2009年5月アーカイブ

前半の「逃走ポイント、オヴァロンの惑星」はテラに残ったダントンたちのエピソード。ダントンはアフィリーの支配が確立する前に設立され疫病により女だけが生き残った惑星オヴァロンからテラに潜入しアフィリーの手を逃れてきた4人の女たちと共にオヴァロンの惑星に赴き拠点にしようとする。古レムール艦でテラから脱出するにはネーサンを混乱させたスキをつくしかなく、善良隣人機構(OGN)に合流したブルーが転送機でネーサンに潜入工作をし無事<ファラオ>をオヴァロンの惑星に送り出すことに成功、ネーサンを説得しでポルタ・パトへ脱出する。<ファラオ>は無事オヴァロンの惑星に到着するが女だけの惑星では始めて男に接する女たちの男争奪戦の気配が。後半の表題作は銀河系の残ってNEI(新アインシュタイン帝国)を設立してラール人に対するゲリラ活動を展開するアトランのエピソード。プロヴコン・ファウスト内のガイアにタコ・カクタらの意識を納めたムサイたちと共に到着したテケナーを迎えたアトランは、何かあった時の後任をテケナーに託し、ラール人に対して攻勢に出るために協力者を求める活動を開始する。その1つとしてグルエルフィン銀河のガンヤス人オヴァロンに連絡を取るため失われたダッカルカムの情報を得ようとワリンジャーの秘密基地があったラスト・ホープに潜入する。ここの原生生物”走れ走れ”に偽装したロボット内に転送されたアトランたちは”走れ走れ”の群れを装って基地に近づき、アンドレ・ノワール、タマ・ヨキダの意識を宿す工作員と共に無事ダッカルカムの情報を入手する。

(「ラスト・ホープ突入コマンド(ペリーローダン360)」、H.G.フランシス&H.G.エーヴェルス著、林啓子訳、ハヤカワ文庫SF1709、2009年5月発行、ISBN978-4-15-011709-2)

SFファン48年

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明治大学SF研究会の創立者のエッセイ。1995年に前著にあたる「SFエッセイ」が同じ出版社から出ているそうだが知らなかった。1948年生まれとのことなので私より1世代上の人のようだ。T大SF研の先輩で言えば長らく会長<会長は快調です>として君臨し平井和正のウルフガイの殺し屋のネタになったとも伝えられるS氏と同世代か。前半はSF関係のエッセイでSFマガジンのテレポート欄への投稿なども含む。後半は雑多なエッセイや創作だが長らく浜松で中学校の英語教師をされていたようで、そのあたりにまつわる話題を取り上げている。明治大SF研の40周年記念の話も載っているが、それを読むとT大SF研の40周年のことが思い出され行けなかったことが悔やまれる。50周年があれば是非行きたいものである。

(「SFファン48年」、川瀬広保著、近代文芸社、2009年1月発行、ISBN978-4-7733-7609-8)

ユリイカ,2009年3号

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諸星大二郎の特集号。こういうのが出てるのに気づいてなくて本屋で他の本を買って帰り際に気づいて買った。全体の9割くらいが特集でかなりのボリュームがある。冒頭はマンガ研究家・斉藤宣彦氏によるインタヴューとバイオグラフィー。中の色ページには1970年に『COM』誌の「ぐら・こんコミックスクール」に投稿された「硬貨を入れてからボタンを押して下さい」が人間の姿の絶えた都市に現れた男が自走販売機相手に硬貨を探してじたばたする話。夏目房之介とマンガ家の都留泰作の対談「不定形な世界に魅せられて」。評論・エッセイは、巖谷國士、春日武彦、円城塔、呉智英、竹熊健太郎、ひと手間かけ子、東雅夫、小森健太郎、海老原豊、高橋明彦、永山薫、伊藤剛、石岡良治、師茂樹、中田健太郎、の各氏によるもの。最後に蔓葉信博・スズキトモユ・前田久による主要作品解題。諸星作品は文庫を除けばかなり買って読んでるはずだが、現在進行形の「西遊妖猿伝」は最初の潮出版版を買っただけで、その後いろいろと変遷があったため買ってない。完結が見えてきたら考えようかなあ。

オタク論2!

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唐沢俊一と岡田斗司夫の雑誌『創』での連載をまとめた第2弾。内容は2人の対談だが、全体が第1部DEATHと第2部REBIRTHと題されているように、第1世代のオタクの死とその後という感じの話になっている。現代のオタク像(東浩紀らの第2世代、20代の第3世代、さらに下のケータイ世代?)を第1世代からどう見るかといった話や、昨年からの急速な経済状況の悪化から、今後の日本社会はどうなっていくべきかといった話(1.民主的な市民社会の延命、2.ネットと現実の狭間をリアルとして生きる、3.貴族農奴社会、という3つのパターンの実現性を検討し、3.の実現性が高いと見る)、など、この2人ならではという議論が展開される。もし、この不況が一段落するものなら、その時またこうした対談を聞いてみたいものである。

(「オタク論2!」、唐沢俊一・岡田斗司夫著、創出版、2009年5月発行、ISBN978-4-924718-93-7)

唐沢俊一、岡田斗司夫、眠田直というオタク芸人ユニットによるトークショウ及び鼎談の記録。一般には知られていない(ほとんどはあまりのくだらなさに見向きもされない)アニメや映像作品をネタにトークをするものだが、メンバーがメンバーだけにオタク的なツッコミが色々入るのが特徴。現在ではYoutubeやニコニコ動画で色々な動画が見られ、この本で紹介されているものも一部は確認できたりするのが時代の変化を反映している。途中にはさまれる鼎談では、時代を反映して現代のオタクたち(若手の自称オタクたち)に関して、第1世代のオタクからみたことをいろいろと議論している。「オタクアミーゴス」の続巻だが、帯によると10年も前のことになるのか。

(「オタクアミーゴスの逆襲」、岡田斗司夫・唐沢俊一・眠田直著、楽工社、2009年5月発行、ISBN978-4-903063-30-0)

と学会年鑑KIMIDORI

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ついに色の名前が日本語名に。前のBROWNでトンデモ本大賞のことをやらないのかなと思ったらこの号で第17回のトンデモ本大賞を扱うのであった。いつものように前半は例会の集録。「超妹大戦シスマゲドン2」(こちらは妹に特化したパロディとして取り上げられている)や「いつまでもデブと思うなよ」(こちらはいかに岡田斗司夫がうまくホラを吹いているかを扱っている)、あたりも取り上げられている。天羽優子氏(山形大准教授)のネタにある新体系物理学の話では、どの分野でも(名誉教授とかの肩書きがあっても関係なく)トンデモを言う人はつきないことがわかる(天文学会では最近あまり見ないような気が。単に発表数が増えて全体像を見切れなくなっただけかも)。後半がトンデモ本大賞。大賞をとったのは「冨を「引き寄せる」科学的法則」という本で原本は1910年に出た古典。それが今でも色んな翻訳バージョンで出ているのは昨今の経済状況のせいもあるのかもしれないが全体に小粒だったというこの回の選考を象徴しているのかもしれない。巻頭で「自分は世の中のことの1万分の1も知らない」と謙虚になれば相対論は間違っているとか言えないはずと指摘したり、巻末でオタクバッシング記事が偽りの因果関係による無意味な「原因探し」だと指摘したり、という山本会長の主張が一番納得いったりする。

(「と学会年鑑KIMIDORI」、と学会著、楽工社、2009年5月発行、ISBN978-4-903063-31-7)

ウィリスのSFコメディ。ヒューゴー・ローカス両賞受賞とのことだが、SFとしてどうこう言うよりは優れたユーモア小説という面を強く感じた。既刊の「ドゥームズデイ・ブック」と同じ設定で過去へのタイムトラベルが実現し史学科の学生が調査に派遣されている世界。2057年、オックスフォード大学は第二次大戦中の空襲で焼失したコヴェントリー大聖堂復元計画に協力している。史学部の学生ネッドは大聖堂にあったはずの”主教の鳥株”を探せとの計画責任者レイディ・シュラプネルの命令で20世紀と何度も往復した疲労によるタイム・ラグを癒すため、指導教官のダンワージー教授の計らいでのどかな19世紀ヴィクトリア朝へ派遣される。しかし、この派遣には時間線の齟齬を修復するための任務も含まれていた。同じヴィクトリア朝に派遣されていたヴェリティと共に時間線を修復し行方不明の”主教の鳥株”を発見しようと奮闘する2人。これに19世紀の青年テレンスとその飼い犬であるブルドッグのシリル、猛女のミアリング夫人と夫の金魚狂いのミアリング大佐、わがまま娘のトシーやその猫のプリンセス・アージュマンド、執事のベインなどのいずれもクセのある面々がかきまわし、定番のパターン繰り返しギャグで事態は空回りするばかり。それでもすらすら読めるリーダビリティはウィリスらしく、最後には時間線にからむ謎も解決し主役2人も無事くっつくことで大団円を迎えホッとできるのがうれしいものである。

(「犬は勘定に入れません(上・下)」、コニー・ウィリス著、大森望訳、ハヤカワ文庫SF1707,1708、2009年4月発行、ISBN978-4-15-011707-8,978-4-15-011708-5)

宇宙家族ノベヤマ2

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1巻が出てからずいぶんたつのでどうなったかと思っていたがやっと完結編が出た(2年ぶり)。1巻の最後でチクチルンのナンボッゴから1万年前のギラングルの侵略とメッセンジャーを助けるためのルゴウフの干渉のことを知らされた<イカルガ>の面々は、その後も宇宙文明を尋ねて回る。クリーガ人のクササキリサが<イカルガ>船内に現れて地球人への期待を物語ることで、メッセンジャーの意味が徐々に明らかになってくる。1万年前の事件をきっかけにメッセンジャーシステムを構築してきた宇宙先進文明だが、圧倒的な科学力で長らく公平に銀河の警察役を果たしてきたルゴウフが技術的進歩を止めたことにより、いずれどこかの文明の技術力がルゴウフを凌駕したら宇宙戦争が起こる危機に直面することになる。それを回避する術を発見することを期待されている1番手が地球人だということがクササキリサによって明かされる。地球に帰り着いた野辺山氏は何かの道が開けないかと願いメッセンジャーたちに会いに行くことを決意するところで物語が終わる。冒頭からのメッセンジャーの意味にからめて、銀河宇宙と文明の未来をかけた壮大な物語に発展していたことに驚くと共に感心した。2巻で終わるのはもったいない。

(「宇宙家族ノベヤマ2」、岡崎二郎著、小学館ビッグコミックス、2009年5月発行、ISBN978-4-09-182486-8)

SFマガジン2009年6月

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スプロール・フィクション特集V。この特集も5回目だが個人的にはあまり好みのカテゴリーではない。今回の特集の小説は、クリストファー・ロウ「名高きものども」は地球で長らく人類の繁栄を見守ってきた巨人族の男が兄を眠りから起こして、という話。ホリー・フィリップス「蝶の国の女王」は異国で囚われた恋人からの連絡を待つ女性作家を描く。リチャード・ボウズ「都市に空いた穴」は9.11直後のニューヨークでの日々を描く。ジェイ・レイク「ローズ・エッグ」はグラフィックアートと先端技術を扱う。他に海外作家・編集者アンケートと解説。連載陣は神林長平の戦闘妖精雪風第3部「アンブロークンアロー」第6回、山本弘の「地球移動作戦」第12回、山田正紀「イリュミナシオン」第20回、に椎名誠のエッセイ第14回、読み切りで菅浩江「星の香り」は”コスメディック”シリーズ。第4回日本SF評論賞の選考会採録と受賞作の石和義之「アシモフの2つの顔」が掲載。

海の底

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「空の中」に続く自衛隊3部作待望の文庫化。今作では桜まつりでごった返す米軍横須賀基地に突如、巨大な赤い甲殻類の大群が押し寄せ人を襲い始めたのが発端。巨大といっても「空の中」のようなサイズではなく数メートル程度だが、各個体は人間と同等かちょっと大きい程度でもあたりを埋め尽くす大群が襲ってきて殻のおかげで警官の拳銃程度では相手にならず、しかも人間を餌と思っているらしく捕獲した人間を食うというしろもの。パニックの中、たまたま停泊中の自衛隊の潜水艦「きりしお」に逃げ延びてきたのは幹部候補生の自衛官2人と小学生から高校生までの子供13人。彼らを逃がすために艦長は甲殻類の犠牲になり15人は立てこもりを余儀なくされる。ストーリーは「きりしま」内で立てこもる15人と横須賀を舞台に絶望的な防衛戦を繰り広げざるを得ない機動隊の戦いをメインに進む。本格的な武器を持つ自衛隊が出動すれば相手は大きいとはいえ単なる甲殻類なので殲滅は容易だが米軍基地内ということと自衛隊の戦力投入には政治的な思惑もからみ政府は議論ばかりでなかなか結論を出せない。現場で対応する烏丸警視正と明石警部という異端者扱いされている切れ者がいたおかげで何とか最小限の被害で食い止めているが自衛隊を引き出すためには機動隊の潰走を演出しなければならないという皮肉な状況と現場の悲惨な戦いがこれでもかと描かれる。最後に自衛隊が出動してからの戦いのあっけなさが余計に際立つ。一方「きりしま」艦内では一番年上で世話役の女子校生の望とそれにくってかかる中学生のボス的なキャラの圭介、彼らをお守する大人役の自衛官の夏木・冬原が中心となるが、圭介が絵に描いたようなイヤな奴として描かれるのも見もの。それでも圭介にも彼なりの事情がありエピローグでは彼にも一種の救いの描写が与えられてさわやかな読後感を得られるのが作者らしい。巻末の書き下ろしの短編では事件の前日譚が楽しめ、これもおすすめ。他の長編や、今作の登場人物たちが出てくる短編集なども早く文庫で読みたいものである。

(「海の底」、有川浩著、角川文庫、2009年4月発行、ISBN978-4-04-389802-2)

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