宇宙エレベータについて、素材の問題がカーボンナノチューブで解決することを前提に、実現に向けての様々な問題点の検討を施したもの。よくある建造法から、アース・ポート(地球上の繋留点)の選定の具体的問題(結構、赤道から離れてもよくて、むしろ天候などの諸条件も考慮すべき)、安全上の問題点としてテロや軍事防御などの問題が論じられている。将来的な見積もりとして月、火星などでのエレベータの建造についても検討している。日本語の書籍としては石原・金子による「軌道エレベータ」(1997)という先駆的なまとまった書籍があるが、2006年に原著出版のこの本はその後の経過を取り入れた現時点でのまとめになっているはずである。ただし、カーボンナノチューブの開発がそんなに順調に進むのかは、個人的にはちょっと楽観的すぎるんじゃないかと思えるが。でも、このくらい早くロケットより安価・安全な宇宙への進出手段が確立されないと、人類が宇宙へ出られないまま、地球に閉じ込められて衰退するという暗澹たる予想が立つので、何とかなって欲しいものである。
(「宇宙旅行はエレベーターで」、ブラッドリー・C・エドワーズ&フィリップ・レーガン著、関根光宏訳、ランダムハウス講談社、2008年4月発行、ISBN978-4-270-00335-0)
2008年5月アーカイブ
説明するまでもなくCOCOの人気Blog発のコミックス書籍化第2弾。SF者の早川さん、ホラー者の帆掛さん、純文学の岩波さん、レア本者の国生さん、ラノベファンの富士見さん(延流ちゃん)、といったおなじみの本読みオタクの女の子たちの生態を鋭く描いた傑作集。ちなみに帆掛さんの名前はかつての創元推理文庫の「怪奇と冒険小説」ジャンル(今のホラー&ファンタジーに相当)のマークから来てるってのは今の人は知らないんだろうか。この巻では延流ちゃんの弟の紙葉君、帆掛さんがバイトの本読みに通っている与田さんなどの登場人物に加え、帆掛さんが与田さんの書庫で見つけたネクロノミコンの召喚呪文を試したことにより出てきたティンダロスことてん子ちゃんなども出てきた楽しい話を繰り広げてくれる。巻末のエピソード「たったひとつの冴えたやりかた」はもちろんティプトリーの名作に関係あるんだが、召喚されたてん子ちゃんに泣いて願いを告げる帆掛さんの姿が涙を呼ぶ感動編になっている、さすが。この第2巻は<通常版>と特製ブックカバー&栞付の<限定版>があるが、いきつけの本屋では<限定版>しかなかったのでそちらを買った(まあ両方あってもやっぱり<限定版>を買ったんだろうが)。
(「今日の早川さん2」、COCO著、早川書房、2008年5月発行、ISBN978-4-15-208924-3)
前半の表題作では、転送ポイント”喉”からプローン銀河に進出したツバイたちは対探知の盾に隠れてプローンが厳重に封鎖する星系を発見する。ロルヴィクとア・ハイヌを連れて第二惑星ローズガーデンに潜入したツバイはそこの植物の栽培に使われているのが、故郷銀河でブルー族との戦いでいずこかへ飛び去ったはずのモルケックスであることを知るが、捕虜になってしまう。後半の「対モルケックス爆弾」では、プローンの軍使が届けてきたツバイの銃に隠されたメッセージにより、モルケックスのことを知ったローダンは、プローン女王との和平交渉のためにプローン銀河に赴く。モルケックスの集積する惑星グラーグ・シャナートを発見したローダンは対モルケックス爆弾を仕掛け、女王ジャイマダル・コンツェントリンとの交渉に臨む。最初はブラフと思っていた女王もモルケックス爆弾の威力を見せられ、休戦協定に同意し、ツバイたちも帰還し、何とか事態は収拾する。残るは、プローンの”裏切りの女王”と判明したゼウスへの対処である。
(「温室惑星ローズガーデン(ペリーローダン347)」、H.G.エーヴェルス&ハンス・クナイフェル著、若松宣子訳、ハヤカワ文庫SF1662、2008年5月発行、ISBN978-4-15-011662-0)
03年?07年にかけてビッグコミックに掲載された作品。やっとまとまった。救難作業に向かった宇宙船が襲ってきた敵の迷信につけこんで助かる「ジンクス」。山小屋でピューマやグリズリーに襲われた原因にはカラスたちがいたという「黒い案内人」。ヨット事故の記憶に悩まされる男のエピソード「すり替えられた悪夢」。ヴァンパイアの話をベースに物悲しい結末に到る「チスイコウモリ」。過去の決断を悔いる男の記憶にまつわるエピソード「再会」。イルカの訓練士がイルカたちの協力により悪党を倒す「ストレンジャー イン ブルー」。孫のビデオにこだわる老人のエピソード「妙子」。そして最初のエピソードと同じ宇宙船のクルーが昔の探査機(かぐや)の残骸を探す「Message on the moon」。の8つの短編。どれもよくできたSF短編集の趣はさすがである。
(「アフター0Neo2」、岡崎二郎著、小学館ビッグコミックス、2008年5月発行、ISBN978-4-09-181870-6)
ドイツのベストセラーとのことだが帯のあらすじが面白そうで読んでみた。プロローグではペルーの漁師が魚群に溺死させられるが、それは最初の異変にすぎなかった。ノルウェー海では新種のゴカイがメタンハイドレート層を掘っているのが発見され、カナダ西岸ではタグボートやホエールウォッチングの船がクジラやオルカの群れに襲われ、世界各地で毒クラゲが大量発生し、海難事故が続発、フランスではロブスターに潜む病原体による死者が出る。そして、ついに北海での大規模な地滑りによる大津波でヨーロッパ北部の都市は壊滅してしまう。すべての原因は海につながる。ノルウェーの生物学者ヨハンソン、カナダの生物学者オリヴィエラ、カナダ先住民のクジラ研究者アナワク、海洋ジャーナリストのウィーヴァー、SETI研究者クロウ、などの優秀な科学者たちが原因解明のために集まられ、アメリカ軍の女性司令官リーの指揮の元、対応策を練る。そのアメリカ海岸にも奇怪なカニの大群によって病原体が運び込まれパニックを引き起こす。科学者たちは異常な行動を取った海洋生物が共通のゼラチン状物質を持っていることを知り、ヨハンソンはついに一連の事態が起きた原因についての仮説を立てる。地球の海洋には人類とは全く異なる進化経路をたどった知性体が住んでおり、今回の異変は彼らの攻撃だというのだ。仮説を証明すべくヘリ空母インディペンデンスに乗り込みグリーンランド海に向かった一行だが、科学者たちの必死の作業により真実は明かされていく裏で、リーやCIAによる裏工作が進んでいた。未知の知性体Yrr(イール)とのコミュニケーションは取れるのか、リーの画策する攻撃の阻止は可能なのか、Yrrの攻撃により沈みかけた空母lの艦上で、人類の未来をかけた争いが起こる。最後にヨハンソンが決死の自爆でリーを道連れにし、ウィーヴァーによりオリヴィエラの遺産であるフェロモン物質が深海のYrrの元に届けられ、事態はいったん常態に戻ったようにみえるが、といったストーリー。ドイツ語版で1000ページ以上、翻訳の文庫では1500ページを超える大作だが、次々に起こる事件に引き込まれ、本国でベストセラーになったのもうなづける。多様な登場人物が出てくるが、主役級と思われた人物もどんどん死んでいったり、頼もしいリーダーと思われたのが実は狂気をはらんでいたりで、そうした面でも楽しめた。
(「深海のYrr(上・中・下)」、フランク・シェッツィング著、北川和代訳、ハヤカワ文庫NV1170,1171,1172、2008年4月発行、ISBN978-4-15-041170-1,978-4-15-041171-8,978-4-15-041172-5)
だいぶ前に読んでたのを記録してなかった。第1話「赤の記憶」は岩手の村を訪れた宗像とイザベラがグリム童話の赤ずきんちゃんの話とからんだ村のタブーシステムにより殺されそうになって何とか脱出する。イザベラがからむと何かとトラブルに巻き込まれる宗像だが使いでのあるキャラクターかもしれない。第2話「砂鉄八犬伝」は東亜文化大学の学長が関東進出を狙う王学園の理事長と結託して宗像を陥れようとするが、鉄にいわれのある地方出身の学生8名の助けにより危機を脱出するのを八犬伝とからめた話。第3話「吉備津の釜」は故里の岡山の伝説が題材になってるので興味深く読めた。吉備津の釜は昔、見に行った覚えがあるし、鬼ノ城付近もいろいろと整備されているようだが1970年という最近に全貌が発見されたとは思わなかった。「ビッグコミック」誌では着々と連載が続いている。
(「宗像教授異考録・第七集」、星野之宣著、小学館ビッグコミックス、2008年3月発行、ISBN978-4-09-181828-7)
15を読んだのはだいぶ前だが記録してなかったので16が出たついでに書いておく。15巻では月に進入した中国宇宙艦隊を迎え撃つため、ゲンズブール長官は無人迎撃機を出撃させるが、中国側の電磁魚雷により壊滅的打撃を受ける。ルナネクサスに中国機が迫った時、ウッドブリッジ補佐官の指揮する宇宙軍部隊が駆けつけ事態を収拾する。中国は月面に着陸し基地建設を開始する。一方、吾郎は生まれてくる息子に”歩”という名前をつけることを決心する。ルナネクサスに到着したウッドブリッジに対し、ゲンズブール一般の陰謀の手が迫る。16巻ではゲンズブールの陰謀は察知したファトマたちにより防がれ、危機は去ったかに見えた。いよいよ吾郎と理代子・歩の対面が実現するが、その裏ではかつて両親が死亡したのがウッドブリッジのせいだと恨むSGポリスのトビーの刃によりウッドブリッジが倒れる。ここまでが第1部で連載が中断していたと思っていたが、16巻では特に区切りもなく、続きが載っている。パキスタン北部の反政府組織でテロの計画が進行し、テロ実行犯である”聖戦士”たちがスペースプレーンのハイジャックに成功し、インドの早期警戒衛星チャンドラヤーン?に接近する。いきなりテロリストの話になって歩たちのその後はまだ語られないが(ウッドブリッジはやっぱりあのまま死んじゃったのかなあ?)、連載の方では核戦争になって悲惨なことになっている。これでもヘリウム3により月面に人類拠点ができてるだけマシで、現実世界ではそれも望めないとなると、なんか絶望的な気分になるなあ。
(「MOONLIGHT MILE 15,16」、太田垣康男著、小学館ビッグコミックス、2007年9月,2008年5月発行、ISBN978-4-09-181438-8,978-4-09-181864-5)
こちら、MPB(Milliopolis Polizei Bataillon=ミリオポリス憲兵大隊)の遊撃小隊<猋>の涼月・陽炎・夕霧の活躍も4巻目。空港でおきたハイジャック事件に対処する彼女たちだが、捕らえた首謀者の1人のはずのパトリックは中国服の機械化武装集団に襲撃されるうちに涼月と共に事件の解決に動くことになる。一方、テロリストに市民と共に人質になった陽炎は爆弾のスイッチを握らされ双子の兄弟にいたぶられるが、中国服たちとの激闘を切り抜けた夕霧たちに救出され一度は小康状態かと思われた。しかし、テロリストの双子の兄弟がレベル3を基本とする特甲猟兵であることが判明し、彼らの攻勢により劣勢に立たされる。国連都市の事件に対処するMSSの特甲児童と連絡を取り合って対処しようとするも、夕霧は重傷を負い、陽炎はレベル3の転送を開封し暴走してしまう。何とか暴走が収まり、テロリストの目標の1つが中国からの最新鋭ステルス戦闘機であることが判明した結果、ステルス戦闘機を何とか証人として国連都市に送り届けると共に、空港の事件を解決しようと涼月たちの激闘が繰り広げられる。<スプライト>の特甲猟兵と違ってこちらに登場する敵の兄弟はヤクザな関西弁が割り当てられて、陽炎へのいやらしいいたぶり具合やその武装が<マルドゥック>の異形の敵を思い出させてくれる。従来は<スプライト>の方に出ることの多かった皇・蛍がこちらに登場し、鳳と涼月のつながりの一部が明かされたりするが、2人のトラクルの謎や特甲猟兵の謎は続き、完結と言われる続巻に期待がかかる。
(「オイレンシュピーゲル肆Wag The Dog」、冲方丁著、角川スニーカー文庫、2008年5月発行、ISBN978-4-04-472908-0)
ミリオポリス(近未来のウィーン)の治安を司るMSS(Milliopolis Sicherheits Schutz=公安局高機動隊)の要撃小隊の鳳・乙・雛の活躍を描く第4巻。巻頭の短編「フロム・ディスタンス 彼/彼女までの距離」はつかの間の休日にデートする鳳と冬真の姿を描く掌編。本編にあたる「テンペスト」では、国際的な戦犯法廷び立つ被告と7人の証人を保護する任務を描く。被告はスーダンのアブドル・アツィム将軍。証人たちには”鉄と貨幣の王”ヴィッテルス、修道女アーレ、ダイヤ商ブリギッテ、ハプスブルグ家の末裔ミッターマイヤー、通訳官パーキンス、FBIのハロルドという世界的名士の6人と秘された7人目。さらには前巻で空きになった情報解析課課長に就任した巨漢ディーゼルや兵器開発局のアデライード、クラリッサという新キャラクターも登場する。6人の証人たちとテーブルトーク・ロールプレイング・ゲームの”世界統一ゲーム”で複雑に相互作用する世界の様相と証人たちのゆるぎない能力を実感する鳳たちだが、彼女らの任務をあざ笑うように直後から証人たちが次々と殺されていく。謎の暗殺犯とそれを追うFBIのハロルドと鳳。そしてついに現れる特甲猟兵。前巻の白露に加えて、”見えない特甲猟兵”も加わり、レベル3の特甲に苦戦する3人。左目をやられた乙はついにレベル3の特甲の転送を開封し暴走するが、ギリギリのところで何とか元に戻る。そして別の事件と思われていた空港のハイジャック事件に捕らえられているはずのトラクルが現れ、両事件が1つであることが判明する。空港のMPBの特甲児童たちと交錯する作戦の中、最後の証人が中国からの最新鋭ステルス戦闘機であることがわかり、飛来するその戦闘機を守って特甲猟兵との激烈な戦いが始まる。2人のトラクルの謎や特甲レベル3の謎はますます深まりクライマックスへと向うようだ。次は5・6巻で完結らしい。
(「スプライト・シュピーゲル?テンペスト」、冲方丁著、富士見ファンタジア文庫、2008年4月発行、ISBN978-4-8291-3281-4)
クラーク追悼特集?。元々「太陽の盾」出版に合わせて特集の予定だったのが追悼になってしまった。特集の内容はエッセイ・コレクション、関係者の追悼エッセイ集、バクスターとの会話の訳、「太陽の盾」刊行関連、バクスターによる短編「時のこどもたち」。バクスターの短編は文明荒廃後の地球史を数十億年のタイムスケールで描くものだが、細々と生き延びたあげくに滅んでしまう人類の姿には希望が見出せず、その点でクラークの味がでてないのが残念。クラークのエッセイも特に取り立ててというほどもなく、一番良かったのは関係者の追悼エッセイだったりする。読みきりの横山三英「愛の新世界」は、愛でできたホテルを描いているようで、その生い立ちにある残酷な描写は前作よりもよかったが、こうした残酷さが現実にも起こりうると感じられるのが現代の怖いところである。連載陣は、夢枕獏「小角の城」は<第17回>でしばらくお休みとのこと。山田正紀「イリュミナシオン」<第14回>はようやく「酩酊船」の出動までこぎつけたが、これで全体のどのくらいなんだろう。第3回日本SF評論賞の選考委員特別賞受賞作の藤田直哉「消失点、暗黒の塔 『暗黒の塔』?部、?部、?部を検討する」は読みでがあるが、元を読んでないのが痛い。次号もクラーク追悼特集の?だそうである。
文庫化されたので読んだ。相変わらず専用宇宙船<ラブリーエンゼル>を失ったままのケイ・ユリに出された新たな出動命令は、惑星キンメリアの大陸トゥーレをまるごと使ったテーマパーク、バーバリアン・エイジで犯罪組織ルーシファによるシステムへの干渉の調査である。客を装って潜入した二人だが、ケイは戦士、ユリは魔法少女のキャラクターを纏うことになり、たちまち本領を発揮。競技会で優勝してこの世界でのお金であるコナンを荒稼ぎし、強大なドラゴンを倒し、僕のジンガラとして仲間にし、野盗退治して、野盗の頭目兄弟も子分にし、大陸を3分する大国に潜入するや、傭兵隊長にあっさりなってしまう。さらんいギャンブラーのロックの情報により双子が幽閉されているという噂のの王国に向かい、群れ出るモンスターを倒していく。最後には伝説の甲冑と合体してキャラクターの1人の超戦士アーシュラになったムギと共に、3大魔道士の1人スカルウィザードを倒し王になるところまでがこの巻。ルーシファーの干渉については何も解明されていないが、そのあたりは次巻の大帝国でということだった。
(「ダーティペアの大征服」、高千穂遥著、ハヤカワ文庫JA921、2008年4月発行、ISBN978-4-15-030921-3)
桜坂洋デヴュー作の大改稿とのことだが、最初の版は引越しでダンボールの山に眠ったままなので直接の比較jができない。よくわかる現代魔法のシリーズは、古典魔法が人間の体を流れる弱電流の作用で異なる物理法則の支配する異世界(異レイヤー)との間に相互作用を引き起こし、デーモンなどの召喚をするのに対し、現代魔法はPCに流すコードによって同様の作用を引き起こすという設定が基盤。偉大な悪魔祓いの祖父の素質を引き継ぐ古典魔法使いの美少女・一ノ瀬弓子クリスティーナ、現代魔法の第一人者の姉原美鎖とその弟でガチガチの現実論者の聡史郎、どじっ子の魔法使い見習いの森下こよみとクラスメートで理系少女の坂崎嘉穂、が主要登場人物。こよみが美鎖の弟子になり、とある企業ネットで強力なデーモンを召喚するコード・ソロモンが実行されようとする危機を、美鎖たちとクリスティーナが(結果的には)協力して食い止めるというのがストーリー。このニューエディションの出版に続いて、長らく止まっていたこのシリーズも続巻が夏には予定されているそうなので、そちらも楽しみである。
(「よくわかる現代魔法1 new edution」、桜坂洋著、集英社スーパーダッシュ文庫、2008年4月発行、ISBN978-4-08-630421-4)
