2010年5月アーカイブ

へリックスの孤児

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シモンズの短編集。いくつもの世界を渡り歩いて追跡を続ける元教師とその教え子の女を描く「ケリー・ダールを探して」。移民先を目指して深層睡眠するアモイエテ・スペクトル・へリックスの民を乗せた量子船が救難信号を受信して立ち寄った星系には軌道森林リングがあった。巨大な怪物宇宙船に定期的に襲われてきた彼らの求めに応じて隣の赤色巨星に向かったへリックスの一行が発見したのは、赤色巨星に飲み込まれながらもなお地下で生き延びていた文明だった。<ハイペリオン>シリーズの後日談、末尾のエピソードが続きを読みたくさせる表題作。謎のヴォイニックスたちのサービスを受け定期的な<ファックス>で生まれ変わりながら怠惰な生活を送るポスト・ヒューマンたちとそれに抵抗しようとするサヴィの<最後のファックス>直前の姿を描く「アヴの月、九日」は<イリアム>シリーズの1エピソード。許可外の登山を見とがめられ罰として異星人を連れてK2への登山を命じられた登山家たちを描く「カナカレデスとK2に登る」。末尾は、映像シナリオとして執筆されたが結局映像化は実現しなかた初訳の「重力の終わり」。どれもリーダビリティが高いのはさすが。<イリアム>シリーズは未解決の部分が多々あるので何とか続きを書いて欲しいものだ。多分<ハイペリオン>シリーズぐらいの量にはなるだろうに。

(「へリックスの孤児」、ダン・シモンズ著、酒井昭伸・嶋田洋一訳、ハヤカワ文庫SF1738、2009年12月発行、ISBN978-4-15-011738-2)

ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラークの3巻目。1960?1971年の短編とエッセイ(こちらには1993年のものまで含む)を収録。小説は、太陽接近小惑星に墜落した男の救出劇「イカルスの夏」。彗星の有人探査隊がそろばんで危機を脱する「彗星の核へ」(この題名からはベンフォード&ブリンの長編を思いだすが)。土星に行った宇宙飛行士とホテル王のエピソード「土星は昇る」。金星に着陸した探査隊が生命に遭遇する「未踏のエデン」。米ソの冷戦を背景に真珠採りの男が墜落したソ連の宇宙船に遭遇する「憎悪」。死んだ愛犬の虫の知らせで月震の被害を免れた話「ドッグ・スター」。月面の電磁加速ランチャーの不具合から月周回軌道にとらわれた男の話「メイルシュトレームII」。深海の発電施設の故障の原因を探る「きらめく生きもの」。月面の低重力化での生物の長命化を扱う「秘密」。太陽風帆走レースを扱う名作「太陽からの風」。食品合成会社の新製品の味の秘密を扱う「神々の糧」。重力を打ち消す浮揚機を発明した身体障害のある博士がエベレスト登頂を目指す「無慈悲な空」。火星で遭難した宇宙飛行士が見る地球の太陽面通過を扱う「地球太陽面通過」、2084年ではなく1984年の現象としているのが執筆年代をうかがわせる。小説の最後は特殊飛行船による木星大気の探査飛行に赴いた男が生物と遭遇する「メデューサとの出会い」。エッセイは、スキューバを扱う「グレート・リーフ」、動物の超越的な感覚器を扱う「五感以上」、映画『2001年宇宙の旅』の政策エピソード「バック・トゥ・2001」、クラークが自身の信条を語る「信条」。末尾の年表は1981-2008年。

(「メデューサとの出会い」、アーサー・C・クラーク著、中村融編/浅倉久志・他訳、ハヤカワ文庫SF1730、2009年10月発行、ISBN978-4-15-011730-6)

鏡明が『本の雑誌』に連載している「連続的SF話」のコラムから抜粋・追記したもの。期間は1979年13号?2001年3月号(213号)。SF以外に鏡明が面白いと思った本やCDの話が多いけれど、一番の特徴は本業の出張がらみで言った世界各地での本屋めぐりかな。といってもその手の本屋があるような町(ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンジェルス、ロンドン、パリ、といったところからスペインやメキシコまで)が中心になるけど。最初の方にはホーガン「星を継ぐ者」なんかが出てきてなつかしい。これだけの年数になると途中で物故したSF関係者も多数出てくる。ハインライン、シマックなんかの作家から黒丸尚とかも。90年代ののあたりの話も含まれてる。鏡明のSFの嗜好は必ずしも自分と一致しないけど(あたりまえ)、大森望の日記といい、この手の本は時の流れをたどるのが面白い。続きも単行本化を強く希望する。

(「ニ十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分」、鏡明著、本の雑誌社刊、2010年3月、ISBN978-4-86011-202-8)

巻頭は1974-1975年にかけて小松左京が少年時代に親しんだ挿絵画家8人にインタヴューしたテープが発見された中から、蕗谷虹児の巻。コラムランドは元・毎日新聞記者の石倉明「作家と記者の分かれ道」、澤田芳郎「DVDブック『カラコルム/花嫁の峰チョゴリザ』刊行に携わって」、岡和田晃「二十一世紀の実存」は伊藤計劃論。発見!は富士ゼロックスの広報誌『グラフィケーション』の掲載のショートショート「代理関係」が代理ロボットでストレス発散する社会を描ぃ。高斎正「JC08モード」は車の燃費計測のJC08モードに沿った走りを実際に見られるコースの話。機本伸司「さよならジュピター」を語るは後編。下村健寿『復活の日』から読み解くバイオロジー6は火星の殺戮者(Martian Murderers)に絡めて火星隕石の細菌の話題を扱う。賢人談話、小松左京の大口上5は昭和史顛末碌「EXPO'70」の後編。小松左京この一作4は長山靖生による「日本アパッチ族」。小松左京研究会のページ35は細谷秀一による好きな登場人物アンケート結果。

(「小松左京マガジン第37巻」、イオ発行、角川春樹事務所発売、2010年4月発行、ISN978-4-7584-1158-5)

SFマガジン2010年6月号

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特集はスチームパンク・リローデッド。特集の小説では、ジェフ・ヴァンダーミア「ハノーヴァの修復」は海沿いの町でよそ者として暮らす主人公がロボットを修理してみるとそれは帝国が彼を探しに送り出したもので、帝国の飛行船技師という地位から脱出してきた彼の過去が明かされ捜索に来た帝国軍に町は蹂躙される。ジェイ・レイク「愚者の連鎖」では、天空にそびえる巨大は歯車が動力の世界で、鎖を昇降する船の女性船長が鎖海賊に襲われ自分が女だけの狭い世界しか知らなかったことを思い知らされる。シェリー・プリースト「タングルフット」では、認知症の老博士の助手として病院の地下に暮らす少年が歯車やボルトで友達となるロボットを作るが、狂女の予言どおりロボットは予期せぬ動きを始める。ジョージ・マン「砕けたティーカップ」では、殺された男のそばで真鍮の梟がさえずっている現場を調べたモーリス・ニューベリーが真犯人を突き止めて事件を解決する。特集の他の記事は、ネイダー・エルヘフナウ「もうひとつの十九世紀」はスチーム・パンクの概況を説明するエッセイ。キャサリン・ケイシー「コルセット宣言」はスチーム・パンクのファッションに関する論考。ブライアン・スラタリー「スチームパンクのサンドトラックって何?」はスチームパンクの音楽論。小川隆による特集解説と、資料編としてスチームパンク・ブックガイド。連載小説では、飛浩隆「零號琴」第5回ではシェリュバンが峨鳳丸から惑星<美縟>が元は<美玉>と呼ばれた歴史とそれを忘れてしまったことを告げられる。小林泰三「ナタ」天獄と地国の狭間、第9話では、ナタが北限の地で母の宇宙服の中で成長した記憶が語られる。樺山三英「収容所群島」は名作に題材を得た連作シリーズの第8話で、収容所にいないはずの主人公ぼくが国家と収容所の歴史を語る。連載コミックは東城和実「完璧な涙」第3回。巻末では、第5回日本SF評論賞で選考委員特別賞受賞作である高槻真樹「文字のないSFーイスフェークを探して」が野田昌弘の『SFってなぁ、結局のところ絵だねえ』というセリフに触発された文字のないSFの捜索の旅を描く。

前半の「成就の計画」では、ブラックホールに飲み込まれる日が近づいた地球では恐怖に怯えるアフィリカーたちが地球脱出を試みる一方、謎の薬物"ピル"を服用しておだやかな日を過ごす人もいた。"ピル"の秘密を追うためブルは中国イーシェンに飛び"ピル"によって平穏を保つ村に滞在する。"ピル"を供給する無人輸送機に忍び込み薬物工場に潜入したブルはカサルに捕えられそうになるが工場の支配者に助けられ、それがネーサンの仕業であることを知る。残っていた仲間と共にオヴァロンの惑星に脱出したブルたちの後で、地球はブラックホールに飲み込まれ200億の人類は"それ"に吸収された。後半の表題作では、ポスビ研究者のガルトはフラグメント船に潜入することに成功するが、ポスビに仲間と思わせる代償に事あるごとにポスビたちに保護と脆弱な肉体の置換を迫られる。何とかフラグメント船を操ることに成功したガルトは太陽系の近くでローダンの帰還を待つことにする。NEIの工作員との接触によりラール人のSVE艦と戦闘になったガルトの船を救ったのは銀河系に帰還したローダンの≪ソル≫だった。ガルトから銀河系の近況とアトランの"スタトゥス・クオ"政策を聞いたローダンは驚きと不信を覚え、早急にアトランとコンタクトをとる必要を感じる。

(「ポスビの友(ペリーローダン375)」、クルト・マール&H.G.フランシス著、青山茜・増田久美子訳、ハヤカワ文庫SF1754、2010年4月発行、ISBN978-4-15-011754-2)

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