2008年8月アーカイブ

前半の「異恒星のもとのテラ」では、人工太陽のもつ間になんとかテラ=ルナ系を安定した恒星の周回軌道に乗せたいローダンたちはプローンの裏切りの女王ゼウスから技術的援助を受けるための取引をし、繁殖用の雄モポイをプローンのもとから奪取する計画を実行する。計画そのものは成功し、ゼウスのもとにモポイを届けてテラ=ルナ系はゼウスの機械により恒星メダイロンに向う。しかし、モポイに仕掛けられていたプローン女王ジャイマダル・コンツェントリンの罠が発動し、ゼウスが消され、それに伴いゼウスの機械も壊れてメダイロンにテラが突っ込むのが必至と思われた矢先、プローン女王から援助の申し出があり、かろうじてテラ=ルナ系はメダイロンの軌道に乗ることができる。後半の表題作では、テラ=ルナ系がメダイロンの軌道に乗ってから80年の間にメダイロンからの未知の6次元放射により人々の間からは人間らしい感情が失われていった。新しい人々=アフィリーがひそかに進めていた革命の準備がある日実行に移され、テラの支配権はアフィリーが握ることになった。細胞活性装置のおかげで放射の影響を受けないローダン側近やミュータントたちは、銀河系捜索のために建造中だった新造巨大宇宙艦ソルに乗ってテラから追放された。その後40年たち、わずかに残った放射に対する耐性を持つ人々の拠点がボルネオにあるというウワサと失われつつある感情を謳った”愛の本”をたよりに、青年セルジオと恋人のシルヴィアの逃避行が続く。アフィリーたちの革命の首謀者がレジナルド・ブルというのが一番の衝撃か。ところで、今号には恒例の次の10巻分の仮題が載ってないけど、9月に2冊刊行というのと関係あるんだろうか。

(「アフィリー(ペリーローダン350)」、クルト・マール著、嶋田洋一訳、ハヤカワ文庫SF1673、2008年8月発行、ISBN978-4-15-011673-6)

SF Japan 2008 SUMMER

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特集の1つは<続編>とのことでミルキーピア物語の続編、東野司「親ミルキーピア物語」は電脳世界を探偵する天空寺岳人の話。最初の依頼人は9歳の自称あんみつ姫という女の子、行方不明になったへのへのもへじを探してくれというのだが、依頼人の意外な正体が楽しい。一方、三島浩司「続シオンシステム」は新種の寄生虫アイメリア・シオンによる若返りと不死を目指すシオンシステムの話だが、こちらは正編を読んでないと何がなにやら。もう1つのの特集は新人賞作家。谷口裕貴「我は獣にあらず」サマーファインダーのナイアルの活躍を描く第2弾。第1弾で世界設定の説明はあったにしてもちょっと説明不足か。杉本蓮「ユニット・プランタ」はひきこもりの男の部屋に見知らぬ女がいた、しかしその状況をモニタを通じて観察する者たちが。八杉将司「カミが眠る島」は瀬戸内の小島の神社を取材に来たフリーライターが遭遇した殺人事件と思いきや、その正体は。ちょっと結末が唐突すぎる。他の短編は五代ゆう「DOG DAYS」はトライブと呼ばれる戦闘集団が闘争を続ける世界のエピソード。川上亮「サバトパンク」は動物を操る魔術を特異とする《斑鼠》のもとに持ち込まれた仕事の顛末。「問題小説」誌と連動のイラスト先行小説は、石持浅海「心中少女」は、自殺志願者の女性2人が死体に出会ってという話。谷甲州「産医、無医村区に向う」は一見、円周率の違いを指摘する奇妙な電話から始まった話だが仮想人格の恒星系への片道フライバイにつながるのが作者らしい。連載では、あさのあつこ「スーザ」は殺された鍛冶屋の娘のエピソードの決着。森岡浩之「地獄で見る夢」は人探しの依頼の続き。火浦功「重ねて火星のプリンセス・リローデッド」は相変わらず1ページ、落ちないだけマシなのか。古橋秀之「百万光年のちょっと先」は、今回はちょっと長めに7エピソード31ページ。小路幸也「蘆野原偲郷」は妻の優美子と迷いこんできた少女の多美が2匹の猫になり事を為す、そろそろ方向性が見えてきたか、猫がかわいい。恩田陸「愚かな薔薇」は、いよいよ体の変化が進み、奈智は母の死の真相に近づく。特別企画として、A.C.クラーク追悼評論、NHKドラマ「七瀬ふたたび」の詳報、「屍竜戦記?」刊行記念の片理誠インタヴューなど。

(「SF Japan 2008 SUMMER」、徳間書店、2008年7月発行、ISBN978-4-19-862556-6)

フリーランチの時代

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小川一水の短編集。冒頭の表題作は火星探査隊が出会ったエイリアンとのファーストコンタクトによる人類の変貌を描く。次の「Libe me Me」は事故で全身不随になった女子大生が脳と遠隔接続して失った全感覚を代替できる人工肉体シンセットにより恋人も得た後、大地震により彼も自らの脳も失うが、という話。Progressive27に掲載されたそうだが書き下ろし以外ではこれだけ読んでなかった。「Slowlife in Starship」はSFマガジンに「ハイフライト・マイスター」として掲載されたものの改題で、小惑星帯をベースに単身宇宙船で商売する宇宙時代の引きこもりを描く。小惑星イトカワにからめたエピソードは発表時の時節柄。「千歳の坂も」は、不老不死が実現し健康が義務づけられた時代に不老不死化を拒否する女性と説得に向った厚生勤労省の役人の間の以後数百年にわたる人生の交錯を描く。巻末の「アルワラの潮の音」は、長編「時砂の王」の書き下ろし外伝というファンにはこたえられないボーナストラック。ポナペ周辺の島を統べるアルワラの青年船匠ク・プッサと幼馴染の戦士カカプア、魔法医見習いラヴカたちにラヴカの故郷のホンアプレ叛乱の報が入る。急遽派遣された船団は光の槍や異形の烏賊の襲撃になすすべもなく敗走するが、彼らを救ったのは潜水艇を駆るメッセンジャーのアレクサンドルたちだった。従来と異なる侵攻を図るETたちを殲滅するため協力してことに当たる彼らが突き止めたのは最初にET侵攻の手引きをしたのが心中に虐げられた恨みを抱くラブカだったという事実であった。カカプアもラヴカも失ってETを撃退したク・プッサの悲しい姿と次の戦いに向うアレクサンドルやオーヴィルたちの姿が印象に残る掌編。

(「フリーランチの時代」、小川一水著、ハヤカワ文庫JA930、2008年7月発行、ISBN978-4-15-030930-5)

「老人と宇宙」の続編。前作で出ていたゴースト部隊の姿を描く。ゴースト部隊は防衛軍に志願したが入隊前に死亡した地球人のクローンからなり、一般部隊員にはない緊密なコミュニケーション機能とより強化された肉体を持つ切り札的な部隊という設定。天才科学者ブーティンはコロニー防衛軍を裏切り敵のエイリアン種族と手を結んだ。その原因を探るためにブーティンの遺伝子から作られたクローンのジェレド・ディラックは目論見と違ってブーティンの記憶を表面上持たず、ゴースト部隊に配属され戦いに投入される。敵対エイリアン種族間を分断するため、まずはエネーシャ族の首星を急襲し敵対的な大祭司の跡継ぎを殺し親人類派の台頭を狙った作戦は成功した。しかし、ブーティン本人の確保を狙ってオービン族の星へ侵入したディラックらのゴースト部隊はブーティンの罠にはまりブレインパルを使えなくされ捕らえられてしまう。クローンであるディラックへの自身の転送を狙うブーティンを自らを犠牲にして葬ったディラックの行動によりジェーン・セーガン隊長らの部隊の生き残りはかろうじて帰還を果たし当面の危機は回避される。近隣で卓越した技術力を持つ孤高のコンスー族とオービン族の関係や、エイリアン種族に密かに結ばれるコンクラーベ、さらにはそれに対する裏コンクラーベなど、提示された謎は次刊で解決されるのか?早期の刊行を願う。

(「遠すぎた星 老人と宇宙2」、ジョン・スコルジー著、内田昌之訳、ハヤカワ文庫SF1668、2008年6月発行、ISBN978-4-15-011668-2)

前半の「人類の利益」では、USOスペシャリストのシュルツはグライコ人のクロイターファールンと共にタフンから脱出するが、ついにグライコ人を殺すことを決断したホトレノル=タアクの命を受けたレティクロンの仮借ない追跡が迫る。対するアトランはこの機会を利用した計画を立て、計略によりおびき寄せられたレティクロンは既に死亡していたクロイターファールンの死体に対面し自分が殺したとの報告をせざるを得なくなる。後半の表題作では、故郷銀河を見つける任務に出たディノ・テンダー《メブレコ》艦長のゲルメルはローダンの方針に叛旗を翻し、深宇宙を漂っていて《メブレコ》を発見し侵入した異生物ガイドの誘導により一見パラダイスのように見える惑星に着陸するが、核戦争の遺物の青い山が放射する六次元放射の影響で乗組員は全滅してしまう。かろうじて《メブレコ》を爆破しコルヴェットで脱出したゲルメルだが、異生物がコルヴェットに宿っていることを察知し、テラを守るため壮絶な爆死を遂げる。

(「《メブレコ》の叛乱(ペリーローダン349)」、ウィリアム・フォルツ&H.G.フランシス著、林啓子訳、ハヤカワ文庫SF1670、2008年7月発行、ISBN978-4-15-011670-5)

量子真空

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「啓示空間」の続編。深宇宙探査から帰還したガリアナは敵対的機械生命に融合された状態だった。連接脳派はその機械生命体ウルフ=インヒビターが人類を抑制すべきものとして発見したと察知し、スケイドの指揮の元、新開発の慣性抑制装置を使用した最速の近光速宇宙船団を建造し脱出する計画を立てる。同時にインヒビターに対抗する兵器を求めて、かつて建造された後、盗まれて行方不明だった地獄級兵器である隠匿兵器群を奪還しようとする。連接脳派だけが生き残ろうとすることに反撥したクラバインは連接脳派と袂を分かち、カズムシティで謎の人物Hからの助力を受けて、スケイドと同等の装置を積んだ近光速船で隠匿兵器がある孔雀座デルタ星のインフィニティ号を目指す。孔雀座デルタ星では、辺境の中性子星ハデス星に引きこもったシルベステによるトリガーに反応したインヒビターが現れ、岩石惑星3個を材料にガス巨星をスピンアップし建造した装置により恒星に穴をあけて星系の生命体の殲滅の準備を着々と進めていた。リサーガム星に植民した20万人を脱出させようとイリア・ボリョーワとアナ・クーリが奮闘するが、インフィニティ号に融合した船長とその支配下の隠匿兵器群はなかなか思うようにならない。壮絶な追跡戦を制して到着したクラバインたちはアナたちと共になんとか16万人をインフィニティ号に収容し、連接脳派の追撃をかわして脱出し、途上で見つけたパターンジャグラーの惑星で一息つくことになる。相変わらず厚さは増すばかりで1200ページを超えたサイコロ本だが、読みやすさも健在で苦にならない。それどころか、スケイドとクラバインの近光速船同士の手に汗握るかけひきには引き込まれてしまうし、「啓示空間」でおなじみのキャラクターや「カズムシティ」との関係を示唆する部分もあり、どんどん読んでしまった。インヒビターに星系1つ壊され、このあとどうなるかというところだが、途中現れたシルベステの影や、スケイドの内に潜むものの謎、失敗はしたが、超光速技術のとっかかりなど、これはさらなる続編を書いてもらわねば。

(「量子真空」、アレステア・レナルズ著、中原尚哉訳、ハヤカワ文庫SF1674、2008年8月発行、ISBN978-4-15-011674-3)

SFマガジン2008年9月号

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中国SF特集。特集の小説は、月面の白色人種と地上の黄色人種の最終戦争が迫る中で開発された水棲人の悲哀を描く韓松「水棲人」、赤色巨星化する太陽から逃げるため巨大な噴射口により地球を移動させようとする劉慈欣「さまよえる地球」(こういう設定を見ると「妖星ゴラス」を思い出す)、ウイルスによって人類が南極の34万人だけになってしまいウイルスの被験体に志願した男の話である江波「シヴァの舞」。他に林久之による中国のSF誌<科幻世界>の今日のレポートと、同誌の副編集長の姚海軍による中国SF界の現状レポート。連載陣では、山本弘「地球移動作戦」<第3回>はミラー星シーヴェルの調査に向うファルケだがピアノドライブの変調への対応を誤り、致命量の放射線を浴びて帰途につくが乗組員は全滅という意外な展開に。朝松健「魔京」<第14回>では信長の介入で時間と記憶が書き換えられる様を描いて第四篇が終わる。山田正紀「イリュミナシオン」<第15回>では酩酊船の結晶城への突入と同時に立ち上がったヴェルレーヌや伊綾のオーバーレイド・リアリティを描く。読切では、草上仁「5017」は国際知的所有権管理局に提出された50種の文字列を組み合わせた17文字に関する登録申請書をめぐるショートショート。菅浩江「閃光ビーチ」はコスメディックをキーワードとする連作の第2作で健康的な日灼け肌を演出する<シャクドウ・ギア>を扱った短編。「ゼロ年代の想像力」刊行記念の宇野常寛インタヴューも。今日泊亜蘭の追悼特集では、明治を舞台に有名料亭に影絵師やからくり師を集めた侯爵の短編「綺幻燈玻璃噺」と日下三蔵氏による解説&著作リスト。次号は野田昌弘の追悼とのこと、追悼が続くのも何か物悲しいものである。

マザーズ・タワー

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西暦2038年の近未来、スリランカ?インドを結ぶ巨橋を拠点とする<マザーズ教団>は難病児の末期医療を標榜していた。教団代表の葵飛巫女はインド州軍の襲撃を予測し巨橋を崩壊させて教団ごと避難する決意をする。その場に居合わせた4人の男、脳医学のノートン、電脳ハッカーのナンディ、密輸業者の飛鷹、狂戦士ジェルジンスキー、は飛巫女の秘密を知り、彼女のためにすべての才覚をかけて太陽系最大の建造物・軌道エレベーターの建造に挑む。世界中で急激に増加する若年性アルツハイマーの蔓延には、宇宙からの超高エネルギーγ線の増大という理由があり、このままでは80年で人類の未来は閉ざされると予測された。飛巫女の病気も同じ原因で、対抗するには人類が宇宙へ出るしかない。権謀術数を駆使してモルディブのメガフロートに地球港を作りフル規格の軌道エレベータを作るという計画は、何とか資金や世論の了解をもぎ取り実現が見えてきた矢先に、インド州軍の黒幕アビシェークとその娘のテロリスト・エリーのテロによりメガフロートが爆破されて頓挫しそうになる。急遽、低軌道のORS(Orbital Ring System)の建造に切り替えた4人はロシアから掠め取った3小惑星の資源を使って、地球にORSをかぶせる作戦を進める。続発するトラブルの対処に、次々に命を落としていく4人。しかし、ギリギリでテロリストを排除し、軌道エレベータにより飛巫女を宇宙の運ぶことに成功する。エピローグで描かれる50年後の姿は、良い意味でクラーク的な未来の希望を含んで爽快である。

(「マザーズ・タワー」、吉田親司著、ハヤカワSFシリーズJコレクション、2008年7月発行、ISBN978-4-15-208942-7)

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