音楽科教育へのコンピュータ導入に対する教師の意
(福岡教育大学教育実習ハンドブック「授業とメディア」平成11年3月発行より)

 学校教育の場において情報教育の充実を図るためには,情報機器の整備,学習指導要領での扱いの明確化と同時に,指導的役割を担う教師の資質向上が重要な課題である。つまり,情報教育では教師が指導に必要な資質・能力を身につけた上で,コンピュータの活用を中心とした学習活動の推進が期待されているわけである。ただ,その実態は現在の段階ではまだ不十分であると言わざるを得ない。次に筆者が小学校及び中学校の教師に対しておこなった「音楽科学習指導へのコンピュータ導入に対する意識」の調査を参考にしながら,音楽科における情報化の推進の現状と課題について述べることにする。
 調査では,福岡県の小学校教師373名と中学校の音楽教師90名から回答が得られたが,そこでは小学校・中学校とも半数以上の教師が音楽科の授業へのコンピュータ導入の有効性について前向きな見解を示された。その有効性についての教師の主な意見は次のようなものである。
・新しい学習の方法であり,児童・生徒が積極的に学習活動に取り組むことができ,音 楽に対しても興味や関心が持ちやすい。
・創作や作曲の授業で,自分が作った音や音楽をその場ですぐに再生して聴取すること ができ,効果的な学習が展開できる。
・楽譜が読めなくても,楽しく音楽表現の学習に取り組むことができる。また多様な音 色によって音楽表現の工夫や選択の幅が広がる。
・合奏や合唱またパート練習の伴奏の補助的手段として有効に活用できる。
しかしながら,その一方で導入に対して危惧の念をいだいている教師も少なくない。それらの教師からは,生の音を通しての音楽の美しさやよさを十分に味わわせる機会が不足してしまったり,コンピュータに依存しすぎてバーチャルな世界と現実の世界との区別がつかなくなったりすることへの懸念を示した意見が多く聞かれた。コンピュータ導入に関しては,メリットと同時に,情報教育でしばしば指摘される情報化の「影」の部分と関連するディメリットが必ず見え隠れするものである。
 ところで,学校現場においては,小学校・中学校双方とも音楽科独自の問題に関わる以前に,学校教師全般に関わる問題が多く指摘されている。つまり,コンピュータやその周辺機器,ソフトなどに関する知識あるいは操作能力を教師自身が十分に持ち合わせていない,またそれらについて研修する場や時間が少ない,というような情報教育を推進するための根本的な問題に関わる悩みが多く聞かれた。音楽科に関わる問題としては,効果的な授業を展開するためにどのようなソフトを選択すればよいのか,DTM(Desk Top Music)関連の周辺機器を整備するまでの予算的措置が乏しい,というような現実的な対応で非常に苦労している状況も少なからず聞かれた。ただ,音楽の授業においてコンピュータやシンセサイザーなどのデジタル楽器を活用した学習活動には,児童・生徒は非常に高い興味や関心を持っているというのも事実であり,調査結果においてもそのことが証明されている。特に音楽の授業でコンピュータを活用する利点としては,演奏技術の有無に関わらず,学習者一人一人が積極的に学習に取り組むことを通して,「こんな表現をしてみたいから,この音楽情報をこう操作してみよう」,「操作した結果こうなったから,今度はこうしてみよう」というように学習に対する見通しや意欲を持ちながら,多様な学習活動が展開できる可能性がある。さらに,新設される「総合的な学習の時間」においても,音楽科と総合的な学習の有機的な関連を考える場合,情報教育という現代社会において要請が増している新しい課題について,音楽科としての視点から次のような学習を通して具体的な取り組みを推進することもできる。
[ 情報] − コンピュータをはじめとする情報手段を適切に活用する基礎的な能力を養い,高度情報化社会における情報リテラシーの育成を図るとともに,それらを表現やコミュニケーションの活動,あるいは課題解決のための手段として取り入れる。<例>音楽用ソフトとMIDI(Musical Instrument Degital Interface)を活用した音楽づくりなどを通して,コンピュータと音楽とのつながりについて学習する。また国際理解との関連で,インターネットを活用した情報収集・情報交換を行うことによって,その国や地域の音楽文化などについて理解を深める。
 以上,ここでは情報化社会に対応した音楽科教育の現状と課題,音楽科学習指導へのコンピュータ導入に対する教師の意識を中心に述べてきたが,(1)のところでも言及したように,音楽が前のどの時代にも増して社会化されつつある情報化社会の中で,学校における音楽教育の在り方も質的改善を図ることが望まれている。音楽科においては子供の発達段階にあわせた具体的・体験的な活動の中で,コンピュータをはじめとする様々な情報機器やデジタル楽器,マルチメディア技術などの活用による学習活動について検討するとともに,指導者としての教師の資質向上に向けて研修の機会を保証し,効果的な指導方法の改善・充実を図ることが今後ますます期待されるところである。

*調査に関する詳細な結果は,以下に紹介した拙稿をご覧下さい。また,コンピュータを活用した音楽科の新しい授業方法に関して,同センター発行の『授業方法ハンドブック(平成6年3月)』でも記述しているのでそちらもあわせてご参照下さい。
(木村次宏)

<参考文献>

文部省「小学校学習指導要領案」『初等教育資料』,平成10年12月号臨時増刊,東洋館出版社
木村次宏(1997)「小学校教師の音楽科学習指導へのコンピュータ導入に対する意識」『教育実践研究』,福岡教育大学実践指導センター,第6号,pp.19-26.
木村次宏(1999)「中学校の音楽教師の音楽科学習指導へのコンピュータ導入に対する意識」『福岡教育大学紀要』,第48号, pp.15-25.

*その他,文部省のホームページが提供している審議会報告などから,以下のような資料を参照した。
・体系的な情報教育の実施に向けて(第一次報告)(平成9年10月3日:情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議) 
・教育課程の基準の改善の基本方向(中間まとめ)の概要(平成9年11月17日:教育課程審議会)