2006年8月アーカイブ

日本ふるさと沈没

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最初本屋で見た時はリメイク版「日本沈没」がらみのマンガ化作品かと思って見逃していた。実態は21人のマンガ家によって「各々のふるさとが沈没する」ということをテーマに描かれた描き下しアンソロジーであった。執筆陣はかなり豪華で表紙と序章が鶴田謙二(東海地方の一遍も)。後はふるさとの地方ごとに、北海道が吾妻ひでお・唐沢なをき・あさりよしとお、東北が遠藤浩輝、関東が西島大介・伊藤伸平、北陸/甲信越が米村孝一郎、東海が鶴田謙二・恋緒みなと、近畿がひさうちみちお・トニーたけざき・空ヲ、中国がいしいひさいち・寺田克也・TONO、四国が宮尾岳、九州が安永航一郎・ヒロモト森一・幸田朋弘、沖縄がロマのフ比嘉、全国としてとり・みき、という布陣である。どれも面白いが、特におすすめは、本家の日本沈没っぽい話だが絵の魅力で鶴田謙二、岡山県人と周辺の気質を題材にした地元のいしいひさいち、製造物責任法をタテにイザナギに迫る安永航一郎といったあたりか。

(「日本ふるさと沈没」鶴田謙二ほか(アンソロジー)、徳間書店 ANIMAGE COMICS SPECIAL、2006年8月発行、ISBN4-19-770132-2)

宇宙開発現場取材日記の第3弾。秋に出ると聞いてたけどもう出ている。この卷ではヨーロッパのアリアンIVの打ち上げ取材にギアナへ行ったり、ドイツとロシアの合弁企業のユーロコットの打ち上げ取材にロシアのプレセツクへ行ったり、コロンビア事故後のシャトルの復活打ち上げの取材にケネディ宇宙センターに行ったりと、外国への取材の道中を書いた紀行文としてバラエティにとんだ内容である。勿論、国内の打ち上げもH-IIAの7号機、M-Vの6号機とちゃんと抑えてあり、まだ記憶に新しい「はやぶさ」の小惑星イトカワへの着陸の取材が末尾についたもりだくさんの内容である。これまでも1(262p)、2(282p)とだんだん厚くなっていたが、今回は406pもあるが、値段は100円の上昇に留まっており、この意味でもお買い得であろう。前述のとおり中身がつまっており読み応えがあり結構読むのに時間がかかってしまったが、やはり抜群に面白い。ただ、取材を続けるうちに業界の裏がわかってきたこともあり宇宙開発の前途を憂うるのが各所に読み取れ(帯にも「宇宙開発に未来はあるか」とあるぐらいだし)、読んでる方としても先行きの不安が増すところでもあるが。

(「宇宙へのパスポート3」笹本祐一著、朝日ソノラマ、2006年8月発行、ISBN4-257-03726-1)

映画「日本沈没」のリメイクに合わせて出たノンフィクション。第一章は海洋開発研究機構(JAMSTEC)の西村一氏による、フィクションに現れた沈没・洪水物語の概観で、アトランティスやムー・レムリアから古今東西の関連小説・映画・コミックスから「日本沈没」の概要や「ハイドゥナン」までの紹介。第二章は藤崎慎吾氏による地球科学の概観で、最新の知見による46億年の歴史と現在の固体地球の構造の紹介。1億年=1年として地球の歴史を人の一生に見立てたのはわかりやすい。第三章は西村氏による日本沈没の検証で、いかにしてもっともらしく日本を沈没させるかを、SF大会で発表した説などの紹介を通して論じている。第四章では地球の探査の簡単な歴史と最新の計画の紹介などが藤崎氏と松浦晋也氏によりされている。内容は、モホール計画の紹介や、潜水調査船<しんかい6500>、地球深部探査船<ちきゅう>、地球シミュレータ などの最近の研究の現状の紹介。地学教室に所属している身としては、聞いてる事項も多かったが、自分の専門分野とは違うので、改めて知識を整理するには役に立った。

(「日本列島は沈没するか?」西村一・藤崎慎吾・松浦晋也著、早川書房2006年7月発行、ISBN4-15-208743-9)

日本沈没、第二部

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待望の日本沈没の続編。高校の頃にカッパノベルズの「日本沈没」を通学途中の駅のキオスクで買って読んでから30年以上たったと思うと感慨深い。時代設定は日本の”沈没”から25年後の世界。世界各地に分散避難した日本人は、ある場所では苦労の末に植民地を切り開き、ある場所では地元民との摩擦などで難民化したりし、それでもなお国家としての日本は存続し国民の持つ高い技術水準のおかげで一定の経済力をも維持していた。沈没海域を虎視眈々と狙う中国との軋轢や、中央アジアでの民族紛争などの危機を前に、首相の中田はメガフロートによる大規模構造物の建造や熱帯地域の大規模開発による日本人の再編を狙っていた。しかし稼動を始めた地球シミュレータ(日本が沈んで25年たった世界での地球シミュレータなので現実の地球シミュレータではない)のシミュレーションによれば成層圏に留まる日本沈没時の大規模噴火に伴う粒子が気候の寒冷化を招き、氷河期の到来によって何も対策を取らなければ10億人規模の死者が出ることが判明する。おりしも中国に対抗するためにアメリカの協力を得ようとしていた中田首相は、情報を隠しあくまで自国の保身を図ろうとするアメリカに迫られ窮地に陥る。かろうじてアメリカ軍に地球シミュレータを確保される前にシミュレーション結果をインターネットで公開することに成功したが、もはや中田の日本人再編計画は頓挫し、政権交代により、現地に溶け込み日本人をコスモポリタン化する構想を持つ鳥飼新首相のもとで日本は新たな道を模索していくこととなった。巻末では数百年後の氷河期到来後の世界で恒星船で旅立つ日本人の姿を描き、ちょっとクラーク的な終わり方かも。小松左京が単独での執筆ではなく後輩のSF作家たちとのプロジェクト制により谷甲州の執筆でやっと完成した第二部だが、扱っている内容の幅広さを考えるともっとボリュームがあってもよかったのではないかと感じる(上下2巻とか)。8月はじめには出版されていたはずだが近くの書店ではどこに行っても見当たらずやっと見つけた時には既に第二刷になっていた、どういう事情だったんだろう。

(「日本沈没、第二部」小松左京+谷甲州著、小学館2006年8月発行、ISBN4-09-387600-2)

SF魂

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小松左京の自伝。自然にSF半生記という内容になっている。「小松左京マガジン」に掲載中の「小松左京自作を語る」を生かしながら、ということなのでどこかで読んだことがあるものが多い。内容は、第1章:商業誌デヴューまで、第2章:60年代のSF量産期、第3章:70年代前半の大阪万博と「日本沈没」騒動、第4章:70年代後半から映画「さよならジュピター」を経て90年の花博まで、第5章:90年代以降、という構成。個人的に興味を引かれたのは経済誌「アトム」の湯川秀樹博士の取材で在原業平の歌の謎かけに対し即答し観測者問題と見抜いて打ち解けたというエピソード、さすがである。また、「日本沈没」の第2部(当初は「日本漂流」として構想されていたはず)がやっと刊行されるに到った経緯と「虚無回廊」が中断したままの経緯にはなるほどと思ったが、「日本沈没」が第2部という形で出せた以上は、「虚無回廊」も何らかの形での決着を望みたいところである。来年の世界SF大会には間に合わないだろうというのが残念ではあるが。

(「SF魂」小松左京著、新潮新書、2006年7月発行、ISBN4-10-610176-9)

前半の「暗闇のチェス」は銀河のチェスサイクルの最後。タフンにある自らの肉体に戻ろうとするローダンを妨害する”反それ”は最後のあがきを仕掛けるが、”それ”による適切なヒントのおかげでアトランたちの対策が功を奏しついに”反それ”はゲームに敗北し高位の超知性体により当分の間封じこめられることになり人類には報酬が約束される(それが何かは知らないが)。後半の表題作からは七銀河の公会議サイクルが始まる。突如太陽系が暗黒につつまれ外部とのあらゆるコンタクトが切れる。その後常態に復帰したあと、誰にも探知されなかった巨大宇宙船がテラニアに出現し、宇宙船から現れた異星人は七銀河同盟の公会議(七種族のヘトス)を代表するラール人のホトレノル=タアクと名乗り、銀河系の代表者(第一ヘトラン)としてローダンを選んだと告げる。圧倒的な技術力を見せ付けてせまるラール人に対しやむなく応じるふりをして会議惑星に同行したローダンたちだがラール人の中にも抵抗勢力がいることを知り何とか彼らとコンタクトをとりホトレノル=タアクの裏をかこうとする。

(「七銀河同盟」クルト・マール&ウィリアム・フォルツ著、五十嵐洋訳、ハヤカワ文庫SF1569、2006年7月発行、ISBN4-15-011569-9)

イリアム

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待望のシモンズの新作。数千年の未来を舞台に語られる物語は3つのパートの描写が交互に記述される。1つは紀元前12世紀頃のトロイア戦争。題名の元にもなったホメロスの叙事詩「イーリアス」に出てくる英雄たちの戦いぶりが描かれるが、この世界では神々の介入が実際に頻繁に行われている。その神々がオリュンポス山から来るところは神話どおりだが、実際にはこのオリュンポス山は火星最大の山であるオリュンポス・モンスであり、イリアム(トロイア)に襲来するときはQT(量子テレポーテーション)を使って来襲する。この場面の語り部は神々によって戦争の記録をつけるために再生させられた20世紀の学者である学師ホッケンベリーである。2つめは数千年後の地球。ここでは古典的人類はポストヒューマンによる最後のファックスによって消え去っており、地球にいる人類は20年ごとに蘇生院にファックスされそれを5回繰り返すと軌道リングに上がってポストになると信じさせられて飼い殺しされている。現状に疑問を持つハーマンたちはさまよえるユダヤ人ことサヴィ(最後のファックスをしなかった古典的人類の生き残り)を探して旅に出る。3つめは木星系の半生物機械であるモラヴェックたちが火星で観測された異常な量子擾乱の調査に向かう冒険紀行。モラヴェックはその昔探査用に投入されたAI搭載の半生物機械の進化後の姿で、エウロパ系のマーンムートとイオ系のオルフの道中は、彼らがシェークスピアやプルーストなどの古典地球文学に凝っているという設定も含めてユーモアあふれるものとなっている。3つのパートは絡み合いながら収束していき、トロイア戦争はホッケンベリーの策略どおりイーリアスの記述から離れ英雄たちが神々へ戦いを挑むことになる。そのままでは勝負にならないように見えた時にモラヴェックたちが持ち込んだ装置の起動により小惑星帯から戦闘用のモラヴェックの集団が飛来し人類と合同軍を形成する(このあたりの記述はさすがシモンズでカッコイイ)。一方、ハーマンや同行したディーマンらはサヴィとともに軌道都市に上がって死に絶えたポストと残りのポストたちが火星に去ったことを、かつての地球の情報圏や生物圏から進化した神智圏(ロゴスフィア)の化身プロスペローから聞き、蘇生院を含む軌道都市を破壊する。例によって第1部が終了したにすぎず、神々の正体や解明されない謎が多数残り、神々との戦いもこれからというところで終わっている。早く続きの「オリュンポス」を出して欲しい。

(「イリアム」ダン・シモンズ著、酒井昭伸訳、ハヤカワ海外SFノヴェルズ、2006年7月発行、ISBN4-15-208749-8)

日本SF大賞受賞作の待望の文庫化。聖遷暦(ヒジュラ暦)1213年、迫り来る征服者ナポレオンの脅威を前に、エジプト内閣の一員であるイスマーイル・ベイ知事(ベイ)の支配階級奴隷(マムルーク)アイユーブは、読む者を破滅に導き歴史を覆す書物「災厄の書」を作成すべく、語り部ズームルッドの語る物語を聞く。最初は「もっとも忌まわしい妖術師アーダムと蛇のジンニーアの契約の物語」で、アーダムが砂漠の商都ゾハルに潜入し、邪神である蛇女神のジンニーアから妖術を学び、王として地下に阿房宮を建設するも、最後にはゾハルやジンニーアもろとも自らを封印するにいたる。次の物語は「美しい二人の拾い子ファラーとサフィアーンの物語」で、白い人々の住む森で育った拾い子のファラーは不幸な事情から、復讐のために稀代の魔術師となるべく修行を続ける。一方砂漠の商都の王子として生まれたサフィアーンはしかし誕生と同時に拾われ自らの素性を知らぬままに盗人の一家に育てられる。砂漠の商都の近くに発見された遺跡を調査するうちに、そこがかつてのゾハルであることが判明し、魔術師となっていたファラーと剣士となっていたサフィアーンは遺蹟の最下層の封印の中で魔王アーダムと対決し一度はこれを倒す。しかしサフィアーンにとりついて甦ったアーダム/サフィアーンとファラーは最後には蛇神ジンニーアの封印されていた下層の異界で対決し、ジンニーアを滅ぼすとともにアーダムも永遠の眠りにつき、地下を統べるファラーを残して地上に戻ったサフィアーンは王女を娶り幸せな結末を迎える。現実界では、物語を聞いたアイユーブは、語られた年代記を吸収し自らの過去の空白を埋めて開放された後、カイロに入ったナポレオンに向かっていく。災厄の書を構成する物語は抜群に面白く3巻の長さを感じなかった。

(「アラビアの夜の種族 I,II,III」古川日出男著、角川文庫、2006年7月発行、ISBN4-04-363603-2,4-04-363604-0,4-04-363605-9)

「イリアム」刊行に合わせてシモンズ特集。小説はイリアム前日譚「アヴの月、九日」と「カナカレデスとK2に登る」。前者は古典的人類の最後の日々を描いてけだるい雰囲気の作品。これだけではちょっとピンと来ない部分も。後者は異星人とのパーティでK2に登るという山岳小説、こちらは読後感も良く満足できた。後はローカス誌に載ったインタヴュー、香月氏の作家論、ブックガイドなど。連載陣では朝松健「魔京」の第2回、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」第20回、山田正紀「イリュミナシオン」第7回。ジャン・ゴーレとイリュミナシオンはそろそろ佳境に入るか。読切で草上仁「チューリング・テスト」は遭難訓練用のAI搭載のブイを回収に向かった調査船が遭難したが、誤って起動されたブイのAIの信号と真の遭難者の信号をどうやって区別するかというお話。あと「カズムシティ」の解説と<エレニア記>の解説が中扉に。

これもイギリス作家によるニュースペースオペラ。”特異点”(シンギュラリティ=AIが限界を突破して超知性体化する時点)後の世界を描いている点ではストロスの「シンギュラリティスカイ」あたりと同じだが雰囲気は全く違う。特異点を突破したAIは”後人類”へと変貌し人類に叛旗を翻しネットに接続していた人類を吸い上げる”強制昇天”と呼ばれる大戦争を起こし、何処かへ去っていった。300年後、生き残った人類はいくつかのグループに分かれ文明の再建をしていた。テラフォーミング惑星への植民を繰り返すアメリカオフライン(AO)、後人類の残した超科学技術を探求に力を注ぐ啓蒙騎士団(KE)、甦った共産主義を堅持する民主共産主義連合(DK)、ワームホールゲートを掌握し後人類の遺物をサルベージするカーライル家、が主な勢力である。物語はカーライル家の一員ルシンダの率いるチームがゲートから出た先の惑星エウリュディケの遺跡に眠る戦闘マシン群を起動してしまうところから始まる。エウリュディケには強制昇天を逃れて植民後他の人類グループとの交流がないままのエウリュディケ人がいてルシンダは彼らの捕虜になったばかりか敵対する啓蒙騎士団が呼び寄せられる。一方でエウリュディケでは後人類に捉えられた人々の精神を取り戻そうとする”帰還派”の一派の画策も始まっており、謎の遺跡をめぐって他の勢力も交えた虚虚実実の争いが巻き起こる。カーライル家の使う防御を固めた探査車が”検索エンジン”だったり、謎の戦闘マシンの由来をソフトウェアに残るマイクロソフトのパッチで地球製と言ったりするお遊びも随所に見られるが、話のテンポやSFガジェットの使い方もうまく、この手のニュースペースオペラの中では非常に面白く読めた、お勧め。

(「ニュートンズ・ウェイク」ケン・マクラウド著、嶋田洋一訳、ハヤカワ文庫SF1575、2006年8月発行、ISBN4-15-011575-3)

CB感/007

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CB750に乗って走るジュンは偶然デモ隊が逮捕されそうになるのを助け、それを見た兄のヤスヒロたちはバイクに乗るジュンをヒーローに祭り上げようと画策する。デイブにもらったヘルメットやツナギで走るジュンは次第に民衆のヒーローに仕立て上げられ、それと共にモラたちとの間には亀裂が入っていく。一方、ノブはSUZUKIのGT380のエンジンを発掘し、これを使って新たなバイクに仕上げる(外見はカタナっぽいが)。盆にヤマタイに一時帰省し、再び地球に戻ってきたジュンはバイクに魅せられるのがとまらないが、同時にバイクに乗ることで誰かを助けることができるのかという悩みの感じ始める。

(「CB感/007」東本昌平著、小学館 BIG COMICS、2006年9月発行、ISBN4-09-180570-1)

イギリスのニュースペースオペラの一翼を担うストロスの作品。これらの一連の作品群で扱われるのは”特異点”後の世界。”特異点”というと以前はブラックホールの特異点なんかを指していたものだが、ここで出てくる”特異点”(シンギュラリティ)は、AIが進化して臨界点を突破して人類を超える超知性体化する時点を指す(ヴァーナーヴィンジの提唱だったか?)。本作では究極のAIエシャトンが出現し全人類の9割を銀河系中に強制植民させている。植民世界の中でも19世紀の帝国主義国家のような体裁の政体を持ち技術的進歩を拒否している「新共和国」の辺境惑星ロヒャルツ・ワールドにフェスティバルと呼ばれる謎の存在が襲来し携帯電話をばらまいて住民に物語を語るのと引き換えに望みのものを与えるという事態が起こる。侵略とみなした皇帝は攻撃艦隊を派遣するが、艦隊旗艦に乗り合わせた技術支援員の男と国連査察官の女の2人の地球人は各々秘密の使命を持っていた。エシャトンが禁じる因果律侵犯兵器の使用をめぐって艦内で権謀術策が交錯する、というのがストーリーだが、舞台となる新共和国がいかにも定型的で新共和国側の登場人物も類型的な行動を取るし、エシャトンなどは背景説明で触れられるだけで、あまりSFらしい設定の深みが感じられなかった。レナルズなどの作品に比べるとかなり読みにくい。まあ長編第1作とのことなので今後を見守りたい。

(「シンギュラリティ・スカイ」チャールズ・ストロス著、金子浩訳、ハヤカワ文庫SF1567、2006年6月発行、ISBN4-15-011567-2)

カズムシティ

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昨年の啓示空間と同じ宇宙を舞台にしたレナルズの作品。本の厚さも同様でちょっと持って歩くには不自由する、何で上下2分冊にしないんだろう。物語は基本的にイエローストーン星随一の都市カズムシティを舞台にしたSFハードボイルド物。主人公のタナーは故郷のスカイズエッジ星で雇い主を殺したレイビッチを追ってカズムシティにたどりついたが、かつて栄華を極めた都市は数年前の融合疫でナノマシンが感染して異形の街となっていた。そこを舞台にレイビッチを追ううちに自分の中に別の人格の記憶が隠されていることに気づきタナーとしてのアイデンティティに疑問を生じていく。スカイズエッジ星での雇い主カウェアとの場面と、さらに昔のスカイズエッジ星へ植民のために航行する世代宇宙船の中での伝説の人物スカイ・オスマンの場面が、カズムシティの場面と交互に語られていき、同時にそれがタナーのアイデンシティの謎ともからんでいく。途中異星人の宇宙船やそれにからんで機械知性の脅威が語られるなど啓示空間と共通する背景にも触れられ、融合疫の原因もそれに関係があることが判明するなど、SFとしての彩りもある。主人公の正体については最後に明かされる前に気づいてしまうが、厚さを感じさせない読みやすさは健在で一気に読んでしまった。

(「カズムシティ」アレステア・レナルズ著、中原尚哉訳、ハヤカワ文庫SF1571、2006年7月発行、ISBN4-15-011571-0)

結構頻繁に載ってるわりには単行本が出ないと思ってたら、2ヶ月連続で出た。第二集に集録されているのは、花咲じいさんの伝説を題材にした「花咲爺の犬」、邪馬台国論争にからめた魏の鏡の謎を追う「割られた鏡」、七夕伝説に題材をとった「織女と牽牛」の3話。第三集に集録されているのは、諏訪と大垣を結ぶ地下洞穴にまつわる話題を追った「人穴」、古代の製鉄集団たたらと鬼伝説をからめた「鬼の来た道」、古代出雲大社をめぐる「神在月」の3話である。この後もビッグコミック誌に載ってる分が結構あるはずなので、次の卷も近いうちに出ることを期待する。

(「宗像教授異考録・第二、三集」星野之宣著、BIG COMICS SPECIAL、2006年8,9月発行、ISBN4-09-180519-1,4-09-180549-3)

突然表れて「お前を守護する」と宣言した美少女と同居する羽目になった主人公。この2巻では守護<妖精>の綾羽が主人公の幼馴染の姉妹に対して不審な違和感を覚えることから事態は新たなる敵の登場につながっていく。あいかわらず8つの世界(<妖精(アプリリス)>、<科学者(マーガ)>、<魔術師(ファルムティ)>、<剣精(メイ)>、<天使(ティシュリー)>、<不死人(アーザール)>、<邪神(ズー=ル)>と現世である<無属(ニヴォーズ)>の間の関係はよくわからないが、新たな敵<不死人>の攻撃にもだえる綾羽の姿はライトノベルではこれ以上書けないあられもない姿である(読者サービスか)。<不死人>の攻撃が必ずしも主人公を狙ったものではなく<妖精>の綾羽をねらったようにほのめかされるあたりが、続卷で明かされていくはずの8世界の関係につながっていくのか?

(「ボクのセカイをまもるヒト2」谷川流著、メディアワークス電撃文庫、2006年6月発行、ISBN4-8402-3444-2)

レム追悼特集、といっても小説はないので、沼野充義氏の追悼文、主要作品の作品論(「ソラリス」を巽氏、「砂漠の惑星」を中村氏、「天の声」を牧氏、「完全な真空」を若島氏、「枯草熱」を関口氏、<ロボット>論を林氏)、石川喬司氏の追悼エッセイと西島大介氏の追悼コミックという構成。他は、読切で石黒達昌「この世の終わりは一体どのような形になるのだろうか?」はハリケーン<リタ>のドキュメンタリー、小林泰三「頭上の大地、眼下の星海」は「天獄と地国」の続編、カストロ&オルション「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」の後編。連載は夢枕獏「小角の城」、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」、梶尾真治の怨讐星域第2話「ギルティヒル」といったところ。

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