ハヤカワでは初登場の大西科学。熟講師の南部観一郎は観測者(オブザーバー)としてこの世界を観測しながら1500年以上を生きていた。相棒の延長体(エクステンション)であるペンダンは普段はペンギンの姿をしているが、南部と共に出かける時は女の子の姿になったりする能力を備えており、南部自身もその正体はよくわかっていない。自分と同類の観測者を求めて夜な夜な街を彷徨う南部たちだが、ある日、ペンダンが黒い延長体と思われる相手に襲われる。突然の敵意に戸惑いながらも初めての同類らしきものの発見に、相手を探そうとする南部たちだが、その黒い奴は南部たちをおびき寄せるために橋を破壊し大惨事を引き起こす。ほっておけないと敵を倒しにかかるペンダン。止めようとする南部を押し切り、ついに最終形態のドラゴンの頭になって炎で黒い相手を焼き尽くすペンダンに別れを告げた南部の前に現れたのは熟の事務員、谷一恵だった。自分も150年生きていることを告げる一恵だが、話合おうとする南部に対し、黒い奴は自分の延長体で、過去に吸収してきた延長体の悲しい体験から、ペンダンを魔物と断じ、自分と一緒になるように告げる。延長体はそんな存在ではないという南部に対し、攻撃を仕掛けた一恵を防いだのは戻ってきたペンダンだった。延長体とは長く生きてきた観測者の記憶により生まれたものであり、南部と一恵の対立に関し、最も原初の形態である剣の姿になったペンダンは南部に一恵を倒すか自ら滅ぶかの決断を促す。やっと会えた同類を悲しい結果で失った南部たちは、住み慣れた国を離れて新たな国へ向かう。量子力学的な観測問題にからめて、自らの死なない世界を観測し続けることによる不死者を扱うところが肝となっている。人の基準を超えて長生きする時に問題となる記憶を延長体という存在に絡めている。小松左京の「虚無回廊」には1億年生きる異星人が記憶嚢をいくつもぶら下げている描写があったが、それとは違う解決策なのだろうか。不死者というのは魅力的な設定で主人公も新たな旅立ちで終わっているが、続きは書きにくそうだなあ。
(「さよならペンギン」、大西科学著、ハヤカワ文庫JA997、2010年5月発行、ISBN978-4-15-030997-8)

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