舞台は小さな魔法が日常的に存在する世界。魔法の存在以外は現代日本とほぼ同じだが、その違いが物語に係ってくる。主人公の高校生・北見重は魔法が苦手で誰も寄り付かない化学室を借りて科学実験をするような(この世界では)ちょっと変わった人物。この世界の人はたいてい魔法の存在と係って使い魔と呼ばれるパートナーを持っている。使い魔はペットの動物が駆馴されて人語をしゃべったり特有の魔法能力を発揮したりするようになった存在である。ある日、重の学校に新任の若くて美しい物理化学教師・榎戸寧がやってくる。それとほぼ時を同じくして同級生の使い魔が行方不明になる事件が続く。幼馴染の有吉鈴音の使い魔トルバディンまでがいなくなり、寧先生を疑った重は化学室で罠を張り、寧先生が実は陰陽庁の捜査官であることを明かされる。寧先生はある企業の研究室で使い魔の兵器化の研究が行われているという疑いを調査中で、最近亡くなった同級生の一ノ瀬の父親もその計画の<ブラウ>と呼ばれる使い魔の研究の関係者だった。<ブラウ>の正体が細菌で、その感染が事件を引き起こしていることに気付いた重は寧先生や同級生たちと事件の収拾を図る。オチこぼれの主人公が科学の思考法で事件を解決するあたりや、ちょっととぼけた重の使い魔の犬のジョン平や鈴音らのキャラクタが心地よい。
(「ジョン平とぼくと」大西科学著、ソフトバンククリエイティブGA文庫、2006年9月発行、ISBN4-7973-3711-7)
2007年2月アーカイブ
すいぶん前に読んでたけどここに記録してなかったので改めて。「みこすり半劇場」に連載していた表題作がメイン。主人公のみみちゃんが便利屋として依頼によって色々なサービスをするギャグマンガ。吾妻ひでおの得意とするエロ、美少女全開の作品。ある意味最も吾妻ひでおらしいと言うべきか。SF色は特にはないけど吸血鬼退治にSF印の杭を使ったり、メーヴェやメカ王蟲が出てきたりとさりげなくあちこちには顔を出す。同じく「みこすり半劇場別館」に掲載された「あづま童話」は題名どおり色々な童話を題材に吾妻ひでおらしく料理したギャグマンガ。魔女、悪魔、大蛇、山姥、死神、水の精、人魚、竜、サトル、などなど、いずれも吾妻流に料理されてオチがつけられている。あとは「失踪こぼれ話」と「放浪日記」にあとがきマンガ。復活したなら、この手のをどんどん描いて欲しいなあ。
(「便利屋みみちゃん1」吾妻ひでお著、ぶんか社コミックス、2006年11月発行、ISBN4-8211-8351-X)
前半の表題作では、ラール人ホトレノル=タアクからSVE艦破壊犯人を探し出さなければ地球の南太平洋に設置した爆弾で太陽系を破壊するとの最後通牒を受け、爆弾の捜索と疎開計画が進められる。捜索の成果が得られぬまま刻々と期限が迫る中、海底ドームに侵入した攻撃者による攻撃を受けたオラーナ・セストレの反応に太陽の異変が連動していることが判明し、オラーナの体内に起爆装置があることが判明する。タクヴォリアンの超能力の助けを借りて何とか知性体のいない遠くの星系までオラーナを連れ出し、そこの恒星を新星化させることで太陽系の破滅は回避される。後半の「死人狩り」では、ローダンたちの反対を押し切ってオリンプでスプリンガー族長に化けて活動していたアトランが個体走査器で見つかってしまう。ラール人部隊にいったんはつかまったアトランだがアーガイリス皇帝のひそかな援助とグッキーたちの助けによりかろうじて脱出する。一方、ラール人の報復が迫ることを察知したローダンたちはATGフィールドの発動を急ぎ太陽系を未来に避難させようとする。SVE艦隊が迫る中、SVE艦のエネルギー供給を絶つKPL装置を積んだ科学者船ドロの助けを借りなんとかラール艦を撃退し、太陽系は相対的未来に移行した。
(「太陽起爆装置」ハンス・クナイフェル&エルンスト・ヴルチェク著、渡辺広佐訳、ハヤカワ文庫SF1595、2007年1月発行、ISBN978-4-15-011595-1)
3年ほど前に単行本で出ていたものだがやっと文庫になったので読んだ。冷凍睡眠から覚めたユリとケイを待っていたのは女性型バイオボーグのフローラ。バイオボーグとはクローニングにより産み出されたミュータントをサイボーグ化した人造生物であり戦闘員として作られたそうだ。フローラの説明によるとユリとケイは153年の間眠り続け、その間に全銀河系規模の大戦争により人類は絶滅したというのだ。フローラの依頼は、惑星国家サルシフィであったグラパド星系の小惑星グリヤージュにある軍事研究所にフローラたちを作ったドクター・パリスたちが眠っているので、研究所に侵入し警戒システムを切ってドクターたちを覚醒させて欲しいというものだった。研究所に侵入し警戒システムを切ることに成功したケイたちだが、ロボットから逃げるうちにパニックルームで人間の男を発見する。男の正体もわからないうちにフローラに男を連れ去られ、覚醒したバイオボーグたちとの激闘を巨大ロボットに乗って何とか切り抜けたケイたちだが、最期にユリの発動したテストもしていないロボットの究極兵器の使用により、男が呼び寄せていたサルシフィ宇宙軍は全滅してしまう。実はフローラの話はほとんどがウソで、人類は絶滅なんかしておらずケイたちが眠っていたのはわずか20日ほどだった。WWWA部長に連絡をとったケイたちだが部長は冷たく冷凍睡眠ボックスを送りつけてきただけだった。
(「ダーティペアの大復活」高千穂遙著、ハヤカワ文庫JA876、2007年1月発行、ISBN978-4-15-030876-6)
改変歴史もの、になるのかな?文体とかはハヤカワのいう新世代のリアルフィクションになるんだろうが。先の大戦で原爆投下により降伏した皇義神国は半世紀後、帝国の統治下で鎖国状態にあった。超伝駆動のリニアマシン全盛の中でレシプロ二輪<鋼舞>を駆る孤独な少女・朔夜は己の破壊衝動をもてあまし、リニアマシンを駆る町の族に勝負をいどみ、パトロールを逃れるために迷い込んだ丘の家で囚われの天子・夏月と出会う。夏月は狂った老人・忌三によってその家に囚われていたが、そこの地下には大戦の遺物<零式>があった。それは大戦末期に零戦に試作型発動機<誉改>を積んだ超高性能実験機A6M0であったが、夏月の手によってさらに全く別物と言える発動機を積んでいた。一度はそれに乗って脱出しようとした朔夜と夏月だが夏月の心臓には国境を兼ねた壁を越えると変調波により爆発する拘束具が仕掛けてあったのだ。それを防ぐ解除周波数のハッキングは事実上不可能で、唯一の手段は壁を越えて1分以内に管理電波の届く10km以上離れることであり、それには600km/hの速度が必要だ。リニアの使えない壁外で速度を出せるのはレシプロマシンだけ。かくして<鋼舞>の車体に<零式>の発動機を組み合わせたマシンで朔夜と夏月は再度、外への脱出を試みる。何とかたどりついた外部で判明した事実、それは神国がカリフォルニア州に作られた人工植民地だということであった。SFマガジンに前後編で掲載された中篇を元にしているが、掲載号(2005年7月、9月)が引越しですぐに出てこないところにあるので比べることはできなかった、残念。
(「零式」海猫沢めろん著、ハヤカワ文庫JA877、2007年1月発行、ISBN978-4-15-030877-3)
編集長インタヴューは曽野綾子。同年輩だったのか。コラムでは高齋正が2007年は車やバイク関係で3つの100周年がることを紹介。小野耕世は小松=クラーク対談のころの思い出話。門倉純一は音のSFと称してSFドラマなどの音源についてのエッセイ。リバイバル小説の「せまりくる足音」は世代間のギャップが進みちょっとでも世代が違うと言葉や風俗の違いから激しい対立反応を起こすようになったおかげで平均寿命が格段に短くなった世界で若者の言葉・風俗を無理矢理取り込んで若作りをする老人の悲哀を描く。68年の作だそうだが、当時すでにこれだけの世代間ギャップを描いているのはさすが。とり・みきはコミック「ANYWHERE BUT HERE(SUPER)」。中ほどにある「小松左京全集完全版」刊行記念座談会は鏡明・大森望・東浩紀の3世代の論客による小松左京論で面白かった。下村健寿『「さよならジュピター」のミステリー』は映画作りに関する誤解と称してジュピターの酷評の誤解を解くが、掲載されているのはまだ冒頭のみ。全集刊行開始やイオ25周年などを祝う会のレポートも。小研のページでは武藤俊一氏による『帰ってきた飛行船「ツェッペリン」』として新世代の固殻飛行船の搭乗記。
(「小松左京マガジン第25号」、イオ発行、角川春樹事務所発売、2007年1月発行、ISBN978-4-7584-1077-9)
イーガンの日本オリジナル短編集。集録されているのは「行動原理」、「真心」、「ルミナス」、「決断者」、「ふたりの距離」、「オラクル」、「ひとりっ子」。このうち本邦初訳は、恋人どうしの2人がお互いをより知ろうとして身体交換や”宝石”を通した記憶交換などをするうち、ついに2人の距離が小さくなりすぎて1人でいるのと変わらなくなり別れてしまう「ふたりの距離」、と、改変世界の科学者ストーニイは分岐する多世界間を移動してきたヘレンという女に助けられ様々な科学技術の発展を助けるが、という「オラクル」の2編。あとはSFマガジンなどに掲載されたときにほとんど読んだことがあるものだった。分量からいうと表題作がボリュームもあって読み応えがあるが、”数学”SFとも称される「ルミナス」あたりが個人的にはやはり面白かった。河出からも短編集が出るそうだしノヴェラ級の新作はいくつか書いているそうなので後が楽しみである。
(「ひとりっ子」グレッグ・イーガン著、ハヤカワ文庫SF1594、2006年12月発行、ISBN4-15-011594-X)
2006年度の英米SF受賞作特集。特集の小説は3編。スタージョン記念賞受賞のパオロ・バチガルピ「カロリーマン」は化石燃料が枯渇し代替燃料を生むバイオ企業の支配下の世界で、バイオ企業の独占を覆す鍵を握る科学者の移送を依頼された運び屋の話。ヒューゴー賞ショートストーリー部門受賞のデイヴィッド・D・レヴァイン「トゥク・トゥク・トゥク」は昆虫そっくりの知的生物の暮らす星へやってきたセールスマンだが、会話すらまともに成立しない状況でその星の祭りがやってきてさらに翻弄されてしまう。ローカス賞ノヴェレット部門受賞のコリイ・ドクトロウ「I:ロボット」は、妻がユーラシアへ亡命し娘と暮らす警官のアルトゥーロだが、北米はロボット工学3原則を守ろうとする<社会調和会議>のもと監視社会となって停滞していた。ある日学校をさぼった娘の行方を追ううちに亡命した妻がユーラシアのAIロボットと共に父娘を迎えに来た場所に連れて行かれる。その場では別れたアルトゥーロだが娘が<社会調和会議>に連れ去られるに及びユーラシアに逃れる決意をする。逃亡の最中<社会調和会議>のロボットに妻が殺されたかに見えたがユーラシアに到着してみるとそこでは陽電子頭脳にアップロードした自分を有機/無機ボディにコピーすることが日常的に行われ死んだと見えた妻もコピーの1体にすぎなかったことを知り、北米に比べてはるかに進歩したユーラシアの状況を知る。3作の中ではこれが一番。他にはSFスキャナー特別版で受賞作のレヴュー、2005年の英米注目作総括、特集解説、ワールドコンレポートなど。連載陣は、山田正紀「イリュミナシオン」第9回は、阿修羅の物語の続きで、平城京で長屋王が滅ぼされる影に謎の渤海使の姿があり、それにからむ阿修羅たちを描く。朝松健「魔京」第5回は、京魂の行方を追う文覚は上西門院の屋敷を覗き、あきこ様と呼ばれる存在から命からがら逃れる。一方で権勢を極める平家に対し以仁王の乱が起ころうとしていた。田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」第26回は、ログロ人のペットのべべンジョに寄宿するピンクだが、ベベンジョの習性に従って死んだログロ人司令官を食べたり自分の糞を食べたりのグチョグチョが描かれる。SFマガジン読者賞も発表されており、海外部門は3月号に載ったブラッドリー・デントン「チップ軍曹」、国内部門は2月号に載った藤田雅矢「ダーフの島」、イラストレータ部門は10月号のGallery掲載の橋賢亀氏。
商業宇宙旅行が始まって間もない時代。懸賞に当たって宇宙旅行に行けることとなった平凡な会社員キップ・ドーソンだったが、一緒の宇宙船に乗るはずだった大富豪たちが次々に行けなくなり、パイロットと2人きりでの宇宙旅行に出発した。軌道に乗るまでは順調だったが、軌道に乗ってすぐに微小天体がパイロットの頭を貫通し、パイロットは即死、しかも地上との連絡回線はすべて沈黙してしまった。地上の専門家の助けが一切ない中で、乗客として多少の訓練を受けただけのシロウト会社員に何ができるのか。マニュアルを引っ張り出して孤軍奮闘するドーソンは多少失敗しながらも何とか軌道離脱の姿勢に持っていくことに成功するが、逆噴射が作動せず離脱ができない。二酸化炭素処理の限界が刻々とせまる中、機内にあったラップトップに過去を思い出しながら遺書のつもりで文章を綴るドーソンだったが、実はラップトップにしかけられていたスパイウェアが地上に送る回線だけは別系統で生きていたのだった。夜中のハッキング中にその信号に気付いたオーストラリアのハッカー少年によって遭難した宇宙船の唯一の生き残りが送ってくる文章は世界中をかけめぐり人々に大きな衝撃を与える。米大統領は急遽救援シャトルを送るよう命令するが、商業宇宙船に苦い思いを持つNASA長官はそれを妨害しようとする。さらには各国の宇宙機関も救援船を送ろうと動き始める。シャトルが打ち上げ間近でトラブルで断念し、唯一ソユーズが打ち上げに成功する中で、ダメモトで船外作業で応急修理を施したドーソンは再度、軌道離脱を試みる。離婚寸前の妻、ケンカばかりしていた息子、ひそかに好意を持つようになった宇宙旅行会社の美人広報など、地上で待つ人々の様々な思いの中、ついに逆噴射が成功し、地上に降り立ったドーソンは自分書いた遺書が世界中で読まれていたことを知らされる。誰も読まないと思って好き勝手に綴った文章が実は地上の人々に感動の嵐を与えていた、というあたりがキモか。近未来の設定だが作者は元々航空小説を得意をするようでほとんど現代小説である。そういえばこの本は1月発行なので新しいISBN-13に変わっている。
(「軌道離脱」ジョン・J・ナンス著、菊池よしみ訳、ハヤカワ文庫NV1135、2007年1月発行、ISBN978-4-15-041135-0)
ダーク・ピットシリーズ。カッスラーと息子のダーク・カッスラーとの合作。第二次大戦末期、米本土を細菌兵器で攻撃しようと旧日本軍の潜水艦が出撃したが、撃沈され作戦は失敗に終わった。60年余りがすぎて沈没した潜水艦から細菌兵器を回収しようと暗躍する韓国のカン・エンタープライズ会長のカン・テジョンのたくらみをダーク(ジュニア)たちがかぎつける。カンは実は北朝鮮のスパイであり、目的は日米両国に対する細菌テロであった。カンは衛星打ち上げ会社に通信衛星を打ち上げる契約と見せかけて細菌を積んだ衛星を打ち上げるために、移動ロケット発射台を手下の武装グループを使って占拠する。刻々と迫る打ち上げ時刻に対し、ピットたちは何とか発射台にたどり着くがコントロール機器をすべて破壊されて打ち上げ阻止の手段がない。NUMAの潜水艇に乗り込んだピットは海上発射台の足部分に穴を開けて海水を注入することにより発射台を傾けてロケットの軌道を狂わせかろうじて細菌を積んだロケットを海に落とすことに成功する。前作であまりにも老いたピットの姿にもうこのシリーズも終わりと思ったが、今作では若い息子のダーク(ジュニア)が主に活躍し、NUMA長官となったピットが援護するという図式が結構うまくいっている(サンデッカー前長官は副大統領に就任している)。ピット自身もクライマックスの場面では従来どおり体をはった無茶なアクションを見せて不死身健在であり、このまま徐々に役割交代がうまくいけば、まだまだシリーズが続くのかもしれない。
(「極東細菌テロを爆砕せよ(上・下)」クライブ・カッスラー&ダーク・カッスラー著、中山善之訳、新潮文庫、2006年12月発行、ISBN4-10-217039-1,4-10-217040-5)
前半の表題作では、暗黒星雲の中にあるプロヴコナーの惑星プロヴ?に到着したローダンたちだが、ラール人の工作員の暗躍に悩まされる。ラール人はかつて捕らえたプロヴコナーのイツァル=ロノンにひそかに遺伝的プログラムを仕込んでおり、逃げ帰ったロノン自身には何も洗脳などの痕跡がなかったにもかかわらず、ロノンの子どもに一定条件が満たされると発動するプログラムを仕込んでおいたのだ。そしてローダンたちの到着でミュータントたちの超心理エネルギーを受けたロノンの息子のイヴェク=タンホルは急にテラナーを憎むようになり暗躍を始めた。マルコポーロを爆破しようとした試みは失敗し、脱出しようとしたタンホルは星雲内の超心理エネルギーにやられ一件は落着する。後半の「ブーメラン作戦」では200の太陽の星の科学者ホシュトラはラール人のSVE艦のエネルギー吸収を阻害すうr新兵器を発案し、中央プラズマにポスビ船への搭載を持ちかける。同意した中央プラズマは新兵器を搭載したフラグメント船でラール人のSVE艦を攻撃するが、反撃され壊滅的な打撃をうけてしまう。この事態の直後、突然太陽系からすべてのラール人が撤退し、太平洋に爆弾を設置したことを告げ、人類に最後通告をつきつける。
(「バイオ・プログラム(ペリーローダン330)」H・G・フランシス&H・G・エーヴェルス著、五十嵐洋訳、ハヤカワ文庫SF1592、2006年12月発行、ISBN4-15-011592-3)
