コンピュータ・ネットワーク内を自在に移動する人工知性体、PC(Programmed Character)。主人公の生島高と篠崎零は伝説のPC製作者「創造主」の手による最新のPCである。?ではデータベースを破壊する謎のPC「麒麟」を2人が追ううちにネットワーク世界の覇権を狙う組織COWINとの戦いに発展し、失踪していた「創造主」の肉体がCOWINの元にあることが判明、最後には「創造主」は現実世界に復帰する。?では頻発するPC消失事件の裏にCOWINがいることが判明し、反COWIN勢力が結集しようとするが洗脳されるPCが相次ぐ中「創造主」が積極的に反COWINに加わらないことに皆がいらだつ。そしてCOWINの中枢が人間のトップではなく、PC Cowinと名乗るPCであることが判明、零がCOWINの元に走るという衝撃の結末で終わる。?ではCOWINと反COWINの争いに防衛庁情報戦闘司令室までが介入し複雑な争いになる中、PC Cowin の実態が明らかになり、対抗するために再びネットワーク世界に没入する「創造主」によって、ついにはPC Cowinは倒される。しかし現実世界に復帰した「創造主」はCOWINの放った刺客の凶弾に倒れてしまう。?では製作者を失い半ば正気を失い暴走する「創造主」作の最強のPC ローランドによってネットワーク世界は崩壊の危機に瀕する。ついには「大佐」作のPC ファン・リーまでもが愛するローランドの手で破壊されるにいたる。最後の希望となった高と零は「創造主」により2人にこめられた願いをよりどころに最強のPCの暴走を止めようとする。最後の戦いが終わったあとには「創造主」の残した自己成長するPC 電脳天使の2人が残ることとなった。90年代後半の出版だからインターネットが爆発的に浸透した時期の作品だが、今読んでも、あまり違和感なく楽しめた。
(「電脳天使 ?、?、?、?」彩院忍著、ソノラマ文庫、1998年6月?1998年6月発行、ISBN4-257-76785-5, 76817-7, 76831-2, 76843-6)
2006年2月アーカイブ
恒例の年度ごとのベストデータ集の2006年版。国内、海外のSF小説のベストに、サブジャンルごとのベスト(ライトノベル、伝奇アクション&異世界ファンタジイ、海外ファンタジイ、国内・国外ホラー、国内・国外ミステリ、文芸ノンフィクション、科学ノンフィクション、SFコミック、SF映画、SFアニメ)、アンケート回答に、大河シリーズの現状、各社の2006年刊行計画(ブルー・マーズは本当に出るのか?)、巻末の資料集といった定例の内容。国内1位の小川一水と3位の池上永一インタヴュー、海外2位の訳者の酒井昭伸インタヴューに、海外1位の「ディアスポラ」のレヴュー、国内2位の「デカルトの密室」のレヴューに、山田×谷、桜坂×桜庭×新城の対談や2005年度のトピックスなど。宇宙SFの豊作年とのことだが、自分で選ぶとしても海外SFが、1.「ディアスポラ」、2.「啓示空間」、3.「タフの方舟」、4.<ネアンデル・タール・パララックス3部作>、5.「太陽レンズの彼方へ」といったあたりか。「ディアスポラ」は個人的には<オロモルフ>シリーズを超えるオールタイムベスト級。国内は、1.「老ヴォールの惑星」、2.「ハイドゥナン」、3.「スラムオンライン」、4.「サマー/タイム/トラベラー」、5.「ある日、爆弾が落ちてきて」、といったところか。桜坂洋は「All You Need Is Kill」も「現代魔法シリーズ」もよかったけど1作だけということで。他には<涼宮ハルヒ>も相変わらず面白い。「現代SF1500冊」は抜群に面白いが小説外なので。さあ、次は600号だ。
(「SFが読みたい!2006年版」、早川書房、2006年2月発行、ISBN4-15-208706-4)
山本弘の短編集。冒頭の「奥歯のスイッチを入れろ」はSSS(Sonic Speed Soldier)と呼ばれるニューロドロイド、即ち人間の脳をEPRホロ・スキャナーでスキャンしシムブレインと呼ばれる脳のモデルとして再構成しアンドロイドの電子脳にインストールしたもののうち、音速で動ける戦闘用モデルの物語。研究所に侵入した敵のSSSに対しかつての恋人を守るために死闘を繰り広げる。サイボーグ009を小説でやったらということか。「バイオシップ・ハンター」は生きている宇宙船と共生するイ・ムロッフ星人のしわざと思われる襲撃事件が立て続けに起き、疑いを晴らすための協力を依頼された主人公がバイオシップに同乗して発見したものは野生のバイオシップだった、というもの。「メデューサの呪文」は昨年のSFマガジンに掲載されてたので記憶にあったが、技術文明を超えた言語文明に達したインチワームに言語兵器を学んだ詩人が人類のために言語技術を使おうとするめずらしい言語SF。「まだ見ぬ冬の悲しみも」もSFマガジン掲載時に読んでいたもの。時間的同一性交換により6ヶ月前の世界に向かった主人公が見たのは終末の世界だった、というタイムトラベル実験の顛末を扱ったもの。「シュレーディンガーのチョコパフェ」もSFマガジン掲載時に楽しんだ。先進波によって因果律を壊し世界を破滅しようとするかつての同級生の起こす世界の変貌の中をのりきっていくオタク系の主人公とその彼女を描く。アキバ系のカップルの描写もあざやかな一遍。「闇からの衝動」は、少女が地下の穴で遭遇した怪奇が、成長して作家となった彼女とそのファンの作家の2人の前で甦るのを描く、作者がC.L.ムーアに捧げた短編。どれも面白かったが「シュレーディンガーのチョコパフェ」と「奥歯のスイッチを入れろ」が特に気に入ったかな。
(「まだ見ぬ冬の悲しみも」山本弘著、ハヤカワSFシリーズJコレクション、2006年1月発行、ISBN4-15-208699-8)
ポール・アンダースンが1950年代から書き続けていた”サー”ドミニック・フランドリーのシリーズの最初の中短編集。遥かな未来、人類は銀河の一画に地球帝国を建設していたが、既に地球文明は爛熟期をむかえ、いずれは衰退へ向かう”長い夜”が来るのは避けられなかった。長い夜の到来を少しでも止めるため、新興の星間帝国、特に好敵手であるマーセイア帝国に対し人類版図を守るために活躍する帝国情報部の諜報員の中でもサーの称号を持つ腕利きがフランドリー大佐であった、というのが基本設定。「虎口を逃れて」はシリーズ第1作で、目覚めたフランドリーが見知らぬ宇宙船にいるところから始まる。宇宙船は未知の異星人スコーサ人のものでフランドリーはスコーサ星に拉致されるが、得意の権謀術策を駆使し、スコーサ人を内部分裂させる。「謎の略奪団」では、後々シリーズの主要キャラクタになる万能従僕チャイヴズが登場する。蛮族の大群に略奪された女たちの中に皇帝の孫娘がいたことからフランドリーが極秘に奪還を命ぜられる。事件の裏を読んで有力な公爵の1人に目をつけたフランドリーが見事に姫を奪還する。「好敵手」ではマーセイア帝国のスパイでテレパシー能力を持ち後のシリーズで好敵手であり続けるアイキャレクが登場する。テレパシー能力により窮地に陥るフランドリーだが、同僚のアリーンの機転で事態を打開する。「<天空洞>の狩人たち」はシリーズ初の長編とのことだが、中篇くらいの長さか。人類とは生活圏が違うことから距離を置いていた水素呼吸生物のイミル族が人類に敵対するそぶりを見せる。折から謎の侵略者に侵攻された辺境の星ヴィクセンに赴いたフランドリーは地元のレジスタンスと協力して、侵略者の母星を見つけ、事件の陰にアイキャレクがおりイミル族の件もアイキャレクが原因だと突き止め、事件を解決する。50年代の作品だなあと思える部分もあるが、今でもちゃんと読めるのはさすが。というか私が基本的にこの手のスペースオペラが好きということもあるのか。好評なら続きが出るそうなので期待したい。
(「地球帝国秘密諜報員」ポール・アンダースン著、浅倉久志訳、ハヤカワ文庫SF1545、2006年1月発行、ISBN4-15-011545-1)
巻頭インタヴューは根本順吉と「異常気象ふたたび」。根本さんて足は手術してもまだまだ元気そうですね。コラムは高斎正「タルガ・フローリオ」はシチリア島伝統のレースについて。萩尾望都「私は生き物。同じ生き物。」はアフリカで撮った写真と短文。久美沙織「オッパイ!」は高齢出産した著者が娘にやるオッパイの快感を語る。第6回小松左京賞受賞の伊藤到雄「トオル号失踪」はヒトガタロボットのトオル号の謎の失踪を描く、アシモフの短編みたいな味わいの作品。後は、小松左京が小山修二氏と若狭みかたの縄文文化フェスティバルでの縄文トーク「縄文の科学」、千里リサイクルプラザで1998年に行った講演記録「地球文明人の記録と記憶」、小松左京と近松門左衛門についてのレポート、広島での「地には平和を」の講演記録、映画「日本沈没」のインフォ、小松左京研のコラム、といったところ。
(「小松左京マガジン第21巻」、(株)イオ発行、角川春樹事務所発売、2006年1月発行、ISBN4-7584-1062-3)
星野之宣のスペース・ファンタジーを集めた短編集。単行本未収録の作品を集めてあり噂だけ聞いていた作品がやっと読める。2001夜物語の番外編とある「夜の大海の中で」では、地球人の宇宙進出が停滞した時代に、偶然出会った2隻の宇宙船のAIが宿していた最後の2人の乗員の記憶を元に異星生命体の手で新天地に生命が宿され、人類が再び宇宙に進出するきっかけとなる。続く4編はスーパーアクション誌に連載され休刊で中断したままの Star Field シリーズ。小惑星帯で発見された2隻のタイプの異なる宇宙船。その片方の機器の調査の最中、未知の信号が送られてしまう。その宇宙船は機械生命体の戦艦であり、信号は今も生きている機械生命体を呼び寄せる危険がある。もう一隻の宇宙船はかつて機械生命体の宇宙船と戦い相打ちになった第5惑星の住人のものと考えられ、その宇宙船を復活・改修したエクスカリバー号で機械生命体に立ち向かうべく宇宙に飛び出していく。ストーリーでわかるとおり後の「メガクロス」の元になった作品である。後は核戦争を扱った「怒りの器」、ショートショート集のスペース・ファンタジア3篇。近作として火星の衛星フォボスでの細菌の謎をめぐる「フォボス・ダイモス」と霧に守られた惑星をめぐる話「霧の惑星」。作家生活30周年記念ということで貴重な作品群が読めた。願わくば今後もこうした宇宙物の作品を書き続けて欲しいものである。
(「2001+5」星野之宣著、双葉社アクションコミックス、2006年2月発行、ISBN4-575-93996-X)
21世紀初頭のロンドンで、遺伝子ハッカーのアレックスは借金の弱みから暗黒街のビリーの依頼によりドール(ヒヒを遺伝子改造した有機生命体)の改造にかかわり、その最中に天才美少女ミレーナと関わりを持つ。ミレーナの開発したコンピュータチップとアレックスの助力により自由意志を持つドール、即ちフェアリイが生み出されるが、ミレーナは突然姿を消す。ミレーナを探してヨーロッパを旅するアレックスだが、パリ郊外のかつてのユーロ・ディズニーランドでフェアリイが自らの王国「マジック・キングダム」を構築し、その周囲のインターフェイスは自由交易ゾーンと化していた。アレックスたちは、ナノテク産業の繁栄による巨大歓楽街の中核のフェアリイの女王が鎮座するとされるところを目指す。マジック・キングダムの崩壊のあと、フェアリイのミームにより肉体も心も子どもに戻った子供十字軍が誰彼かまわず巻き込みながら人類救済をもくろみ約束の地を目指してアルバニアに向かう。マジック・キングダムの残党はアルバニアにフェアリイ・ランドを再建し子供十字軍を持ちうけるが、ミレーナを追うアレックスはそこでミレーナがウェブに偏在しようとしていることを知る。
すべてが収束する約束の地「フェアリイ・ランド」での結末はいかに。テクノゴシックとのことだが、どうも私の趣味に合わないようだ。厚さのわりにはすっと読めたんだがなあ。「4000億の星の群れ」もイマイチだったしマコーリイって合わないんだろうか。
(「ファアリイ・ランド」ポール・J・マコーリイ著、嶋田洋一訳、ハヤカワ文庫SF1544、2005年1月発行、ISBN4-15-011544-3)
古橋秀之の新作と思って読んだら何じゃこりゃー。買い物帰りに兄のサトルが見知らぬ男から預かったアタッシュケースにはチョーカーとゲームコントローラのようなものが。好奇心でチョーカーをつけた妹ソラは兄の持つコントローラの命ずるままに動くはめに。預かったものは妹コントローラ、イモートロンシステムだったのだ。コントローラの命令を受けたソラは黄金のオーラを身にまとい超人的な能力を発揮する。襲い来る秘密組織<プリオン>の超妹。最初の敵、獅子神エリカは獣人化して戦うタイプだが後に味方となり、次の敵、地中をドリルで掘り進む堀チエミは、<プリオン>の上級戦闘妹”デスサイズ”海冥寺ユウカに倒される。ユウカに襲われ絶対絶命のソラとエリカたちを救ったのは特務機関<COMP>の最新の妹技術の結晶、次期主力型多目的戦闘妹キャシィ・ノーマンであった。キャシィにつれられて行った先は<COMP>の実験施設がある南の島グラウンド゙・ゼロであった。グラウンド・ゼロで始まる超妹たちによるS?1妹グランプリという島一周レースには各地から様々な異能力を持つ妹たちが結集した。ソラたちのレースの行方は?さらにはレース中に島に侵入したのは誰か?2巻へ続く、なのだが、途中108人の妹軍団である超家の出てくる場面では「兄者ゃーーー!!」を108行並べてしまうなど、遊び満載。無茶苦茶ながら楽しめました。ほんとに続きは出るのか?
(「超妹大戦シスマゲドン1」古橋秀之著、エンターブレイン・ファミ通文庫、2006年1月発行、ISBN4-7577-2551-5)
谷川流の新作(新シリーズ?)。高校からの帰り道で突然小さな女の子に「お兄ちゃん」とまとわりつかれ、わけもわからず帰り着いた家には見知らぬ美少女がいた。いきなりバトルに突入した2人により家は崩壊、やっと戦いを止めさせたが、2人から「お前を守るために来た」と言われ戸惑ってしまう。何事にも動じない姉を含めた4人の生活が始まるが、すぐに異世界からの刺客が現れ、バトルの末、傷つきながらも何とか撃退するところまでがこの巻。2人は<妖精>(アプリリス)の世界と、<科学者>(マーガ)の世界から来たことが判明し、その他にも<剣精>(メイ)、<魔術師>(ファルムティ)、<天使>(ティシュリー)、<不死人>(アーザール)、<邪神>(ズ?=ル)と呼ばれる世界があり、この世界は<無属>(ニヴォーズ)と呼ばれる。これら8世界は将来衝突すると予想され、その危機に対処しようと戦いが起こっている。何故主人公のもとに各世界からの使者が集まってくるのかはまだ明かされていない。高飛車な美少女や猫のような女の子、常識はずれの姉などのキャラクター設定を見ると、イージス5系統の話に近いが、まだ話のほとんどが見えていない。3?4巻くらい話が進まないとね。続きが出るんだろうな?
(「ボクのセカイをまもるヒト」谷川流著、メディアワークス電撃文庫、2005年11月発行、ISBN4-8402-3206-7)
古橋秀之の短編集。表題作は、ある日空から落ちてきた50ギガトン爆弾は昔好きだった女の子に似ていて、胸の起爆時計を進めて世界を消すために主人公に近づくが、現在の彼女の存在を察して消えていく。「おおきくなあれ」は罹ると記憶逆行に陥るゴードン症候群にかかった幼馴染の彼女を介抱する羽目になった主人公の苦しくも微笑ましい1日を描く。「恋する死者の夜」は生者が減り甦った死人の増大で次第に終末に向かう世界で、甦った彼女とデートする主人公の姿を描くちょっとダークな話。「トトカミじゃ」は高校の古い図書館の隅の神棚には文庫本が祭られ、毎年1人の生徒にだけ見える小さな女の子の姿の神様がいたが、司書の小松先生が亡くなり図書館が取り壊された後、古文書が引き取られた役場の片隅で女の子と老人の幽霊が見られるようになるというちょっと微笑ましい話。「出席番号0番」は毎日違う生徒に憑依して回る幽霊のおかげで起こった事件と幽霊の好意が向けられているとわかった主人公の話。「三時間目のまどか」は11時頃の数十秒だけ過去の時間の教室が映る窓を通して知り合った女の子が事故で死ぬ運命にあることを知った主人公は必死でその情報を伝えようとし、無事伝わったかどうか知らぬままに行った手話教室で女の子の面影を残す若い女性と会うというホッとするいい話。「むかし、爆弾が落ちてきて」は時空潮汐爆弾の爆心地にいたために固着して60億分の1の速度で生きる女の子をめぐって、女の子を好きだったが故に記念碑として残し世話をしていた老人が死んだ時、孫である主人公が固着した時間の中に行くことを決意するという梶尾真治やスローガラスを思わせるいい話。いずれもボーイ・ミーツ・ガールに時間テーマを扱った好短編が揃っている。
(「ある日、爆弾が落ちてきて」古橋秀之著、メディアワークス電撃文庫、2005年10月発行、ISBN4-8402-3182-6)
