創元のアンソロジー。今回はロマンティック時間SF。ウィリアム・M・リー「チャリティのことづて」は1700年の少女チャリティと1965年の少年ピーターは時を越えて交信できるようになるが、チャリティが魔女の疑いをかけられた時、彼女を救うためにピーターはあることづてをする。デーモン・ナイト「むかしをいまに」は主人公サリヴァンの過去への遡りを描く。ジャック・フィニイ「台詞指導」はニューヨークで映画制作のために古いバスを持ち出した一行がひと時過去への移行を経験する。ウィルマー・H・シラス「かえりみれば」はシラス版ホラ話《ミセス・トッキン》の第1話で、娘時代に戻ってしばし過ごした経験を描く。バート・K・ファイラー「時のいたみ」は主人公フレッチャーが過去に遡ったのは恋人サリーの危機を救うためだった。ロバート・F・ヤング「時が新しかったころ」は過去の調査に行ったカーペンターは追われている子供2人を助け、彼らが火星人であることを聞かされるが、追跡者を撃退し彼らと別れた後で、救いに来てくれた助手たちの正体に気付く。チャールズ・L・ハーネスの表題作は語り手の女性は、母の恋人・夫・そしてもう一人の男を愛したと語るが、実はその3人の関係には複雑な時間のからみがあった。C・L・ムーア「出会いのとき巡りきて」は主人公のロスナーが被験体として時間の彼方に送られ、悠久の過去から時間の終わりまでかけて1人の女を求めていく。ロバート・M・グリーンジュニア「インキーに詫びる」は心理的なタイムトラベルと物理的なものの併存を扱う。時間SFらしく、ロマンチックな余韻の残るものが多かったが、個人的にはやはりヤングのものがらしくてよかったかな。
(「時の娘」、フィニイ、ヤング他、中村融編、創元SF文庫、2009年10月発行、ISBN978-4-488-71503-8)
2009年11月アーカイブ
(「ファントマは哭く」、林譲治著、ハヤカワJコレクション、2009年10月発行、ISBN978-4-15-209078-2)
前半の表題作では、ブラックホールの次元トンネルを抜けてエネルギー暈ダッカル次元風船に到達した《ソル》だが、テラナーの出現を脅威に感じたツグマーコン人の執政官である7人のゼロ守護者たちは闇のスペシャリスト、プィを囮とした殲滅作戦をたてる。ローダンは救出した闇のスペシャリスト、オルウの恋人、プィを救出するため、グッキーやトロトたちを惑星レニイスに派遣する。だが、やっとのことで到達したプィのいるはずの寺院の深層睡眠室はもぬけのからだった。後半の「虚無への通廊」では、プィはゼロ守護者セルルウの後継者ジャットンに連れられて、グライコ人銀河への次元トンネルに脱出していた。しかし、そこでゼロ守護者の遠隔コマンドによりプィの脳内から周囲を無気力にするインパルスが放射されジャットンたちは動けなくなってしまう。プイの捜索に向ったシェーデレーアたちも次元トンネルに入ったが、そこでエネルギー流の流入が止まり足止めとくらってしまう。オルウのプィを見つける感覚をたよりに殲滅スーツを着たシェーデレーアがプイを連れ帰ることに成功し、ドブラクやセタンマルクトの助けで脳内の手術によって無気力放射は停止し、オルウとプィは無事《ソル》にもどることができた。ツグマーコン人の捜索の手が《ソル》に伸びることが予想されたため、ローダンたちはオルウからの情報を元に、かつてツグマーコン人がラール人のために建造した特殊装置ベラグスコルスを奪取する計画に着手する。一方、トロトの不調の原因が子供を宿していることだという驚愕の事実も判明する。
(「ゼロ守護者(ペリーローダン365)」、H.G.エーヴェルス&ウィリアム・フォルツ著、嶋田洋一訳、ハヤカワ文庫SF1727、2009年10月発行、ISBN978-4-15-011727-6)
地軸がずれ、多くの国家は滅び、日本列島も多くの島に分裂した世界。海にはリヴァイアサンと呼ばれる海獣が跋扈し、それに対抗できるのは人類から変異した吸血鬼たちだけだったため、人類は吸血鬼を番犬として飼い、吸血鬼は人類を牧畜として飼うという相互依存関係ができ、灰になった吸血鬼を再生させ海獣にあたらせる訓練・指導を行う転生師という職業が生まれた。今回の話の舞台となる大蒜島では、万丈島を首都とする日本諸島連合が勢力拡大のために連合に入るよう圧力をかけてきていた。ある嵐が明けた日に島にたどりついた男と少女は、転生師の顕九郎と吸血鬼の姫乃と名乗った。島長の高国は顕九郎を古くから知っており、2人は島で世話になる。そんな折、日本諸島連合の手先の報告で顕九郎の居場所を知った、吸血鬼養成で有名な禁宮島の使者が現れ、顕九郎が禁宮島に戻らなければ海獣を差し向けるとの脅しをかける。顕九郎はかつて禁宮島の跡取りと目された男であり、姫乃は禁宮島史上最強といわれた吸血鬼だったのだ。それを拒否した顕九郎と高国たちに、禁宮島から海獣使いの吸血鬼ダゴンと彼女に操られる36体の海獣が迫る。近隣の島の吸血鬼たちの助けも借り、顕九郎の転生師としての知識を使い、姫乃のように日光にも耐える体質へ吸血鬼たちを強化する策が進められる。いよいよ攻撃が始まり、島の転生師・雅彦の裏切りも何とか乗り切って、顕九郎たちは海獣たちの襲撃を防ぐことに成功する。作者あとがきによると発想の元は「吸血鬼(少女型)が夏の浜辺を駆け巡っている」というものだったそうで、確かに楽しんで読めました。幸いにも、続編の出る予定があるそうで、それも楽しみである。
(「Le;0 -灰とリヴァイアサン-」、六塚光著、一迅社文庫、2009年9月発行、ISBN978-4-7580-4099-0)
シェアード・ワールド・ノベルズ<ダイノコンチネント>の2冊目。山本弘による開幕編が長編だったのに対し、3人の作家による競作となっている。現代のコロラド州のガニソン国立公園のキャンプ場で研修訓練中だった<IVDS>(International Volunteer Dispatch Society=国際緊急派遣機構)の高校生たちが、1巻で099便が飛ばされた時代の500年後にタイムスリップした設定は共通で、それぞれ高校生グループのタイムスリップ後を描いている。友野詳「夜の殺戮者」は、時吹丈流と立花恭輔がミラと名乗る少女と出会い、手負いのケツァルコアトルスを助けようとするが、ナイトキラーと恐れられる恐竜に襲われる。最後に恭輔が見せたギフトは時空を結ぶ能力を暗示して今後の伏線のようだ。田辺あひる「Best Friend」は、二谷あやめと戸枝楓のコンビがあるコロニーに迎えられるが、いつのまにかぎくしゃくしだした二人の関係が海賊の襲撃を二人の力を合わせたギフトで撃退したことにより関係が修復し、他のIVDSの仲間を捜すためにローグとなって旅立つ。番棚葵「少女は進み、少年は護る」は、いとこ同士である矢島仄香と滝沢祐介がIVDSの仲間を捜すうち、謎の火を吐く恐竜に襲われていたディノマンのクシェルを助ける。クシェルに案内されてディノマンのコロニーを訪ねた二人だがディノマンの長老は火を吐く恐竜は人間が現れたせいだとして二人を拒否する。しかしコロニーを襲った恐竜を二人が撃退したことで一時的な和解となり、あやめと楓の二人とも出会うことができた。次は山本弘の長編が予定されているそうで、ちゃんと謎が回収されるまで順調に出て欲しいものである。
(「夜の殺戮者 ダイノコンチネント」、友野詳/田辺あひる/番棚葵著、徳間デュアル文庫、2009年8月発行、ISBN978-4-19-905197-5)
このシリーズの3巻にして区切りの完結編。ロシアの要衝、旅順を攻略すべく、雪平たちの乗る《峰越》も連合鯨軍と共に一大決戦に臨もうとする。旅順港の敵艦船を撃破して、戦いの目的を遂げた日本軍に対し、ロシアの鯨軍は撤退を始める。その最中、ロシア軍の中に、クニの仇敵、赤い印をつけた襲撃鯱がいることが判明、家族の仇、《峰越丸》の仇を討つために、敵の虚を突く動きで襲撃鯱にぶつかっていく《峰越》。そして敵の船に乗り込んでいくクニを追って、雪平もまた敵船に乗り移る。危機一髪で敵の機関士に圧し掛かられていたクニを助けて、敵船を制圧した雪平だが、知らぬ間に高度が上がりすぎ、空気不足で意識が遠のいていく。その時、地表に向う浮鯨を発見し、何とかその下にもぐりこむことで、クニと雪平は地表に帰り着く。最後に浮鯨の心を知ったクニが雪平と共に貨物航路についたことが暗示され物語は終幕を迎えた。知性を持つ動物のパートナー、浮鯨がいる世界、と我々の現実とはちょっと違う世界を描いてきた著者が次はどのような世界を見せてくれるのか楽しみである。
(「晴れた空にくじら3 浮鯨のいる空で」、大西科学著、ソフトバンクGA文庫、2009年9月発行、ISBN978-4-7973-5630-4)
秋のファンタジー特集号。特集の小説は、イアン・R・マクラウド「最後の粉挽き職人の物語」は蒸気に押され消え行く風車による粉挽き職人の男を描く。シオドラ・ゴス「アボラ山の歌」は大学助手のサブラが恋人のマイケルに教えてもらったコールリッジの詩の世界での雲の龍と結ばれる娘の話をからめる。エレン・クレイギス「図書館と七人の司書」は新図書館建設で忘れられた古い図書館を舞台に七人の司書が捨て子の赤ん坊を育てる話。M・リッカート「王国への旅」は行きつけのカフェで油絵の連作と解説が書かれたバインダーを読んだ男が現実と非現実の混乱にはまっていく。一番面白かった(後味が良かった)のはゴスの作品かな。他にはカバーギャラリー、特集解説、三村美衣によるエッセイ「本棚のうしろの国」、FT文庫おすすめタイトル30選、文庫FTの現在とこれから。特集以外では連作短編が、菅浩江「鎧と薔薇」<コスメディック・ビッキー>は自然派を標榜する化粧品会社<ロージスト>の販売員・紗都子が抱える悩みを描く。樺山三英「すばらしい新世界」はハックスリーのタイトルを題材にアメリカ文明の20世紀をQ&A式で綴る。エッセイで<椎名誠のニュートラルコーナー>は「中古車にはなぜ風船が飾られているか」。9月4日に青山ブックセンターで行われた「神林長平+新世代作家トークショー」(円城塔、桜坂洋、辻村深月)の採録。林譲治「ファントマは哭く」刊行記念の<AADD>シリーズ・ストーリーガイド。「曲れ!スプーン」刊行記念の上田誠×森見登美彦の対談。WONDERWOKZ文庫1000点突破記念の岩郷重力×大森望の特別対談。といったところ。
突然、降ってきた隕石は塩の塊であり、その周囲からは人々が塩の柱になる現象が広まっていった。街を飲み込む塩によって、社会は崩壊しようとしていた。崩壊寸前の街で暮らす男、秋庭と少女、真奈の前を行きすぎる人々は何かしら塩害の影響を受けていた。塩と化した恋人をリュックに詰め海を目指す青年。刑務所から脱走し2人の部屋に押し入りながら塩と化した男。そして、秋庭の旧知の男が現れ、世界を救うように唆した時から、2人の静かな世界は変わっていった。その男、入江の計画に乗って、東京湾に落ちた塩塊を攻撃、粉砕しようとする、かつての自衛隊のエースパイロット、秋庭。それを地上で待つ真奈。2人の間にはいつしか強い絆が生まれ、それを守るためにどうしても攻撃を成功させて帰還しようとする秋庭の奮闘が始まる。有川浩の電撃ゲーム大賞受賞作。これだけは最初から文庫本で出ていたので読みたかったんだけど品切れでなかなか見つからなかったのが、先日、本屋で有川浩のコーナーが設けられていたところをふと見ると積んであった。8月に14版発行となってたので増刷されたらしい。後の作品でもそうだが、この作品でも男女の恋愛物語とすっきりとした読後感は変わらない美点である。そろそろ図書館戦争シリーズも何とか文庫にしてくれないかなあ。
(「塩の街」、有川浩著、メディアワークス電撃文庫、2004年2月発行、ISBN4-8402-2601-6)
カッスラー&ダブラルによる<オレゴン・ファイル>シリーズの新刊。<オレゴン号>は、ロシアがイランに供給した魚雷の奪還作戦後に、無人のまま漂う巨大クルーズ船に遭遇する。出血性ウイルスに冒されたように見える客や乗員の中でただ一人の生存者の女性を救出したカブリーヨたちは、この船をチャーターしていたのが、地球の人口を抑制することを目的とする巨大組織<レスポンシヴィスト>であることを知る。一方、<オレゴン号>機関長マックスの息子が行方不明となった事件も、その息子が洗脳され拉致されたのが<レスポンシヴィスト>であることから、カブリーヨたちは組織の恐るべき陰謀を察知し、阻止しようと動き出す。息子を奪還しようとして組織に拉致されたマックスは、脱出の過程で、彼らがすでに全世界に人口の半分が不妊となるウイルスを撒く準備を進めていることを知り、アジトの島からの超長波による指令が発せられる前にアジトを壊滅させる必要があることを<オレゴン号>に知らせる。厳重な警備体制を整える敵のアジトを潰すには、かつてロシアが軌道上に打ち上げCIAにいたカブリーヨの活躍で活動停止していた”スターリンの拳”と呼ばれるタングステン・ロッドの投射兵器を復活させるしかない。軌道上にエリックを送り込むと共に<オレゴン号>でマックス救出にアジトに向うカブリーヨたち。時間との競争に打ち勝って敵の陰謀を砕き、マックスを救出できるのか?敵のボスの正体が見えてしまうけど、全体としては老境に入ったダークピットシリーズに比べ、共作者がいるせいか、元気良く感じられる。シリーズ第3弾で2009年には第4弾も発表されているそうだが、最初の2作が未訳のはずなので、そちらも出してくれないかなあ。
(「戦慄のウイルス・テロを阻止せよ(上・下)」、クライブ・カッスラー&ジャック・ダブラル著、伏見威蕃訳、ソフトバンク文庫NV、2009年9月発行、ISBN978-4-7973-5180-4,978-4-7973-5181-1)
