シリーズ初の短編集。「敵は海賊」はシリーズ開幕編で叔父を捜す女の相談に乗るよう言われたラテルとアプロが火星のアモルマトレイ市に赴いて中枢コンピュータをめぐっての駆け引きから女の正体を暴く。「わが名はジュティ、文句あるか」は、女海賊ジュティが遭遇した人に取り付く妖姫麗をめぐる戦いを描く。書き下ろしの「匋冥の神」は、ある男が聞いた若き日の匋冥のエピソードで、神を象ったという黄金像を盗みに行った小惑星の地下から月の地下に転送されて遭遇した神(?)とのやりとりの末に、白い猫クラーラと銀色の魔銃フリーザーを手に入れるまで。「被書空間」は、チーフ・バスターが記者クラブから受けたマースコム賞のトロフィーに怪しさを感じてラジェンドラに持ち込んだラテルとアプロが謎の空間に遭遇し<戦闘妖精雪風>の世界との交錯を経験する。20年近くにわたって書き続けられているシリーズの色々なパターンが楽しめる短編版ならではの作品集となっている。
(「敵は海賊・短編版」、神林長平著、ハヤカワ文庫JA963、2009年8月発行、ISBN978-4-15-030963-3)
2009年10月アーカイブ
小川一水の長編の開幕編。西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。金属資源がほとんどなく地球との連絡もかろうじて残っている超光速通信機による簡単な指示だけという状況で、地中に埋まった植民船シェパード号の発電機しかエネルギー源がなく、人類は19世紀レベルの文明をかろうじて保っていた。成人前に臨時総督となったユレイン三世は発電機の不調を理由に植民地全体に配電制限などの弾圧を加えつつあった。植民星でも一番独立の気風の高いセナーセー市は体内に発電機能を持ち呼吸せずにエネルギーを得ることができるため《海の一統》(アンチョークス)と呼ばれる一族が支配していた。そのセナーセーで謎の疫病が蔓延し、感染源である出自不明の怪物イサリが捕らえられた。医師であるカドムは太古から伝わる抗ウイルス薬で感染を食い止めるが、イサリは臨時総督府に奪われてしまう。一方、首都オリゲネスの議員エランカもユレイン三世の圧制に疑問を抱くうち、自由人の集団《恋人たち》(ラバーズ)と知り合う。ユレイン三世の弾圧は激しさを増し、ついには《海の一統》との間で戦闘が始まるが圧倒的戦力を誇る軍事警察によりセナーセーは壊滅してしまう。新天地を求める航海で植民星の謎の一面を見ていた《海の一統》の跡継ぎであるアクリラはオリゲネスに逃れで《恋人たち》と共闘し、呼応して蜂起したエレインたちと共に臨時総督府を倒すことに成功する。しかし、電力を戻したとたん、天蓋盤が止まった空は暗くなり、総督府の地下からはイサリと同属の怪物たちが現れ人々を襲いだす。日光を失った暗い空の下で壊滅したオリゲネスから逃れてニュークァール市に臨時政府を立てたエレインたちの行く末はいかに。また、怪物たち《咀嚼者》(フェロシアン)、長い間の人類への隷属をやめた原住種族《石工》(メイスン)、人類に奉仕する一種のアンドロイドでもある《恋人たち》、羊を追って植民星を彷徨う羊飼いたち、先導工兵(パイオニア)たちロボット、そしてそれらの裏で暗躍する謎の存在《ダダー》と人類との関係はどうなっているのか。埋まっている宇宙船シェパード号やちらっと出てきた地球人エージェントの関係はどうかなど、まだ開幕編なので様々な謎は続巻に持ち越されるが、エレイン以外の主要登場人物は最後にはほとんど死んでしまうので、次巻では新たなキャラクターのもとで話が展開されるのだろうか?全10巻だそうなので当分お楽しみは続きそうだ。
(「天冥の標?メニー・メニー・シープ」(上・下)、小川一水著、ハヤカワ文庫JA968,969、2009年9月発行、ISBN978-4-15-030968-8,978-4-15-030969-5)
弐瓶勉が描く宇宙SF。太陽系は奇居子(ガウナ)と呼ばれる存在に破壊された。それから千年。人類の繁殖と生産を維持しつつ宇宙を旅する巨大な播種船・シドニアが舞台。シドニアの最下層で育った少年・谷風長道はシドニアを守る衛士訓練生となり旧型だが歴史的名機である継衛への搭乗を許可される。主人公である長道が米泥棒としてボコボコにされたり、女子光合成室に紛れ込んでやはりボコボコにされたり、と、「ブラム学園」にも通じる部分と、シドニアを守る衛士のハードな戦いや、何故か長道を気に賭ける船長の謎など、これからの展開が楽しみである。
(「シドニアの騎士 一」、弐瓶勉著、講談社アフタヌーンKC、2009年9月発行、ISBN978-4-06-314597-7)
今号は前半の表題作と後半の「千年眠る者」を合わせて、前号でツグマーコン人から深層睡眠状態だったのを奪取したオルウが自らとツグマーコン人の過去をローダンたちに語る形になっている。遠い過去、ツグマーコン人の惑星グロジョッコはブラックホールに落下して最期を迎えることが予測される。他のツグマーコン人が他惑星に移住して難を逃れようとする中、オルウたちの父エルヨグはブラックホールを通って脱出する案を考え、それに必要な操作者として遺伝子操作によりオルウたち12人の闇のスペシャリストを養成した。他のツグマーコン人と対立するも、ブラックホールを通るカタストロフを経てエルヨグの説が正しかったことが証明され、オルウたちは次元トンネルを通って”黒い虚無”と呼ばれる中間空間に到達した。しかし黒い虚無内の1恒星をめぐる安定軌道に落ち着いたグロジョッコでは、一般のツグマーコン人の反乱によりオルウたちは深層睡眠に入れられてしまう。次に目覚めた時にはツグマーコン人は独裁者の支配体制の元にあった。黒い虚無から次元トンネルを通って一般銀河へ抜けるには闇のスペシャリストの能力が必要だったのだ。独裁者の命令で次元トンネルを抜けた先にいたラール人を技術力の差で打ち破ったオルウたちが帰還すると別の銀河に行った闇のスペシャリストがヒュプトンの協力を得たことが判明し、それを元に独裁者は公会議の設立をし、オルウたちは再び睡深層睡眠させられた。次に目覚めさせられた時には5万年の時がすぎており、ツグマーコン人の独裁者の元、公会議体制の基礎ができあがっていた。その後グライコ人、マスティベック人、そしてケロスカーを加えて六種族のヘトスを構成し現在に続く公会議の体制が出来上がっていき、ツグマーコン人の独裁者であるゼロ守護者の決定でオルウたちは再び深層睡眠に陥った。オルウの話を最後まで聞いてもヘトスの七種族目が何かは不明のままだった。
(「闇のスペシャリスト(ペリーローダン364)」、H.G.フランシス著、五十嵐洋訳、ハヤカワ文庫SF1723、2009年9月発行、ISBN978-4-15-011723-8)
