2009年6月アーカイブ

前半の表題作では新アインシュタイン帝国を率いるアトランは公会議に対する反転攻勢を決意する。その一環としてUSOスペシャリストのテケナーをアンドロメダのマークスの元へ派遣する。ルックアウト・ステーションでテケナーたちが見つけたのは死せるマークス3000体と未知インパルスだった。先に進んだテケナーたちはミッドウェイ・ステーションでも同様のマークスを発見する。そこに現れたマークスの艦隊はテケナーたちを捕らえてアンドロ・ベータに連れ去っていまう。そこでは100年の間にアンドロメダを支配するようになった新世代のマークスがいた。公会議のスパイの嫌疑は何とか晴れたが新世代マークスは銀河系の内政に干渉しないという決定を告げマークスの助けを得ようとする試みは失敗してしまう。後半の「オヴァロンへのメッセージ」ではグルエルフィン銀河のオヴァロンの助けを得ようとダッカルカムによる通信を送るアトランたち。しかしグルエルフィンでは、かつてのオヴァロンの指示を曲解した現ガンヨによって<オヴァロンの封印>という措置が取られ、年に1度の封印を受けない限り宇宙旅行ができなくなってしまって、ウェサケノスらの例外を除いて多くのカピンは地表にとどまり宇宙に出ようとしなくなっていた。現ガンヨのスコルヴァモンは自らの支配惑星のガンヨ宮殿の地下にほとんど脳だけとなったオヴァロンを封じ込めていたのだ。若い貴族のケルトラトンはスコルヴァモンのやり方を嫌悪し旧友の宇宙飛行士ハテルモンと共にオヴァロンの入った水槽を奪取するが、スコルヴァモンからガンヨの地位を奪ったタルジジョンによって捕らわれる。ハテルモンの手引きで宇宙に脱出したケルトラトンに後を託してオヴァロンの生命反応はついに消えてしまった。

(「死者たちの声(ペリーローダン361)」、エルンスト・ヴルチェク&H.G.エーヴェルス著、青山茜・増田久美子訳、ハヤカワ文庫SF1714、2009年6月発行、ISBN978-4-15-011714-6)

日本オリジナル編集のクラークのベスト短編集の1巻。全3巻で年代順に編んでいるそうで、この巻はデビューから1951年まで。さすがに未訳はないんだと思うがSFマガジンに掲載されたきりで単行本未収録のものや既収録でも改訳版になってたりする。表題作はSFマガジン創刊号に載ったあまりにも有名なもの。「地中の火」は超音波による地中探査を扱ったもの。「歴史のひとこま」は滅びた人類の歴史を発掘したフィルムから省みる金星人を描くオチのついた作品。「コマーレのライオン」は停滞したユートピアからはみ出した若者が伝説の都市コマーレを探訪する話、単行本初収録。「かくれんぼ」は宇宙戦争時に敵巡洋艦を翻弄するスパイの話、物理法則をたくみに取り入れた作品。「破断の限界」は酸素タンクの蒸発で苦境に立たされた宇宙船内の2人の乗員を描く方程式ものの1編。「守護天使」はいわずと知れた「幼年期の終り」の原型短編。「時の矢」は恐竜発掘現場に隣接した研究所で行われていた実験は時間に係るもので、という話。「海にいたる道」はエクソダスにより宇宙に人類が拡散した後のゆるやかな地球の変化を黄金のスフィンクス像と対比させて悠久の時を描くもので「銀河帝国の崩壊」から「都市と星」に至る過程での産物だそうだ。「貴機は着陸降下進路に乗っている-と思う」は大戦中に従事したレーダーシステムを扱ったエッセイ、確かSFマガジンの追悼号に載ったので記憶にあった。巻末には年譜(1917-1960)。

(「太陽系最期の日<ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク1>」、アーサー・C・クラーク著、中村融編、浅倉久志・他訳、ハヤカワ文庫SF1713、2009年5月発行、ISBN978-4-15-011713-9)

プロバビリティ3部作に続いて日本独自編集のクレスの短編集。表題作はヒューゴー賞/ネビュラ賞/アシモフ誌読者賞/SFクロニクル読者賞受賞作。遺伝子改変技術によって睡眠を必要としない子供たちが生まれた。高い知性、美しい容姿、さらには不老不死という特質を備えた彼らは無眠人と呼ばれたが一般人のねたみを買っていく。「新人類」テーマの作品だが個人レベルなら自らに子供が優れていることを願い、実際に優れていたら誇るものと思うのに、人類という種レベルでは、そうした思考はできないのだろうか。あまりにも周囲の反応が愚かに見えるがアメリカではありそうな話でもある(日本でもそうか)。「眠る犬」も無眠テクノロジーを扱った表題作と同じ世界の話。「戦争と芸術」はミリタリー要素と親子の問題を絡めたもの、昨年のSFマガジンに載ったばかり。「密告者」はプロバビリティ3部作の原型中篇でネビュラ賞/スタージョン記念賞/アシモフ誌読者賞受賞作。「想い出に祈りを」は記憶消去と若返りテクノロジーを扱ったショート。「ケイシーの帝国」は銀河帝国を扱うSFを書こうとあがく男が実際のエイリアンの訪問で失ったものを描く。「ダンシング・オン・エア」はナノテクによる能力増強をダンサーの世界と絡めたアシモフ誌読者賞受賞作。いずれも面白いが、あまり後味の良い作品とは言えない。

(「ベガーズ・イン・スペイン」、ナンシー・クレス著、金子司他訳、ハヤカワ文庫SF1704、2009年3月発行、ISBN978-4-15-011704-7)

スパイダー・スター

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太古に栄えた種族アルゴノート族の遺跡の残るポルックス星系の惑星アルゴの月を探査中のチームが遺跡のスイッチを入れてしまったことにより太陽中心部に隠された攻撃兵器が起動し燃え盛る小天体がアルゴと月めがけて飛来するようになってしまう。危機を回避するための鍵はアルゴノート族の遺跡から解読された伝説だけだった。伝説の中で言及されている星スパイダー・スターに向けて宇宙船ダークハート号が探査に赴く。到着してみると中性子星をめぐる軌道上の構造物のまわりに存在する特異空間こそがスパイダー・スターであった。暗黒物質により保持された大気の中、探査に降下したメンバーは襲い掛かってくるアルゴノート族の生き残りや気嚢生物の襲撃を受けながら、ついに黄金の力場の中心部に到達し、スパイダー・スターを作った異星人の残した種族とコンタクトすることに成功する。彼らとの交渉をまとめ、交渉役を乗せてアルゴに帰還したダークハート号の面々は何とか危機を回避することに成功する。現役天文学者による宇宙SFということだが、暗黒物質によるスパイダー・スターの設定あたりに多少そういった面は伺えるものの、多彩な異星種族とのやりとりや、スパイダー・スターの特異な空間への降下の描写、そして楽観的な結末などは、70年代のニーブンを思い出した。個人的にはこの手の話は大好きだし楽観的な結末も好ましいのだが、現代SFとしてはどうなんだろう。太古の種族の超越技術が出てくるわりに人類の宇宙船は光速に縛られていたり、裏表紙には間違って”ポラックス星系”と書いてあったりという細かい点が気になった。

(「スパイダー・スター(上・下)」、マイク・ブラザートン著、中原尚哉訳、ハヤカワ文庫SF1710,1711、2009年5月発行、ISBN978-4-15-011710-8,978-4-15-011711-5)

スター・トレック

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新作映画「スター・トレック」のノヴェライズ。謎の重力ゆがみを探知したUSSケルヴィンは突然現れた巨大艦ナラダの攻撃により破壊されたがナラダに赴いて殺された艦長に代わって指揮をとったジョージ・カークにより800人の乗組員は脱出に成功し脱出シャトルの中ではジョージの息子J.T.カークが無事生まれていた。成長したカークは優秀な適性を持ちながら将来を決めかねていたが酒場のケンカを納めたパイク艦長の助言により父の後をついで宇宙艦隊に入ることを決意する。アカデミーで誰も突破したことのない<コバヤシマル>テストをクリアしたカークだがテストの設定をしたスポックにズルをしたと非難され対立する。その時ヴァルカンからの救難信号が入り、士官候補生も含めて艦隊が出撃するがテストの審議保留状態のカークはメンバーからはずされてしまう。マッコイの機転でエンタープライズに乗艦したカークはヴァルカンでワープから出る前に敵がいることを察知しパイク艦長に進言する。おかげで何とか難を逃れたエンタープライズだがナラダがヴァルカンに向けたプラズマドリルの影響で通信も転送もできない。ナラダ艦長のネロに呼び出されたパイクの計略によりプラズマドリルを止めることに成功したカークたちだが<赤色物質>をコアに打ち込まれたヴァルカンはブラックホールを化し要人を救助に向ったスポックの奮闘も空しく母のアマンダは転送に失敗し父のサレクたちを救出できただけだった。次の標的に地球に向ったナラダだが、それを追おうとするカークは艦隊との合流を優先するスポックと対立し惑星デルタ・ヴェガに追放される。そこでカークはナラダが来たのと同じ未来から来たスポックと出会い事件の事情を聞かされる。デルタ・ヴェガの基地に飛ばされていたスコッティのトランスワープ装置をスポックの知識により稼動させエンタープライズに戻ることに成功したカークはスポックをわざと挑発して艦長を辞任させ自ら艦長となり地球を目指す。気づかれないようにナラダに潜入したカークとスポックは未来のスポックの乗ってきた宇宙船を奪取して<赤色物質>と共にナラダに突入させ、救出したパイク艦長と共に脱出に成功し、ナラダをブラックホールと化し、地球の危機を救う。これによりカークはエンタープライズの艦長に就任し、新たな5年間の調査行が開始される。映画版にかなり忠実なノヴェライズ。映画の方もよくこれだけTOSメンバーに似た若手俳優を集めたもので、TOSの前のエンタープライズの雰囲気がよく出ていたし、最後に流れるTOSの有名なナレーションは当時を知っている者にとっては感涙もの。このまま映画の続編という展開のようだがTV版にはならないのだろうか。

(「スター・トレック」、ロベルト・オーチー&アレックス・カーツマン脚本、ジーン・ロッデンベリー原案、アラン・ディーン・フォスター著、増田まもる・尾之上浩司・北原尚彦訳、角川文庫、2009年5月発行、ISBN978-4-04-272407-0)

編集長インタヴューは小谷真里、うーん薬学部だったのか。コラムランドの石和義之「小松左京の重力」は第四回日本SF評論賞の人、受賞作のアシモフ論の前に「青春小説としての『果しなき流れの果に』」という小松左京論を書いた経緯など。高斎正の小説「デジタル・ポラロイド」はカメラSFの一編、HPが小型プリンタとデジカメを融合させてポラロイド代わりを開発したらという話。題名のない番組の最終回の収録。下村健寿「「復活の日」から読み解くバイオロジー3黒死病流行の「原因」のなぞ」は「復活の日」のMM菌とからめて中世の黒死病は本当にペストだったのかという疑問を検証する。神戸一中時代の小松實の詩「試験哀歌」。「天神山縁糸苧環」(『明烏』所収)の舞台の一心寺探訪記。連載は南山宏「メタサイエンスねたさいえんす3」と田中光二「ぼくのシネマオデッセイ?(3)」。はやしあきらが聞き手の「賢人談話。あるいは小松左京の大口舌3」は日本アパッチ族の頃。小松左京研究会のページは新間策雄「SF的な、余りにSF的な-「果しなき流れの果に」私論3」。

SFマガジン2009年7月

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劇場版「スター・トレック」公開記念特集&伊藤計劃追悼号。「スター・トレック」は監督&キャストインタヴュー、境三保によるJ.J.エイブラムス論、今作の誌上公開、劇場映画ガイド、新旧クルー紹介、丸屋九兵衛による<スター・トレック・ユニヴァース>の謎。伊藤計劃追悼の方では、遺作「屍者の帝国」はジョン・H・ワトソンを語り手に異形の19世紀を描く第4長編の冒頭30枚、この後が読めないのがまことに残念。追悼エッセイが東浩紀・円城塔・桜坂洋・佐藤亜紀・佐藤哲也・篠房六郎・新城カズマ・飛浩隆・塩澤快浩の各氏と大森望の「新SF観光局」も追悼内容。他にはナンシー・クレスのネヴュラ賞受賞ノヴェラ「齢の泉」は語り手の男が若い時に出合ったまま行方知れずになっていて数十年後に偶然みつけた女は特殊な癌をもち、それを利用したD治療を受けると20年だけ現在の姿のまま生きられるというもの。巻頭にはDS用の宇宙SFRPG「無限航路」の記事。連載陣では、山本弘「地球移動作戦」[第13回]はいよいよチャリオット作戦が始動し地球の移動が始まる。朝松健「魔京」[第19回]は幕末に舞台を移し彦四郎の意識を宿した女をめぐる話になる。谷甲州「乱風楓葉六」(霊峰の門第18話)は瀕死の野添竜之介と再会した楓だが天誅組が村に落ちのびてくる。山田正紀「イリュミナシオン」[最終回]はブロンテの語る話で終わるが、うーんこれで終わりなのか。読みきりで樺山三英「無可有郷だより」はモリスの『ユートピアだより』を原点にした話、今作は結構読めた。今号から中ほどにあるMEDIA SHOW CASEの構成が変わっている。

スターシップ-反乱-

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レズニックの描くミリタリーSF。三度の勲章を授与されるも、独断専行にはしりがちなため上層部の不興を買い銀河辺境宙域の巡視艦<セオドア・ルーズベルト>に飛ばされたウィルソン・コール中佐。しかしここでも第2副長としての最初の当直中に敵対するテロニ連邦に加盟したボーテル2の航宙艦を発見し、すぐさま後を追って潜入した惑星でマスコミを使って航宙軍が来ざるを得ない状況を作り出してしまう。さらにはろくな任務もない退屈さを紛らすために艦内に蔓延していた麻薬を一掃する手を打ち、目標宙域で合流するはずだった航中軍の艦が破壊されていたのを見るや、テロニ艦の仕業と見て、反撃の手をうちテロニ艦を翻弄してワームホールに脱出する。しかし、新たに艦長となったポドクがテロニ艦隊に燃料を補給させないために300万人のベニドス人を犠牲にするのを見て指揮権を剥奪したことで軍法会議にかけられる。当初は楽観していたコールだが、ポドクのマスコミ工作で罪を着せられることになってついに軍上層部に愛想をつかし、<セオドア・ルーズベルト>を奪取して軍に叛旗を翻し、同調したクルーと共に銀河の中核側辺境宙域で宙賊船として生きることを決める。レズニックの大部分の作品は<バースライト・ユニバース>という人類が超光速航宙を達成して1万8千年後に滅びるまでを描く未来史に属すそうで、今作もその中の1シリーズ。スターシップのシリーズはもう4冊ほどあるようなので好評なら続きが出るということか。あまりにも恒星間や航宙艦との距離感が近すぎて違和感があるがストーリーテリングはさすがレズニックらしく手馴れたもの。

(「スターシップ-反乱-」、マイク・レズニック著、月岡小穂訳、ハヤカワ文庫SF1706、2009年4月発行、ISBN978-4-15-011706-1)

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