記念すべき日本での世界SF大会NIPPON2007でのヒューゴー賞長編受賞作(ローカス賞も)。ネットワークとウェアラブル・コンピューティングによるAR(Augmented Reality=拡張現実)が普及した近未来を舞台にした諜報戦を描く。マインドコントロール兵器の可能性を察知したEU諜報局のエージェントがインド・日本の諜報局と協力して陰謀を阻止するため正体不明のハッカー”ウサギ”を雇い、サンディエゴのバイオ研究所を一時的に乗っ取る作戦を進める。”ウサギ”による計画でターゲットとされたのはアルツハイマーから新療法で生還を果たし若い外見に戻って成人教育クラスに入った元高名な詩人・大学教授ロバートだった。ロバートと、同じ学校に通う孫娘のミリや同級生たちは、研究所に隣接する大学図書館に集まっていくが、そこでは紙の本を細断してデジタル化するという暴挙が進行中で反対派との間の衝突が激化する中で、関係者の思惑を越えた事態に進行していってしまう。「遠き神々の炎」や「最果ての銀河船団」のような壮大な話ではなく、ヴィンジの評価の原点ともいうべき「マイクロチップの魔術師」に連なり、「特異点」提唱者としてのヴィンジが「特異点」前夜ともいうべき近未来の地球の状況をリアルに描いたものという感じ。”ウサギ”の正体や、その行方など、大きな謎が残されたままなので、それらを解き明かすような続編が読みたいが、銀河規模の長編はもっと読みたいところである。
(「レインボーズ・エンド(上・下)」、ヴァーナー・ヴィンジ著、赤尾秀子訳、創元SF文庫、2009年4月発行、ISBN978-4-488-70505-3,978-4-488-70506-0)
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