前半の表題作では、ケロスカーの7次元計算システムであるセタンマルクトと融合したセネカはようやくローダンたちの行動の自由を許した。危機を回避するにはケロスカーの計算者ドブラクを連れてくることが必要と言われ、シェーデレーアとトロトは惑星ソーグに向かい、何とかラール人をかわしてドブラクを連れ戻すことに成功するが、時すでに遅く、《ソル》の力を持ってしても脱出できなくなってしまった。最後の瞬間、ドブラクの直感によりブラックホール(大いなる黒いゼロ)からの脱出は不可能でも消滅しないように落下を制御できることがわかり、その助言に従って《ソル》はブラックホールに落下した。後半の「女たちの密命」ではアフィリカーの支配が始まる直前に脱出して植民地を築いていたオヴァロンの惑星では病気で男がいなくなりテラとの連絡も途絶えたまま40年が過ぎた。状況を調べるべくテラに潜入した4人の女工作員はアフィリカーから”病人”であることを見破られ警察の捕まってしまう。それを傍受していたアウトサイダーのジョスリンはチャンスとみて4人を奪還し、それをネタにダントンに連絡をとり、武器と引換に女たちを引き渡す交渉をまとめた。
(「バラインダガル銀河の最期(ペリーローダン359)」、ウィリアム・フォルツ&ハンス・クナイフェル著、嶋田洋一訳、ハヤカワ文庫SF1705、2009年4月発行、ISBN978-4-15-011705-4)
2009年4月アーカイブ
1のNew edition で予告されてたのが出た。この巻ではサブタイトルに従って各章の表題も、Mosaic, Chrome, Sleipnir, Safari, Explorer. Opera, Firefox とブラウザに関連した名前になっている。大魔女ジギタリスとの激闘もキリがついたが、その後遺症か、まだ本調子でない美鎖の元に通販荷物に紛れてアメリカからの荷物が届く。中には携帯が入っておりアメリカ市場を混乱させたデーモンを封じ込めたというメッセージが。美鎖とこよみの目にしか見えない卵にヒビが入って割れた中から出てきたのはオレンジ色の狐に似たデーモンだった。なぜかこよみになついたように見えるデーモンをプーと呼んで連れまわるこよみだが、弓子に見つかりいったんは異界に戻したかに見えた。しかしプーはまだ現世にとどまっており、魔法のコードを食べて成長することが判明する。しかもこよみと一緒にいることによりこよみの魔法コード=たらい召喚を食べたデーモンは、容量を超えたコードを吐き出すようになり、そのおかげで周囲の人が次々にたらいに変換されてしまう。ついには美鎖も弓子までもがたらいにされ、弓子の体から現れたジギタリスの教えによって、最後はこよみ自身がデーモンを異界に戻す魔法コードを発動し、何とか事態を収拾することができた。MIBの登場や、(古典的魔力は持たなくみえるため)美鎖のように現代魔法の関係者かと思われる謎の男の登場など、今後につながりそうな仕込もあることだし、次は順調に出ることを祈る(アニメ化もするようだしね)。
(「よくわかる現代魔法6?Firefox!」、桜坂洋著、集英社スーパーダッシュ文庫、2009年3月発行、ISBN978-4-08-630475-7)
久々のSFマガジン増刊号だが自分の好みとは違うものが多くイマイチであった。短編としては、佐藤亜紀「アナトーリとぼく」、木下古栗のショートショート3篇「爽やかなマグロ漁」「寝心地」「虎と戦いたい」、田中哲弥「坂の中の坂」、遠藤徹「蛇口」、佐藤哲也「罪」、平山瑞穂「均衡点」、北野勇作「抜け穴の噺」、谷崎由依「花いちもんめ」、大谷能生「空地」、円城塔「墓標天球」。中では「蛇口」が闘蛇で負けて村から消えた叔父が比丘尼を連れて戻ってきた時から徐々に村の人々が比丘尼に引き寄せられていく様を描くホラーっぽい話で楽しめたのと、「均衡点」が南半球の島嶼国家ヤトゥルから国の危機を回避するため失われた貝殻の片割れであるヌハイを求めて日本に来た男達を迎えたヤトゥル語研究者の女性の物語で、やはりそれなりに楽しめたぐらいか。円城塔の作品もこれまでのものほどは読めなかった。他に瀬川深インタヴューと作家ガイド。
記念すべき日本での世界SF大会NIPPON2007でのヒューゴー賞長編受賞作(ローカス賞も)。ネットワークとウェアラブル・コンピューティングによるAR(Augmented Reality=拡張現実)が普及した近未来を舞台にした諜報戦を描く。マインドコントロール兵器の可能性を察知したEU諜報局のエージェントがインド・日本の諜報局と協力して陰謀を阻止するため正体不明のハッカー”ウサギ”を雇い、サンディエゴのバイオ研究所を一時的に乗っ取る作戦を進める。”ウサギ”による計画でターゲットとされたのはアルツハイマーから新療法で生還を果たし若い外見に戻って成人教育クラスに入った元高名な詩人・大学教授ロバートだった。ロバートと、同じ学校に通う孫娘のミリや同級生たちは、研究所に隣接する大学図書館に集まっていくが、そこでは紙の本を細断してデジタル化するという暴挙が進行中で反対派との間の衝突が激化する中で、関係者の思惑を越えた事態に進行していってしまう。「遠き神々の炎」や「最果ての銀河船団」のような壮大な話ではなく、ヴィンジの評価の原点ともいうべき「マイクロチップの魔術師」に連なり、「特異点」提唱者としてのヴィンジが「特異点」前夜ともいうべき近未来の地球の状況をリアルに描いたものという感じ。”ウサギ”の正体や、その行方など、大きな謎が残されたままなので、それらを解き明かすような続編が読みたいが、銀河規模の長編はもっと読みたいところである。
(「レインボーズ・エンド(上・下)」、ヴァーナー・ヴィンジ著、赤尾秀子訳、創元SF文庫、2009年4月発行、ISBN978-4-488-70505-3,978-4-488-70506-0)
連載は読んだり読まなかったりしていたので「完結」と聞いて「えっ」と思ってしまった。<復物主>の第1区画に転送された庚造一とAIフユは<復物主の子>と呼ばれるフニペーロと出会い、フニペーロの体を狙うDRF(技術文化復興財団)総主ニアルディを倒すべく行動を起こす。フニペーロはコズロフに、彼の父レーフ・Г・グレブネフが復物主の発芽に備えていたことと世界の創造の謎を伝える。最終区画で待ち構えるニアルディ本体を倒し世界を正常化できるか、といのがおおまかなストーリー。途中で造一たちの戦いが400年以上続いているとか、コズロフたちが最終区画にたどり着くのに50年かかるとかいった部分があって、その後一気に最終章に突入という形なので、何かあったのかと思えてしまう。なにはともあれ完結してよかった。次の作品に期待したい。
(「バイオメガ6」、弐瓶勉著、集英社ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ、2009年3月発行、ISBN978-4-08-877622-4)
「おたくの起源」という題名だが、その源流をSFファンダムに求めているので必然的に日本SF史の趣があるものになっている。第一章が「母体としてのSF」ということで、50年代末からの日本SFファンダムの成立から、70年代のSFの浸透と拡散、スターウォーズによるSFブームを経てオタク登場前夜までを辿る。第二章では「マンガ文化の発展とコミックマーケットの成立」ということで、並行したもう1つの流れである戦後の日本マンガ文化の発達史とコミックマーケットの成立、発展までを辿る。第三章は「特撮・アニメファンダムの形成と商業メディアの成立」で、怪獣映画や60年代のウルトラブームから70年代のヤマト、ガンダムによるアニメファンダム成立とアニメ雑誌の登場を辿る。そして第四章で「おたくの誕生」として、DAICON?とマクロスを経てDAICON?、ガイナックスの成立からおたくの誕生までを辿る。最終章では現在までのおたく文化のその後を概観するが、作者も言ってるとおり、おたく誕生後のことは別途詳しく辿れるだけのものがあるはずなので、続巻を期待する。
(「おたくの起源」、吉本たいまつ著、NTT出版ライブラリーレゾナント、2009年2月発行、ISBN978-4-7571-4209-1)
前半の「《ソル》での戦い」では、ハイパーインポトロニクスのセネカの裏切りにより《ソル》の乗員は麻痺させられてしまう。一方巡洋艦《ブレシア》もケロスカーに奪われてしまう。ケロスカーはテラナーの艦船を使って自分達の貴重な機器を移動させ”大いなる黒いゼロ”から守ろうとしているのだ。麻痺から回復したパラディンのシガ星人たちによってセネカの中枢セクターに爆弾をしかけて交渉しイホ・トロトたちは何とか《ソル》外に脱出しローダンたちと合流するが他の乗員は麻痺したままで、ケロスカーとの交渉をするジョスカン・ヘルムートはケロスカーの機器の中枢部であるセタンマルクトを運ぶために《ブレシア》を使うよう要請される。後半の表題作では、ボルガール星系に到着した《ブレシア》はデイトンたちがタクレボタンに収容されていることを突き止める。さらにボルガール星系の端にある機器がケロスカーの言うセタンマルクトであることが判明する。セタンマルクトに潜入したローダンたちだが、ローダンとグッキーは謎の防御フィールドにつかまりグッキーの超能力も無効化されてしまう。残るヘルムートはセタンマルクトがケロスカーの7次元数学の精華であることを知り、それを守ることが自分達にとっても重要だと思い、ローダンの意向に逆らってセタンマルクトを《ソル》まで曳航して運ぶ計画に従ってしまう。デイトンたちを救出した《ブレシア》はケロスカーを追ってラスト・ストップに戻るが、ボルガール星系では次元振動が起こりつつあり、それを察知したラール人のSVE艦もバラインダガル銀河に現れる。ついに《ソル》にセタンマルクトが搬入されてしまうが、デイトンたちは中にローダンたちがいるためにをれを見守るしかない。
(「異次元からの災厄(ペリーローダン358)」、H.G.エーヴェルス&クラーク・ダールトン著、天沼春樹訳、ハヤカワ文庫SF1701、2009年3月発行、ISBN978-4-15-011701-6)
バリントン・J・ベイリーとトマス・M・ディッシュ追悼特集。夫々に追悼エッセイと著作リスト、解説、邦訳作解題がある。小説は、ベイリーは「邪悪の種子」では、22世紀初頭に地球に現れた異星人は百万年を生きた不死者で不死の秘密を狙う医者との攻防が繰り広げられる。短編の中にこめられた時間スケールと不死の秘密が最もベイリーらしく面白かった。「神銃」は短い中に神を殺す銃を発明した男の顛末を描く。「蟹は試してみなきゃいけない」は異星の蟹が雌を引っ掛けようとする蟹青春グラフィティ。ディッシュは「ナーダ」では特殊クラスを担当する教師が1人の女の子の中に隠されたものを感じ取るが、という話。「ダニーのあたらしいおともだち」はジョン・スラデックとの共作で異星人の子とのかけあいを描くショートショートだが幕切れは作者らしいか。「ジョイスリン・シュレイジャー物語」は実験映画批評家の哀しく満ち足りた人生を描く。連載陣は、山本弘「地球移動作戦」(第11回)は時代が飛んで第3部、ほぼ順調に進むアース・シフト計画に従事する魅波にジェノアPから会いたいとの連絡が入る。朝松健「魔京」(第18回)はついに江戸の大火が起きる。山田正紀「イリュミナシオン」(第19回)は大仏開眼式で異様な体験に襲われる行基と結晶城に突入した性愛船の失速で事態が進む。小林泰三「天獄と地国との狭間-ワイバーン-」(第5回)は強大な怪物を入手したカミロギたちにもう1体の怪物が迫り戦いになる。他には、アニメ化記念のグイン・サーガが巻頭特集、中ページでの特集とインタヴューは想像力の文学の第1弾が出た田中哲弥。「SF挿絵画家の系譜」は斉藤和明、この人も死んだのか、それも自転車での事故で、残念。
SF賞特集では、大賞の「新世界より」貴志祐介と「電脳コイル」礒光雄監督の受賞の言葉と選評。新人賞の「プシスファイラ」天野邊と「競馬の終わり」杉山俊彦の受賞の言葉と最終選考会の収録。受賞記念第1作では、「壊死」天野邊はウェアラブル端末であるアイウェアの普及した近未来の連続意識喪失事件を描く。「革命ロボット マンザーイ」杉山俊彦は漫才ロボットを開発する天才(と自分で思っている)男を描くが、受賞作もこれぐらいだとすると、うーんと考えてしまう。連載陣では、山田正紀の新連載「東京収奪」ではトラックの運転手の男が吹雪の夜に女を乗せることになる。篠田真由美「黎明の書」(第二回)は貴種イオアンに連れられてシェミハザ伯爵の城に入ったラウルが定番のイジメを受けたり老教師と出会ったりする展開。あさのあつこ「スーサ」(第四回)はスーサについていった歩美が旅の決意を新たにする。森岡浩之「地獄で見る夢」(第四回)は依頼によりポラリスに入った主人公はそこで辞めたはずの優月に出会う。東野司「新ミルキーピア物語 虹の彼方に」は、全身七色の虹男の自分を取り戻したいという依頼を解決しようとする。火浦功「真・火星のプリンセス・リローデッド」はついにこれまでの要約2ページになってしまっている。古橋秀之「百万光年のちょっと先」は相変わらずちょっといい話のショートショート3編。小路幸也「蘆野原偲郷」は最終回、郷を閉じて多美も大人の女性になって次の世代に思いを馳せて終わる。恩田陸「愚かな薔薇」(?)では奈智たちが蝶の谷の上の船着場に行く。若木未生「オーラバトラー・インテグラル、ファウスト解体」(中篇)では、鳴木が白鷺遠洋と水宮姉妹に魅入られて落ちていく。他には、イラスト先行小説が、久美沙織「トリックショット」が月の大学で起きる「魔女」の都市伝説をめぐる話でちょっといい終わり方をするのに対し、林譲治「女の姿」は復興した人類文明が再発見した先行文明の飛ばした世代宇宙船の1台で起こる事件を描くホラー。今回の2編はこの企画には珍しく面白かった。加地尚武「彼方から」は宇宙ステーションで行われる交霊会を描く。森橋ビンゴ「セックスフレンドジャポニズム」はゴミ捨て場で拾った女は未来から精液を採取に来たというが、という話。SF新人賞受賞作家の競作では、坂本泰宏「電撃超人リョウガマン戦いの軌跡」は自殺しようろした女を救った2人組の旅芸人はかつての超人の落ちぶれた姿で、という話だが最後はちょっといい話で終わる。黒葉雅人「脳内劇場」は、脳内に多重人格を持つ男の話。木立嶺「馬と車の彼方へ」は幕末に邦界と呼ばれる桂馬機が空を飛ぶ世界へ転移した日本を描く。コミックは縹りん子「扉のむこう」猫を追いかけて異世界をめぐる幻想作家志望の女の子のエピソード。なかせよしみ「エリカさんの狂発明日記」と「TECH MATES」は安心して読めるレベルを維持。P.K.ディックj塾の評論2編。
(「SF Japan 2009 SPRING」、徳間書店、2009年3月発行、ISBN978-4-19-862695-2)
長谷川祐一のスペースオペラ「マップス」の世界をSF作家が競演で描くシェアードワールドの第2弾。山本弘「勇者のいない星」では「青き円卓の戦い」と銀河統一会議の後のわずかな空白に地球の実家に立ち寄ったゲンが遭遇したグラップラー・シップとの戦いを描く。西野かつみ「オノゴロ星奇譚」では、ある星に取り残された(と見える)少年イーザと彼を見守るナミィの関係とその裏の事情を描く。友野詳「たったひとつの冴えないやり方」では銀河伝承族ブレイニアクが観察する矮小種族の少女との交感を描く。葛西伸哉「星になり損ねた男」では、しがない旅芸人となった重装甲機アーマーダイオンとエアッカがある星で偶然、伝承族と戦い住民を守る。新城カズマ「生者の船」は長大な時間を俯瞰する年代記の形式。巻末の笹本祐一「四枚目の星図」は、最終決戦の後、宇宙空間を冷凍睡眠で漂流後、目覚めた85億7千万年後の世界でゲンとリプミラが出会ったビメイダーの少女とのエピソード。壮大な時の彼方での宇宙戦闘が楽しい一編。
(「マップス・シェアードワールド2-天翔ける船-」、ソフトバンククリエイティブGA文庫、2009年2月発行、ISBN978-4-7973-5271-9)
