役割を中心に論じていく。
そして第3章では、ケルン市の大司教・都市参事会双方の対ユダヤ人政策を検討し、その政策が同市の1349年の迫害に及ぼした影響について考察する。
なお、本稿全体にわたって考察の中心となるのは、中世の各時点において最も激しい迫害を経験した神聖ローマ帝国領ドイツ地域である。しかし問題の性質上、ドイツ地域を越えた、より広い視野が必要とされる場合にはこの限りではない。また、本稿において「西欧」という場合、そこにはスペインは含まれない
2)事を確認しておく。