2007年7月アーカイブ

虐殺器官

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これも小松左京賞がらみの作品のJコレクションからの刊行。テロとの戦いが激化し、サラエボが手製の核爆弾により消滅したことで先進諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築し、テロを締め出している近未来。後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加しインド・パキスタンでは限定核戦争まで起きた。突然虐殺が増加するように見える場所には必ず謎の米国人ジョン・ポールの姿が見られる。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉はジョン・ポールの影を追って世界各地を転戦する。ついに捕らえたジョン・ポールの口から聞く真相は、言語学者の彼が国防総省の機密の研究で発見した「虐殺の文法」の存在であった。ジョン・ポールが虐殺を広めた意図は、後進諸国で虐殺を増やすことによって故国のアメリカの平和を守ろうとしたことにあった。死の寸前にジョン・ポールから「虐殺の文法」に従って文章を生成するエディタの存在を託されていたシェパードは、ジョン・ポールがアメリカ以外の命を背負おうとしたのに対し、自分で罪を背負い込む覚悟で、アメリカという火種を虐殺の坩堝に放り込みアメリカ以外の国を救うためにアメリカ国内に「虐殺の文法」を解き放つことを決意する。テロの扱いや情報戦の記述など現代の「戦争」の描写は面白く読めるし結末のつけ方もある意味では納得できるが、後味の良いものではない。しかし、前月のSREに続き読んで満足できたのも事実である。次の機本作品も期待。

(「虐殺器官」伊藤計劃著、ハヤカワJコレクション、2007年6月発行、ISBN978-4-15-208831-4)

敵は海賊・正義の眼

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シリーズ第7作。10年ぶりだそうな。タイタンに生息するメドゥーサスの研究者リジー・レジナに協力して保護運動をしていた活動家のモーチャイの元をヨーム・ツザキこと匋冥が訪れる。しばしのやりとりの後モーチャイの目の前でカーリー・ドゥルガーにメドゥーサスを消させて匋冥は消えるが、その後モーチャイは深紅の玉を掌にし、夢の中で特注の水撃ライフル銃アンリミッテド・AZ4を手に海賊を始末し始める。現実のタイタンでも連続惨殺事件がおき、殺されたのが実は海賊たちであり、モーチャイの夢と同じ状況であることがわかってくる。事件を捜査するタイタン警察のネルバル、広域宇宙警察からの実習生サティらの元に、貨客船ハウバウアー号で起きた事件(これも海賊だけが殺されたことが判明)にからんで海賊課のラテル、アプロ、ラジェンドラのチームと同僚のセレスタンが現れる。モーチャイを収容していた病院に集結した関係者に対しカーリー・ドゥルガーの攻撃が仕掛けられモーチャイは消えてしまう。行方を追って火星に飛んだ一行はマクミラン商会のビルで海賊を襲うモーチャイの元へたどり着き、そこに現れた匋冥と交錯し、玉が消えると共に匋冥も消え、海賊課の存在意義を葬るかに見えた匋冥のゲームにもケリがつく。

(「敵は海賊・正義の眼」神林長平著、ハヤカワ文庫JA893、2007年6月発行、ISBN978-4-15-030893-3)

竜と竪琴師

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パーンの竜騎士の第10弾。これまでのシリーズで重鎮の役をしてきた竪琴師ノ長ロビントン師の生い立ちから第1巻の「竜の戦士」の直前までの時代を描く。ベンデン大巖洞以外の竜と竜騎士が消えた理由もまだわからず、糸降りが絶えて長い時間がたち、パーンのあちこちで竜と竜騎士を敬うことが廃れてきている時代。優秀な作曲家のペティロンと歌唱師メレランの間に生まれたロビントンは幼い頃から天才的な音楽の才能を発揮していく。しかしその才能は父ペティロンからはついに認められることはなかった。母メレランや竪琴師の工舎の人々に認められ、作曲、演奏、教育といった多くの面で才能を伸ばしていったロビントンは師補となってパーンのあちこちに派遣され人々との交流を通じて学んでいく。ベンデンのファロネル(後に青銅竜と感合してフーロンとなる)との終生の友情。ティレク城砦のカシアと愛し合うようになりついに結婚するが新婚旅行で嵐にあいかろうじて帰還した後、病に倒れ幸せな日々が短く終わってしまった悲劇。そして非合法に城砦をのっとって版図を広げていくファックスの脅威。こうしたできごとがていねいに綴られていく。ファックスの支配はルアサ城砦でのフーロンの息子のフーラルとの決闘でやっとケリがつく。最後の方では成長したロビントンの周囲に、フーラルと青銅竜のニメンス、ルアサ城砦のレサ、グロギ太守、竪琴師セベル、療法師オルダイブ、鍛冶師ファンダレル、漁夫ノ頭アイダロラン師など、後のシリーズで重要な役割を果たす人々が登場し、最初から読み直したくなる。

(「竜と竪琴師(パーンの竜騎士10)」アン・マキャフリイ著、小尾芙佐訳、ハヤカワ文庫SF1618、2007年6月発行、ISBN978-4-15-011618-7)

SFマガジン2007年8月号

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ワールドコン特集II。ノヴェレットでは、パオロ・バチガルピ「イエローカードマン」は3月号の「カロリーマン」と同じくバイオ企業の支配下にある近未来が舞台のディストピアSFでかつて成功したビジネスマンだったマレー半島人のチャンがおちぶれてバンコクに流れ着き環境省の監視下の難民であるイエローカードマンとしてその日の食事確保にすら必死になっていた折にかつての部下マーに会ってという話。ジェフ・ライマン「ポル・ポトの美しい娘」はプノンペンで無軌道な生活を送る娘セットはマーケットの携帯電話屋のダラとつきあいだすが彼女がポル・ポトの娘とわかって破綻し、かつて虐殺にあい空き家となった幽霊屋敷で名も無き幽霊の指示に従って名前を書いて供養を続けるようになる。イアン・マクドナルド「ジンの花嫁」は複数の国家に分裂した未来のインドでダンサーのエシャは対立する国家の公証人であるAIのラオにコンタクトの受け愛し合うようになる。ショートストーリーでは、ニール・ゲイマン「パーティで女の子に話しかけるには」はヴィクの誘いでパーティに連れて行かれたイーンだがパーティ会場にいた女の子はいずれも人間ではなかった。ベンジャミン・ローゼンバウム「あなたの空の彼方の家」は<巡礼>の訪れを待つマサイアスは自らの世界を収めたライブラリに悲嘆する少女を見つけ手を差し伸べる。小説以外ではヒューゴー賞候補作リストや部門別の解説など。個人的な好みで言えばノヴェレット部門はイアン・マクドナルド、ショートストーリー部門はティム・プラットというところ。他の連載は、夢枕獏「小角の城」<第12回>、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」<第31回>。巻頭で「敵は海賊・正義の眼」と「虐殺器官」の特集。結局ワールドコン(NIPPON2007)は通しての参加はできそうにないので、とりあえず登録参加(Supporting)だけ申し込んである。どこかで1日くらい参加できるかなあ?

前半の表題作では、太陽系艦隊の8万8千隻を恒星転送機で太陽系に迎えたローダンは太陽系の危機を市民に訴える。一方ラール人が新兵器を使ってATGフィールドを部分的に突破したとの報告が入る。時間ダイヴァーと呼ばれる新兵器への対応を迫られたローダンたちはその1機を拿捕し、オリンプで既に時間ダイヴァーが量産に入っていることを突き止め破壊作戦を始動する。アーガイリスの導きで破壊コマンドは時間ダイヴァーとその製造施設を破壊することに成功し、怒り狂ったレティクロンは脅迫態度を鮮明にした。後半の「テラのカウントダウン」では、USOの秘密基地であるポタリパネ基地には退避させたネーサンの記憶ロボットが隠されていた。テラ系の転送をひかえて記憶ロボットをl回収しようとするローダンたちだが、基地の物理学者アムンはローダンたちが太陽系を見捨てると思い、記憶ロボットの移送を留めようと反乱を起こす。アムン一味を何とか制圧した基地指令のヘティック大佐たちだが基地の自爆スイッチが入ってしまう。何とかロボットを積んで基地を脱出したヘティックたちだが恒星転送機が太陽系側の不調で一時的に使えなくなり、陽動作戦の末、テンポラルロックを抜け太陽系にロボットを届けることに成功する。生体プラズマの不調からデータ受け取りを拒否するネーサンを何とか不調なプラズマパーツを入れ替えることによって修復しデータを収納することができ、ローダンは市民に対しテラとルナごと転送機で脱出するプランを明かす。

(「時間ダイヴァー(ペリーローダン336)」ハンス・クナイフェル&エルンスト・ヴルチェク著、渡辺広佐訳、ハヤカワ文庫SF1614、2007年6月発行、ISBN978-4-15-011614-9)

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