シュピーゲルシリーズの最終シリーズの開幕。スニーカー文庫で完結させるということのようだ。国際都市ミリオポリスのMPB(憲兵大隊)に属する<特甲児童>涼月、陽炎、夕霧は、自らの過去につながる断片が事件の奥から見えてきたことに対応し、独自の調査に乗り出す。陽炎は調査の過程で愛する中隊長ミハイルが過去の事件にかかわったことを知り衝撃を受ける。夕霧は<特甲猟兵>の白露との再会を願いながら接続官の吹雪と共に電子の世界に没入し電子戦による突破口を開く。敵の仕掛けにより次々に爆発するAP爆弾。涼月が事件のカギを握るアダー神父と共に地下道にいる時にAP爆弾が爆発し、吹雪は植物状態に陥ってしまう。吹雪を殺して自分も死のうとする涼月だが、冬真から吹雪の回復の可能性を聞き、戦いを続ける決心をする。夕霧たちは敵に乗っ取られてレベル3になり暴走する鳳に相対し危機に陥るが、姿を現した蛍と皇の助けて対抗し、涼月の到着を待つ。この巻ではMPB側からの描写が主なので、次はひょっとしたらMSS側から鳳が堕ちていく姿を描くのか?いずれにせよ、最終シリーズにふさわしい、ずしりと重い話になりそうだ。
(「テスタメントシュピーゲル1」、冲方丁著、角川スニーカー文庫、2009年12月発行、ISBN978-4-04-472909-7)
2010年1月アーカイブ
前半の「スラムの軍隊」では、アフィリカーの拷問でポルタ・パト基地の秘密を探り出したトレヴォル・カサルは基地に攻撃隊を送り込む。狙いはOGN殲滅とブルの細胞活性化装置だ。ブルたちは応戦しながら免疫保持者の大半をオヴァロンの惑星に脱出させる。敵の手が迫った時、外部から助けの潜水艦隊が介入する。彼らについて脱出したブルたちは、彼らがアイアンサイド牧師が組織した”信仰の論理”という底辺のアフィリカーたちの組織であることを知り、彼らとムシーラーの助けによりセルジオ・パーセラーの救出に成功する。後半の表題作では、ホトレノル・タアクの命でヴラトの調査を進めるマイルパンサー。一方、銀河系に帰還したセンコ・アフラトやラス・ツバイの乗るSZ-2はヴラトの噂を利用して、幽霊船を演出し、超重族艦隊に対抗していた。懲罰惑星から脱出した人々が植民した新テラはしばらくは順調と思われたがついに超重族に見つかり絶体絶命のところをあやうくSZ-2に助けられる。脱出した先でアトランとの再会も果たされたが、すでにGAVOKを組織していたアトランはローダンの帰還の予想に複雑な心境となる。新テラの人々は超重族の巡回後の惑星にうまく入り込むこととなり、SZ-2は燃料補給のためにオリンプを目指すことになる。この号から表紙イラストが依光隆から2代目の工藤稜に変わっている。末尾のご挨拶にかえてによると、漫画家のキャラクターをリアルに描く仕事などをしているとのことで、うまく依光氏のイラストの味を生かした絵になっていて、あまり違和感はない。良い人選ではなかろうか。ただ月2回刊になったこともあり、口絵や本文中のイラストまでは手が回らないようなのが残念だが。
(「星間復讐者(ペリーローダン)」、クルト・マール&クラーク・ダールトン著、増田久美子訳、ハヤカワ文庫SF1739、2010年1月発行、ISBN978-4-15-011739-9)
歩はアリたちに連れられて、月面の地下にあるもうひとつの街、ファベーラ=スラムの姿を見る。そこに現れたSGポリスの警備ロボット、ガーディアンとの戦いの最中、現れた仮想の女王、レディ・ファントムに連れていかれた先は中国月面市にある隠れ家ビレッジであった。ファベーラやガーディアンの姿、吾郎の弾圧、ビレッジの人たちのムーンチャイルドへの期待などで混乱した歩はアリとレディ・ファントムに自分の誘拐の目的を問う。アリたちは、それに応えるため、ビレッジから離れた月面に行き、ネクサス評議会が管理する仮想現実システムに歩をアップロードする。その仮想現実で歩はアメリカの田舎の一軒家のチェアに横たわる老人に出会う。いよいよ月面世界の裏に隠された真実とロストマンの姿の秘密に迫ってきた。
(「MOONLIGHT MILE 19」、太田垣康男著、小学館 BIG COMICS、2009年12月発行、ISBN978-4-09-182786-9)
クライトンの遺作(死後、パソコンから見つかった原稿(パイレーツ)があるので最期の作品ではなくなったが)。遺伝子にからむ話をいくつかのストーリーラインで描いたもの。1つは自分の細胞を知らないうちに売られていた話。抗癌性物質を分泌する体質の持ち主バーネットは自分の細胞を無断で売った大学と買い手のBioGen社を訴えるが、その細胞がBioGen社に属するとの判決が出、その影響は娘である弁護士のアレックスとその息子のジェイミーにまで及ぶ。行方をくらましたバーネットの代わりに細胞を取ろうとBioGen社の差し向けた回収人の手が2人に伸びてきたのだ。もう一つのラインはBioGen社で人を成熟させる遺伝子の研究をしているジョッシュの話。未認可の成熟遺伝子を組み込んだ薬を兄が吸ってしまい、最初のうちは成熟して無茶をしなくなる効果が出るがそのうち老化が始まりついには兄は老衰死する。さらに別のラインでは、ヒトの遺伝子を組み込んだ動物の成長の話。人語を操るオウムのジェラールは鳥かごから逃げ出して冒険を繰り広げ、ヒトとチンパンジーの交雑体であるデイブは遺伝子を提供したレイディアル・ジェノミクス社の研究員ヘンリーが連れ出し、息子のジェイミーの学校に通わせ始めるが、ちょっかいを出してきた上級生と騒動になる。各ストーリーラインはそれぞれ、一応の決着がつくが、全体としては遺伝子を取り巻く多様な状況を反映するかのように、イマイチまとまりがないようにも感じられる。まあ、いつもどおりすらすら読めて面白いんだけど。
(「NEXT -ネクスト-(上・下)」、マイクル・クライトン著、酒井昭伸訳、ハヤカワ文庫NV1207,1208、2009年11月発行、ISBN978-4-15-041207-4,978-4-15-041708-1)
大森望責任編集による書き下ろしの日本SFアンソロジー。北野勇作「社員たち」は得意先から帰ってきたら会社が地中深く沈んでいたため、掘り出そうとする話。小林泰三「忘却の侵略」は姿無き侵略者の侵略は忘却させる能力によるものだった。藤田雅矢「エンゼルフレンチ」は死んだ恋人の頭脳のコピーを搭載した深宇宙探査機を想い自らも探査機に頭脳コピーされることを選ぶ女性を描く。山本弘「七歩跳んだ男」は月面基地から宇宙服なしで飛び出した男の死体が発見される。果たして事故か殺人か?という本格SFミステリ。田中啓文「ガラスの地球を救え!」は手塚治虫のエッセイに題名を借り、侵略してきた?≒◎※#〓∞☆§♂*?∂〒星人を撃退する。田中哲弥「隣人」はイナカに新居を建てた一家が隣からの凄まじい異臭に襲われる話。斉藤直子「ゴルコンダ」は不幸の手紙のちょっとした書き間違いで増えてしまった先輩の美人の奥さんの話。牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」は黎明のコンビニを舞台に対既知外生命体殲滅部隊の激闘を描く。円城塔「Beaver Weaver」は海狸の紡ぎだす無限の宇宙の過去と出会う円城流スペオペ、なのか?飛浩隆「自生の夢」はバラード的視点からの情報技術へのアプローチとのことだが、既刊のあらゆる書籍の電子化 Godel Entangled Bookshelf などの言葉が面白い。巻末はSFマガジンの追悼号にも載った伊藤計劃「屍者の帝国」。未完なのが惜しまれる。こういったアンソロジーは続いてくれるといいなあ。
「NOVA 1」、大森望編、河出文庫、2009年12月発行、ISBN978-4-309-40994-8)
第1話「七人みさき」では日本各地に伝わる「七人みさき」という怨霊譚を調べていたアマチュア研究家が死亡したことから、その研究成果をかつての級友たちに発表してほしいと頼まれた宗像が彼らに語ったことを描く。第2話の「生と死の女神」では、縄文遺跡の多い八ヶ岳連峰が古代から”黄泉の国”とみなされていたのは理由があった。死の女神イザナミの神話と火山噴火の関係を、地底湖からの忌部と宗像の決死の脱出行を通して描く。第3話の「神の背中」では、縄文土器の中でも最も異彩を放つ神像筒型土器は神の背中を表しているといわれるが、その謎の解明をある少年と約束した宗像と成長して青年になっても発掘にかかわる男との絆を描く。
(「宗像教授異考録、第十ニ集」、星野之宣著、小学館 BIG COMICS SPECIAL、2009年12月発行、ISBN978-4-09-182814-9)
第1話「扶桑伝説」では古代中国に伝わる東方海上の巨大な桑の木の伝説と石炭や巨樹の伝説の関係を探る。第2話の「無限回廊」では、お稲荷さんの朱色の謎を追う宗像が大学の同級生で歴史の教師をしている男と再会したことで、教授の娘と結婚した宗像一家を襲った悲劇が浮き彫りにされてくる。第3話の「裂けた仮面」では、裂けた顔の奥から覗く観音を表現した宝誌和尚立像をきっかけに、かつてインドで死亡した僧の亜南を思い出しながら宗像と亜南の姉の理論物理学者が、像に秘められた思想・哲学に思いをめぐらす。
(「宗像教授異考録、第十一集」、星野之宣著、小学館 BIG COMICS SPECIAL、2009年8月発行、ISBN978-4-09-182670-1)
第1話「巨木漂流」は古代に48mもあったと伝えられる出雲大社の伝説を火山噴火による巨木漂流とからめて解明しようとする話。忌部神奈の体調異変ともからめ気を紛らわせようとする宗像の姿も描かれる。第2話「ちいさきものの手」では土壙墓から出土した人骨が抱いていたちいさな手形の土器と卵巣摘出手術を受けた神奈が病院で小さな子を失った夫婦と出会うエピソードをからめる。第3話「女帝陛下の百合若大臣」では古い説話の「百合若大臣」と「ユリシーズ」は共に孤島に流された男が苦難の果てに帰還を果たすという共通点があることから神功皇后神話や武内宿禰の話につながる。第4話「権現の馬場」では馬が突然怪死するという木曽地方の伝承の正体とミステリーサークルの謎を解く。
(「宗像教授異考録、第十集」、星野之宣著、小学館 BIG COMICS SPECIAL、2009年3月発行、ISBN978-4-09-182326-7)
小説「スター・ボール」は週間読売スポーツの1965年に掲載されたままだったのが発掘されたもので野球が星間空間でのゲームに継承されていた話。高斎正のコラム「最近のおかしなこと」は痛みのない親切や高速道路無料化の話題。英憲悦のコラム「コンピュータ・シミュレーション」は題名どおりコンピュータの速度・能力とシミュレーションの話題。関連しているのが西村一の記事「地球シミュレータは電気プランクトンの夢を見るか」で、こちらはベクトル機とスカラー機の比較や自意識を持つコンピュータの話をSF作品とからめたりセカンドライフの話題まで。講演記録の「宇宙と私たち」は1991年に鹿児島の市立図書館・科学館の開館1周年記念講演の記録で、時期としては「虚無回廊」のために宇宙論についてまとめていたころだそうな。第十回小松左京賞選評は受賞者なしという結論と10回目で中断との報告。最終選考のための体力不足とのことだが、そんなに弱ってるんだろうか。下村健寿の連載<『復活の日』から読み解くバイオロジー>の5回目は「火星の殺戮者(Martian Murderers)-バイキングは火星に生命を発見したのか?-」はバイキング探査機の生物学実験の結果の検証でいつもながら興味深い。町井登志夫の小松左京作品この一作は「地には平和を」の中の一篇「失敗」。南山宏の連載「メタサイエンスねたさいえんす」の5はセファイドが銀河インターネットである可能性や海洋の渦巻きの話題。田中光二の連載「ぼくのシネマオデッセイ?」の5回目は映画から学んだこと。小松左京研究会のページは永瀬佳江による中国旅行記の続編「青蔵高原と山と・・・」。季刊だと油断すると出てるのに気付くのが遅れる。今回もやっと年明けになって入手したけど、すぐに次が出てしまうなあ。
(「小松左京マガジン第35巻」、(株)イオ発行、角川春樹事務所発売、2009年10月発行、ISBN978-4-7584-1146-2)
原子力潜水艦内で乗組員多数が謎の攻撃により変死する。原因解明のため、アメリカ海軍は海底基地ロレーヌクロスに調査員を派遣する。一方、新種の鯨を追う鯨類学者・須藤は潜水船パイロット炎香と共に海底基地と同海域に潜航調査を開始した。見つかったのはマッコウクジラのような外見をしているが、それよりもはるかに大きく最大級のシロナガスクジラの2倍に達する新種の鯨、ダイマッコウであった。ダイマッコウは呼吸のために海面に浮上する必要がないため今まで見つからずにいたようだ。彼らはたくみに音波を操り、原子力潜水艦内の人間を攻撃することさえできる能力を持っていた。ロレーヌクロス近くの海底の熱水噴出孔は元々彼らの憩いの場だったが、海底資源探査に隠れたロレーヌクロスのもう一つの目的である廃棄物投棄によってそこが汚染され、怒った彼らの一群が原子力潜水艦を襲い、ロレーヌクロスにも攻撃をしかけてきた。グループのリーダーとみなされる個体<モービィ>はひときわ大きく60mにも達する巨体で群れを率いている。追い詰められたロレーヌクロスの要員を救うためにかけつけた最新鋭攻撃型原潜ポーハタンも<モービィ>たちの攻撃に沈んでしまう。須藤と炎香の潜水船ドルフィンシャークは<モービィ>を熱水噴出孔に突っ込ませることで攻撃を回避し、ロレーヌクロスの要員も脱出に成功する。海面に戻ったドルフィンシャークは支援船を乗っ取っていたテロリストに海底で拾ってきた龍涎香を渡すが、脱出しようとしたテロリストは浮上してきた<モービィ>に飲み込まれ海に消えてしまう。クライマックスなどは、現代版の白鯨のような迫力で、海に関する描写も藤崎らしく安心して読め、分厚さが気にならないくらい一気に読めるものになっている。お勧め。
(「鯨の王」、藤崎慎吾著、文春文庫、2009年12月発行、ISBN978-4-16-777321-2)
副題に穂瑞沙羅華の課外活動とあるように「神様のパズル」の続編。その後、大学を卒業して就職した綿貫基一に届いたメールは”ネオ・ピグマリオン”という会社から接触を求めるもので、資産家子息の失踪事件の捜査を天才美少女・沙羅華にして欲しいというものだった。沙羅華を説得して調査に乗り出したが事態は沙羅華の出生の秘密にも関係する方向に進んでいく。一見あやしい宗教団体に見えた<ノアスの園>の調査のため、セミナーにもぐりこんだ2人だが、そこでは粒子加速器を用いて脳の一部に粒子線を当て、人格改変と救済を目指すものだった。敵のいうなりになっていると見せかけて、加速器に細工するという沙羅華の計画が綿さんの暴走で露呈し、あわや沙羅華がノアス化されるという時、沙羅華の兄たちの突入により、施設は火事になり、沙羅華たちは無事脱出することができた。あとがきにあるとおり、今作はホームズとワトソンのコンビへのオマージュがよりはっきりと打ち出され、続きができそうな結末になっている。
(「パズルの軌跡」、機本伸司著、ハルキ文庫、2009年10月発行、ISBN978-4-7584-3436-2)
前半の表題作では、ブリーが非アフィリーとなりダントンのOGNの元へ脱出した後、テラでは熾烈な後継者争いが起こっていた。当初は産業大臣のカンタンク対国家保安局長官ルクチェンの対戦と思われたが、カンタンク支持者を追い落としたルクチェンが優位に立ったところで調査行から帰還したカサル提督が立候補を表明する。OGNの支援を受けたカサルは直接対決でルクチェンを倒し独裁者への道を辿る。OGNの捕虜解放に暗示性薬剤による罠を仕掛けたカサルは捕虜救出に現れたパーセラーたちを落としいれるが、間一髪、アイアンサイド神父の介入によりOGNの一団はからくも脱出する。後半の「洗脳作戦」では、カサルはブルの持つ細胞活性化装置を奪取するための罠を仕掛ける。罠の可能性を考えつつもブルたちは工作員としてパーセラー、シルヴィアたちを派遣する。”洗脳作戦”と呼ばれる作戦がパルクッタ地区で開始されようとしており、それにより人類の記憶を操作して独裁者に都合のよい歴史を埋め込もうとするものだという。カサルの罠からかろうじて工作員たちを脱出させたブルたちだが、唯一、パーセラーだけが爆死したと考えられていた。しかし、それもカサルの陰謀の一部であり暗示に落ちたパーセラーはカサルの手に落ちていた。巻末には「ローダンを愛するみなさんへ」という依光隆氏のメッセージが掲載されている。ここしばらくハヤカワデザインによる旧作の再構成で表紙や口絵が作成されていたことから、いつかは、と思っていたが、ついに初代イラストレーターとして降板するとのことである。2010年からの月2回刊に合わせての交代のようで、2代目がどんなイラストになるか興味深い。
(「独裁者への道(ペリーローダン367)」、ハンス・クナイフェル&クルト・マール著、林啓子訳、ハヤカワ文庫SF1735、2009年12月発行、ISBN978-4-15-011735-1)
創刊50周年記念特大号のPARTII日本SF篇。現代の日本SF作家の主力の作品が揃ってるのは壮観である。昔の第1世代の名前(小松左京や筒井康隆など)がないのが少し寂しいが。読切では、山田正紀「フェイス・ゼロ」は人形浄瑠璃の人間国宝が究極の表情を夢見た末にロボット学の表情工学の専門家の教授殺害事件とからむ。椎名誠「問題食堂」は定食屋でのできごとから始まるが壮大な超常的展開に至る。瀬名秀明「ロボ」はシートンの小説にからみ自然史家となったロボット画文家に話を聞きに行った男の話。上田早夕里「マグネフィオ」は昏睡状態の夫の内面を知るために妻が磁性流体を使った装置を使う話。谷甲州「ザナドゥ高地」は航空宇宙軍史の15年ぶりの新作で「タイタン航空隊」の後の時代のタイタンを描く。連作化の予定だそうだ。牧野修「小指の思い出」はiPS細胞から作られた超互換臓器により脳以外の臓器交換が可能になった結果人口増加対策で75才以上の老人が臓器メンテナンスを停止された世界で、老人の島ノドランドに妻の復讐に向かった男の話。神林長平「確かな自己、固定・変換・解放」は考古意識工学者コーパスと意識生命医学博士ジェイクのシリーズの第4作で、ある惑星で発掘された<国家>と呼ばれる人工物をめぐる話。林譲治「古の軛」は≪AADD≫シリーズの1篇で、ストリンガーの対人類交渉用の複合人格グラースが殺された事件を巡ってストリンガー種族に関する重大な情報が展開される。北野勇作「路面電車で行く王宮と温泉の旅一泊二日」は路面電車で街に帰ってきた男の語る奇妙な王宮と温泉の街の話。小林泰三「囚人の両刀論法」は古典的命題<囚人のジレンマ>の究極的解決法を考案したという男が恒星間探査に送り出されて出会ったアケルナル系人は一見理想的な文明を築いていたが、彼らと共に太陽系に帰還した男が見たものはダイソン球から湧き出てくる奇怪な物体だった。田中啓文「カッパの王」はカッパを目撃してから超常現象を見るようになった男の話から始まって2019年に地球の大部分が水没する話が壮大な駄洒落で結ばれる。冲方丁「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」は抗加齢臓器の形成遺伝子注挿技術により不老不死の子供が生まれるようになった時の新人類の母親になる旧人類の女とその夫の話。小川一水「アリスマ王の愛した魔物」は小国の王子アリスマが恐るべき算術の才によって大帝国を築く
アラビアンナイト風の話。円城塔「エデン逆行」はシェルピンスキー=マズルキーウィチ辞典から始まる例によってこの作者らしい展開の話。山本弘「地球から来た男」は『地球移動作戦』と同じ背景の世界の34年後の話で、太陽系外に向かう小惑星船<ラウファカナア>で見つかった密航者の男はある国のプリンスだと明かすが、という話だが、明らかに日本の皇室制度を題材にその硬直性を痛烈に皮肉って痛快である。皇太子と同世代の身として個人的には激しく同意するが右翼とかから文句が出ないかなあ。森岡浩之「気まぐれな宇宙にて」はカイパーベルトに他恒星との間で転移する空間<ポジション>が発見されハミルトン・クリークと名付けられるが、その転移は時間こそ規則的ながらどこに転移するかはランダムで、そこの近傍のステーションでは異星人との交易をもくろむ人々がたむろしているという話。菅浩江「夢」はイディオ・サヴァンでパターン認識に超能力を発揮する主人公が仲間の能力者たちと異星人からの通信の解読に挑む話。野尻抱介「コンビニエンスなピアピア動画」は「南極点のピアピア動画」の姉妹篇で地方のコンビニ店員の女性が知り合った男が宇宙環境に適応する蜘蛛を使った宇宙実験をする話だが、最後には壮大な構築物にまでつながる。連載陣では梶尾真治の怨讐星域第13話「減速の蹉跌」はノアズ・アーク号の船長室及び制御室が放射能汚染で入れなくなり、刻々と迫る反転のタイミングまでに何とか船の向きを反転させ減速体制に入る必要があるが、という話。新城カズマの連作シリーズ≪あたらしいもの≫の「議論の余地はございましょうが」は参議院選挙に立候補した候補の立会演説中のエピソード。新連載の飛浩隆「零號琴」は都市をまるごと覆う巨大楽器の秘密に挑む特殊楽器技芸士トロムボノクと相棒の少年シェリュバンの話。コミックスも多数収録されている。吾妻ひでお「僕と彼女の微妙な関係」、とり・みき「SF小僧の花嫁」、横山えいじ「おまかせ!レスキュー・スペシャル」、COCO「SFマガジンの早川さん・スペシャル」、n西嶋大介「無題」、水玉螢之丞「SFまで100000光年スペシャル」は4本立て。記念エッセイが石川喬司、眉村卓、鏡明、川又千秋、高千穂遥、夢枕獏、森下一仁、新井素子、巽孝之、小谷真理の各氏。巻頭は大橋博之によるSFマガジン表紙ギャラリーの2回目、巻中では映画「アバター」公開記念のキャメロン監督インタヴュー、巻末にはSFマガジン年表PARTII。あと、50周年記念企画として福島正実夫人の多賀子氏インタヴューや、第5回日本SF評論賞の最終選考結果発表など。
