レナルズのレヴェレーション・スペース(啓示空間)ものを集めた短編集の1巻目。表題作はSFマガジンで読んでいたが、脳に大量の機械を埋め込んで精神を拡大し、個人を融合したネットワーク意識である超啓蒙意識を形成する連接脳派と呼ばれる人類の一派が旧人類の連合と対立して火星の直径2000kmの大気のダム”長城”の中に立てこもっている。和平交渉に訪れたクラバインだが兄の計略により戦争状態に突入し連接脳派のガリアナと共に連接脳派となって脱出する。「氷河」もSFマガジンで読んでいた。太陽系外へ逃れたガリアナとクラバインはロス248星系のダイアデム星で自分達より前に到着していたアメリカ人の基地を見つけ自ら凍結処理したと思われる男を発見し蘇生させる。気象学者と思われていた男は実はこの星固有の生物ワーム(のネットワーク)を守るために他の隊員を殺して別人に成りすましていたことが判明する。「エウロパのスパイ」は「90年代SF傑作選」に収録されて読んでいた。エウロパの氷の下の海中に浮かぶ無政府民主主義者の懸垂都市カドムス?アステリウス市に、対立するガニメデのギルガメッシュ・イシス政府からのスパイが潜入する。目的のハイパーダイヤモンドを入手して海中にうまく逃れたかに見えたが、それはスパイの体に埋め込まれたレトロウイルスを入手するために海底の熱水噴出孔の住む水棲化人類のデニズンたちが仕掛けた罠だった。「ウェザー」は短編集用の書き下ろしなので初訳。難民を冷凍満載してシバ?パールバティ星系から発進した星間船ペトロネル号は海賊船コカトリス号の追跡を受けた。偶然の隕石により破壊されたコカトリス号から連接脳派の少女ウェザーを救い出した船体主任のイニゴは何とかウェザーと打ち解けようとするが、ペトロネル号のエンジンもダメージを受けており、さらなる海賊船の影も見えてくる。少し心を開いたウェザーは連接脳派製エンジンの内部に入り、コントロール用の脳の手助けをすることでイニゴたちを助けることを決心する。「ダイヤモンドの犬」は別の単行本から日本版短編集に取り込まれた中篇。辺境の星で発見された謎の構造物は異星種族の遺物と考えられた。外観は塔のようで内部は螺旋状に部屋が連なっており、ひとつひとつの部屋には数学の問題がしかけられ、解けば次の部屋に進めるが間違うと苛烈な罰が待ち受けている。塔の解明に執着するローランド・チャイルドは、友人であり語り手のリチャード、違法な人体改造で定評のある医者のトランティニャン、星間船船長のフォルクレー、女ハッカーのヒルツ、リチャードの元妻でありパターンジャグラーの星を訪れ神経パターンを数学向けに変えられた異星人研究者セレスティンの面々を集めチームで塔の攻略をしようとする。上がるにつれて難問化する問題に倒れていくメンバー。最後には攻略のためにダイヤモンド製の犬に似た形態にまで身体改変をし(タイトルはこれにちなむ)、引き返したリチャードとセレスティンに対して先に進んだチャイルドはついに塔から出てくることはなかった。還ってみるとカズムシティは融合疫で姿を変えていたが、塔の謎から逃れられないリチャードは犬の姿のまま再び塔に行こうとする。長さも一番長いが、謎の塔の設定やその解明に魅入られた主人公の業など、この中篇が一番面白かった。2巻は12月の予定。
(「火星の長城」アレステア・レナルズ著、中原尚哉訳、ハヤカワ文庫SF1630、2007年8月発行、ISBN978-4-15-011630-9)
2007年9月アーカイブ
前半の「グロヴァール人の遺産」では、ホワルゴニウムの中からのインパルスを元にコンドル様の異星人が発見されたが既に死亡しているかに見えた。一方、ホワルゴニウム格納庫近くに格納されていたポスビのフラグメント船が超光速飛行できるかもしれないとしてテラ周辺宙域の探査飛行が敢行されることとなった。しかし最寄の星めがけてちょっと進んだだけでリニア飛行はストップせざるを得なくなる。メールシュトローム中では距離が見かけと違うようだ。停止した近くに漂っていたプリズム状のステーション中には、コンドル様の異星人(グロヴァール人)がいた。死んでいるようにみえた彼らは復活し穏健派と強硬派に分かれて争いだす。強硬派に麻痺させられたグッキーたちだが最後にはグロヴァール人はすべて死亡しフラグメント船は恒星の周囲の惑星に不時着した。後半の表題作では、不時着した惑星ではコウモリ種族が襲ってくるが、そこに身長250mの巨人が現れる。神話のゼウスにしか見えない巨人のおかげでコウモリ種族の脅威は去るが、ゼウスの僕のサイボーグであるフォンテーンがフラグメント船に送り込まれ、惑星から脱出しようとするブルたちを強制的に引きとめる。ゼウスの力に手も足も出ないブルやグッキーたちだが、ゴシュモ=カン教授の機転により自らの存在に疑問をもたされたフォンテーンが自己崩壊し、考えを変えたゼウスはアリ状の正体を現した。
(「3460年のゼウス」クラーク・ダールトン&ウィリアム・フォルツ著、林啓子訳、ハヤカワ文庫SF1631、2007年9月発行、ISBN978-4-15-011631-6)
シュピーゲル・プロジェクト第2弾のもう一方。実際はこちらの方が刊行は先だった。ミリオポリス憲兵大隊(MPB)の<猋>(ケルベロス)遊撃小隊を構成する身体を機械化された特甲少女、<黒犬>(シュバルツ)こと涼月、<紅犬>(ロッター)こと陽炎、<白犬>(ヴァイス)こと夕霧。落とされたロシアの原子炉衛星アンタレスをきっかけに7つのテログループが暗躍し、3人は途中任務の都合でバラバラに行動することになる。ロシア特務官ユーリー・スタリツキー中佐の部隊と同行した涼月は最後には戦友のような境地に至るも軍に浸透した敵により部隊は全滅してしまう。ミハイル中隊長と同行した陽炎は敵の超絶的技巧を持つスナイパーに邪魔されるが最後のMSSの特甲少女たちとの共闘戦線では見事、敵にライフルを打ち抜く。広告のために広報部の千々石と同行した夕霧はテログループの目的の手がかりをTV番組で暴露した男が殺された後を追ってテログループのアジトに突入する。テログループの目的が超高層ビル<ヴィエナ・タワー>上部に核爆弾を備え付けて爆発させることだと判明してからは、MSSの特甲少女たちと連携してビルを内側に崩落させ、何とか惨事を防ぐ。どちらかというとテログループの正体や活動が断片的にしか露にされず、本作を読んだだけではイマイチ筋がわからないかもしれないが、スプライトの方を読めば、そのあたりも筋道だってわかるようになっているので、刊行順に読むのが正解だったかもしれない。まあスプライトを先に読んでたおかげでストーリーがよく飲み込めたわけだが。
(「オイレンシュピーゲル弐」冲方丁著、角川スニーカー文庫200-2(Y571)、2007年6月発行、ISBN978-4-04-472902-8)
シュピーゲル・プロジェクトの第2弾。刊行はもう一方のオイレンシュピーゲルが先だったけど読んだのはこちらが先。ミリオポリス郊外にロシアの原子炉衛星アンタレスが落ちる。衛星の落下はテログループによる人為的なものと判明、7つの角笛にからむカウントダウン声明が発表され、7つのテログループが奇妙な連携を見せる。原子炉はテログループ間でバトンタッチにより運ばれ、核爆弾によるテロの計画が推測される。<ミリオポリス公安高機動隊>(MSS)所属の身体を機械化された特甲少女、<紫火>(アメテュスト)の凰(アゲハ)、<青火>(ザーフィア)の乙(ツバメ)、<黄火>(トパス)の雛(ヒビナ)の3名も対テロ戦に出撃する。敵のスナイパーによる凰の墜落、兵器解析のアドバイザのパウロ神父につき従う少年、冬真の敵による誘拐などの事件が次々に起こり、なかなか敵の確信を捕らえられない。かろうじて敵から逃れた冬真によって、敵の狙いが超高層ビル<ヴィエナ・タワー>の上層での核爆発にあると判明し、凰たちは警察組織MPBのもう一組の特甲少女たち3名と協力して期限内に<ヴィエナ・タワー>を内側に崩落させる作戦を実施する。オイレンシュピーゲルのメンバーとの交錯、かつて凰と組んで死亡したと思われている特甲少女、皇(スメラギ)と蛍(ホタル)の影からの支援、日本人テログループを阻止しようと協力する剣の達人モリサンと乙の交感、などなど読みどころは多い(モリサンの悲しい最期も)。この調子で1本の物語に収束していくか?
(「スプライトシュピーゲルII」冲方丁著、富士見ファンタジア文庫136-9、2007年7月発行、ISBN978-4-8291-1949-5)
山本弘の短編集(「審判の日」の改題)。冒頭の表題作は主人公の宇宙物理学者の計算の結果、判明したのは、この宇宙が極大エントロピーの海から偶然生まれたもので、生まれてから8日ほどしかないということだった。人々の持つそれ以前の記憶すらも偶然生成されたもので、さらにこの宇宙が消滅するまでには10日もない。記憶の中の恋人に宇宙消滅前に会いたいと送るメールがせつない一遍。「屋上にいるもの」は偶然マンションの隣の女性から聞かされた謎の失踪事件。しかしその女性が墜落死したことから屋上に上がって確かめようとした主人公の見たものは裸で踊る少女の姿だった。ホラーの手法で屋上の恐怖を描くが少女の正体は(ちょっと)SF的に憶測してある。「時分割の地獄」は以前SFマガジンで読んでいたが、主人公のAIドル(AIとCGで作成された電脳空間の仮想アイドル)が、彼女に否定的なキャスターと対話しているように見える冒頭から、実はそのキャスターは彼女自身が自分のプライベートスペースに構築したシミュレーションで、殺人を試すために作ったものだったことが判明する。より人間を知るために殺人を繰り返し、その罪の意識すらも抱え込むAIを描く。「夜の顔」は、突然様子がおかしくなった婚約者の元を訪ね、彼が他の人が視ていない一瞬に自分を見る巨大な顔に脅かされていることを知った主人公の女性が何とか落ち着かせた矢先、<顔>に彼を食われてしまった、と警察の取調室で語るホラー。理性のスキマから覗く不条理なものを扱った作品。「審判の日」は、ある日突然<プシュッ>という音と共にほとんどの人が消えてしまう。取り残された主人公の女の子が、変な宗教に毒された一団から助けてくれた少年と共に逃げた先でわかってきたのは、この世界に残されたのは世界の滅亡を望む人であり、それ以外の人や動植物がすべて消えてしまったことだった。彼らが消えたもうひとつの世界は今までどおり残っているのだ。やっと真相をさとった女の子が、原子炉の暴走で放射能汚染された町で彼女を守って負傷した少年と最期を迎えようと決心する場面がせつなさを誘う。奇想あり、ホラーあり、YA風のせつなさもあり、というバラエティある短編集になっている。
(「闇が落ちる前に、もう一度」山本弘著、角川文庫、2007年8月発行、ISBN978-4-04-460115-7)
ブリンの最新長編。ワールドコンにあわせて出版ということだけど読むのはちょっと遅れてしまった。舞台は近未来のアメリカ。個人特有の定常波を利用して特殊な陶土に意識をコピーし、ゴーレムと呼ばれる1日限定の複製を作る技術が普及している。ゴーレムは機能別に色分けされ、一度に複数のゴーレムを稼動させて仕事や勉強をさせ本人(原型)はその間好きなことができる。1日の終わりにそれらを併合することで何人分もの経験をつむことができる。こうした世界で主人公の私立探偵モリスが依頼されたのは複製テクノロジーの大企業<ユニバーサル・キルン>(UK)の天才研究者ヨシル・マハラル博士を探すことだった。グレイやグリーンのゴーレムを駆使し事件を追うが、不可解は事件が続発し、ついにはゴーレムに化けてマハラル博士の娘リツと共に捜索に出たところをUKの創立者カオリンのゴーレムに襲われ荒野に置き去りにされ、その間に謎のミサイル攻撃で自宅は破壊され原型が死亡したかのような事態になってしまう。苦労して博士の別宅にたどりつくと、そこではマハラル博士の複製がモリスのグレイのコピー間の干渉を増幅した搬送波に自身を乗せ魂の高みに至ろうとしていた。魂の補充のため軍の細菌を積んだミサイルの発射が迫る中、リツとその二重人格が生んだ犯罪者ベータ、そいて複製カオリンも含めて事態はクライマックスを迎える。一見ゴーレム探偵を主人公とした軽い探偵もののようにも見えるし実際そう読めもするが、クライマックスで提示される<魂の野>(ソウルスケープ)のイメージなどの広大な広がりは、さすがブリンらしいもので満足した。次は中篇「誘惑」に続く知性化ものという話もあるようで楽しみである。
(「キルン・ピープル(上・下)」デイヴィッド・ブリン著、酒井昭伸訳、ハヤカワ文庫SF1628,1629、2007年8月発行、ISBN978-4-15-011628-6,978-4-15-011629-3)
第1話「再会」では、かぐや姫伝説と浦島太郎伝説を題材に、大和政権により分断された隼人の謎、忌部一族に伝わる紀貫之の竹取物語をめぐる騒動に関与せざるをえなくなった忌部神奈との係りが描かれる。第2話「テクスト天空の神話」では、今度は復元した古代船で韓国まで渡ろうとする海神計画を進めるIT長者の網野が再登場。隕石(?)の落下により漂流を余儀なくされた古代船の上で宗像教授の天空をめぐる講義が展開される。第3話「黄泉醜女」では、仮面土偶の「お面」と顔をつぶされた人骨の謎に、黄泉の国伝説やオルフェウス神話をからめた話。これでやっと2月10日号掲載のものまで。めずらしくこのシリーズは現在も順調に掲載が続いているのですぐに次が出るかな?
(「宗像教授異考録・第六集」星野之宣著、小学館 BIG COMICS SPECIAL、2007年9月発行、ISBN978-4-09-181496-8)
前半の「権力のモニュメント」では、皇帝の座を追われたアンソン・アーガイリスはスプリンガー老女の姿をとり地下に潜伏する。そこに公会議勢力のものと思われる黒いピラミッドがトレード・シティに着陸しSVE艦に補給を始める。ピラミッドの謎を調査しようとするアーガイリスの元にプロヴコン・ファウストの指導者ロクティン・パルが現れる。ペリーローダンとテラが行方不明になったことからアーガイリスの力を借りようとしたのだった。一方アーガイリスを狩ろうとするラール人は遺伝子工学者に罠をかぎつける新生物を作らせるがその生物は逆にラール人に対する罠となっていた。ピラミッドに潜入したアーガイリスは繭を失いながらも何とかパルの元に帰還し地下の罠を決死にくぐり抜けてアーガイリスと共に脱出に成功した。後半の表題作では、アルキ=トリトランスへの転送に失敗しどことも知れぬところに出現したテラとローダンたち。そこは未知のエネルギー流が渦巻く星のメールストロームだった。地軸がゆらぎ地震や津波、竜巻などがテラ各地を襲う。テラニアのクウェトロッパに貯蔵されているホワルゴニウムが突如、貯蔵所内を飛び回りだし、押さえに向ったロイドはホワルゴニウム片の直撃を受け謎のエネルギーをオーラ状に帯びるが、そのおかげで何とかホワルゴニウムを押さえ込むことに成功し、転送失敗の原因がホワルゴニウムの干渉によるものだと判明する。また、ネーサンのプラズマが狂ってあふれ出す事態も起こり、ワリンジャーやツバイの努力で何とか収めることに成功し、プラズマの狂った理由が何らかの恐怖を感知したことによることも判明する。
(「星のメールストローム(ペリーローダン338)」、H.G.エーヴェルス&ハンス・クナイフェル著、増田久美子&青山茜訳、ハヤカワ文庫SF1625、2007年8月発行、ISBN978-4-15-011625-5)
巻頭インタヴューは大原まり子。小松左京の影響が大きいことを本人も確認。最近はアンソロジーの仕事ばっかりのようだが新作は?高齋正のコラムは最初の閉サーキットのブルックランズの100年について。もう一つのコラムはフランス人留学生トニー氏の読んだ「日本沈没」。小松左京オピニオンとして70年前後に書かれた教育についての小文がいくつか。下村健寿氏による「「さよならジュピター」のミステリー」は実際の映画の元になった第3稿とできあがった映画を対比させて仮想的な「さよならジュピター・特別編」を作成したらどうなるかのシミュレーション。本当にできたらいいんだけどなあ。下村氏はピーター・プロックス氏と組んで小松作品のショートショートの英訳も掲載。取り上げてあるのは「休養」、「いたずら」、「秋の味覚」、「もみじ」。とり・みきお四コマ「SAKYOちゃん」。田中顕生氏による「眠りと旅と夢」の英訳の2回目。小研のページは鈴木克太郎氏の「航空機の進化は「実戦」から」。インフォメーションにはワールドコンのことも。もう終わってしまったんだなあ。
(「小松左京マガジン 第27号」、イオ発行、角川春樹事務所発売、2007年7月発行、ISBN978-4-7584-1087-8)
日本のハードSF特集。目玉は山本弘「時の果てのフェブラリー」あとがきでの予告から17年を経て、ついに続編「宇宙の果てのウェンズデイ」の連載開始。25年前の<スポット>事件の後、エグバート駆動の実用化により150光年まで探査の手が広がり300以上の居住可能惑星が発見されていた。中でも惑星エフレーモフは地球に良く似ており知性を持ったトカゲ人がいた。調査のために送られた科学者チームの中にフェブラリーの娘のウェンズデイもいた。ウェンズデイとジュウジ、リッジの3人は14歳だが飛び級でハイスクール・コースに在籍する天才児で年1度開かれるサイエンス・フェアでの発表を控えて練習をしている。内容はジュウジによる「ミクロPKとオムニパシーの関連」の研究でオムニパシー能力を持つウェンズデイはメタチョムスキー文法を解し量子力学的な重ね合わせを観測できるというもの。おりしも<播種者>と呼ばれるはるかな昔からいくつもの惑星の進化に干渉してきたと見られる種族の星の探査を目的とした宇宙船<ソーニャ・コワレフスカヤ>号の出発が迫っていた、というあたりまで。しかし年2回くらいしか出ない雑誌での連載よりは書き下ろしで出して欲しかったような気もするなあ。特集の他の作品は、林譲治「金輪の際」は、SETIの進展で多数の知性体が見つかっているが太陽系周辺は「知性の空隙」となっていることが判明した。数少ない例外だったグリーゼ581からの電波が途絶えたため向かった探査隊が発見したのは金輪と呼ばれる構造体だった。後発隊が拾った唯一の生存者の話によると建設者種族が始めた宇宙のシミュレーション装置が金輪であり、その中への移住が「知性の空隙」の原因だということだった。橋元淳一郎「球形世界」は、荒廃した世界での暗殺者が城に住む異端者に聞く世界の成り立ちの話。結末で明かされる世界の姿=環境破壊と超新星爆発を避けるために打ち上げられた直径5mの世界が鮮烈なイメージを生む。小川一水「静寂に満ちていく潮」は、太陽系監視システムのシグナルからはじめてのETとのコンタクトをした女性の話。様々な人体改変があたりまえに行われる世界で人間とテバスと呼ばれる異種族の交歓を描く。堀晃「渦の底で」は、無人探査機が消息を絶ったサヴァン第2惑星を訪れた下級遺蹟調査員が遭遇した異様な惑星の話。久々の<トリニティ>シリーズの一遍である。特集でまとめて読めるのはうれしいが、特集でなくても定期的にこの手のハードSFを載せて欲しいものである。特集以外ではイラストレーター森山由海の作品を元に競作された森奈津子「あたしたちの王国」と倉阪鬼一郎「最終結晶体」。SF新人賞作家の井上剛が描く不条理コメディ「金のなる木」。連載は、古橋秀之「百万光年のちょっと先」、夢枕獏「黄石公の犬」、森岡浩之「優しい煉獄」、恩田陸「愚かな薔薇」、火浦功「もう一つ火星のプリンセス・リローデッド」(相変わらず1ページしかない)、小路幸也「蘆野原偲郷」(猫になる奥さんがかわいい!)。最相葉月インタヴューも興味深かった。あと巻頭のSF大賞受賞記念の萩尾望都「バースデイ・ケーキ」ももう一つの目玉。
世界SF大会「Nippon2007」開幕直前特集号。と言っても現時点で既にNippon2007は最終日を残すのみなんだけど。特集としてはワールドコンの歩き方として、ガイダンス、お薦め企画ガイド、主要企画タイムテーブル。ゲスト・オブ・オナーのブリンのノヴェラ「スカイ・ホライズン」は、TNP(トゥエンティナインパームズ)高校に通うマークは数学クラブの連中がETを飼っているという噂を耳にし、それが本当だと判明した時、当局と信用できる目撃者を集めて世間に公表したことから学内でつらい立場に追い込まれる。ETはガルビス人のナ?ビスタカと名乗り同胞に連絡を取るための無線機の製作を教え、世界中を巻き込んだ議論の結果通信が送られるが、訪れたガルビス人の母船はナ?ビスタカを収容すると虫ケラ(=地球人)に借りを残すわけに行かないと表明し、異星人特有の論理に従い代償としてTNP高校の周辺を異星に転送する。地球人コロニーとして転送されたマークたちの行く末はいかに?ナ?ビスタカの遭難の原因やポッドについた攻撃されたような跡は何か?他にもいると判明した異星人たちは?などなどの数々の謎を提示した新シリーズ「Colony High」の開幕編だそうだ。早くまとまった長編を出して欲しいものである。連載陣は夢枕獏「小角の城」<第13回>、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」<第33回>、谷甲州「霊峰の門}<第11話>。他に読みきりで飯野文彦「蝉とタイムカプセル」は小学校の同窓会の案内をもらった主人公だがどうしても高学年の頃の記憶がない。仕方なく同窓会に出たが開けたタイムカプセルの中の手紙から当時好きだった女の子を妊娠させ殺したことが蘇り死体を埋めた神社に行くが、というホラー。「大森望のSF観光局」、「椎名誠のニュートラルコーナー」も相変わらず面白いが、宇野常寛「ゼロ年代の想像力」が色々と議論を呼びそうな内容である、次号以降どうなることか。
