○音楽科学習指導における評価の在り方<中学校>(音楽科の特性と学習指導 −豊かな感性の育成を目指して−)
音楽科においては、『表現及び鑑賞の幅広い活動を通して、音楽を愛好する心情を 育てるとともに、音楽に対する感性を豊かにし、音楽活動の基礎的な能力を伸ばし、
豊かな情操を養う』という学習指導要領に示されている教科の目標を踏まえ、表現 (歌唱・器楽・創作)及び鑑賞の領域から幅広い教材が設定され、教師の働きかけに
基づいて、個別的あるいは集団的な学習が進められる。そこでは音楽の美しさやよさ を感じ取りながら、創造的に表現することや音楽を聴くことの楽しさ・喜びを味わっ
たり、感動体験を共有したりする活動などを活発に展開することによって、生徒一人 一人の音楽を愛好する心情を育て音楽に対する感性を豊かにするとともに、音楽活動
の基礎的な能力を伸ばし、豊かな情操の育成を図ることがねらいとされている。音楽 は心を豊かにする力を有している芸術であるし、またその力には感動体験の共有、知
性と感性の融合、人間感情の純化等々、種々の教育的価値が包含されており、21世紀 に向けた教育方針の一つの柱である「豊かな人間性の育成」にとって重要な役割を果
たし得る教科として位置づけることができる。
ところで音楽科の教科としての特性は、学習指導要領解説音楽編でも明記されてい るように、上述した教科目標の中の、「音楽に対する感性を豊かにし、音楽活動の基
礎的な能力を伸ばす」という部分にその基本理念が示されている。つまり音楽科の授 業では、多様な音楽に興味・関心をもたせ、音楽のもつ価値を理解して深く味わうこ
とができるように指導すること、そして音楽の豊かさや美しさを感じ取らせる経験を 通して、音や音楽を知覚する能力を育成するとともに、音楽から豊かさや美しさを見
つけ出したりそれを表現するための工夫を重ねたりして、個性的・創造的に音楽へ働 きかけることが必要であるし、またそのためのアプローチを楽しく充実したものにす
るために音楽活動の基礎的な能力を身に付けることが求められている。実際の指導場 面における音楽科の特性は、その指導の内容的な対象となる音楽そのものの構造的・
感性的な特徴によるところが大きいと言えるが、構造的な特徴とは、1)音色、リズ ム、旋律、和声を含む音と音とのかかわり合い、形式などの構成要素と速度、強弱な
どの表現要素、2)歌唱力、楽器の演奏能力、アンサンブルや合唱・合奏、即興表現 の能力などの技能的要素、3)読譜力、諸記号や作曲家や作品の背景の理解力などの
知識・理解的要素、などの側面に分けることができるし、感性的な特徴とは、1)の 構成要素と表現要素の相互作用によって生み出される音楽の曲想、美しさ、豊かさな
どといったその音楽固有の質的な側面のことである。さらにこのような特性に加えて 生徒の音楽への関心・意欲・態度といった情意的な側面も、音楽科の学習を成立させ
るための重要な側面として機能するものである。これら3つの側面は、相互に有機的 な関連を保ちながら音楽科における指導内容を構成し、感性の育成を基盤とする多様
な学習活動を展開するために不可欠なものであると言える。
「感性」という言葉の解釈はその概念をどのような立場からとらえるかによって必 ずしも一致するものではないが、発達段階に即して真理を求める心や自然を愛し美し
いものや崇高なものに感動する心を育成するとともに、知性と感性との調和のとれた 人間の育成を目指そうとする学校教育的な観点からとらえた場合、「美に対する感
性」を高めることをねらいとする音楽科においては、教科の存在意義とも大きくかか わる重要なキーワードとして位置づけられる。つまり生徒が音楽に対する自分の思い
やイメージを広げ生かすような音楽活動を通して、自分のよさや可能性を自ら発揮し て主体的に楽しく活動を行うような学習指導の展開を図り、音楽の豊かさや美しさ
を、直感的・全体的に、しかも鋭敏に感じ取ることができるようにする活動の源とな るのが音楽に対する感性であり、音楽を聴いて美しいと感じ、さらに美しさを求めよ
うとする心の働きとしての柔らかな感性の育成を図ることが音楽科において大いに期 待されるのである。ただ感性の育みに関しては、どの時点でどのようにその高まりを
評価していくのかということは容易な作業ではない。逆に言い方を変えれば、生徒た ちは次に示すような音楽とかかわる学習活動の様々な過程で常に感性を働かせている
のである。それは、1)様々な音や音楽を聴いたり音楽の楽しみ方に接したりして、 音楽活動や音楽そのものに積極的に働きかける過程、2)自分で歌ったり楽器の演奏
をしたり、あるいは何度も音楽を聴いたりするような直接体験を通して自らの課題の 意図や活動の方向を明らかにする過程、3)自分の思いやイメージにあった表現を目
指すために「何を」「どう」すべきかという課題の解決に向けて工夫を深める過程、 4)互いの表現の工夫のよさに気付いたり認め合ったりしながら自分たちの表現や行
動に共感し、互いに音楽を楽しむ過程、5)授業の中で経験したことやつくり上げた ものを広く学級活動や学校生活や地域社会の活動などに活用する過程、などであり、
このような学習活動の過程を通して生徒たち一人一人の感性は徐々に育まれ、音楽を 表現したり鑑賞する喜びやすばらしさをより深く体験することができるようになるの
である。これからの教育において、このような豊かな感性の働きを重視することによ り一人一人の個性を生かした主体的で創造的な学習活動を展開することが音楽科のみ
ならず学校教育全般にわたる広い視野からも益々求められてくるものと思われるが、 教師自身そのような状況を自覚し、日々の教育活動に取り組むよう心がけることが大
切である。
(福岡教育大学教育学部・三附属中学校 平成14年度研究紀要より)