Iから時代をさかのぼってIの原点ともいえる現代からの地続きの西暦201X年が舞台。謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉圭吾と矢来華奈子はミクロネシアのパラオに向かう。そこでは肌が赤く爛れ目の周りに黒斑を持つリゾート客の姿があった。懸命の治療にかかわらず罹患者たちは次々と息絶えていく。感染源はインドネシア奥の隔絶された高地民族らしいことが生き残りのジョプから判明するが病原種の動物は未知の六本足の生物だった。冥王斑と名付けられた疫病のウイルスは変異を繰り返し効果的な対抗ワクチンもできないまま世界的なパンデミックへと拡大していく。生き延びた患者は健康を取り戻した後も感染能を保ったウイルス保持者のままであることがわかり、厳重な隔離が必要となり、隔離所が設置された周辺住民との摩擦を生んでいく。ついに政治的な思惑により感染者の隔離地を、受け入れを表明したコスタリカの離島に設けることが合意され、世界中の感染者が集められ、そこでは劣悪な環境を向上させるべく先頭を切って戦うパラオの生き残りの少女、千茅の姿があった。彼ら患者群の政府が救世群(プラクティス)と呼ばれるようになる。児玉や華奈子とからむ世界的な薬企業の御曹司フェオドールが登場し、本人は感染で死んでしまうが後に遺したAIのフェオドールが?のロボットの原型を想起させる。冥王斑により世界が変わってしまうところが描かれるが、ウイルスが宇宙から来たことが示唆されたり、フェオドールのもとになったプログラムも外部からの到来が示唆されるなど、明かされ切っていない謎は随所に残されている。最終的にこれらもきれいに解決されるのだろうか?途中、回復者のさらされるストレスや周囲との摩擦がいろいろと描かれ、一気に読んでしまうのは相変わらず。次はアウレーリア一統の話だそうでそれも楽しみである。
(「天冥の標?救世群」、小川一水著、ハヤカワ文庫JA988、2010年3月発行、ISBN978-4-15-030988-6)

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