直木賞受賞作であり映画の原作でもある。短編連作のガリレオシリーズが一見オカルト的な事件の謎を天才物理学者が解くという謎解き主体の楽しさを持つ作品だとすると、長編の今作は愛することの苦悩を含むかなり重いものを孕んだ作品になっている。河原で発見された全裸死体は顔をつぶされ指紋が焼かれるなどの身元隠しが行われていたにもかかわらず衣服の燃え残りや乗り捨てられた盗難自転車などが残されるなど不可解な点もあった。すぐに身元が割れ離婚した元妻の女性が容疑者となるが、彼女にはアリバイがあった。一見崩せそうで崩れないアリバイにいつものように湯川に話をする草薙刑事だが、話を聞いた湯川は犯人が強敵だと告げる。容疑者の隣に住むのが長らく音信不通だった大学時代の友人で天才数学者と呼ばれた石神だと知った湯川は彼に会いに行きひょんなことから石神が容疑者の女性に恋心を抱いていることを知り石神と事件との関係の調査を始める。「一見幾何の問題に見えて実は関数の問題」を出すいう石神の言葉を聞いた湯川は恐るべき真相に思いあたる。そして、殺人犯として自ら出頭した石神の話を聞き、苦悩しながらも自分の推理を容疑者の女性に話す湯川。そこで明かされたのは容疑者の花岡母娘を救うために石神が立てた究極の自己犠牲を含んだ計画だった。読後に非常に重いものが残る結末である。原作を読むと映画がかなり忠実に原作をたどっているのがわかる。原作の方が小説らしく登場人物たちの心理を詳述している一方、映画は映像作品らしく小説では不可能な一瞬の場面での説明が入っている。一番典型的なのは、何故石神が花岡母娘を愛し助けようと思ったのかの理由を現す場面で、母娘の楽しい日常に癒される石神の場面や笑顔で挨拶してくる娘に癒される場面など。普通の笑顔のためにオーディションで選んだという娘の美里役の金澤美穂が適役。
(「容疑者Xの献身」、東野圭吾著、文春文庫、2008年8月発行、ISBN978-4-16-711012-3)

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