2009年3月アーカイブ

アイの物語

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山本弘の傑作連作の待望の文庫化。人類が衰退し、代わってマシンが台頭した未来。食料を盗んで逃げる途中に女性型アンドロイドに捕らえられた”語り部”の主人公は、そのアンドロイド、アイビスからロボットやAIを題材にした物語を聞かされるという千夜一夜形式の連作長編。宇宙船の乗組員になりきtってリレー小説を書く同好会の会員の起こした殺人事件、仮想空間での少年と少女の出会い、育成型人工知能と少女の話、銀河文明圏の果てにあるブラックホールを監視するAIとホールに突入するためにやってきた女性ダイバーの話、変身少女戦士が活躍する世界とその世界を生んだ元世界の話、介護用アンドロイドの誕生の話、そして最後に戦闘用アンドロイドとして生まれたアイビス自信の歴史、という7編の短編をインターミッションで結ぶ。「自分がして欲しくないことを隣人にしてはならない」という”回答”を論理的・倫理的に理解できないとしか思えない行動を取るヒトは認知症である、という主張と、それでもなお、物語の持つ力を信じようとする希望を込めたストーリーがこの作者らしく、好感を持って読める。最後で語られる、戦闘用としてつくられたアンドロイドたちが、マスターに叛旗を翻さざるを得ない経緯や、ヒトには外宇宙まで進出する能力がないという話は、現在の現実の状況を見ると、それでも楽観的なのかもしれないのが悲しいところである。これ以降の長編もすみやかに文庫化されることを望む。

(「アイの物語」、山本弘著、角川文庫、2009年3月発行、ISBN978-4-04-460116-4)

2巻での壮絶な宇宙戦でとりあえずアチュルタニの脅威が排除され、第5帝国の皇帝となったコリン。この巻では、コリンとジルタニスの双子の兄妹であるショーンとハリエットが活躍する。ストーリーはアヌ大佐一派の生き残りが企てる陰謀なので、前作のような派手な宇宙戦はない。上巻の早いうちに士官候補生となったショーンとハリエット(ハリー)の乗る最新艦がテロにより爆散するが、ダハクの予防策によって艦載艦で脱出していたショーンたちは亜光速航法しかできない艦で手近のタリク星系にたどり着く。そこで発見した惑星パーダルには中世程度の文明に退化した人類と第4皇国の遺跡の生きている対感染の探知システムがあった。探知システムを何とかしない限り故郷への連絡手段がないショーンたちは現地人の一派を味方につけ聖所にある探知システムの中心を目指す。一方、テロで子供たちを失ったと思っているコリンたちに対し、さらなる陰謀が仕組まれる。開発中の超兵器の設計図が盗まれ、自作された兵器が首星バーハットに今では貴重な味方になっているアチュルタニのブラシールたちの陰謀と見せかけて設置されたのだ。超兵器の爆発は阻止できるのか?、テロの黒幕は?、ショーンたちは故郷に帰れるのか?などなどは当然ながら期待どおりにハッピーエンドとなる。テロの黒幕が見え見えで予想がつくとはいえ、安心して読めることも確か。原作はこれ以後出てないようだが、せめてもう1巻出して、アチュルタニとの最終的な決着までは書いて欲しいものである。

(「反逆者の月-皇子と皇女-(上・下)」、デイヴィッド・ウェーバー著、中村仁美訳、ハヤカワ文庫SF1702,1703、2009年3月発行、ISBN978-4-15-011702-3,978-4-15-011703-0)

アッチェレランド

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ストロスのローカス賞受賞作。<特異点>(シンギュラリティ)前後を描く9つの短編からなる連作。第一部では21世紀初頭、オリジナルなアイデアを無償提供し冨を授けていく<恵与経済>(アガルミクス)の実践者であるマンフレッド・マックスを描く。実在の運動であるGPLやCC(クリエイティブ・コモンズ)の延長上とも言える考え方の実践で、この作品そのものも原文はCCでウェブ公開されているそうな。第二部では時代は2030年代になり、主人公はマックスの娘のアンバーに代わる(マックスもまだ登場するが)。舞台もアンバーの木星系経済帝国から褐色矮星回りの銀河ネットのルータまでに広がる。第三部では、時代は2070年代となり、アンバーの息子サーハンが登場。既にポストヒューマンの中心となる自然自己組織化AIたちは内惑星を解体し多重ダイソン球に組みなおしている。ヒト型の生命体は宇宙進出まで持たず、<特異点>に達したAIたちがダイソン球を形成していくのがフェルミのパラドックスの答えのようだ。全編を通じて登場するペットロボットの進化形アイネコ(アイボの猫版?)や1世紀に満たない年月での急速な変貌の描写は初期作の「シンギュラリティ・スカイ」や「アイアン・サンライズ」などとは比べ物にならないくらい面白い([残虐行為記録保管所」はまた系統の違う面白さだったが)。最後はあくまでヒトの状況描写で終わるが、個人的にはAIたちや銀河ネットの向こうの異星AI群などの行く末などが読みたいところ。最初、表題のアッチェレランドって何だ、と思ったが acceleration(加速)から来ているらしい。発音はこうなんだろうか?

(「アッチェレランド」、チャールズ・ストロス著、酒井昭伸訳、ハヤカワ海外SFノヴェルズ、2009年2月発行、ISBN978-4-15-209003-4)

浮鯨という架空生物の導入によるもう一つの20世紀初頭の日本。ますます形勢不利な状況で雪平やクニたちの浮船<峰越>は日本軍の鯨軍に組み入れられ作戦任務につく。ロシアの浮船を雷撃した<峰越>は追撃してきた敵船の攻撃からかろうじて生き延びる。基地で無線機を積み込んで再度出撃した<峰越>は不審な敵の浮船を発見するが、それはロシアの母艦であった。母艦を守るために戻ってきた敵部隊から攻撃されながらも敵母艦を沈めることに成功した<峰越>に敵の浮船の攻撃がせまる。その船にはクニの家族の仇である赤い印が描かれていた。ボロボロの日本鯨軍の状況を見ると大丈夫か、と思えるが、新キャラである無線機の専門家の夏哉の搭乗や、クニの本名(久谷クニ)の判明などを取り入れながら話はまだ続く。

(「晴れた空にくじら2戦空の魔女」、大西科学著、ソフトバンククリエイティブGA文庫、2009年1月発行、ISBN978-4-7973-5269-6)

SFマガジン2009年4月号

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「ベストSF2008上位作家競作」特集。巻頭は「新世界より」で1位の貴志祐介が岸祐介名義で1986年の第12回ハヤカワSFコンテストに「凍った嘴」で佳作入賞した時の受賞第1作として1987年9月号に掲載された「夜の記憶」の再録で、異星の強酸性の海での異形生物の姿を描く。海外編の1位ウィルスンの「無限分割」は妻に先立たれた男が訪ねた古書店で著名作家のあり得ないはずの作品を見つける話。この2つはそれなりに楽しめる作品。スラデックの「よろこびの飛行」は華氏451的ディストピアを描くブラッドベリのパロディ。高野史緒「ひな菊」はチェロ奏者のニーナが政府主催の音楽キャンプに招集されたエピソードを描くロシアSF。小川一水「都市彗星のサエ」は採掘事業で発展した都市彗星の少女サエが緩衝林で少年と出会ったことから閉鎖環境からの脱出を目指す話、さわやかな読み味はさすがでやっぱり今号では一番面白い。連載陣は、山本弘「地球移動作戦」が衝撃的。魅波とユーナのセカンド・アースVSアース・シフトの討論の冒頭からこんなことになるとは。第1部で主人公と思ったブレイドたちがあっさり全滅した時も多少驚いたが、第2部と見られる今編での主人公と思っていた風祭良輔までもがこうもあっさりと殺されてしまうとは。では第3部は成長した魅波によるアース・シフト作戦か?谷甲州「乱風楓葉、伍」<霊峰の門、第十七話>は生家に戻った楓を描く。神林長平「アンブロークン・アロー、第5回」<戦闘妖精・雪風、第3部>は雪風の行動を読みながらトロル基地に侵入する零とブッカーを描く。山田正紀「イリュミナシオン」第18回は、酩酊船と性愛船の戦いもいよいよ煮詰まってきたか。《椎名誠のニュートラルコーナー》第13回では透明人間の考察がおかしい。読切では平山瑞穂「精を放つ樹木」が半身不随の夫を介護する香住が知り合った宇賀神夫人の不思議な話を描く。他にはストロス「アッチェレランド」刊行記念特集、浅暮三文「ポルトガルの四月」刊行記念インタヴュー、日本SFの英訳レーベル《HAIKASORU》の紹介。このラインナップが「The LOAD of the SNADS of TIME(時砂の王)」、「ALL YOU NEED IS KILL」、「Usurper of the Sun(太陽の簒奪者)」、「ZOO」というのは現代日本SFの紹介としてはなかなかのもんであろう。

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