第二次関東大震災の後、地球温暖化を阻止するため、超高層建造物アトラスを東京に建設し都市機能をアトラスに移して地上を森林化する日本が舞台。CO2削減のため炭素経済に移行した世界は炭素を吸収削減することで利益を生み出すようになっている。森林化により難民が続出した東京の地上では反政府ゲリラが少年院から戻った少女、北条國子を総統に格差社会を打破するためアトラスに向っていった。アトラスをめぐる政府軍とゲリラの戦いは、しかし、地上で想像を超えた進化を遂げた植物の攻撃にさらされる。人類の未来のために協力して森林を焼き払うが、その後焦土に現れた巨大なペンタグラムにより、アトラス建造に秘められた秘密が徐々に明らかになる。人々をランクづけするアトラスランクは新たな帝の選別のための機構であり、國子と病弱だが強力な霊力を持つ美邦、政府軍少佐の草薙の3人がアトラスランクのトリプルAを持つ候補者であることが判明する。アトラスを統べる人工知能ゼウスと炭素経済から生まれた新たな電脳メデューサが世界を危機に陥れる中、アトラス中枢を目指す3人。新たな帝の誕生と世界の新秩序は得られるのか?といったのがおおまかなストーリー。一見、温暖化や炭素経済などエコロジーテーマかという設定だが、巨大ブーメランで戦車をも切り裂く國子やその育ての親であるニューハーフの美女、嘘をついた者に死を見舞う美邦やその側近の女医、他人を貶めることに快感をおぼえる狂った天才美女など、クセのありすぎるキャラクターや、アトラスの共振を鎮めるための降霊術による妖怪、ペンタグラムや神器に象徴される日本国の根幹とアトラスの関係など、ストーリーはいかにもこの著者らしく暴走する。擬態兵器なども出てくるが、これをSFと言っていいものか?面白いのは確かで、抜群のリーダビリティを持つ文によりあっという間に読みきってしまったが。
(「シャングリ・ラ(上・下)」、池上永一著、角川文庫、2008年10月発行、ISBN978-4-04-364704-0,978-4-04-364705-7)
2008年11月アーカイブ
前半の表題作では、アトランの密命を帯びてレティクロンを葬るため太陽系に侵入したテケナーだが、火星で超重族の従者をしているうちにアリーナでの戦闘予測を誤り、主人からアリーナに戦士として出場を命ぜられる。相手になるのは異星の凶暴な獣やエルトルス人の巨大な戦士を、連携して葬ってきた冷酷な双子の戦士だった。アリーナでの決闘では何とか双子を屠ったテケナーだが自身も重傷を負い、レティクロンにも目をつけられて土星へ召喚される。テケナーの援助のために、人工生命体にPEW金属を埋め込んで旧ミュータントを宿したマルティ・サイボーグ3名も超重族に化けて火星に潜入するがテケナーの消息をつかんで土星に向う。後半の「土星の幕間劇」では、土星に送られたテケナーは他のテラナーたちと共に海綿の収穫作業に従事させられる。作業中に脱出を図ったテケナーはグライダーでリングに逃れるが、察知した超重族のハンターや警察に追跡される。一方、テケナーを追って土星に来た3名のマルティ・サイボーグもグライダーでリングに向ったが、その行動に不信を抱かれ、やはり追跡を受ける羽目になる。ついにはつかまってしまったテケナーとマルティ・サイボーグたちは、レティクロンの召喚により、レティクロンのいると言われるタイタンの鋼要塞に転送される。今巻の表紙やイラストは依光隆氏の旧作の再デザインと書いてあり、本文の挿絵もない。体調でも悪いのだろうか、もう80過ぎてるしなあ。
(「アリーナの戦士(ペリーローダン354)」、H.G.エーヴェルス&クラーク・ダールトン著、青山茜&増田久美子訳、ハヤカワ文庫SF1687、2008年11月発行、ISBN978-4-15-011687-3)
前からうわさは聞いていたが文庫化されてやっと読んだ。西暦20XX年、有史以来初めての、しかし地球誕生以降は何度も繰り返されてきた”破局噴火”を描く。霧島火山帯で始まった噴火は人類の知る通常の噴火に留まらず、霧島を含む地域に残る巨大カルデラである加久藤カルデラの破局噴火の引き金となった。予想をはるかに上回る短時間で起こった加久藤カルデラの超巨大噴火により、巨大火砕流が南九州全域に広がり、南九州は全滅、噴煙は北海道と沖縄を除く日本全土を覆い数時間で数百万人の命が失われ、被害は北半球全域に及ぶと予想された。日本は国として生き残ることも困難と思われたが、起死回生の「神の手作戦」により、廃墟の中からの日本再生のビジョンを謳った首相の演説により、かろうじて北半球先進国間での通貨危機が落ち着き、東海巨大地震の始まりが暗示されつつも一縷の望みが残る結末となっている。九州在住で地学教室に所属しているおかげで、阿蘇カルデラは言うに及ばず、加久藤カルデラ、姶良カルデラ、阿多カルデラ、鬼界カルデラ、などの巨大カルデラが南九州に残ることは知っていたし、こうした巨大カルデラを残すような巨大噴火が起これば九州全土が壊滅状態になるとか、プルームテクトニクスなどの最近の地球物理的な描像によれば、過去の地球史でそうした破局噴火が決して珍しいことではないことも知っていたが、現代日本を舞台にした小説で読むと恐ろしい臨場感である。たったの24時間のできごとなのに事態の推移の早さは驚異的である。「日本沈没」以来との帯や火山学会などでの話題、地質学会表彰なども頷ける。主人公の防災工学教室准教授の黒木と妻の真里のなりそめなどはちょっと触れられているだけでもったいない気もするし、野党に政権交代したばかりで新首相の決断に富む態度や、壊滅状態からの回復のための希望的ビジョンができすぎのように思えて、現実の日本ではこのような進展はありえないと思われるのが残念であるが、必読であろう。
(「死都日本」、石黒耀著、講談社文庫、2008年11月発行、ISBN978-4-06-276195-6)
22世紀の半ば、海王星の外で異星人由来の構造物が発見された。それを通過すると他恒星系へ瞬時に移動できることからスペーストンネルと呼ばれるようになった構造物により人類の外宇宙への扉が開かれた。スペーストンネルの先の星系には別の星系へのトンネルがありいくつもの新世界が発見され、多くの異星人が発見された。ほとんどの異星人は基本構造が人類と共通であり、どうやら遠い過去に播種した種族がいたことを思わせた。人類より技術的に劣る星が多い中、唯一人類と同等以上の技術を持つ異星種族フォーラーと遭遇するが、交渉の余地なく攻撃してくるフォーラーに対し、人類は劣勢な戦いを強いられていた。そうした状況下、新世界の1つである「世界(ワールド)」の月の1つで、スペーストンネルと同様のマーキングが発見された。秘密任務を帯びた戦艦「ゼウス」が派遣され、月に見せかけた人工物が原子番号75以上の原子を不安定化させる機能を持つことが発見された。調査を受付けない月に対し、調査隊はフォーラーの手に落ちないように、明らかにスペーストンネルの限界質量を超える月を無理やりスペーストンネルに押し込んで人類の基地星系に移す捨て身の作戦を実行しようとする。一方、「世界」の住民が持つ共有現実という現象の調査に赴いたチームは「世界」では排除されるべき存在である非現実者と見なされて追われ、世界人の密告者エンリと共に禁断の山脈中に逃避行する。逃げるうちにチームは山脈の放つ放射線の原因が山中に埋もれた異星人由来の装置であり、それが人工の月と関係がありそうなことを突き止めた。スペーストンネルからはフォーリーの戦艦が出現し、ゼウスと交戦するが、スペーストンネルに突入して内破した月により両方の戦艦は破壊されてしまう。破壊の際に放出された致命的な波の影響を知らせるために、逃避行から世界人の村に降り、自らの命を懸けて緊急事態を知らせた人類チームのアレンとエンリによって事態は収拾され人類の去った「世界」は一時の平穏を取り戻す。山中の人工物の放つ確率波の謎やフォーリーとの戦いの行く末は2、3巻に続く。3ヶ月連続刊行だそうなので、あまり待たずに決着まで読めそうだ。
(「プロバビリティ・ムーン」、ナンシー・クレス著、金子司訳、ハヤカワ文庫SF1688、2008年11月発行、ISBN978-4-15-011688-0)
編集長インタヴューは小池百合子、総裁選となる前とは言えよく出来たもんだ。イオ創世記の回想を元電通の斉藤善久氏が。下村健寿氏の新連載は「『復活の日』から読み解くバイオロジー」だが、今回は野口英世の業績に対する誤解や曲解が何故生じたかを文献による裏づけと丁寧な調査で解いていく読み応えのあるもの。第9回小松左京賞は29歳の女性、森深紅氏。でもこれってハードカバーで出るんだよなあ。町井登志夫「おろち」は峠に出没する謎のスポーツカーをめぐるホラー、といえばわかる人もいるだろうが光岡の大蛇が題材になっている。W.O.ガードナー氏による「「未来都市」の出現、小松左京と大阪万博の研究ノート」は日本文学研究者による研究の序だが、作者は万博を直接は知らない若い世代だそうだ。田中光二「ぼくのシネマオデッセイ」は映画音楽に触れている。はやしあきら氏が聞き手となる新連載「賢人談話、あるいは小松左京の大口舌」は第1回「”うかれ”とは、何者だったのか?」で小松左京の小学校?大学あたりを振り返る。巻末の小松左京研究会のページでは、新間策雄氏による新連載「SF的な、余りにSF的な-「果しなき流れの果に」私論」は、この作品が連載開始された時代を見ているが、この時期の小松左京の作品発表のペースは新間氏の書いているとおり凄まじいものがある。
(「小松左京マガジン第31巻」、(株)イオ発行、(株)角川春樹事務所発売、2008年10月発行、ISBN978-4-7584-1125-7)
2006年度のヒューゴー賞長編部門受賞作。ある夜、突然、星々や月が消えた。周回軌道から帰還した乗組員は地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたことを証言したが、異変直後に帰還したはずの彼らが実は宇宙空間で1週間待った後に突入したことから、地球の時間だけが1億分の1の速度になっていることが判明した。スピンと呼ばれるようになったこの現象により地球は突然数十年後に滅亡の危機を突きつけられた。地球外で50億年後に太陽が赤色巨星化するが、異変後の地球ではそれは50年後にすぎないのだ。界面を作った存在を人類は仮定体(仮定上の知性体)と呼んだが、その正体や意図は知れない。対策を講じた人類は界面を突破してハビタブルゾーンに移行した火星にロケットで生物資源を送って1億倍の速度でテラフォーミングし、さらには人類の移民を送って地球を救うための文明を育てようとする。しかしやっと地球に匹敵(または一部凌駕)する文明に成長した火星もまた界面に包まれてしまう。界面に包まれる寸前に火星から地球に送られた特使の火星人によってもたらされたテクノロジーにより人類は最後の賭けに出た。フォン・ノイマンマシンを太陽系外縁に送り、そこからさらに他星系に自己増殖により拡張していくネットワークを育て、銀河内に同様の状況の星があるか調べさせるのだ。順調に成長しているかに思えたマシンはしかし、ある時点で先行するネットワークに吸収されてしまう。同様のことが既に実行されていただけでなく、それらの先行マシンによるネットワーク生態系こそが仮定体の正体だったのだ。そして地球を覆う界面に変化が訪れると共に謎のアーチ状物体が地球に下ろされ、そのアーチを特定方向からくぐると異星につながることが判明する。界面は仮定体が銀河内の知性体の自滅を防ぐために作成したもので、準備が整えば適切な環境の異星へのゲートウェイを設置するのだ。火星人のバイオテクノロジーにより寿命延長を果たしたがために政府に追われる主人公たちはアーチをくぐって異星へ脱出する。最後に脱出していった異星での話は続編の第2部 Axis に続くそうだが、完結編にあたる第3部の Vortex は未だ刊行されていないようだ。1億:1という時間比率によりテラフォーミングや光速内での銀河内ネットワーク構築などの壮大なイメージが描かれるのが面白い。続編の訳出と期待どおりの完結編の刊行を望む。
(「時間封鎖(上・下)」、ロバート・チャールズ・ウィルソン著、茂木健訳、創元SF文庫、2008年10月発行、ISBN978-4-488-70603-6,978-4-48-70604-3)
秋のファンタジー小特集。ダニエル・エイブラハム「両替官とアイアン卿」では、外貨両替官オラフ・ネッデルソーンが悪名高い権力者アイアン卿ことエドマンド・スカラッソによる無理難題を<ものの価値はそれで何が買えるかで測れる>という原則と機知で切り抜ける話でなかなか痛快。キジ・ジョンスン「<変化>後の北公園犬集団におけるトリックスター伝承の発展」では、言葉をしゃべるようになった犬たちが、あるものは捨てられ、あるものは自分から集まってきた北公園での事態の進展を描く。巻頭ノヴェラ、コニー・ウィリスのヒューゴー賞受賞作「もろびと大地に坐して」では、地球を訪れてただ人々をにらむだけだったエイリアンが坐ったきっかけをめぐるドタバタコメディ。連載陣では、山本弘「地球移動作戦」では、良輔の提案する地球移動法が明らかにされ、一方、ガイドツアーを抜け出して<ファルケ>に忍び込んだ魅波は悲しげな歌を歌うACOMと遭遇する。神林長平「アンブロークン・アロー」(戦闘妖精・雪風、第3部)では、クーリー准将やブッカー少佐との話で自分のやるべきことを認識した零が雪風のコックピットに戻った自分を見出す。山田正紀「イリュミナシオン」<第16回>では、二つの死の可能性の間で揺れるランボーと『反復者』とのやりとりを描く。読みきりで、北野勇作「カメリ、子守りをする」では、マスターから子守りを頼まれたカメリのほのぼの話。菅浩江「トーラスの中の異物」はコスメディック・シリーズの一編で、老人ホームにいるかつての著名女性シンガーと画期的なアンチエイジング美容をめぐるお話。他に宇野常寛×中森明夫のトークイベント集録や「野田昌宏さんを偲ぶ会」のレポートなど。麻生首相とのつながりなどを読むと野田さんっていいとこの息子だったんだなあと改めて思う。
