「音楽の意味と役割を問う」('97全日本音楽教育研究会 福岡大会: 大学部会 主題より)

                                            木村 次宏

 今日の社会環境の急激な変化は、情報化の進展と共に、今後ますます拡大し、加速することが予想される。学校教育においては、このような社会をとりまく変化とそれに伴う子供の生活や意識の変容に配慮するとともに、生涯学習の基礎を培う観点に立ちながら、21世紀に向けた新しい教育のあり方を考え、授業の創造を推進することが求められている。平成8年7月19日に出された第15期中央教育審議会の第一次答申においても、情報化がさらに急進していくことを踏まえながら、子供たちをめぐる状況を見据えつつ、それに適切に対応していくための教育の在り方について検討していくことが提言されている。
 ところで、この情報化が急速に進展する社会状況の中で、近年、音楽を取りまく環境も著しい変容を遂げてきた。そして、その結果として、自分が意識する、しないに関わらず、日常生活の中に音楽が深く、広く入り込むようになった。特に、それを助長する機能を果したものとして、ヘッドフォン・ステレオ、CD、ビデオ、ミニ・コンポなどをはじめとするAV機器の普及があげられる。しかし、音楽環境の変容は単にそれだけの問題にとどまらず、コンピュータや情報通信ネットワークを通じての、いわゆるマルチ・メディアの活用、現代人の音楽行動の多様化、音楽情報産業の躍進など、消費社会と呼ばれる現代社会において、音楽が前のどの時代にも増して社会化されつつある状況にある。
 これらの大きな変化の中で、音楽それ自体が音楽内的なコンテクストだけでは意味をとらえられなくなってきている。つまり、音楽の意味を考えようとするとき、音楽内的なコンテクストとならんで、社会的コンテクストや言語的コンテクストをはじめとする音楽外的なコンテクストを抜きにして考えられない音楽現象が台頭するようになったのである(『音のうち・そと』 北川純子著 剄草書房 1995)。
 音楽を取りまく社会状況の変化は、学校における音楽科の存在そのものに対しても、少なからず影響を及している。つまり、子供たちは、学校以外の場所では、様々なメディアを通してポピュラー音楽(洋楽・邦楽)やワールド・ミュージック、さらに広告音楽など、社会の動向と関連を持った音楽の消費者として、その重要な一役を担っている存在なのである。また、それらの音楽は、上述したように、彼らの心をダイレクトに捉えるような様々なコンテクストを内包しているのである。
 学校教育の果す役割を考えたとき、現在の音楽事情と同様に消費者主権の対象として学校のウェートが高まるにつれて、学校は消費者としてのニーズが満たされているかどうかというまなざしで捉えられるようになり、そのレベルでしか評価が得られなくなってしまうという危機に直面するようになる。今後さらに激変するであろう社会の中で、学校教育がいかなる役割を果していくのか、また、音楽教育がいかに機能し得るのかという問題に関しては、子供の生活・成長・学習の全般に関わるものとして学校を再編成することからその意味を検討していく必要があろう(『教育改革』 藤田英典著 岩波新書 1997)。
近い将来実施される学校週5日制にともなう授業時数の削減の問題と関わって、小学校においては音楽と図工その他の教科の合体とした「表現科」の構想が模索されるなど、すでに今後の教育の在り方に関して、多角的あるいは多面的な方向からその取り組みの検討が始っている。ただ音楽科としては、そのような構想が適切か否かという議論も含めて、時代の潮流に乗り遅れることなく、今後の音楽科の方向性について検討する必要がある。そこでは行政面からの一方的な指導ではなく、現場の実態に即した形で、その改善・充実についての具体的な方策を展開していくことが望まれる。



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