ワールドコン来日に合わせてテッド・チャン特集。といっても寡作なチャンのこと未訳の小説がそうあるわけもなく、20年の歳月を越えられる<歳月の門>をめぐるチャン版アラビアンナイトである7月発表のノヴェレット「商人と錬金術師の門」と自由意志をめぐる小編「予期される未来」の2編。後はワールドコン前に中国で開催された「2007成都国際科幻・奇幻大会」パンフレットのエッセイの改稿版「科学と魔法はどう違うか」とワールドコンで行われたインタヴューといったところ。ワールドコン関係では他に早川書房企画「星界の伝説」の採録。読みきりでは、キース・ローマー「ダイノクロム」は人工意識を備えたスーパー戦車<BOLO>シリーズ第1作(1967年)で長い眠りからさめたBOLOの1ユニットが捕らえた敵の油断をついて復活を遂げる。もう1篇はセルゲイ・ルキヤネンコ「特別大使との夕暮れの会談」は、圧倒的な文明差がある異星人に対し領土割譲の交渉に臨む特別大使の姿を描く。先月に続きハヤカワ・ロボットSFコンテストの次席入選作が3編。江沼エリス「ライアンの尻尾」は盗まれた盲導犬ロボットの顛末を描く。船戸一人「二重写し」は脳を機械化した機械脳派の人物にインタヴューに行った事故で脳以外を機械化した主人公を描く。久道進「セーフセーブ」は老人の徘徊や危険行為を防ぐために導入された人工皮膚ともいえるセーフセーブをめぐる物悲しい物語。連載陣では、朝松健「魔京」<第10回>は応仁の乱の時代に決着。田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」<第36回>はヒトラーが神に戦線布告し第1部が終結だそうだ。谷甲州「高取城攻囲」<霊峰の門第12話>では明確な指導体制もないまま戦いが始まろうとしている。他にはハヤカワ・ロボットSFセミナーの採録の神林長平×円城塔対談。矢口悟によるロバート・ジョーダンの追悼記事など。
2007年11月アーカイブ
3部作の完結編(というか元々長大な作品を3つに分けたのだから3部作というのとは違うようだが)。前巻末で全長100km、超金属アドマンティウム製の巨大恒星間宇宙船<喜びのフェニックス号>を取り戻したファエトンは海王星ステーションに到着し、所有者である海王星人ネオプトレマイオスの乗船を受け入れることにした。そして乗り込んできたのはかつて白鳥座X?1に植民し、そこのブラックホールのエネルギーを利用して独自の発展を遂げ、その後沈黙した<第二の普遍>または<沈黙の普遍>と呼ばれる文明圏からの使者であった。<黄金の普遍>の軍事を司るアトキンズ元帥の手によって使者をうちやぶりフェニックス号を再び掌握したファエトンたちは<黄金の普遍>すべてのソフォテクの総体ともいうべきアースマインドの助言も受けて、<沈黙の普遍>のナッシング・ソフォテクと対決するために太陽アレイをコントロールする水星等辺区域ステーションへ赴き、ヘリオンの協力のもと、太陽内部の輻射境界層に潜むと思われる敵のもとへダイビングを敢行した。ナッシング・ソフォテクとの対決の結果、太陽表面に浮上したフェニックス号を迎えたのはアトキンズと<黄金の普遍>の封鎖大艦隊であった。そこでついに<黄金の普遍>のすべての知性体が合一する<超越>が起き、フェニックス号内のナッシング・ソフォテクが消滅し太陽系での戦いは一旦終結する。<超越>は終了するが、まだ存在するはずの<第二の普遍>のナッシング・マシンたちとの戦争の時代の始まりが告げられ、フェニックス号は飛び立っていった。分厚い割りに相変わらず読みやすい。90Gの加速度に対応する身体改変の様子や異質の電子的知性との対決などいろいろ趣向をこらしてあるがストーリーとしては敵との対決を主としたスペースオペラに近いのが読みやすい原因か。帯にある銀河の彼方へ発進というのが最後の最後のことで実際には彼方へ飛び立ってからの話は含まれないのが残念ではあるが。
(「ゴールデンエイジ3マスカレードの終焉」ジョン・C・ライト著、日暮雅通訳、ハヤカワ文庫SF1638、2007年10月発行、ISBN978-4-15-011638-5)
ワールドコン特集のような内容。巻頭の特別誌上対談はイタリアのSF作家ヴィットリオ・カターニと小松左京の対談をトリノで日本語教師をしながら翻訳をしているマッシモ・スマレが構成したもの。ワールドコンのレポートとして、小松左京の参加イベント(乙部順子)、小松左京ブース(住吉信夫)、ホテル交流会レポート(松房一郎)。第8回小松左京賞は受賞者の上杉那郎氏のインタヴュー。結構高い評価で期待が持てるが、この賞の受賞作ってハードカバー単行本だからなあ。リバイバル小説は「第二日本国誕生」。今読んでもこんな状況が歓迎されそうな内容だが、これが69年のものとは(月刊パンチOH!69年1月号だから実質68年の作品か)。常連は、高斎正のコラムランドは「ジャーナリズム」と題して2輪のTTレースを題材に相変わらず日本のバイク(車もだろうが)関係のジャーナリズムの批判。下村健寿氏の「さよならジュピター」のミステリーはいよいよ解読編1「全体構造と木星の象徴するもの」と題してオデュッセイアとの共通点や木星が舞台である理由や大赤斑の意味などが解読されて読み応えあり。小松左京研究会のページでは中野洋氏による「3K宇宙背景放射と雑音標準」。産総研ってそういうこともやってのか。ワールドコン関係では日本沈没3とかさよならジュピターのリメイクとかの話も出たようで、クラークなみに小松左京にもまだまだ頑張って欲しいものである(一番は虚無回廊の完結だけど)。
(「小松左京マガジン第28巻」、(株)イオ発行、角川春樹事務所発売、2007年10月発行、ISBN978-4-7584-1102-8)
林譲治の近未来ものに共通するユビキタス社会が実現された2036年が舞台。海洋開発研究機構(JAMTECS)の吉田尚美は気象予測シミュレーションが大型台風の進路予測を大きく誤った原因を究明しようとしていた。同じ頃、阪神北市では福祉事業を妨害する団体を調査中だったジャーナリストの失踪事件を追う高齢福祉課の日向拓海が調査を進め謎の猫屋敷に閉じ込められる。さらに日本主導の巨大人工島建設計画マリネーションプロジェクトが進行中のスマトラ沖では原人化石発掘作業中に行方不明となった古生物学者の謎に優生学的思想を持つ集団”ユーレカ”がかわっていると見るJAMTECSの山城星良が事件を追っていた。マリネーションプロジェクトの中核をなすメガシップ・ムルデカと日本での事件が交錯し、ユーレカのムルデカ爆破計画が明らかになるが、JAMTECSに表れたユーレカの黒幕に対し、台風進路予測失敗の原因を突き止めた尚美の論理的説得が項を奏し、ムルデカ沖の海上基地<かいらい>では星良たちの活躍により陰謀は食い止められる。猫屋敷での統率された猫たちの姿と拓海たちの娘の美海がしゃべらない原因をからめてユビキタス環境と人類の進化の問題にも取り込んであるところが表題に係るが、黒幕の企業のボスに対してあんなにあっさりと論理的な説得がきくんだろうか?
(「進化の設計者」林譲治著、ハヤカワJコレクション、2007年9月発光、ISBN978-4-15-208848-2)
小川一水版の航時軍団とも言うべき時間SF。冒頭、西暦248年、邪馬台国の女王・卑弥呼である彌与(みよ)は不気味な”物の怪”に襲われたところを大剣を持つ長身の見知らぬ装束の男に救われる。この世界では世界各地に伝わる使令(つかいのおきて)が共通して伝える内容「世に災いがあり、災いが必ず襲い来るが、人が合力してそれに当たれば必ずや退けられ、あらゆる魔を祓う強大な援けが来るだろう」に従って大きな戦が静まっていた。男を”使いの王”と考えた彌与に対し、メッセンジャー・Oと名乗った男オーヴィルは自分が来た理由を話し始める。オーヴィルたちメッセンジャーは別の時間枝の26世紀から来た。そこの26世紀では地球はET(Enemy of Terra)と呼ばれる謎の増殖型戦闘機械群により壊滅し太陽系外縁に逃げ延びた人類は海王星域に反攻基地を築き、人型人工知性体であるメッセンジャーたちを時間遡行させてETに対抗しようとしていた。メッセンジャーとしての成長段階で人間の女性であるサヤカとつきあって”人間”を守るという概念を学んだオーヴィルは、出撃した後サヤカたちの時間枝が滅びることを知らされる。サヤカとの記憶を胸に時間遡行をしながら様々な時間枝でETと戦うオーヴィルたちだが戦況は芳しくなく、事態を決するために指令を出す戦略知性体であるカッティは、人類の起源に近いBC10万年の時代に強固な基地を築き、そこから時代を下ってETに対抗する策に出る。BC10万年の基地ができ時間を下りはじめたころ、ETの襲来の原因が判明する。12光年離れた赤色矮星ティーガーデン星に1億5千万年後に誕生する知性体がかつて人類の送り込んだ探査機により進化を邪魔されてことで復讐のために時間遡行して攻撃してきているのだった。和解の可能性はなく、時代を下るメッセンジャーたちと遡行するETが雌雄を決する時代が、西暦248年だと言うのだ。オーヴィルの協力と指導の下、邪馬台国に集結した近隣を含めた軍勢はETを追って関東まで進出するが、そこでETの罠にはまり西への敗走をするはめになる。住吉津に追い詰められた彌与たちにビクトリア湖ベースのカッティからの最後の通信が入る。そしてオーヴィルまでもが倒され、それでも生き延びて戦おうと鼓舞する彌与の決意の鬨の声に呼応して出現した巨大な空中船こそは人類の時間軍がETを打つために送り込んだものであり、彌与の啖呵で生まれた時間線が生んだ”援けの者”であった。ついに多くの時間線を賭けた戦いは集結し、邪馬台国の卑弥呼に始まる人類の正史が確立したのだった。時間線をまたがって戦う2つの勢力ということで航時軍団を思い出したが、1つの時間枝だけではない全人類という視点と”人間”という視点を愛した女との記憶にからめて絶望的な戦いを続けるオーヴィルの姿や彌与とのまじわり、時間遡行理論とETの原因など、随所に現代的な味付けを施しながらもわずか276ページにコンパクトにまとめた感動編である。
(「時砂の王」小川一水著、ハヤカワ文庫JA904、2007年10月発行、ISBN978-4-15-030904-6)
クリスマスSF特集。コニー・ウィリス「ニュースレター」はクリスマスを前に親戚間での恒例のニュースレターに頭を悩ます主人公は同僚から周囲の人の様子がおかしいことを知らされる。侵略者の密かな侵略を疑い対抗策を練った結末は、という話。チャイナ・ミエヴィル「あの季節がやってきた」は、何をするにもライセンスが必要になった時代に娘とのクリスマスのお祝いに頭を悩ます主人公に懸賞でパーティーが当たるが、という話。ピーター・フレント「クリスマス・ツリー」は、貧しい村の少年が立ち入らないよう言われていた谷で熟れた実のなるクリスマス・ツリーを見つけて、という話。暴れるツリーが印象的。M.リッカート「郊外の平和」はクリスマスを控えた郊外の一軒家の日々に疲れを覚える母親の姿を描く。やはりウィリスの話が一番うまい。もうひとつは世界SF大会「Nippon2007」総括特集。巻頭の井出聡司、東茅子、編集部によるレポート、ゲスト・オブ・オナーのブリンのスピーチと天野喜孝インタヴュー、パネルレポートといて巽孝之「<ニッポンコン>ファイルSFWJ版」、小川隆「パネル、そしてパネルの日々」、森下一仁「大きな期待と関心のなかで」、早川書房企画「グイン・サーガは何を描いてきたか」といったところ。他にはケリー・リンク・インタヴューなども。連載陣は、夢枕漠「小角の城」<第14回>、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」<第35回>、山田正紀「イリュミナシオン」<第12回>。ハヤカワ・ロボットSFショートショート・コンテストの発表も。最優秀作の谷中悟「僕たちの放課後」はロボットと人間の境界があいまいになった時代の人間化学を学ぶ小学生ロボットのひとときを描く。次席の3作も次号に掲載だそうだ。
