J-SFと称して時代SFの特集。特集の小説では、久美沙織「夜の虹」は大伴家持が皇子を鷹狩に連れ出して出会った怪異を描く。タタツシンイチ「人食い納豆」は納豆作りの名手・豆蔵が恋女房を寝取られた事件を兄の同心から聞いて解明に動く槙四郎を描く。中里友香「葉コボレ手腐レ死人花」は権力者の大臣の回りでの吸血鬼譚。北國浩二「とんぼ」は法術師ソラがハツカネズミのテッソとともに妖魔封じの旅に出た最初のエピソード。他に日下三蔵による時代SFブックガイド。森山由海のイラスト先行小説では、新井素子「つつがなきよう」は子供が徐々に生まれなくなった世界に”人口総和理論”で理由をつけた科学者の意図は、という話。もう一編、図子慧「ゴースト」は水没した北千住で空き物件斡旋をする男が不審な隣の部屋を調べると、という話。連載陣では、篠田真由美「黎明の書」は伯爵の奥方をめぐって話が展開する。あさのあつこ「スーサ」はスーサとともに旅する歩美だが獰猛な紅キ族に出会い黒髪を見られて危機に陥ってしまう。山田正紀「東京収奪」は吹雪の中東京に向う主人公が知らないうちに奇妙な状況に巻き込まれ東京を封鎖する連中に見つかりそうになる。火浦功「なおかつ火星のプリンセス・リローデッド」は相変わらず1ページのみ。古橋秀之「百万光年のちょっと先」は小気味いいショートショート「キリリと回せば、勇気百倍」「最後の一冊」「七変化の男」の3篇。森岡浩之「地獄で見る夢」はデフォルト・シティに赴き捜査が続く。恩田陸「愚かな薔薇」は雅樹の父親から両親のことを聞く奈智を描く。日本SF新人賞作家競作では、八杉将司「エモーション・パーツ」は人工大脳(AC)の不調で代替品を入れた男が遭遇する奇妙なデジャヴュを描く。青木和「歌う骨」は変形した骨を受け継いだ女と少年の正体は実は、という話。巻末では、夢枕獏「闇狩り師、摩多羅神」は『SFアドベンチャー』に掲載・中断していた作品の再録で再録分の後には新作部分を書いて長編とする予定。日本SF大賞受賞第一作である貴志祐介「呪文」は強大な星間企業が支配する世界で、辺境の植民惑星を訪れた調査官が遭遇する諸悪根源神信仰の真相とは、という話。コミックでは、はしもとしん「dog catcher」、なかせよしみ「TECH MATES」、永瀬桂仁「博士の多元宇宙解、あるいは迷惑な発明品」の3篇。コラムでは、大橋博之「少年SFの系譜」、大沼弘幸「Sound proFessional 岩浪美和」、大橋守「NHKドラマ8『すたつのスピカ』」、魁!P.K.ディック塾(算術級数的次郎冠者、幾何級数的太郎冠者)。さすがに貴志祐介のは読みでがあった。闇狩り師はちゃんと完結して欲しいなあ。
(「SF Japan 2009 AUTUMN」、徳間書店、2009年9月発行、ISBN978-4-19-862778-2)
2009年9月アーカイブ
世界最長寿と銘打った大森望のWeb日記の1995-2000年分の抜粋。抜粋といっても約500ページのボリュームは圧巻である。内容はSFとミステリ関係の交遊録およびインターネットの動向も含まれて結構幅広い。この時期はすでにSF大会なんかは参加してないので、出てくるSF界のできごとも雑誌その他で間接的に聞いてたようなことが多く、改めて読むとなかなか興味深い。翻訳小説関係はともかく、アニメやゲーム関係(関連してカラオケ関係)は自分でほとんどフォローしてないので、わからないことが多く、その都度、ウェブで補足情報を調べて読むと時間がかかってしょうがない(またカラオケの話が多いんだ、宴会の後はほぼ必ずカラオケみたいだし)。全体としては途中に出てくるDASACON賞のコメントにあったとおり「作家の素顔や生の声に接することができる」「業界情報や仕事の様子がよくわかる」といった評価のとおりだろう。今でも大本のWebページは公開されているので、その気になれば読むこともできるわけだが、分量を考えると、なかなか機会がないと、いったん読み出すとのめりこみそうで怖い。この本が好評なら続き(2001年以降)も出るかも、とのことなので、それが出たら改めて読んでみよう。
(「狂乱西葛西日記20世紀remix」、大森望著、本の雑誌社刊、2009年9月発行、ISBN978-4-86011-099-4)
新訳版とのことで読んでみたが、細かいところをこんなに覚えてないとは思わなかった。自分の記憶では、まず創元版の「銀河帝国の崩壊」を読んで、ハヤカワ版の「都市と星」を読んだはず。地球最後の都市ダイアスパーで久しぶりに生まれた子供であるアルヴィンが外への好奇心に動かされるままに、もう一つの都市リスを(再)発見し、偉大なる<主>の伝説に出会い、その僕と宇宙船を発見し、銀河に旅立ち、精神生命体ヴァナモンドと出会う。地球に飛来したヴァナモンドとの会話により、失われていた地球人類(と銀河の知的生命体)の歴史が解明される、という大筋は変らないわけだが、記憶にあるものは「銀河帝国の崩壊」のものであることがわかった。やっぱり最初に読んだもののインパクトが強かったのか。今回読んでみて、ダイアスパーの細部(10万年ごとに記憶バンクから再生されることで事実上の不死を達成しているとか)や、テレパシーなどの精神能力を持つリスの住民との確執、<主>の僕の集合知性体としての姿などの「都市と星」で改訂された部分はほとんど覚えてなかった。うーむ、「幼年期の終わり」(光文社の新訳版)も読み直した方がいいだろうか?
(「都市と星[新訳版]」、アーサー・C・クラーク著、酒井昭伸訳、ハヤカワ文庫SF、2009年9月発行、ISBN978-4-15-011724-5)
「よくわかる現代魔法」シリーズを題材に、昔なつかしいアスキーの256本の題名をパクったTVアニメ化記念の派生本(多分)。冒頭がイラストの宮下未紀による書き下ろしマンガ。登場キャラと声優の紹介および声優の座談会。用語解説にイラスト集、既刊の原作の紹介。詠唱呪文基礎講座と称してプログラムリストを交えた解説。アニメの監督とプロデューサーのインタヴュー。巻末の書き下ろし短編「夏のスプライト」では、並行宇宙のこよみたちが現れて大騒ぎになった顛末。これはこれでいいけど本編の続きを早く書いてくれ。
(「よくわかる現代魔法が256倍よくわかる本」、桜坂洋・宮下未紀・「現代魔法」製作委員会、集英社スーパーダッシュ文庫、2009年8月発行、ISBN978-4-08-630499-3)
再び家族を失い日本の叔父の下に身を寄せて高校生活を送るルナだったが、いとこのチズと渋谷を歩いている時、新しい生贄を探す新渡戸グループの田岡部長に指示されたスノー課長たちに拉致される。途中、ルナが普通の女子高生でないことに気付いたスノーは仲間を裏切り郊外に脱出する。スノーの正体は、かつてアメリカでルナたちが事故に会う直前に出会っていた、2千年前から地上を彷徨い続ける、彷徨えるユダヤ人であった。スノーから田岡たちの属するキリスト教団の正体とアブラクサスの名を聞いたルナは詳しい話を聞こうとスノーに迫る。しかし、追いかけてきた田岡の部下の銃弾をルナもスノーも浴びてしまう。一方、チズをつけてきた男を倒した俊也はルナを拉致した男たちの正体に気付き、自分の教会から車と武器を持ち出しルナの元に向かう。ルナたちのところにたどりついた俊也たちは、田岡たちと激しい銃撃戦になる。ルナとの会話で決定ずみの運命を覆すことのできる力「ラキア」のことを語ったスノーは銃弾に倒れ、それをきっかけにルナに降り注いだ光柱によってルナの傷は直され、スノーはアブラクサスの元に召される。何とかルナを救出した俊也たちだが、もはや今までのような平穏な生活に戻れないことを悟る。黙示録の世界に入っていく物語は3巻へ続く。
(「ラキア2」、矢島正雄原作・Boichi漫画、講談社モーニングKC、2009年8月発行、ISBN978-4-06-372825-5)
神林長平・谷甲州・野阿梓のデビュー30周年記念特集。そういえば日本のSF作家としては第3世代と言われたこの3人はSFマガジンと奇想天外から同時期に出た新人だったんだなあ。当時は第1席が出ないことで有名だったSFマガジンのコンテストで第1席になった「花狩人」の印象が鮮烈だったが、30年を振り返ってみると、3人各様に日本のSF界に独自の位置を占めていることを感じる。神林はインタヴュー、評論が福島亮太、エッセイが出渕裕、海猫沢めろん、虚淵玄、榎戸洋司、円城塔、大倉雅彦、桜坂洋、佐藤大、辻村深月、仁木稔、元長柾木、の各氏。『アンブロークン アロー』のクロス・レビュウが礒部剛喜、円城塔、酒井貞道の各氏、前島賢による全書籍ガイド&読書案内。谷はインタヴュー、評論が永瀬唯、特別エッセイが笹本祐一、巽孝之、林譲治、松浦晋也、水樹和佳子、夢枕獏の各氏で、編集部による全書籍リスト。記念短編の「星魂転生」は数千光年のスケールでの敵の襲撃を受ける難民を抱えた機械知性の艦隊司令を描くハードSF。野阿はインタヴュー、評論が小谷真里、横道仁志、全著作ガイドが石神南、海老原豊、おのうちみん、柏崎玲央奈、鈴木とりこの各氏。記念作品「偽アカシア年代記(第一部)」は大いなる秘密が眠る学園都市・井光を訪れた少年と男を描くが、(第一部)とあるとうり導入部で、この先が気にかかる。3人全体に係る年代背景を高橋良平が1Q7Qとしてまとめている。他にはロシアSF小特集として、オレグ・オフチンニコフ「クリエイター」は閉塞した部屋のクリエイターの苦悩を描き、アンドレイ・サロマトフ「祝宴」は箱から出した友人たちとパーティーを開く男を描く。他には新城カズマの、架空人という新しい身分が登場する近未来を描く新連作シリーズが「雨ふりマージ」で開幕。第48回日本SF大会「T-con2009」レポートも。
