2007年8月アーカイブ

ウォー・サーフ

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23世紀、温暖化による海面上昇に伴い洗い流された汚染物質や紫外線により地上は生身の人間の住めるところではなくなり、人々は地下都市やドームで暮らしていた。限られた資源と120億の人口を支えるのは北米、アジア太平洋、グリーンランドに本拠を置く3つの巨大。各は終身雇用の労働者「プロテ」の生活を保障するが、間の勢力争いは激しく、待遇改善を求めるプロテの叛乱も絶えず起こっている。いくつもの大企業役員を兼任する大富豪ナジール・ディープラは248才になった今も、先端医療措置やナノテクにより壮健な肉体を維持し、紛争地帯に潜入して自らの冒険をネットに中継する危険なスポーツ<ウォー・サーフ>に興じていた。若き女性セラピストのシーバに入れ込み、簡単なサーフをしくじって評価を下げたことから仲間の提案で最高難度の封鎖された軌道工場<天国>へのサーフィンを決行することになったナジールだが、その<天国>こそは彼自らが名誉会長を務める企業が放棄したものだった。<天国>にたどりついたもののシーバと共に<天国>内に連れ込まれたナジールが見たものは、工場内に残された子ども達の群れが謎の天国病におかされつつある実態であった。巻き込まれるままに<天国>内の彼らを助ける行動を取ることになるナジールだが、そのうちにネットから切り離された体内のナノマシン<バイオNEM>が自己再組織化し肉体的損傷をも即座に修復するようになり、それを輸血された<天国>のメンバは天国病から回復する。いったんは<天国>を脱出して仲間の元に戻ったナジールだが、名誉会長の権限で<天国>の状況を可能な限り改善させる手を打って、再びシーバの残る<天国>へと赴いていった。結構終わりの方まで主人公のはなもちならない金持ちジジイぶりが描かれるが、下層労働者階級の生活や現実の人の死を知らずにいた企業エリートのジジイが最後には自らの過ちを正して自己の再生を手にするので、それなりの結末には落とし込んである。

(「ウォー・サーフ」上・下、M.M.バックナー著、冬川亘訳、ハヤカワ文庫SF1626,1627、2007年8月発行、ISBN978-4-15-011626-2,978-4-15-011627-9)

恐怖の存在

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島嶼国家ヴァヌーツが水位上昇により居住地がなくなることを恐れ地球温暖化の元凶として最大の二酸化炭素排出国のアメリカを提訴することを発表した。環境保護団体NERF(アメリカ環境資源基金)は提訴の支援を表明するが、訴訟費用を負担する大富豪モートンはNERFを取り巻く状況に不審を抱き調査するうちに失踪する。モートンの顧問弁護士エヴァンズはMIT危機分析センター所長ケナーから人為的に気象災害を起こそうとする環境テロリストELF(環境解放戦線)の存在を知らされ、その暗躍を匂わす不穏な事件が身の回りで多発する。モートンの秘書サラらと共にモートンの自宅で発見されたメモに基づき南極をはじめとする世界各地で、環境テロリスト相手の激闘が開始される。地球温暖化というより気候変動に関して人類は確定的なことが言えるような段階に達していないことを各種データと共に提示し、温暖化が人類の輩出する二酸化炭素によるものだとする見方が単純化しすぎていることを警鐘する。しかし、根底にあるのは、<政治・法曹・メディア>複合体が、たとえ根拠がなくても何らかの恐怖を広め大衆を操作してしまう構図にあり、それがタイトルの元となる恐怖の極相だとしている。相変わらず豊富なデータを取り込み、南極、アラバマ、南太平洋といった世界各地でのアクションとからめて進めるところは達者でどんどん読めてしまう。

(「恐怖の存在」(上・下)、マイクル・クライトン著、ハヤカワ文庫NV1146,1147、2007年8月発行、ISBN978-4-15-041146-6,978-4-15-041147-3)

シリーズ第3弾。3年生になっての新学期、北見重は一人の新入生に会って驚く。彼女が春休みに学校に迷い込んできた女の子岡崎三葉にそっくりだったからだ。三葉は実はトライアックの研究所で産み出された<魅惑>という能力を持つ猫の使い魔ロオトが飼い主の姿を借りていたものだった。ということは彼女はロオトを産み出した強力な魔法使いである城塚智樹の娘のさやだということになる。榊雨弓と名乗る彼女の正体が気になる重だが、寧先生に様子を見たらと言われているうちに鈴音や浜野は調査に乗り出していく。榊雨弓は周りの生徒たちを集めグループを作り出す。その中には寧先生も取り込まれている。生徒たちの使い魔が病気になる事態も頻発し、かつてのブラウ事件が思い出され、ついにグループが強力な魔法で竜巻を産み出した時、重たちの前に城塚が現れる。城塚は重の父、北見陽一郎との関係を語りだす。城塚の目的は<魅惑>のロオト、感染のブラウ、魔法の無効化のグリューンの3種の使い魔を開発し合わせて白を作るヴァイス計画だった。その要となるグリューンは<門>を作り多元世界の中で、この世界を望みの世界に変える能力を持つ。かつて、同僚として研究をしていた重の父は、そのグリューン・ゼロを開発後、袂を分かったのだった。そしてジョン平こそがグリューン・ゼロだと言うのだ。協力をせまる城塚に対し、エンダーと進藤の助けでグループの陽素を使い切らせる作戦に出た重たちは最後にジョン平の一吼えでグループの魔法を無効化することができた。観念して逮捕された城塚は娘のさやのことを重たちに託すのだった。引き続き榊雨弓を名乗ることとなったさやが加入し寧先生という顧問もついた化学部での重たちの活動が始まった。このシリーズもこれで一段落だそうだ。最後に世界の改変にまで話が及んだが、魔法が科学と微妙にからむ世界設定やユニークな使い魔たちとの関係はまだまだ話が作れそうでもったいないなあ。もっと書いて欲しいものである。

(「ジョン平とぼくらの世界」、大西科学著、ソフトバンククリエイティブGA文庫(お-03-03)、2007年6月発行、ISBN978-4-7973-4170-6)

食卓にビールを6

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まったり高校生妻SFコメディの第6弾。昆虫屋(のふりをした異星人)につかまりそうになって逆に企みをつぶしてしまう「養殖編」、小学生夏休み自由研究発表会場にて出会った気弱そうな女性にアドバイスしてるうちに太陽の様子がおかしくなってという「太陽電池編」、文芸部恒例の双六大会は止まったところの命令を実行しなければならない闇鍋的なものだったという「双六編」、多額の借金から失踪した先生の後をついだ探偵助手を助けようとして美術館で起こる騒動を描く「探偵編」、アンケートに答えて送られた先はパンダ似の異星人の戦争の只中で何とか休戦に持ち込んだという「おばあちゃん仮説編」、同級生のラミちゃんと行った動物病院で看護師見習いをするラミちゃんだが次々に来るのはピカチュウ、麒麟、マンモス、サーベルタイガーなどなどという「アニテク編」、秘密基地を売ろうとする不動産屋のにいちゃんに協力を頼まれてという「秘密基地編」、買い物に出たら変な坊さんとくっついてそのうち回りのものもどんどんくっついてという「磁石編」、浴衣を着ればタダというのに引かれ浴衣姿で入った見世物小屋には恐怖の大王がいてという「恐怖の大王編」、礼服を取りにいったらクリーニング屋が変わっていてそこのおばちゃんは客の要望に何でも応えてという「クリーニング編」、なじみの銀河刑事のたのみで行方不明の若手刑事を探すはめになったがという「相棒編」、最後におまけで旦那から見たヒロインの姿を描いておしまい。6巻続いたシリーズもどうやらこれで最終巻だそうで。まだまだ続けられそうだけどなあ。こんなに気楽に読めるのもなかったんだけど。

(「食卓にビールを6」、小林めぐみ著、富士見ミステリー文庫(FM64-08)、2007年7月発行、ISBN978-4-8291-6395-5)

スペースプローブ

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西暦2030年、彗星”邇基”へ向かった日本の無人探査機”こめっと”は「怖くない」「ライト・ビーングー」というメッセージを残して消息を絶つ。この時代、日本の宇宙開発は日本総合開発機構(JUDO)の宇宙探査局が行っていた。JUDOの有人月着陸計画のクルーである曽我部臣太、石上香蓮ら6名は、”こめっと”のチームリーダーだった天野貞彦とその娘の琴美により、地球から50万キロの軌道上、彗星”邇基”の進路とも交差するポイントに謎のニュートリノ信号を発するものがあることを聞かされる。資金難で月探査ですら1回の着陸で中止がうわさされる中、謎の解明に向けて、6名のクルーたちは表の月着陸を捨て、ニュートリノ源を目指す裏ミッションの計画をカラオケボックス”イリアス”で練る。打ち上げの延期のために彗星”邇基”の接近時に宇宙へ飛び出したクルーは予定どおり裏ミッションを開始するが、船長の橘緑郎は着陸船を切り離し計画から離脱する。残る司令船と機械船で予定ポイントに向かった臣太と香蓮だが、そこには何も発見できず、目指すものが彗星”邇基”に向かっていることを知り、彗星核に突っ込む。各部の故障で絶望的な状況に陥った2人だが、月に向かったはずの緑郎の着陸船が救助に行き、3人は月面のアメリカ基地に無事着陸することができた。緑郎の手回しによりニュートリノ源のデータと引き換えに裏ミッションの正当化の手はずがひそかに整っていたのだった。謎が解明されるわけでもなく、超越的存在を信じる/信じないという臣太と香蓮の議論にも乗れず、ヒロイン(?)の香蓮の性格にも納得できず、何とも消化不良で終わってしまった感があるのが残念。

(「スペースプローブ」機本伸司著、ハヤカワSFシリーズJコレクション、2007年7月発行、ISBN978-4-15-208838-3)

SFマガジン2007年9月号

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カート・ヴォネガット追悼特集。特集はインタヴューと関係者の追悼エッセイ(池澤夏樹、太田光、風間賢ニ、香山リカ、川上未映子、沼野充義、若島正)、追悼評論(巽孝之)、名言集(牧眞司)、解題・略歴(永野文香、中山悟視)、作品ガイド(永野文香)。もうひとつの特集はワールドコン特集?。こちらは来日作家名鑑、主要企画リスト。小説は読切で円城塔「Boy's Surface」は盲目の数学者レフラーの発見になる高次元球体レフラー球をめぐる物語、と言えなくもない。連載では朝松健「魔京」<第8回>、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」<第32回>、山田正紀「イリュミナシオン」<第11回>。他に映画「トランスフォーマー」、諸星大二郎「海神記」、ティプトリー「輝くもの天より堕ち」の特集や、「SFセミナー」、シンポジウム「人類にとって文学とは何か」のレポートや、パン・ブラザース監督インタヴューなど。

前半の表題作では、テラ疎開計画に反対する扇動者による騒動が起きる中、再び時間ダイヴァーによる攻撃が始まる。レティクロン艦隊の第二ヴェシルであるミリアナドは太陽系に潜入し、ラール人の単極転送機を使って水星の主干満転換機を破壊することに成功する。ATGシールドを失った太陽系では太陽系艦隊とラール人のSVE艦、レティクロン艦隊が熾烈な戦闘を繰り広げる中、ブルの特務艦<システィナ>はミリアナドの艦を発見し破壊した。一方ツイン恒星転送機の転送ポイントまでたどりついたテラ=ルナ系は転送して太陽系から消えるが、受け入れポイントであるアルキ=トリトランスでは待機するアトランの目の前でいったん現れかけたテラ=ルナは結局実体化できずいずこかへ消えてしまう。後半の「ドレーマーの惑星」では、テラが失われたと思い込んだアルキ=トリトランス恒星三角形転送機の制御ステーションであるPP=?のハイパー物理学者クレルマインは同調者を連れてラール人の元へ逃げようとする。偶然巻き込まれたハイパーカム技術者の通称、皇帝カールの妨害工作でラール人と接触できないまま不時着した惑星にはドレーマーと呼ばれるダムを作る半知性体がいた。ドレーマーとのコンタクトのための科学基地をのっとったクレルマインがラール人と接触しようとした時、追っ手のヘティック提督が放った無人モスキートが間一髪基地を爆破し、情報がラール人の漏れることは防がれた。

(「テラ=ルナ脱出作戦(ペリーローダン337)」、クルト・マール&H.G.フランシス著、天沼春樹訳、ハヤカワ文庫SF1619、2007年7月発行、ISBN978-4-15-011619-4)

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