野尻抱介の短編集。表題作はSETIで受信した有意なデジタル信号の解析により、それがIPS(恒星間測位システム)の信号であり、異星人の探査機が向かっていることが判明。通過の際に軌道上に巨大ネオンサインをあげる計画が実行され、通過後の探査機と母星との通信ビームの解析からは探査機が撮影した多数の太陽系内の異星人の痕跡が発見される。「轍の先にあるもの」では小惑星探査機の映像に映っていた轍らしき模様の正体をつきとめようとするSF作家が、自ら小惑星に赴きインパクトクレーター生成のシ瞬間に立ち会う。途中には軌道エレバータ建設の様子も織り込まれている。「片道切符」ではマーズダイレクト方式の火星有人探査船のメンバーが帰還船を爆破して強制的に片道切符にする話。書き下ろしの「ゆりかごから墓場まで」では閉鎖生態系を実現する人間が着用するC2Gスーツ(ゆりかごから墓場までの略)の開発経緯から、火星植民地での隕鉄落下観測行までを描く。「大風呂敷と蜘蛛の糸」は女子大生沙絵が成層圏気球プラットホームと蜘蛛の子が空中を渡る姿にヒントを得た極薄素材を生かしたパラグライダー大風呂敷1号にて高度100kmの宇宙えお目指す話。SFマガジン2006年4月号に載ったばかりなので読んだ記憶があったが、ふわふわの泉に通じる話でやはり面白い。
(「沈黙のフライバイ」野尻抱介著、ハヤカワ文庫JA879、2007年2月発行、ISBN978-4-15-030879-7)
2007年3月アーカイブ
1卷を読んでどうなることか、と思ったが。2卷冒頭は1卷の続きらしく、S-1ワールド・グランプリ(最強の妹を決定するための大会)の決勝トーナメント。新たに登場するのは、ヨガ妹、戦車妹、騎士妹だが、トーナメントが進むにつれて彼女らの正体が現される。騎士妹と見えたのは実は海冥寺ユウカであり秘密結社プリオンの刺客としてCOMPメンバーを倒そうとする。一方、爆弾妹のマリア・クレイトンを操る兄のクレイトンは実はプリオンの黒幕ビッグブラザーがCOMPに潜入して大会を主催したいたことが暴露され、ユウカはいわば主人によって倒されることとなる。ヨガ妹と見えたのは実は特務機関COMPの調査官であり、クレイトンの正体を暴くが、クレイトンとマリアの強さは尋常ではなく、ついに地下に眠る超古代妹ウーヌムが目覚めてしまいソラも一時はウーヌムに取り込まれてしまう。ウーヌムは超古代に飛来したイモートロニック生命体(I・O)だったのだ。サトルによって何とかウーヌムから開放されたソラたち。そのころ銀河ではI・Oの大群に絶望的な戦いを挑む妹軍団がいた。ソラたちの参戦によって銀河規模の戦いの帰趨が変わろうとしていた。○○億シスターのパワーを秘める妹軍団の戦いなんかは、Bastard! の銀河の戦いの場面みたい。あとがきで著者が「明らかに間違っているモノ」を「元気に書ききる」のが目的と言っていたので、やっと、この無茶苦茶さの理由がわかった気がする。
(「超妹大戦シスマゲドン2」古橋秀之著、ファミ通文庫、2007年3月発行、ISBN978-4-7577-3453-1)
冲方丁が富士見ファンタジア・角川の両文庫にわたって展開するシュピーゲルプロジェクトの角川側の第1卷。背景となる世界は共通で、舞台となるのも同じミリアポリス。こちらの主人公はミリアポリス憲兵大隊(MPB)の遊撃小隊<猋>(ケルベロス)の3少女。小隊長の黒犬(ジュバルツ)こと涼月はその<特甲>である鉄拳を駆使する<対甲鉄拳の涼月>、紅犬(ロッター)こと陽炎は遠距離狙撃用の<特甲>を駆使する<魔弾の射手の陽炎>、白犬(ヴァイス)こと夕霧は指先から2ミクロンのワイヤーを乱舞させ敵を切り裂く<悪ふざけの夕霧>。ここでも暗躍するのはプリンチップ社のエージェントのトラクル。この卷では3人の少女たちの<特甲>になった経緯をの紹介を兼ねた対テロ戦のエピソードとなっている。スプライトの方の妖精たちはまだ直接は出てこないが、上層部の人間は共通するキャラが出ているので、そのうち交差するのだろう。
(「オイレンシュピーゲル壱」冲方丁著、角川文庫、2007年2月発行、ISBN978-4-04-472901-1)
冲方丁が富士見ファンタジア・角川の両文庫にわたって展開するシュピーゲルプロジェクトの富士見側の第1卷。背景となる舞台は共通。超少子高齢化による人材不足のため、児童に労働の権利を与え、障害を持つ児童を無償で機械化する政策が実施され、優秀な児童には<特殊転送式強襲機甲義肢>?通称<特甲>を与え、増大するテロに対抗させるようになった世界の国連都市ミリアポリス(ウィーン)。<公安高機動隊>(MSS)の擁する特殊兵科、MSS要撃小隊《焱の妖精》の3少女が主人公。第1巻では彼女たちの紹介を兼ねたエピソードになっている。小隊長の<紫火>(アメテュスト)こと鳳(アゲハ)は12.7ミリ超伝導式重機関銃を装備した要撃手。<青火>(サーフィア)こと乙(ツバメ)は灼刃(ヒートブレイド)を駆使する迫撃手。<黄火>(トパス)こと雛(ヒビナ)は爆弾群を投擲する爆撃手。彼女らがテロに対抗して活躍する裏では、テロリストを支援して暗躍する軍需会社プリンチップ社のエージェント、リヒャルト・トラクルの影がちらつく。また、最後の方では、かつて鳳とコンビを組み、事故で失われたはずの第1期小隊メンバー皇と蛍の姿も見え、次卷以降に期待をつなぐ。
(「スプライトシュピーゲルI」冲方丁著、富士見ファンタジア文庫、2007年2月発行、ISBN978-4-8291-1897-9)
「ベストSF2006」上位作家競作号。飛浩隆「蜜柑」は第2長編「空の園丁(仮)」の冒頭部分とのこと。<青野の区界>の少年・秋の白いコートの女との出会いと彼女の家での出来事を描くが、続きは長編が出てから。ジーン・ウルフ「迷える巡礼」はメイフラワー号に乗り込む予定で過去に飛んだ男がアルゴ船に乗ってしまい英雄たちと冒険航海をする話。山本弘「七パーセントのテンムー」は高分解能のfMRIの開発で脳研究が進んだ世界で7パーセントの人が<私>という意識に相当する部位を欠いているとうわさされ、彼らは人工無脳から転じた天然無脳=テンムーと呼ばれた。自分の彼氏がテンムーと知った主人公が2人の関係に危機感をおぼえ、研究者の充原を訪ねてわかったのは意識というものが、単に無意識が思考・決断したことが短期記憶から長期記憶に編集・転記される時のモニター画面にすぎないということだった。小川一水「千歳の坂も」は不老不死が達成された世界で法定延命措置を拒む女とそれを追う男を描く。短い話の中で最後にはテラフォームされた惑星上での数百年後まで展開される話になっている。チャールズ・ストロス「ローグ・ファーム」は旧来の文明が滅びかけている世界で、ゲノムをアップデートした人間集団が変化したファームと呼ばれる奇妙な生物の侵入を阻止しようとする田舎の夫婦を描く。林譲治「大使の孤独」はAADDシリーズの一遍。ストリンガーとのファーストコンタクト後の相互理解がうまく行かない事態を打開するために観測ステーション・デイノーでストリンガーの1体である大使を迎えてコンタクトを続けようとするが人間側のマネージャーがエアロックで死亡する。果たして事故か殺人事件か。後任のマネージャーが突き止めたのは大使の意外な正体とストリンガーの性質の一端であった。特集以外の連載は、夢枕獏「小角の城」第10回、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」第27回、谷甲州「天川の辻」霊峰の門第9話。他に椎名誠のエッセイ「笑う犬」が新連載。
「冬の虹」に続くロック最初期のエピソードの続き。軌道エレベータが完成し、故郷C国の「寺」に帰ったスーミンだったが、C国では周辺地域を巻き込んだ内乱が起きていた。エスパーたちの力を恐れる勢力が「寺」の制圧作戦を実行し、スーミンたちは捕らえられてしまう。スーミンを救うため英国特殊部隊と共にC国に潜入したロックだが、スーミンを慕うあまり敵と通じてしまった少女リデルによる情報漏洩により、お師様たちの乗ったヘリは爆破されてしまう。クリチコフたちによって無事救出されたスーミンは特殊部隊員と合流するが、リデルを追って行ったロックは怪我をして捕らえられてしまう。スーミンたちはロックとリデルを無事救出できるのか、また姿を見せた暗殺者の揚はどうからんでくるのか、といったところで終了。題名には1とかの数字はないが、どうみても続く展開なので早く続きを出してくれ。
(「超人ロック・クアドラ」聖悠紀著、少年画報社YKコミックス、2007年2月発行、ISBN4-7859-2730-5)
前半の表題作では、ローダンの裏切りが判明し、ラール人が新たな銀河系第一ヘトランを指名することを予期した超重族のレティクロンは自分がその地位に指名されることを目指して動き始める。まずは惑星パリクツァで革命を起こしプンタ=ポノ星系を手中にし、ライバルになりそうな相手をミュータントとしての能力も使って追い落とし始める。ミュータント能力が通じないアンティを決闘で倒し、異質技術の遺産である<浮標>を手の惑星ヨープシンを支配するガイモルをも倒したレティクロンは、ついにラール人ともう一つの公会議種族であるヒュプトンにより第一ヘトランに選任される。後半の「時間トンネル」では、ATGフィールドにより一時的にラール人から隠れることに成功した太陽系だが、ラール人はその技術力によりATGフィールドによる隠れ家を探し出し、侵攻しようとする。オリンプのアーガイリスに向けて送り出したコマンドは途中でラール人とレティクロンの部隊に捕らえられるが、指揮官のエピッチャー少佐によるコンテナの自爆でかろうじてテンポラルロックからの侵入を防ぐことができた。その後も続くATGフィールドへの時間シンクjロによる突破の試みに対し、ギリギリのところで時間モデュレータが作動し、太陽系は再び一時の隠れ家を得た。
(「超重族レティクロン(ペリーローダン332)」、ウィリアム・フォルツ&H.G.エーヴェルス著、天沼春樹訳、ハヤカワ文庫SF1598、2007年2月発行、ISBN978-4-15-011598-2)
ベストSF2006は国内編4/10、海外編3/10しか読んでない。ベスト20まで広げてもあまり変わらないのでこのブログを付け出して特に読むようになったわけでもなさそうだ。個人的には国内では「ストリンガーの沈黙」あたりかなあ、海外では「イリアム」。いつものようにSF関係者によるマイベスト一覧も。サブジャンル別ベスト10はライトノベルSF、伝奇アクション&異世界ファンタジィ、海外ファンタジィ、国内・海外ホラー、国内・海外ミステリ、文芸ノンフィクション、科学ノンフィクション、SFコミック、SF映画、SFアニメ。コラムとしてグイン・サーガ、ローダン、氷と炎の歌、エルリックのシリーズ解説。飛浩隆インタヴュウと浅倉久志へのSF翻訳家15人の質問が面白い。SF各出版社の「このSFを読んで欲しい」コーナーではブルーマーズってついに消えちゃったのね、もう出ないのだろうか。真中の特集としては2000年代前半のベスト30。こちらは読んでるのが国内編16/30、海外編17/30といったところ。国内編の1位「マルドゥック・スクランブル」に異論はないが、「神は沈黙せず」、「ハイドゥナン」、「イリヤの空、UFOの夏」、「復活の地:、「第六大陸」「ふわふわの泉」あたりも。海外編の1位は個人的には「ディアスポラ」だなあ。「タフの方舟」、「最果ての銀河船団」あたりも。関連して2000年代SF中間総括座談会と称して「SFとライトノベルは共存できるか?」を鏡明・大森望・前島賢で。2000年代前半の方もSF関係者のマイベスト10が附属。あとはSF関連書籍目録とSF関連DVD&ビデオ目録の史料編。
(「SFが読みたい!2007年版」、SFマガジン編集部編、2007年2月発行、ISBN978-4-15-208793-5)
ジョン平とぼくとシリーズ第2弾。昼休みに重がいつものように化学室に行くと見知らぬ女の子がいた。岡崎三葉と名乗ったその子は追っ手からかくまって欲しいといい、自宅に連れ帰るが鈴音や母親までもがその子をかくまってやるように言うことに戸惑う。翌日、化学室に追っ手らしき男が現れ、逃げた重たちだが、男は私立探偵で赤い猫を探していることを知らされる。そのうち雨に濡れて様子がおかしい三葉を空き地に寝かせると赤い猫に戻ってしまった。三葉の使い魔と思っていたハムスターのオーランジェは実は動物を人間に変身させる魔法が使え、三葉は赤い猫の変身した姿であり、2匹は人間と使い魔ではなく使い魔同士だったのだ。再び表れた私立探偵の進藤に、三葉たちが元いた研究所の城塚が探していると伝えられた三葉たちは進藤と共に城塚に会うことに同意する。三葉たちが去った後、現われて話を聞いた陰陽庁調査官の榎戸寧はすぐに重たちを連れ、三葉を追った。追いついた先のスタジアムでは三葉を渡すことを拒否した進藤が城塚の魔法にやられていた。飛び込んだ寧の魔法も効かず、城塚にやられて昏倒する2人を見て重は持ってきた武器を手に城塚に迫った。重の推理どおり、城塚の魔法とは駆馴した蚊の群れによるものであり、持参した蚊取り線香により城塚は逃げていった。そこで明らかにされたのは研究所で<ロオト>と呼ばれ開発されていた三葉の使う魔法が「魅力」だということだった。「魅力」は危険な魔法であり、長らく三葉と一緒にいた人間はその影響を免れ得ない。ゆっくりと駆馴が解けるまで移動を続けることを決意した三葉たちは重とジョン平の前から去っていった。前作の<ブラウ>とつながる<ロオト>の事件はまだまだ続きがありそうだし、亡くなった重の父の謎も深まるばかりで、これは是非とも続きを早く書いてもらいたい。
(「ジョン平と去っていった猫」大西科学著、ソフトバンククリエイティブGA文庫、2006年12月発行、ISBN4-7973-3912-8)
