前半の表題作では、エルトルスで続く、ラール人排斥を狙う”解放委員会(EBK)”と公会議との強調を狙う”利益党(PEI)”の政争を描く。エルトルス人の力を密かに恐れるラール人はあえて政争を放置し、EBKのケンソンらは首都に降りた”権力のピラミッド”に潜入し、第3の公会議種族マスティベック人とコンタクトし、その影響でPEIを壊滅させるが、EBKも壊滅状態になりエルトルスの政争も振り出しに戻る。後半の「平和の使節」では、公会議の第4の種族グライコ人のクロイターファールンは、病気の治療のため、銀河系訪問を許可されるが、まだ安定していない銀河系の実態をグライコ人に知られては困るホトレノル=タアクは比較的落ち着いているアラスの病院惑星タフンでグライコ人を歓待しようとする。アラスに潜むUSOスペシャリストのシュルツらは、この機会を利用してグライコ人に銀河系のラール人による圧制の実態を知らせようとし、クロイターファールンと共にタフンを脱出することに成功する。
(「不可侵領域」、エルンスト・ヴルチェク&ウィリアム・フォルツ著、嶋田洋一訳、ハヤカワ文庫SF1665、2008年7月発行、ISBN978-4-15-011665-1)
2008年7月アーカイブ
新開発の旅客機のテスト機と自衛隊の戦闘機がいずれも高度20000mで謎の爆発事故を起こす。生き残った自衛隊機パイロットと航空機メーカーの調査員は原因究明のために再度20000mを目指す。一方、死亡した自衛隊パイロットの息子である少年は海岸で謎の生物を発見し、幼馴染の同級生と共に飼いはじめる。20000m上空で発見されたものは全長数十kmにも及ぶ未知の知的生物だった。「白鯨」と名づけられた生物は急速にコミュニケーション能力を発達させ、人類との交流を進めるが、北の某国の脅しによって攻撃を受けた白鯨は多数の破片に分裂し、破片たちは海岸沿いの町を報復に襲い始める。パニックに陥る日本を救ったのは、少年たちが飼っていた生物「フェイク」だった。フェイクはかつての事故で剥落した白鯨の破片だが記憶を失った状態で少年の頼みのままに白鯨の破片を吸収していった。しかし、少年とフェイクは、航空機事故のもう一人の遺族の少女の進める白鯨打倒運動に巻き込まれ、白鯨の最大の破片で人類に理解を示す「ディック」とフェイクの最終対決という事態に突き進む。2組のカップルを軸に落ち着くべきところに落ち着く結末が心地よい。ボーナストラックとして巻末についている少年カップルと需要な役割をする少年の後見人的老人の後日談も(予想どおりの結末ながら)感動を生む。気の強い自衛隊パイロットの美人三尉と調査員の男性カップルのその後も読んでみたいものである。有川浩の作品はずっと読みたいと思っていたので、これを機にどんどん文庫化してくれるといいなあ。(やっぱり収納場所の問題で文庫の方が助かるので)
(「空の中」、有川浩著、角川文庫、2008年7月発行、ISBN978-4-04-389801-5)
スプロール・フィクション特集?。どうもこのスプロール・フィクションってあまり趣味に合うのがないんだが、今回の特集は結構読めるものが多かった。ベンジャミン・ローゼンバウム「蟻の王」はITバブルの典型のような会社の勃興を題材にした寓話。クリストファー・バルザック「卵の守護者」は、姉の頭からシダレヤナギが生えてきて、という顛末をネタに描くエコ問題を扱ったもの。アラン・デニーロ「テトラルク」は、ジョン・コルトレーンの<マイ・フェイバリット・シングス>へのオマージュ作品。バース・アンダーソン「テオティワカン」は、死んだ母に話しかけるためにピラミッドに上る少年の話だがケータイを使うのが今らしい。エカテリーナ・セディア「腸抜き屋」は、車の臓物が抜き取られる連続事件を扱ったもの。ホリー・フィリップス「眠りの宮殿」は、眠りの王を封じ込めた宮殿の異変と新たな女王の誕生を描く。特集外では、桜坂洋「ナイト・オブ・ザ・ホーリーシット」は、チェーンソー少女の第3話で担任教師が少女をホテルで待っている話。吉田親司「巨橋崩壊」は7月にJコレクションから出る「マザーズ・タワー」の序章でインド-スリランカを結ぶ橋の危機と主人公の聖母と4人の男達の登場を描く。本編が楽しみである。連載では、山本弘「地球移動作戦」<第2回>は2075Aをやっと発見したフランたちだが2075Aの進路が地球の直近であることが判明し<ファルケ>のピアノ・ドライブの異常も報告されて緊迫する。梶尾真治「鬼、人喰いに会う」<怨讐星域第8話>ではついに敵対していたコミュニティ同士が出会い、ブッシュ・バードと新種の百年蝉の騒動により協力が進む様子が描かれる。巻頭で<星野之宣SF作品集成>が特集されていたので、結局迷っていたこの作品群も買う羽目になってしまった。すべて読んでるしほとんどは単行本も持ってるんだけど、ごく一部の未収録作品があるしなあ。因果なことよ。
