山本弘らしいSF。文庫化を待ったかいがあった。主な登場人物は幼い頃に土砂災害で孤児となり、何故こんな理不尽な仕打ちがあるのか悩み探るようになった和久良輔と優歌の兄妹とネット時代の天才作家、加古沢黎。遺伝的アルゴリズムの研究からゲームの開発を進める兄は、この世界の仕組みと「神」についての仮説を立てる。この世界は「神」のシミュレーションであり約1光年より先の宇宙は仮想球への投影にすぎない。「神」の目的は人間をはるかに上回る巨大知性(=グローバル・ブレイン)を創発により誕生させることで、世界各地で起こる超自然現象は「神」からのメッセージだが、個々の人間にはそのメッセージを読み取ることはできない。一方、この仮説を聞いた天才作家の加古沢は良輔のアイデアを自分のアイデアのように装った小説「仮想天球」を発表し注目を集める。おりしも紙幣経済からネット上の資産となるAVP(Average Value Point)への移行過程で経済崩壊とも言えるビッグ・クラッシュを起こした日本政府に対し、加古沢はネットでの絶大な発言力を駆使して既存の政府に代わる新政府を無血で打ち立てる、サイレント・レヴォリューションを提唱し実現してしまう。しかし、その裏には自分が教祖となって、「神」の世界で永遠の生命を得ようとする加古沢の陰謀が隠れていた。超自然現象はますます頻発し、ついには月面に「神」の顔が現れるにいたり、世界中で宗教がらみの大混乱が生じる。兄の仮説が真実であることを確信した優歌は加古沢に「人類がサールの悪魔にすぎない」と告げ、直後の氷塊落下で加古沢は死んでしまう。その後も韓国と日本の間に起こったサイバーウォー、分裂したアメリカ、中国などで世界は混乱する。優歌はオーストラリアで記号着地問題を解決する初のソフトであるアイボリーを開発している兄の元を訪れ、「神」の真実を公表するよう説得する。全編に展開される各種の超自然現象の描写は、超自然現象研究家でありと学会主宰の山本弘の面目約如である。「神」の正体というと瀬名秀明「BRAIN VALLEY」あたりが思い浮かぶが、イマイチ釈然としない終わり方の「BRAIN VALLEY」に対して、この作品は一定の納得できる説明を出している。やはりハードSFとはこうでなくては。さらには最後にきちんとすべての説明と決着をつけた上で、そこはかとなく希望の持てる終わり方に持っていっているのも山本弘らしくて良い読後感を持った。
(「神は沈黙せず(上・下)」山本弘著、角川文庫、2006年11月発行、ISBN4-04-460113-5,4-04-460114-3)
2006年12月アーカイブ
ここは広い意味でのSF関係の読書記録のつもりなので、あまり本業関係の本は入れないが、これはポピュラーサイエンスとはいえ?宇宙SF映画を楽しむ?と副題がついているのでちょっとばかり書いてみる。内容は「天文教育」誌のコラムをまとめたものでSF映画をネタに色々と遊んである。<スターウォーズ>シリーズを題材に光行差と他惑星を扱い、「ライトスタッフ」を題材に化学ロケットを扱い、「ミッション・トゥ・マーズ」「レッドプラネット」を題材にホーマン軌道とテラフォーミングを扱い、「ディープ・インパクト」「アルマゲドン」を題材に天体衝突を扱い、「地球最後の日」「さよならジュピター」を題材にブラックホールの検出を扱い、「2001年宇宙の旅」を題材に未来のロケットを扱い、「宇宙戦争」「物体X」を題材に生命の進化を扱い、「アンドロメダ…」「復活の日」を題材に生命の起源を扱い、「惑星ソラリス」「ソラリス」を題材に太陽と地球の関係を扱い、「砂の惑星」を題材にハビタブルゾーンを扱い、「タイムマシン」を題材に相対論的時差を扱い、<スター・トレック>シリーズを題材に高度宇宙文明を扱っている。補遺として関係する数式もまとめてあるので便利である。高度宇宙文明で出てくる降着円盤文明については以前にハードSF研の公報に詳細な考察が載っていたもので非常に面白いのだが実際のSF作品に結びついてないようで残念だ。最後にイラストの田巻氏には申し訳ないがカバー裏のイラストはやはり不気味だと思うぞ。
(「シネマ天文楽入門」福江純著、裳華房・ポピュラー・サイエンス278、2006年11月発行、ISBN4-7853-8778-5)
銀河帝国皇女ナオシスタの起こした事故に巻き込まれ死亡後、全身サイボーグとなって軍事機密のかたまりとなったため皇女の備品(ペット)と化した千高知が主人公の星屑エンプレスシリーズ(?)の2巻。愛するケイマリリが連続殺人犯に襲われ、皇女とのペアで捜査にあたることになった高知。一方でナオシスタの父である亡きマグダ殿下の残したとされるマグダコレクションにからんで戦争推進派の暗躍が見え隠れする。特殊警察長官のグオはゲームに負けて皇帝ウレイクから罰ゲームを言い渡されうろつくうちにマグダの残した転移装置で高知と合体してしまう。一緒になって転移を繰り返すうちにマグダの残した謎が徐々に解明されてくる。マグダコレクションとは実は美しい異星人を集めて時間凍結したものであった。それを知った高知たちの前に現れたのはマグダ殿下その人であった。マグダの姿に惑わされ連れ去られたナオシスタを追った高知たちが突き止めたのは、かつてマグダが戦争で死にかけたときに残った脳を3分割して作られたうちの一体がニセマグダであり、それを利用した貿易商オム・クロジーたちが陰謀を企んだという事件の真相であった。しかし、今回はデルペカ星人の肉体サーフィン(?)なども登場し、六曜博士も相変わらずの活躍(といっていいのか?)。このデルペカ星人って一体なんなんだろう、と疑問を抱きつつ続く(のかな?)。
(「きりきりなぼくの日常(星屑エンプレス2)」小林めぐみ著、富士見ミステリー文庫、2006年10月発行、ISBN4-8291-6371-2)
朝日ソノラマから出ているものと同系列かと思ったが(どちらも「グリムのような物語」だし)、別物のようだ。グリムを題材にしたという点では同じだが基本的にミステリーズ誌に掲載したものを集めた作品集。創元から出ているせいかもしれないが、こちらの方がモロSFっぽいものが混じっている。特に「ラプンツェル」は介護ロボがいつしか自らを人間と思い込み、という話だし、「とりかえっ子の話」は子どものかわりに出現した小人がいつまでも笑わないうちに人間の世界がどんどん変わりついには最終戦争や災害で人間が滅びて、という話で、自作解題でも書いているとおり最近の作者にしてはめずらしくかなりベタなSFになっている。他の作品は「七匹の子やぎ」、「奇妙なおよばれ」、「猟師とおかみさんの話」、「スノウホワイト」、「小ねずみと小鳥と焼きソーセージ」、「コルベス様」、「めんどりはなぜ死んだか」、「カラバ侯爵」、「藁と炭とそら豆」、「金の鍵」(これだけは書きおろし)。
(「グリムのような物語・スノウホワイト」諸星大二郎著、東京創元社、2006年11月発行、ISBN4-488-02391-6)
ドラッグSF特集。特集の小説はジョナサン・レサム「ライトと受難者」はクラックの売人の弟にとりつく”受難者”(エイリアン?)の話、ダリル・グレゴリイ「二人称現在形」はドラッグ”ゼン”によって人格をなくしたテレーゼだが、現在のテレーゼは以前のテレーゼをどうしても自分と思えないという話、ポール・ディ・フィリポ「デイドリーム・ネーション」はブルートゥースによってプレゼンテーションを交し合う男と女の姿を描く話、わりとすぐにでも実現しそうな結末がちょっといい小話、ジェイムズ・パトリック・ケリー「熱力学第一法則」はドラッグ”ブルーマジック”に酔う男女の姿を1970年代のエピソードを交えて描く。関連してデジタル・ロトスコープを使った映画「スキャナーダークリー」の記事とドラッグ小説の小川隆の評論とドラッグ映画の柳下毅一郎の評論。連載は神林長平「雪風帰還せず」<後編>はジャム機の捕獲を狙って基地に誘導する雪風だが帰還寸前に不可知戦域に移行させられ雪風の姿は消えてしまう。次作は来年春だそうだが早く続きが読みたい。朝松健「魔京」<第4回>は平清盛の下にあった「ミヤコミタマ」が奪われてしまうエピソードの始まり。田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」<第24回>はログロ人の拷問されるピンクの話。谷甲州「異聞天誅組」(霊峰の門・第八話)は1863年に飛んで倒幕運動を展開する天誅組に影として加わらされる娘・楓の話。他は映画監督の石井聰亙、今敏のインタヴュー、新たなアニメ化が進む「ジャイアント・ロボ」と「ぼくらの小松崎茂展」のレポート、新連載エッセイとして大森望の「大森望のSF観光局」と米田裕「家・街・人の科学技術」が始まっている。
(「SFマガジン2007年1月号」ハヤカワ書房、2006年11月発行、第48卷第1号(通巻609号))
SF Japan のvol.8に載った遠州灘立方体は読んでたけど一遍だけでは背景がよくわからず、ちょっと変わった(女の子の裸の出てくる)短編と思っていた。この単行本に納められているのも基本的には独立した短編だけど同じ世界背景の短編がいくつかあるので、ちょっとは事情がわかる(かな?)昭和初期から開発されていた拡張空間形成機とその拡張空間にいる謎の生物たちと迷い込んだ少女(裸の)の話、空間ボーリング法によってどことも知れぬ惑星との穴があいてしまった世界での少女(裸)と異星体の話、とかが主だが、謎の生物の出てこない(でもなぜか少女の裸は出てくる)話も入っている。基本的にはあとがきに書かれているとおり作者が「自分の描きたいものだけ描いてる」うちにできた話なので少女の裸に特に意味はなく、作者の<80年代、田舎、夏>と裸の少女の組み合わせという趣味で描かれた話。その趣味が合ってれば心地よく読める。私の場合はわりとこういう話は好きであるし、出てくる(裸の)少女たちの描きかたもわりと趣味に合ってるようで満足できた。集録作品は「鈴木式電磁気的国土拡張機」「三型拡張空間」「空中線」「遷移点の鉄塔」「異星構造体」「上内沢遷移点」、「モヘモヘ」「浸水殻」「風呂桶の庭」、「取水塔」「増殖改変体第五形態」、「遠州灘立方体」、あたりまでが謎の生物がらみ、「用水」「堰堤とプール」がその他。
(「鈴木式電磁気的国土拡張機」粟岳高弘著、コスミック出版 KyunComics、2006年9月発行、ISBN4-7747-3007-6)
