奇しくもナノテクSFを続けて読むことになった。そのうちの1つがこれ。主人公は事情で失業中のプログラマ。ナノテク関連のハイテク企業ザイモス社に勤める妻の様子がおかしいことに気づき、同時に娘の原因不明の発疹や妻の周囲に見え隠れする謎の人影などの不可解な出来事に困惑する。実はザイモス社では軍事用に開発していたナノマシンが砂漠の製造プラントから流出し、制御不能に陥ったらしい。流出したナノマシンには<捕食者ー被食者>関係がプログラムされており、以前そのプログラムの開発をしていた主人公が事態収拾のために雇われプラントに赴く。しかし自己増殖しすさまじい速度で進化する野生化ナノマシンは群れを作り人間に襲いかかってきた。次々に犠牲者が出る中、妻を含むプラントの上層部の人間がナノマシンに支配されていることに気づいた主人公たちはかろうじてプラントと共にナノマシンを破壊し、感染していた子供たちにウイルスを注入し結果を待つのだった。ハイテクサスペンスSFとして非常に読みやすい作品になっている。ナノマシンを扱ってもその結果が人類の変貌と壮大なビジョンにつながるベアの「ブラッド・ミュージック」などとは違っていかにもクライトンらしいと言うべきか。
(「プレイ?獲物?(上・下)」マイクル・クライトン著、酒井昭伸訳、ハヤカワ文庫NV1109,1110、2006年3月発行、ISBN4-15-041109-3,4-15-041110-7)
2006年3月アーカイブ
SF Japan だが、SFJと大書きしてあるところを見るとこれが誌名になるのかな?(雑誌じゃなくムックかもしれないが)。日本SF大賞&新人賞の特集号。「象られた力」で大賞の飛浩隆の関係では、受賞後第一作「星窓」は、星空を映し出す星窓を買った日からいるはずのない姉が現れるようになった少年の心の揺れを描く。他に選評と日本SF評論賞を取ったばかりの新鋭、横道仁志の飛浩隆人間学小論「天使と人間の弁証法」。「マーダー・アイアン」で新人賞のタタツシンイチ関係では、受賞後第一作「様斬人形」は、名刀「紫電」を拝領した青砥藩で人を斬らずに様斬(ためしぎり)をするための人形の製作を託された人形儀右衛門の姿を描く。他に最終選考会の記録。連載は、清涼院流水「ソラリスの陽のもとに」、若木未生「オーラバスター・インテグラル」、火浦功「又々火星のプリンセス・リローデッド」、夢枕獏「黄石公の犬」、森岡浩之「優しい煉獄」、古橋秀之「百万光年のちょっと先」、山田正紀「神獣聖戦ディープタイム」。読みきりで小林めぐみ「宇宙生命図鑑」の新作と八杉将司「ハルシネーション」。いちばん雰囲気の気に入ったのはハルシネーションかな。山田正紀×恩田陸の大人の読書会は萩尾望都「バルバラ異界」、しまったまだ読んでないや。コラムで池田憲章がNHKで始まる「生物彗星WoO」の紹介と外国SFテレビ列伝では「サンダーバード」。大橋博之の少年SFの系譜はジュヴナイルSFにおけるジュール・ヴェルヌ、といったところ。
(「SFJ、2006 SPRING」、徳間書店、2006年3月発行、ISBN4-19-862142-X)
大森望の翻訳に関するエッセイ集。主にSFマガジン連載の「SF翻訳講座」(1989年8月号?1995年12月号)を再編成したもの+αに加筆修正といったところ。SFマガジンの掲載時期には小説はともかくコラム類は読んでたはずだから、ほとんどの内容は読んでるはずだけど、10年以上たつと当然ながら忘れてるので、改めてまとめて読むとやっぱり面白い。一の巻として、上記コラム以外の最近のエッセイ類から翻訳入門的な内容のまとめを、二の巻として、翻訳家志望者向けのネタを、三の巻として、身辺雑記や翻訳家の生活内訳的な内容をまとめてある。途中のインターミッションに見る翻訳環境(つまり使ってるワープロやパソコン、電子辞書やネット環境)の変遷もこうして振り返ってみると自分のパソコン環境やネット環境の変遷と対比されて面白い。途中で石原博士の「SF書籍データベース」に関連して自分のウェブページのURIが出てきたりしてびっくり。昔話として出てくるファンジンの名前(パランティアやNova Manthly とか)も学生時代からの翻訳SFファンとしては何ともなつかしいところ。もはや若いころと違ってSF小説をまともに翻訳しようとする気力はないが、仕事がらみで英語の翻訳をせざるをえないことはままあるので、参考になるところもある。
(「特盛!SF翻訳講座」大森望著、研究社、2006年3月発行、ISBN4-327-37696-5)
前半の「幽霊ごっこ」では、惑星ペノロクの化石脳によって示唆されたノルテマ=テイン星系の第5惑星プリムトに向かったローダンたちはロボット脳とコンタクトしたがテストと称してバーチャル空間に転送される。それはタラント銀河の工作員であるチャクントがロボット脳を操作してしくんだ罠であった。経験からそれと察知したローダンは何とか罠から脱出するが、ロボット脳の語るバイオ感染の事実から、自分達の抑えがたい繁殖衝動が外部からの遺伝子操作と知らされたヘルタモシュたちは精神的にうちのめされてしまう。後半の表題作では、自分達が遺伝子操作されたアンドロイドであるとして絶望したヘルタモシュたちが祭司イラノシュをたてて種族全体の自殺儀式をはじめてしまう。いかなる説得にも応じようとしないヘルタモシュに対し、ローダンたちは祭司を誘拐して時間をかせぎ、惑星ペノロクに戻りロボット脳に対し計略を持ちかける。ロボット脳の話したウィフィノムによるバイオ感染が8日ごとの繁殖衝動を起こすよう計画されていたよう見せかけたのだ。これによりナウパウム銀河種族の繁殖衝動の周期5ヶ月はバイオ感染と無関係とヘルタモシュが納得をし、危機は回避された。
(「自殺艦隊(ペリーローダン321)」H.G.エーヴェルス&H.G.フランシス著、五十嵐洋訳、ハヤカワ文庫SF1550、2006年3月発行、ISBN4-15-011550-8)
ロック&ハントの探偵シリーズの1作。前作の「ひとりぼっちのプリンセス」で登場したナオミとアリスとのエピソード。ネットの名うての「電子使い」たちが次々に行方不明になり、ついにはナオミことローグ・プリンセスもネットにもぐったままで肉体の方も連れ去られてしまう。手がかりであるテンゲン社を調べるうちに裏に最大手ソフトウェア会社のギルバート・ベイツがいることがわかる。ネットを支配しようとするベイツを追って本拠地にたどりついたロックたちだがベイツを倒したとき、張本人はベイツをさらにあやつっていたハッカーの流れ星であったことが判明する。ネットを裏で支配しようとしていた流れ星を倒したロックたちだが、戦いのうちにアリスも死んでしまい、ネットに封じ込めた流れ星の監視役を買って出たナオミと別れ、ハントはロックと共に去っていくのであった。
(「超人ロック、荒野の騎士」聖悠紀著、Megu COMICS(ビブロス)、2006年3月発行、ISBN4-8352-1869-8)
楊の攻撃をかろうじてふせいだロックだがスーミン共々重傷を負ってしまう。一方アンカーには南アフリカ連合のスパイがもぐりこみ、原子炉を暴走させようとしていた。かけつけたロックたちだが、原子炉の制御棒を戻すことができずにいるうちにアメリカ軍の放ったハープーンミサイルが原子炉に向かって来た。スーミンからの連絡でミサイル接近を察知したロックは軌道をそらせるが逆にアンカー上部にミサイルが当たってしまう。アンカー上部の崩落の衝撃で制御棒が戻り原始炉爆発の危機は何とか回避された。アンカーの崩壊で落ち込んでいると思われた副社長だがエレベータのケーブルは切れずに生き残っていた。急ピッチで進められた復旧工事とオレンジの開発したドライバによってスカイリフト社は競争相手に先立って軌道エレベータの試運転に成功する。それを見守るロックとスーミンの目には遠い将来の宇宙へ進出する人類の姿が浮かんでいた。オレンジの本名がケイト・ロンウォール博士と出てくるが、ということは彼女が後の惑星ロンウォールなんかの命名元なのか?こういったあたりも長く続く未来史の楽しみの1つである。
(「超人ロック、冬の虹4」聖悠紀著、少年画報社YKコミックス、2006年4月発行、ISBN4-7859-2621-X)
山本弘のSF紹介本の第2弾。扱っているのは小説編が、フィリップ・レイサム「グザイ効果」、アラン・E・ナース「中間宇宙」、ジェイムズ・ブリッシュ「恒星への抜け道」、アーサー・C・クラーク「渇きの海」、スタニスワフ・レム「星からの帰還」、デイヴィッド・イーリイ「タイムアウト」、キース・ローマー「突撃!かぶと虫部隊」、ダグラス・アダムス「銀河ヒッチハイクガイド」、かんべむさし「サイコロ特攻隊」、沖方丁「マルドゥック・スクランブル」、有川浩「海の底」。映画編が、「禁断の惑星」、「妖星ゴラス」、「地球は壊滅する」、「人類SOS」。マンガ編が、手塚治虫「サンダーマスク」、弓月光「トラブル急行」、長谷川裕一「マップス」、吾妻ひでお「スクラップ学園」、佐々木淳子「ダークグリーン」。テレビ編が、「アウターリミッツ、生まれて来なかった男」、「鉄腕アトム、空飛ぶレンズ」、「ジャスティスリーグ、より良き世界」、「プラネテス」。非常に読んでたり見てたりする確率が高い。最後のアニメ版のプラネテスはまだ見てないので見たくなった(マンガは当然読んでるが)。途中にインターミッションとしてコラムがはさんであるが、「SF版ノックスの十戒」(〇〇すべからずってやつ)、「パラノイアSFの系譜」、「パクリはどこまで許される?」、「わが青春のSFマガジンの日々」で、最後のSFマガジンなんかは年が近いせいか、読み始めたのがほとんど同じころだ。この調子ならまだまだ続けられそうだなあ。
(「トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS」山本弘著、洋泉社、2006年3月発行、ISBN4-86248-009-8)
前半の表題作では、アトランをはじめとする側近たちがローダンの様子がおかしいことから疑いを強め、ついにはオラーナ・セストレとの邂逅から疑いが決定的となり、逃亡して追い詰められたアンドロローダンはアトランに射殺されローダンの肉体は丁寧に保存されて真性ローダンの帰還を待つこととなった。後半の「狂った脳」ではカトロン銀河に遠征したローダンたちはトリトレーアから死んだノクの調べたカトロン銀河に関するデータをもらい殺人星系と呼ばれるヴラントンク星系の惑星ペノロクに向かう。ペノロクを覆うバリアから何とか入れてもらったローダンたちが発見したのはペルトゥスの化石脳だった。隣接星系に飛んでバイオ感染プログラムを発動させるよう命令する化石脳から逃げるローダンたちはガイト・コールの”叔父”アダクの犠牲によりかろうじて惑星外に脱出することに成功する。
(「大執政官の死(ペリーローダン320)」クルト・マール&ウィリアム・フォルツ著、林啓子訳、ハヤカワ文庫SF1547、2006年2月発行、ISBN4-15-011547-8)
創刊600号記念号。日本作家は神林長平が雪風第3部「ジャムになった男」でアニメ版の結末に想を得たというロンバート大佐からジャクソンへの手紙の形式を取った導入編。森岡浩之が星界の断章「変転」でジムリュアの乱を描く。管浩江の博物館惑星・余話「天つ風」は繭に籠もった芸術家の心を開こうと奮闘する孝弘たちを描く。北野勇作「カメリ、テレビに出る」はスナックで働くカメリが突然映らなくなったテレビの原因を探りにテレビ局へ行くが、という話。野尻抱介「大風呂敷と蜘蛛の糸」は風船を使った中間圏プラットホームから高度100kmの宇宙を目指す女の子を描く現代の描写と言っても通るくらいの近未来もの。飛浩隆の廃園の天使「クローゼット」は数値海岸が稼動して5年後500回もの死を上書きされて死んだ男の謎を描く。いずれも著者を代表するシリーズの新作で力作ばかりと言ってよかろう。一方、海外作家はコニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」は顧客にクリスマスプランを売るデザイナーの女の子の奮闘を描くウィリスらしい楽しいコメディ。R.A.ラファティ「1873年のテレビドラマ」は公式なテレビの開発に先立って既にテレビ局が存在して13本ものドラマが作られていたとする話、ラファティにしてはホラ度が低いか。テリー・ビッスン「オールモスト・ホーム」は田舎町の少年たちが飛行機で一見隣町に行って戻るが病気の従妹の少女は行った先の町に残り、という哀しいファンタジー。ジョージ・R.R.マーティン「グラス・フラワー」は人類世界を離れた異星の辺境で<魂合わせ>と呼ばれる新しい肉体を求める者と贄となる者の交感の儀式を行う<叡智>と呼ばれる主人公が伝説のサイボーグの姿をしたクレロノマスの訪問を受け行った<魂合わせ>の結果は、という一千世界の未来史の一話。巻末のグレッグ・イーガン「プランク・ダイヴ」は97光年の彼方でブラックホールへのダイヴを行おうとしているポリス<カルタン>を地球のポリス<アテナ>から訪問者が訪れるが、というイーガンらしい話。面白さでマーティン、発想でイーガンか。この他に連載陣は夢枕獏「小角の城」、田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」、谷甲州「熊野忍び衆」。第1回日本SF評論賞の受賞作、横道仁志「『鳥姫伝』評論」と選考会の採録。そして恒例のオールタイムベストの発表。「百億の昼と千億の夜」、「おーい でてこーい」、「ソラリス」、「しあわせの理由」が国内、海外の長編、短編の1位。海外短編1位だけが新しい。個人的なオールタイムベストをあげれば国内長編はやっぱり、1.果てしなき流れの果てに」、2.「百億の昼と千億の夜」、3.「宇宙船オロモルフ号の冒険」、4.「宝石泥棒」、5.「バビロニアウェーブ」、(1人1作)といったところか。やっぱり新しくはないな。海外長編は、1.「ディアスポラ」、2.「ハイペリオン4部作」、3.「幼年期の終り」、4.「竜の卵2部作」、5.「ブラッド・ミュージック」、といったところか。あと、「虎よ、虎よ!」「星を継ぐもの」「リング・ワールド」「宇宙船ビーグル号」「月は無慈悲な夜の女王」「ニューロマンサー」あたりも。趣味に走っても5位までじゃ全然足りないな。
