前半の表題作では、ラスト・ストップで足止めを食らったローダンたちは事態打開のため軽巡7隻の探検艦隊をバラインダガル銀河内の探検に送り出す。途中ラール人のSVE艦を探知した艦隊は後をつけSVE艦が着陸した惑星エスを調べることにした。そこにいたのはグッキーですら思考を探知できない生物だった。彼らは4つの目、4つの副次脳を持ち、7次元を超えるアブストラクト思考をする”無限思考者”ケロスカーだった。彼らは七種族の公会議の一員であり、そのアブストラクト数学思考をラール人の技術援助により実現する計画立案者の立場にあるのだった。ケロスカーの学生エプトロクアとのコンタクトでこうした事情を知ったグッキーたちはいったんエスから脱出しローダンの元にこの重大情報を届けた。後半の「ディオゲネスの樽」では、<ソル>から脱走した軽巡<シンデレラ>の一行は、補給に立ち寄った星系にブラックホールらしき天体を発見する。その星系の惑星に着陸した一行は、そこで奇妙な構造物”ディオゲネスの樽”を発見する。ブラックホールの存在と関係ありそうな樽を調査するうちに、謎の宇宙船団が着陸し、中からケロスカーたちが出てきた。未知の技術により<シンデレラ>はブラックホールへの生贄にされ、惑星に残ったメンバーが樽の制御装置を爆破しようとしたが、そこでケロスカーから、ブラックホールと見えるのはバラインダガル銀河を飲み込もうとする”大いなる黒いゼロ”であり、樽はそれを押し留める装置だということを聞かされる。制御装置の爆破によりできた小ブラックホールにより残ったテラナーたちも壊滅し、ケロスカーたちは何とか小ブラックホールを安定化させることに成功する。
(「無限思考者(ペリーローダン356)」、エルンスト・ヴルチェク&H.G.フランシス著、渡辺広佐訳、ハヤカワ文庫SF1695、2009年1月発行、ISBN978-4-15-011695-8)
2009年1月アーカイブ
第4回小松左京賞受賞作の文庫化。火星のパラテラフォーミングが進みマリネリス峡谷や軌道エレベータの設置されているパヴォニス山周辺は天蓋に覆われた都市となっている未来を舞台としたハードボイルドSF(?)。火星治安管理局の水島がバディの神月璃奈と共に凶悪犯ジョエルを護送中、謎の幻覚に襲われ気づいた時には神月は惨殺され自らはバディ殺害の疑いをかけられていた。個人捜査しようとする水島は上層部からの圧力をかけられるが、その矢先アデリーンという少女と出会う。アデリーンは火星総合研究所の研究者グレアムが秘密裡に遺伝子操作により作り出した人工人類「プログレッシヴ」の第3世代だった。人の感情を読み取り、さらにはその感情に沿ってエネルギーを溜め込んで操作できる彼女が護送列車でジョエルの感情に共振したことが事件の原因だった。水島に協力して事件の真相に迫ろうとする彼女にグレアムらの執拗な邪魔が入り、ついには火星から脱出しようとして軌道エレベータに到着したアデリーンが他のプログレッシヴの包囲を受けて能力を爆発させる。軌道エレベータとフォボスとの衝突による破局が迫る中、負傷した水島の頼みにより能力を傾けてエレベータのケーブルを操作して破局を防いだアデリーンだが代償として再び研究所に連れ戻される。プログレッシブの秘密がマスコミにリークされて世論を巻き込んだ議論が起きる中、地球に行くことを決意したアデリーンと負傷のためと称して火星に残る水島の別れが切ないラストを迎える。単行本版とは意識して結末を変えたとの著者のあとがきがあるので、単行本版を見てみようとしたが近隣の本屋では現物を見つけることができなかった。いずれ機会があれば読み比べてみよう。
(「火星ダークバラード」、上田早夕里著、ハルキ文庫、2008年10月発行、ISBN978-4-7584-3372-3)
軍を退役したカウフマンとマーベットは世界(ワールド)に残ったアンとデューターを助けようと世界に赴くことにするが、それと相前後してカペロが誘拐され、それを目撃した娘のアマンダは助けを求めて単身マーベットのところに向う。アマンダが月にたどり着いた時、マーベット達は出発した後であり、反戦派の神父の助けにより火星にたどり着いたアマンダはそこでクーデターに巻き込まれる。軍の強硬派ピアース大将がステファナクを排除して実権を握ったのだ。ピアースはカペロの警告にもかかわらずフォーラーの母星系に人工物を持ち込み、セッティング13にして殲滅しようと考えているのだ。一方、世界でアン達と再会したカウフマン達はスペーストンネル警備に前回と同じ戦艦<ムラサキ>がいることに不信をおぼえる。実は人類の入手した人工物はステファナクにより<ムラサキ>に積まれており、誘拐されたカペロも同船に幽閉されていたのだ。ピアースの意図を推測したカウフマン達はスペーストンネルを辿ってフォーラーの母星系に通じるQ星系に行き、フォーラーに警告して2つの人工物がセッティング13で揃うことにより時空に破局が訪れるのを防ごうとする。しかし警告を聞いたフォーラーが人工物を母星系も戻す前にピアースの艦隊が人工物を持ってQ星系に現れ、ついに2つの人工物は13のセッティングで爆発する。その影響でスペーストンネルが閉鎖されたのを見たカペロは時空の破局のかわりにスペーストンネル閉鎖という安全弁が仕掛けられていたことに気づき、全てのトンネルが閉鎖される前に何とか太陽系にたどり着く。そして火星のアマンダがボーイフレンドのコンスタンティンに頼んで彼の父親の影響力を駆使して発したメッセージが功を奏し、ピアースが太陽系に帰還する前にトンネルは閉じ、人類の緒世界は再び恒星界への道を閉ざされる。クライマックスのスペーストンネルの追いかけっこのスリルが楽しいが、トンネルを失った人類の行く末など、まだまだこの設定で書けそうだけどなあ。まあしかし楽しめた3部作ではありました。
(「プロバビリティ・スペース」、ナンシー・クレス著、金子司訳、ハヤカワ文庫SF1696、2009年1月発行、ISBN978-4-15-011696-5)
前半の表題作では、レティクロンを排除したいラール人ホトレノル=タアクは若い超重族マイルパンサーを次期第一ヘトランとすべくタイタンへ乗り込んでくる。察知したレティクロンはマイルパンサーに対しロボット馬と槍による決闘での決着を申し込む。一方でタイタンへ囚人として送られたテケナーとカクタらミュータントを宿したマルティ・サイボーグを感知したレティクロンは、ミュータントである自らもカクタらのようにPEW金属内に宿り永遠の生命を得ようとも画策していた。決闘で敗れたレティクロンは思惑通りPEW金属に囚われたがそこから出ることができなくなり、第一ヘトランはマイルパンサーに代わった。後半の「捕らわれの宇宙船」では超巨大宇宙船ソルで故郷銀河を探すローダン一行は、ついに故郷銀河のシュプールを見つけ、そこに至る途中で最後の補給地として小銀河バラインダガルに見つけた地球そっくりの星ラスト・ストップに着陸する。その時、超越知性体”それ”が現れ「七つの封印の試練」についてメッセージを残して消える。補給は無事終了し、離陸しようとした矢先、ソルのハイパーインポトロニクスであるセネカが突然警告を発する。補給と共に入り込んだ未知のファクターにより離陸しようとすると爆発するというのだ。テストで離陸させたコルヴェットは3万mを超えたあたりで実際に爆発してしまう。足止めをくらったローダンたちは必死に原因を探るが何も見つけることはできず、その間に乗員の一部は船外へ脱出を図る。そのうち脱出した乗組員が発見した謎の物体を調査しようとしたセネカと連動するロボットは突然物体を破壊してしまい、さらに謎は深まる。
(「タイタンの鋼要塞」、ウィリアム・フォルツ&ハンス・クナイフェル著、林啓子訳、ハヤカワ文庫SF1692、2008年12月発行、ISBN978-4-15-011692-7)
前の調査隊による辺境の星、世界(ワールド)での謎の人工物の報告書に基づき、敵性異星人フォーラーへの対抗策を探るべく秘密作戦を任されたカウフマン大佐は、太陽系随一の物理学者カペロや<超感覚者>マーベット、前回の調査隊員のアン、グルーバーらと共に世界へ赴く。人工物のもとにたどり着いた一行はさっそく発掘作業に取り掛かりテストによって人工物の機能を解明しようとする。一方、極秘に行われたフォーラー生け捕り作戦の結果、幸運にも1体のフォーラーの生け捕りに成功し、世界上空の戦艦<シェパード>内で<超感覚者>マーベットによるフォーラーとの意思疎通の試みが続けられた。人工物が高質量数の物質の放射化確率を上昇させる機能や、陽子ビームを含む攻撃兵器の遮蔽シールド機能を持つことが確認された結果、カウフマンは人工物を世界から持ち出すことを決意するが、人工物が世界の人々の共有現実の元であり、それを持ち去ると世界の人々に重大な問題を引き起こすと指摘する人類学者のアンはカウフマンと対立の末、夫のグルーバーと共に世界に残って人々に警告する道を選ぶ。<シェパード>船内では、フォーラーとの意思疎通を進展させるために人工物の情報を捕虜のフォーラーに知らせたマーベットが逮捕されるが、人工物の秘密を解くためにはどうしてもマーベットの協力が必要と判断したカウフマンは、艦長の指示に叛き、マーベットとカペロと共にフォーラーとの最後のコンタクトを試みる。敵捕虜が物理学者として書いた絵によってカペロは重大な啓示を得ることができ、人工物の動作の元となる確率子の方程式を打ち立てることに成功する。その結果、敵の持つ同様の人工物と人類が確保した人工物が同じ星系で最大セッティングで作動すると時空そのものの織目に破滅的な影響を及ぼす可能性が判明し、人工物は敵への対抗策として太陽系に持ち帰られる。残された世界では、共有現実のなくなった状況に適応しようとする人々の努力が続く。クライマックスの確率子の方程式確立のあたりはハードSFとして堪能できた。次作でどのように物語が収まるのか楽しみである。
(「プロバビリティ・サン」、ナンシー・クレス著、金子司訳、ハヤカワ文庫SF1694、2008年12月発行、ISBN978-4-15-011694-1)
スペースプレーンをハイジャックしたテロリスト達はインドの早期警戒衛星チャンドラヤーン?に向かい殉教者としてテロを完遂する。これにより疑心暗鬼に陥ったインド、パキスタン両国はついに核戦争を勃発させ、地球は冬の時代を迎える。印パ戦争の5年後の2030年、人口3万の街に成長した月面都市で猿渡吾郎はSGポリス長官に就いており、その息子で最初のムーンチャイルドの歩は10歳になっている。歩の通う学校には他のムーンチャイルドもいるが、多くの生徒は地球からの留学生であり、中でもルナネクサスの発電事業の多くの利権を握るユピテル社副社長の息子アダムは歩にちょっかいをかけてくる。歩やその友人のレニーたちムーンチャイルドとアダム一党が対立を深める中、アダムの嘲笑に怒ったレニーは蹴りかかった脚を骨折してしまう。相変わらずロストマンの最後はぼかされたままだが、どうなったんだろう。
(「MOON LIGHT MILE 17」、太田垣康男著、小学館 BIG COMICS、2008年11月発行、ISBN978-4-09-182207-9)
恒例の日本作家特集。とはいってもかつてのような代表的なSF作家勢ぞろいということはない(そもそもSF作家も範囲が増えて、どのあたりが中心的と言えるものか?まあ個人的な好みはあるけど今回はあまり名前だけで読まなくちゃというのはないなあ)。新城カズマ「F&M月からN月までを(かろうじて)切り抜けながら」では同居する私と貴女がCNNやネット情報の中ですごしていく様を描く。森奈津子「セクシー・ドールまなみちゃん」では知り合いの博士からセクサロイドのモニター役を買って出た主人公のところに現れたのは一見魔女のような老女だった。陵辱される主人公だが、最後には意外な感動の結末に至る。これが一番面白かった。樺山三英「小惑星物語」は名作シリーズの第4弾で、パラス人が始めた頭上にあるはずの世界を目指した1大建設事業を描く。蘇部健一「依頼人」<前編>では弟の借金返済のために犯した殺人からタイムマシンで過去に逃げる女を描く(次号に続く)。連載陣は、小林泰三「巨神たち」(第4話)は巨神の体内に逃げ込んで空賊たちと戦うカムロギたちに対し既存の巨神3体を抱える村が対策を協議する。山本弘「地球移動作戦」(第8回)では、ジェノアPのPV『セカンド・アース』が公開され人類が滅んでも仮想地球で転生したアバターが生き延びれば良いという考えが提示され、良輔たちの地球移動作戦は対策を迫られる。梶尾真治「降誕祭が、やってくる」(怨讐星域第10話)では、約束の地のコミュニティは急速に文明化を進め毎年の降誕祭が行われるようになっている。そこに参加するタツローたち高校生の奮闘を描く(続く)。神林長平「アンブロークン・アロー」(第4回)ではトロル基地へ着陸した零とブッカー少佐がロンバート大佐を追う。「椎名誠のニュートラルコーナー」では映画『ザ・ムーン』に引っ掛けてアポロやISSなどの宇宙開発の話を展開する。読切のパオロ・バチガルピ「フルーテッド・ガールズ」は女城主ベラリによってスターへの道を歩ませるべく身体改変でフルート化されたリディアとニアの姉妹を描く。SFマガジン読者賞の発表もあるが海外部門がウィリス「もろびと大地に坐して」、国内部門が桜坂洋「ナイト・オブ・ザ・ホーリーシット」、イラストレーター部門がYOUCHANと李涛、というのは全然予想ついてなかった。新作「ハーモニー」刊行記念で伊藤計劃のピックアップとインタヴューも。第4回日本SF評論賞は発表のみ、いつ本編が載るんだろう。
吸血鬼特集。篠田真由美「黎明の書」は連載開始として吸血鬼が貴族として平民の人間に君臨する世界を舞台に貴族の少年と人間の少年の交流を描く。恩田陸「愚かな薔薇」の連載は変質が進む奈智の周囲で不穏な事件が起こる。吉川良太郎「吸血花」は読みきりで少年が引き取られた家にいた美少女の姉との関係を描く。特集以外ではイラスト先行小説が橋元淳一郎「紫青代の始まり」では文明崩壊後の生き残りの男と人類を継ぐ生命体の係りを描く。同じく井上雅彦「トリオソナタ」では少女が失踪した父親が錬金術に励む実験室を捜していく。梶尾真治「いにしえウィアム」はエマノンシリーズの1篇で転生を繰り返すカップルを描く。日本SF新人賞作家競作では、タタツシンイチ「木」が兵士に選ばれた男と農民として大地に根ざす友人の対比を描く。樺山三英「ONE PIECES」はフランケンシュタインに題材をとった名作シリーズの1篇。北国浩二「ミッシング」はいとこの少女の突然の失踪で犯人扱いされた青年の苦悩を描く。連載陣では、あさのあつこ「スーサ」は友人を事故で失った少女がスーザと取引をする。小路幸也「蘆野原偲郷」は郷へ帰る準備を進める主人公、猫になる妻と少女がかわいい。火浦功「火星のプリンセス・リローデッド」は相変わらず1ページのみ。古橋秀之「百万光年のちょっと先」はこのところ結構ページ数が増えてるので単行本にもできるかな。三島浩司「続シオンシステム」は無事決着がつく。森岡浩之「地獄で見る夢」は仮想シティVRNWSでの失踪の謎を追う。若木未生「ファウスト解体」は売れない作家がタレント本の執筆依頼を受けてという導入部。他には評論「魁!P.K.ディック塾」が算術級数的次郎冠者・幾何級数的太郎冠者。NHKドラマ8「七瀬ふたたび」の第1回のシナリオと続くあらすじ紹介。神獣戦線刊行記念の山田正紀インタヴューなど。
(「SF Japan 2008 WINTER」、徳間書店、2008年12月発行、ISBN978-4-19-862631-0)
イーガンの短編集。といっても奇想コレクションの1冊なのでバリバリのハードSFというわけではなく奇想に沿った内容だがすべて本邦初訳という読み応えあるもの。忘れられないメロディを扱った「新・口笛テスト」、体外離脱体験を扱った「視覚」、子供を天才にする方法を開発した科学者のスーパーベビープロジェクトを扱った「ユージーン」、知性を持つ腫瘍の1人称で語られる「悪魔の移住」、連続殺人犯にまつわる話を夢の論理風に語ったホラー「散骨」、全世界で汎流行した疫病<銀炎>の感染経路を追う科学者の語りでイーガンの科学的世界観が反映された「銀炎」、<契約>に縛られた悪魔を扱ったホラー「自警団」、強姦事件の謎と環境難民を背景に語る「要塞」、銃を持つ男に森の奥に追い立てられる男とインプラントやアイデンチティに係る奇想を語る「森の奥」。巻末の表題作では、脳に作用してあらゆるものを言語で表現することを可能にするインプラントTAP(総合情動(Total Affect)プロトコル)を使用していた世界最高の詩人の謎の死をめぐり、詩人の娘から事件の究明を依頼された私立探偵の語りで作者の科学的世界観が見える。巻末の解説に出てくる最新長編も早く読みたいものである。(どこかから出るんだろうけど。)
(「TAP」、グレッグ・イーガン著、山岸真編訳、河出書房新社・奇想コレクション、2008年12月発行、ISBN978-4-309-62203-3)
