2008年6月アーカイブ

片手間ヒロイズム

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「食卓にビールを」が終わって淋しく思ってたが、この作品はその系統のものといっていいようだ。やはり連絡短編の形態で、主人公は女子高生の真里。「地球を救う為、インドで仲間を捜してきます」という謎の伝言と共に妻に失踪された東里大学発明科の粟野正義准教授と赤ん坊のえーちゃんを哀れに思った親族によってベビーシッターに派遣されているという設定。といっても真里自身は正義に恋心をいだいていることもあってベビーシッターも喜んでやっているのだが。奇妙な事件に巻き込まれるのはいつものとおりで、滅んでしまった人類を復活させるための繁殖用人間を求めて裏世界の住人が現れる話とか、同級生の悩みが超新星爆発を起こしてレアメタルを入手しようとする山師の父親だという話とか、境界線上にある地球を動かそうと暗躍する某星の工作員と敵対する情報部員の話とか、生物部の実験室に死体がと思ったら吸血鬼でという話とか。後半の3話では。正義がかつて魔王を倒すパーティーの一員で妻の千絵も仲間で、倒したはずの魔王が転生したのがえーちゃんで、そのおかげで死ぬはずだった正義も助かって、といった設定の裏が次々に明らかにされる。最後には再び千絵が失踪し、ベビーシッターを続けることになった真里の姿が描かれる。続けようと思えば色々続けられそうだけど、とりあえずこの作品には巻号の表示はない。このまったりした味はクセになるから続きが読みたい気はするんだが。

(「片手間ヒロイズム」、小林めぐみ著、一迅社文庫、2008年6月発行、ISBN978-4-7580-4010-5)

編集長インタヴューはかんべむさし。経歴やペンネームの由来とかが披露されている。高斎正のコラムは日本の車/バイクメーカーにもっと文化への理解を求めている。小松左京賞受賞作家の町井登志夫「吸血鬼」は貧血で運び込まれた少女をめぐる話で、危機的状況にある小児科や児童虐待などの現代的な問題を取り込んだ悲惨な結末が心を打つ作品。中国人作家の呉岩「マウスパッド」は、入手したマウスパッドによりどんどんネットに入りこめるようになる夫婦の話で、台湾の電脳街あたりではこんなものが転がってそうな感じ。イタリアからはフランコ・ペッツィーニの評論「紡績機と思考するための機械」。南山宏の新コラム「メタサイエンスねたさいえんす1」は、主にニューサイエンティスト誌の科学ネタからの紹介なので胡散臭いところも。追悼企画として、「衛星の父アーサー・C・クラークと語る」の再録と、土屋裕フォトグラフinイオ。田中光二は「ぼくのシネマオデッセイ?(1)」で復活。下村健寿『「さよならジュピター」のミステリー』は最終回で「さよならジュピター」の真のテーマを扱っており、読み応えあり。小松左京研究会のページでは海底火山学者の熊谷英憲による「深海槍投げ(おとし)」の話。夏には日本SF作家クラブ版「世界SF大会NIPPON2007」公式記録の刊行が予定されているので、次号は10月になるそうな。

「小松左京マガジン第30巻」、(株)イオ発行・角川春樹事務所発売、2008年4月発行、ISBN978-4-7584-1111-0)

θ 11番ホームの妖精

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高密度次元圧縮交通(high Compress Dimension transport = 通称 C.D.)技術の開発により鏡状門(ミラーゲート)と線路により世界中のどことでも数時間で結ばれるようになった時代が背景。C.D.開発期の事故からの唯一の生還者であり純有機式サイボーグとなっている少女T.B.、相棒の狼の姿をしたサイボーグの義経、第7世代人工知能であるA.I.のアリス、が東京駅上空2200mに作られた11番ホームを舞台に繰り広げるストーリー。第1話「鏡と狼と人工知能」では、突如11番ホームに突入してきたトロッコに乗っていた男は拉致された恋人を救うためにC.D.技術を半島の北の国に渡そうとしていたが、事情を知ったT.B.は追っ手の内閣諜報庁エージェントを相手に事態を収拾しようと奮闘する。第2話「魔女とバニラとショートホープ」では、過去の<情報セキュリティ危機>時代の遺物をホームに受け入れたT.B.たちの目の前で荷物は謎の攻撃により破壊され、義経が重傷を負ってしまう。そしてホームに現れた謎の少女はアリスに姿を感知させないままT.B.と話をするが、満足な話にならないまま、電脳妖精としての能力を発揮してアリスに介入し、バックアップの荷物の情報を開放しようとする。有機サイボーグ技術を統べる西晒湖涼子博士との通話で、現在の日本の技術の祖である湖峨鞘由太博士による人工DNAが謎の少女の複雑な事情にからんでいることをを知ったT.B.は何とか少女の心を開こうとし、敵の再度の攻撃や保安部八課の介入を防ごうと満身創痍になりながら、最後は西晒湖博士の介入もあり事態を切り抜ける。SFMの書評をたよりに読んでみあたが面白かった。まだまだ続きが書けそうな設定だがいかに。

(「θ 11番ホームの妖精」、籐真千歳著、メディアワークス電撃文庫、2008年4月発行、ISBN978-4-04-867020-3)

栞と紙魚子の百物語

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栞と紙魚子シリーズ6冊目。新キャラクターの妖怪司書・十口木一の登場する「妖怪司書」、栞と紙魚子が江戸時代の稲生物怪録の世界に巻き込まれる「栞と紙魚子の物怪録」、胃之頭公園の弁天堂の主である弁財天の盗撮騒動を描く「弁財天怒る!」、野生のモモタローと鬼が出てくる「モモタローの逆襲」、妖怪たちを交えて実施する「百物語」、転入生のクダ使い・管正一が登場する「クダ騒動」、胃之頭稲荷神社の主が宝物を盗まれた騒動を描く「天気雨1,2,3」、を収録している。作者のギャグの代表作になった感があるが、妖怪ものにもかかわらず、主人公2人ととぼけたキャラクターたちが面白い味を出していて楽しめる。

(「栞と紙魚子の百物語」、諸星大二郎著、朝日新聞社ソノラマコミックス(眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)、2008年6月発行、ISBN978-4-02-213120-1)

黎明の星(上・下)

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ヴェリコフスキーをネタにした「揺籃の星」シリーズの第2部。ネタがネタだけに怪しいエセ科学理論全開で、地球がかつて土星の衛星で激烈な変化の後、従来の常識に比べると非常に短期間で現在の姿になったという説をベースに、木星から突如飛び出した白熱の原始惑星アテナの接近遭遇で壊滅した地球を脱出した人々が土星系のクロニア人たちに混じって暮らすようになったのが前巻まで。今回は元地球人の中のかつての地球流の考え方を捨てられない一派が権力を握ろうとするが、クロニアでは拒否されるので策をめぐらせて地球への調査隊を乗っ取り、生き残っていたが原始化していた地球人を兵士として使って地球独立政府を設立しようとする。結局前作からの主人公であるキーンらの活躍によって陰謀は潰えるが、原始化した地球人たちがあまりにもあっさりと心変わりしてしまうとかご都合主義が目に付く。ホーガンの主張したいことを書きたいための作品にしかなってないようだ。現在の資本主義社会への痛烈な批判とか、科学技術への信奉を柱にした能力主義による理想世界とかの主張は、特に日本の政治状況の悲惨さを見れば賛同したくなる点もあるが、こんなにお気楽に進むわけないじゃん、と思えてしまうjのはやはり失敗だろう。3部作の第3部はまだ未執筆だそうだが、よほどのことがないかぎり期待できそうにないなあ。この作品で出てきた重力操作技術を発展させて大風呂敷にするとか?かつてのホーガンならそうした期待も持てたんだが。

(「黎明の星(上・下)」、ジェイムズ・P・ホーガン著、内田昌之訳、創元SF文庫、2008年5月発行、ISBN978-4-488-66325-4,978-4-488-66326-1)

サライ19

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冒頭の特別編「研修航海」では、護衛メイドの研修で訪れた島でサライたちは、ナチスの残党ラスト・バタリオンに捕らえられる。そこで明らかになったのは、21世紀初頭までに世界中の人々のDNAに蔓延していたMOZIACが発現するきっかけになった大災厄の原因が彼らの終末兵器「アポカリプス」だということだった。エネルギープラントの停止に伴う地震で島が壊滅する中、サライたちはかろうじて脱出し、ラスト・バタリオンは滅び去った。本編に戻った後半では、サライと協会との係りが語られ、戦車や戦闘ヘリすらも凌駕するサライの戦闘能力が明らかにされる。そしてMOZAICを世に放つことになるジスクールからの脱出を「生まれてくるべきではなかった」と否定する意識のまま自爆場面に戻るが、結局生きようとするチビのサライの運命に任せるという選択がされ、戻った現代の場面で物語は終わる。結局、意識の遍歴を見守っていた存在って何だったんだろう?巻末には連載中断の危機(脳出血と事故)のエピソードが書いてあるが、まだまだ次作を描いて欲しいものである。

(「サライ19」、柴田昌弘著、少年画報社YKコミックス、2008年5月発行、ISBN978-4-7859-2954-1)

SFマガジン2008年7月号

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クラーク追悼特集?。最近のマガジンにはめずらしく増ページ(320p)。特集は結構盛りだくさんで、代表短編の新訳として出世作である「太陽系最後の日」、初期の科学と宗教を扱った秀作「星」、ハードSFの傑作「太陽からの風」(これはもっと後の作品と思ってたら1964年でした)、いずれも納得のセレクション。日本人作家によるオマージュ短編がどちらも面白かった。野尻抱介「黎明期の出会い?」は公認研究士の惣七と美佳のシリーズ、「2001年」の原型短編へのオマージュで2人が異星のヒトザルに道具の使い方を教える実験をする話。小川一水「青い星まで飛んでいけ」では、人類はついに資源のあるうちに宇宙進出を果たせず滅びたが、その代わりに送り出された自己増殖機械は未知の探求を使命として能力を強化し続け次世代人類ホモ・エクスプロルレス(エクス)と名乗るようになった。30万年の間に多くの知性種と出会い時には融合して六代目となったエクスの遍歴をたどる。コアとそれを取り巻く機械群からなるエクスの構成やオーバーロードとの接触など魅力的な内容を含みながら希望を孕んだ結末が作者らしい。他には追悼評論が巽孝之「ある思索小説家の旅」、松浦晋也「科学技術を楽しむ人”ハッカー”クラーク」。追悼エッセイは坂村健(電脳建築家)、梶田秀司(産総研)、野田司令こと野田篤史(宇宙機エンジニア)、平岩徹夫(JAXA)、といかにもの人選。資料編として全邦訳著作解題と牧眞司編による年譜完全版。特集以外では、待望の山本弘の新連載「地球移動作戦」は、タキオンを利用した<ピアノ・ドライブ>宇宙船<ファルケ>が1500AUにある木星サイズの天体2075Aを目指す発端が描かれる。人工意識コンパニオンACOMなどの魅力的な設定も織り込んで期待がかかる。連載として、朝松健「魔京」<第13回>、谷甲州「乱風楓葉弐」<霊峰の門第十四話>神林長平「アンブロークン・アロー」<戦闘妖精・雪風、第3部>など。確かに増ページが必要なはずだ。このところ国内でも訃報があいついでいるので(今日泊亜欄、野田昌弘)今後も色々な追悼が続くんだろうなあ。

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