現代日本の政治・経済状況を踏まえたシミュレーション小説。未曾有の財政赤字を抱えて間近に迫る衆議院選挙での敗北が伝えられる与党・自進党の幹事長・伊藤は、自らの権力を守るため自衛艦による北朝鮮のスパイ船撃沈とインフレ加速による債務帳消しを謀る。娘を誘拐して小宮山首相を脅迫する伊藤らの元で破滅に向かう日本に対して危機感を募らせた米国は第七艦隊を出動させると共に日本をIMF管理下に置き危機を回避しようとする。そんな中、日本の状況を憂える市民グループは、公共工事を半減し税制改革によって土建破滅型国家から民主福祉型国家への転換を目指す「市民政府綱領」を発表し危機の現実的な解決策を示し選挙に臨もうとする。しかし官僚や利権企業と結託して権力にしがみつこうとする伊藤たちはあくまでも選挙を自分達の勝利に導こうと画策し、日本発の世界恐慌と第3次世界大戦の危機が高まる。これでもかとばかりに政官財の癒着と公共工事にからむ犯罪的行為、例えば「国家による地上げ」や「消費者保護を無視した銀行・保健業界保護」、「官僚の傲慢・無責任体制」を指弾し、それがいかにもありそうに思えるのが怖いところである。実際、選挙による与党の敗北こそなかったが、それ故にこそ財政危機はその度合いを増し、先送り体制の元では、この小説以上の破滅的事態もありうると思えてくる。小説ではぎりぎりのところで危機は回避され、希望の持てる選挙結果になっているが、現実にはこうした希望的結末すらありそうにないところが暗澹たる思いである。
(「日本崩壊、上・下」御堂地章著、ハヤカワ文庫JA822,823、2005年11月発行、ISBN4-15-030822-5,4-15-030823-3)
2005年12月アーカイブ
「フルロックの聖域」では、トリトレーアの情報に基づき古代種族ペルトゥスの足跡を求めて惑星ホルトゥスに着陸したローダンたちが、不時着した世代宇宙船の中でヤアンツトロン人に崇拝される石の脳を発見する。一瞬蘇った石の脳=ペルトゥスは自分と残りの石の脳を探して殺すよう告げバラバラになる。
「レイチャの後継者」では、ついに現レイチャのオフパノカトが死ぬ時が来るが、それに乗じてヘルタモシュの政敵である過激派のマイチェタンが、オフパノカトが後継者に自分の息のかかったピニクシェルを指名したかのように偽装工作をし、ヘルタモシュを陥れようとする。陰謀をかぎつけたローダンたちは、秘密情報部VASGAの助力で儀式の途中にオフパノカトの脳を奪略し、ヤアンツァルでボルディンに移植し一瞬意識を取り戻したオフパノカトから最期の言葉として改めてヘルタモシュが後継者のマト・プラヴトであることを確認することに成功する。
(「フルロックの聖域(ペリーローダン318)」ウィリアム・フォルツ&H.G.フランシス著、増田久美子&青山茜訳、ハヤカワ文庫SF1540、2005年12月発行、ISBN4-15-011540-0)
ちょっと前の本だが、ブックオフで見つけて読んでみた。主人公の美葉は14歳の美少女中学生。学校の屋上でふけこんでいたところ、巡航ミサイルのルー君に話しかけられて宇宙までエスケープしてしまう。軌道上でスチャラミッシュ人の宇宙船に捕獲され改造されたルー君は超光速飛行もできるようになり、かくして美葉とルー君の宇宙遍歴が始まった。各所で出会う宇宙人たちはステルス航法だの信念航法だのといったへんてこな超光速航法を駆使する。ブリンの知性化シリーズみたいだが、こちらはずっとギャグ全開だ。狼のようなドルベルナ人に惑星の占領の使命を課せられるたり、知性体を死滅させるのを教義とするシゴパラ人につかまって何とか殺されるのを免れたり、美葉たちの冒険はまだまだ続く。しかし、こういったちょっと前の文庫本ってなかなか見つからないんだよなあ。ネットで続きを探すか。
(「ギャラクシー・トリッパー美葉1」山本弘著、角川スニーカー文庫、1992年11月発行、ISBN4-04-460106-2)
岡田斗司夫の新刊。ここで展開される「プチクリ理論」とは、専業(プロの)クリエイターにならなくても(なれなくても)、自分の興味のあることに対しては才能(の芽)があるんだから、それを見つけて何らかの表現をすればクリエイターと名乗れるんだ、ということで、プロのクリエイターは仕事であるが故の義務や責任に縛られるけど、好きでやっていることならばそうした縛りがない分、自由にクリエイトできる。興味を持って情報を集めるだけだとマニアだけど、そこから何か表現するもの、作り出せるものがあればクリエイターなんだ、という主張である。具体例としてあげてある唐沢俊一、いしかわじゅん、そして岡田自身をみれば、1つのことだけではなく、好きなことに手を出しまくっていることがわかるだろう、みんな好きなことをやって楽しくクリエイターになろうよ、という呼びかけでもある。ネットオークション・ネット販売やブログなどによる表現ができやすい時代なので、この本の主張のようなこともやりやすくなってはいるのかもしれない。
(「プチクリ」岡田斗司夫著、幻冬舎、2005年12月発行、ISBN4-344-01082-5)
AADD(Artificial Accretion Disk Development)シリーズの待望の書き下ろし長編。太陽系に進入してきたブラックホールをエネルギー源として活用するため天王星軌道に捕獲し、その周囲にエネルギー抽出用に作られた人工降着円盤システムの管理運用をするAADD。しかし宇宙空間に適応するためウェッブと呼ばれる情報システムと一体化してきたAADDの人類に対し、地球の旧来のシステムに固執する人々は秩序に従わない異邦人として敵意をつのらせる。AADDからは複数の無人恒星間探査機が飛び立ち、最初の有人恒星間探査機もハイジャックによりエリダヌス座イプシロン星に向けて飛び立っていた。そして、コズミックストリングを操る物体の接近が探知され、異星人とのコンタクトを目指し、AADDと地球人を乗せたシャンタク2世号が90天文単位のところまで進出していた。そんな中、AADDの制御システムに原因不明の異常振動が起こり解決のために伝説的科学者のアグネスが召還される。ついにAADDに対し武力侵攻を始めた国連軍が迫る中、アグネスらはかろうじてAADDのシステムを正常化することに成功する。国連軍は人工太陽風を地球に投射するアーカムシステムにより降伏を余儀なくされ、アグネスたちはAADDの異常の原因の手がかりをつかむ。一方ストリンガーと名づけられた異星人に対しコンタクトを試みるシャンタク2世号の面々はストリンガーが主観と客観の区別を持たない非実存的知性体であることをつきとめ、AADDのブラックホールに潜む知性体SE(Strange Element)との関連も浮かび上がってくる。アグネスたちがAADDの異常の原因と特定したUIA(Unidentified Intelligence Agent)と呼ぶネットワーク上に発生したAIの存在もからみ人類の今後が問われていく。地球の国連軍があまりにも旧式の軍隊式思考に凝り固まっているとか、それがAADDの面々により簡単に打ち破られてしまう、とかいった点はちょっと拍子抜けだが、むしろ主役はストリンガーをはじめとする異質知性とのコンタクトだからかまわないのかもしれない。
(「ストリンガーの沈黙」林譲治著、ハヤカワSFシリーズJコレクション、2005年11月発行、ISBN4-15-208678-5)
レイ・ブラッドベリ特集。85歳だそうだけど、どんどん新刊が出てるのはすごいね。巻頭には火星年代記のDVD-BOX発売のニュースが。手元にはいつ録ったか覚えてないビデオがあるんだけど。これやサウンド・オブ・サンダーの映画化などもからんだ特集なのかな。翻訳は「ルート66」、エッセイが5本、インタヴュー、中村融の解説と関連書籍の紹介、石上三登志・高野史緒・難波弘之・藤田雅矢のエッセイ、高橋良平によるブラッドベリ原作映画の紹介、牧真司による年譜といった、かなりボリュームのある特集になっている。特集外ではマイクル・コーニイ「人鳥たち」は、ばあちゃんが突然、素裸に反重力ベルトをつけて鳥そのものの行動をとるようになった現象を日常的に描く。「世界SF情報」によると11月5日に亡くなったそうな。「ハロー・サマー・グッドバイ」が懐かしい。日本人作家の作品は、連載で田中啓文「罪火大戦ジャン・ゴーレ」は知らぬ間に殺人犯になってうろたえるピンクと、言い寄った女がマリアの生まれ変わりと知って愕然とするユダを描く。谷甲州「異形の影」は<霊峰の門>の第4話で佐提比古が身を寄せた寺の比丘尼には皐月女が宿り、2人は一時の逢瀬を得るが、寺の結界が失われ、佐提比古は楠木正成に見つかってしまう。単発作品の平山瑞穂「全世界のデボラ」は女友達の梨砂を招いた主人公の一夜を描く。後は2006年4月号で通巻600号になるのを記念してのオールタイムベストの募集があるが、資料として載っている各種SF賞とSFベストのリストは便利。
