2010年7月アーカイブ

MM9

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地震、台風などと同じく自然災害の一種として"怪獣災害"が存在する並行宇宙が舞台。有数の怪獣大国である日本で気象庁内に設けられた怪獣対策のスペシャリスト集団"特異生物対策部"、略称"気特対"の活躍を描く連作。太平洋から日本に接近する海獣(シークラウド)に対する"気特対"を描くメンバー紹介編的な第一話「緊急!怪獣警報発令」。巨大化した少女型怪獣を相手にする苦悩と暗躍する謎の組織の片鱗を描く第2話「危険!少女逃亡中」。この怪獣は事件後人間サイズに戻って捕獲されヒメと呼ばれるようになる。謎の飛行怪獣(グロウバット)の発光現象が放射能に関係するとわかって大騒ぎになる書き下ろしの第三話「脅威!飛行怪獣襲来」。マスコミの密着取材が入った中で出現した植物怪獣(メガドレイク)事件を描く第四話「密着!気特対24時」。そして最終第五話「出現!黙示録大怪獣」では、謎の組織の暗躍で巨大な多頭龍が目覚めようとする。組織に攫われたヒメはしかし脱出して多頭龍の目覚めを察知してそちらに向かおうとする。気特対の本部が組織のテロリストに抑えられている間についにMM9(Monster Magnitude 9)に達する多頭龍(クトウリュウ)は目覚めてしまい、ヘリで運ばれたヒメと神戸ポートアイランドの遊園地跡地での黙示録決戦が始まる。ヒメは傷つきながらも決め技の巨大光輪でクトウリュウを倒し事件は終了するが組織のテロリスト(実は人間大の怪獣=妖怪だった)は逃亡してしまい、続きへの伏線がつながる。何よりも初代ウルトラマンからのTV怪獣番組をリアルタイムで見ていた世代にとっては怪獣小説の部分だけでも感激もの。本作のもう一つのキモは怪獣ものにSFとしての理屈をつけるべく導入された多重人間原理。一見我々の宇宙(ビッグバン宇宙)の物理法則に反しているように見える怪獣たちは実は別の物理法則の支配する宇宙(神話宇宙:ミス・ユニヴァースとのしゃれ)の存在で、我々の宇宙に紛れ込んできているとする複数の人間原理に基づく宇宙の交雑を怪獣の説明に使っているものだ。いかにもSFにこだわる作者らしいが何よりも怪獣への愛に満ちた傑作。やっと文庫化で読めてよかった。帯によれば連続TVシリーズになって放映されるそうだが、地上波ではほとんどの地区でみれないじゃないか。後でDVDででも見るしかないか。

(「MM9」、山本弘著、創元SF文庫、2010年6月発行、ISBN978-4-488-73701-6)

前半の表題作では、時間の井戸を通って惑星デログヴァニエンから地球に戻ったシェデレーアだが、到着した町には人っ子ひとり見当たらず、子犬と馬を見つけて移動を開始しても人が見つからないのは変わらなかった。一方、ヴァティカンでは小さなアルロと称する知的障害の男が古文書を納める図書館でやはり1人になったことに不安を感じていた。そこに着陸した異星の探査船にはテルムの女帝の命令でさまざまな星系を調査している"研究者"ドウク・ラングルが乗っていた。彼もまた母船であるモジュールに遭遇し損ねていたのだ。不幸な出会いからアルロを転落死させてしまったラングルは後悔しながら、テラニアシティに向かい、別方向からはシェーデレーアもグライダーを見つけてテラニアシティに向かっていた。後半の「テラの孤独者」では、テラニアシティの療養所で目覚めた発明家のカヌベはシティから人が消えておりすべての機器が停止していることに気づく。同じく療養所にいた女マルボオと他の人を探し始めたカヌベはプロボクサーのシュペイデックと出会い、3人で他に人がいないか無線で探そうとする。地球は"喉"におちた時に他のすべての人類が消えネーサンも動作を止めたことで全ての機器が止まり、それから4か月ほどの時がたってしまったようだった。そこに現れた異星の探査船から出てきたラングルに、あわてたシュペイデックがブラスターを放ってしまう。その後、3人に合流したシェーデレーアは、不幸な出来事を聞いて、何とかラングルとコンタクトをとることに成功する。テルムの女帝の名前が出てきて、新たな展開にあんりそうだ。

(「人類なく世界(ペリーローダン379)」、ウィリアム・フォルツ著、赤坂桃子訳、ハヤカワ文庫SF1760、2010年6月発行、ISBN978-4-15-011760-3)

SFマガジン2010年8月号

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浅倉久志追悼号。名訳短編再録として5編。あこがれていた信号手になった少年が単身任務についた信号塔近くで山猫に襲われて死の間際に訪れた情景をファンタジックに描くキース・ロバーツ「信号手」。ローカル鉄道網が発達した平和な世界ではみ出し者扱いされる車を描くR.A.ラファティ「田園の女王」。うららかな秋の日の列車の旅の中で失われた方程式に関して考察する青年を描くリチャード・グラント「ドローデの方程式」。星々を渡る旅中の冷凍睡眠で孤独になった男が若い植民星の女性市長とやっと平穏な日々を迎えられるかという時に訪れた未曽有の嵐に翻弄され悲劇の結末を迎えるロジャー・ゼラズニイ「このあらしの瞬間」。知ったかぶりの知人に自転車を弄られる悲劇を描くジェローム・K.ジェロームのユーモア掌編「自転車の修理」。ゼラズニイは絶対に読んでいるのにやっぱり内容は忘れている。追悼エッセイが伊藤典夫、森優(南山宏)、鏡明、高橋良平、大森望、中村融、山岸真(後の3人は掲載作の解説も)。巻末には膨大な全翻訳作品リスト。連載陣は、パウルの長子ヨハネスも現れ、いよいよ零號鐘の試奏が間近に迫る飛浩隆「零號琴」(第七回)。恒星船ノアズ・アークに出没する謎の怪物の顛末を描く梶尾真治の連作「ノアズ・アークの怪物」(怨讐星域・第十五話)。コミックの東城和実「完璧な涙」(第5回)。声優・池澤春菜の新連載エッセイ「SFのSは、ステキのS」はCOCOのイラストで。JAで新作の出た籐真千歳インタヴュー。5月の連休に行われた「SFセミナー」レポート。新作映画の紹介が、「宇宙ショーへようこそ」、「ザ・ロード」、「ぼくのエリ 200歳の少女」。「LIMIT」刊行開始に合わせての紹介。椎名誠、友成純一のコラムも。

パラオ攻略戦

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資源衛星<パラオ>は反政府組織ネオ・ジオンの拠点であり、宇宙移民政策の歪みが生み出した「虐げられた民」の住むところでもあった。<パラオ>に囚われたバナージはそうした民の生活を見て現実の別の側面に気付きはじめる。一方、『ラプラスの箱』の奪還を目論む連邦政府は傷ついた≪ネエル・アーガマ≫に無謀ともいえる<パラオ>攻略戦の命令を下した。ハイパーメガ粒子砲の攻撃と共に<パラオ>に突入するエコーズだが、フル・フロンタルはそれを読んで待ち受けていた。攻撃に乗じて≪ユニコーンガンダム≫にバナージが乗るように仕向け、NT-Dシステムを発動させて『ラプラスの箱』への道を開こうというのだ。そうとは知らず、連邦軍の劣勢に≪ユニコーンガンダム≫で向かうバナージ。それに対し、≪ユニコーンガンダム≫に真の能力を発揮させるために出撃したマリーダの駆る≪クシャトリア≫。両者の激突の際、マリーダの過去を感じ取ったバナージはかろうじて踏みとどまり、破壊された≪クシャトリア≫と≪ユニコーンガンダム≫は共に≪ネエル・アーガマ≫に収納された。この戦いの混乱に乗じて地球に向かったリディの駆る≪デルタプラス≫にはリディにより≪ネエル・アーガマ≫から連れ出されたミネバがいた。

(「パラオ攻略戦」、福井晴敏著、角川文庫、2010年5月発行、ISBN978-4-04-394360-9)

大森望編の時間SFアンソロジー第2弾。こちらには第1弾で扱ったロマンス以外のものが収録されている。何度も繰り返される10分間を描く筒井康隆「しゃっくり」。戦国時代にタイムスリップしたゴスロリ少女と姫様の間のドタバタを描く大槻ケンヂ「戦国バレンタインデー」。記憶の中の恐ろしい女が時間の中をだんだん近づいてくる牧野修のホラー「おもひで女」。延々と続く夏休みのSOS団の日々を描く谷川流の涼宮ハルヒシリーズの1編「エンドレスエイト」。そこから先の未来が予想できない"ゼロ日時"が迫るにつれ死んだはずの人々まで蘇ってくる星新一「時の渦」。ねえさんとけんかして家を飛び出した"ぼく"が足を踏み入れたのは"ぼく"の名前が書かれた部屋のある不思議な美術館、という大井三重子「めもあある美術館」。老人の姿で生まれだんだん若返っていく男の人生を描くF.スコット・フィツジェラルド「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」。こちらは必ずしも哀しい結末の話ばかりではないのが第1弾と違う。

(「不思議の扉 時間がいっぱい」、大森望編、角川文庫、2010年3月発行、ISBN978-4-04-394340-1)

大森望編のアンソロジー、テーマはタイムトラベル・ロマンス。アンソロジー誕生のきっかけはSFマガジン2010年8月号の本人のコラム「新SF観光局」で触れてある。内容は、航時機に入って8万5千分の1の時間の世界にいる青年と外からそれを見つめる女性を描く梶尾真治の定番「美亜へ贈る真珠」。連作ライオンハートの1部で時を超えて何度もめぐり合う恋人を描く恩田陸「エアハート嬢の到着」。頭の中の電話で会話が始まったある男の子との初めての出会いの場に向かった少女が巻き込まれた事故を巡る哀しい恋を描く乙一「Calling You」。彼女の授業中の居眠りが実は病気であり、次第に深く長くなる彼女の眠りを見守るしかない男を描く貴子潤一郎「眠り姫」。おとぎ話の裏にある事情を描く太宰治「浦島さん」。古い机の引き出しから出てきた遠い昔のラブレターを通じた時を超えた文通を描くジャック・フィニイ「机の中のラブレター」。という布陣。こうして集めてみればどれも悲恋だなあ。時間ものといってもハッピーエンドもあっていいはずだけど。

(「不思議の扉 時をかける恋」、大森望編、角川文庫、2010年2月発行、ISBN978-4-04-394339-5)

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