2005年9月アーカイブ

ミステリ・オペラ

| コメント(0)

山田正紀の推理作家協会賞受賞作で、文庫になったのを機に読んでみた。上巻(と下巻も途中まで)は、ミステリらしく様々な謎が提示される。冒頭、昭和13年の満州、玄圃溝(シュエンプオウ)にある宿命城(シュウミンツエアン)内での連続殺人事件の場面と平成元年の多摩丘陵郊外の検閲図書館の場面の後、物語は平成元年の萩原桐子という若い女性の手記の形で始まる。そこで語られるのは、昭和13年の満州で建国神廟の奉納オペラとして「魔笛」を上演・撮影しようと宿命城へ向かう一行が遭遇する奇怪な殺人事件と平成元年での桐子の夫、祐介の奇妙な自殺とその後の事件。主軸になるのは宿命城へ向かった善知鳥良一(うとうりょういち)の残した手記であり、そこには宿命城をめぐる事件が綴られていたが、読み進むうちに50年を隔てた平成元年の事件とのかかわりが現われてくる。語られる事件は列車消失、(三重)密室、ダイイングメッセージなどがつめこまれ、途中エバレットの多世界解釈なども出てきてSF的な様相も呈するが、最後では、検閲図書館の黙忌一郎(もだしきいちろう)の解釈により全ての謎は一見解決されてしまう。末尾で昭和13年の善知鳥良一と朱月華(チュウ・ユエホワ)のペアと荻原夫婦が対比するように出てくるが、良一たちが死なずに逃れたとも解釈できるよう書かれており、それならばその後の良一たちと平成元年の世界のかかわりの記述も欲しかったところである。

(「ミステリ・オペラ」山田正紀著、ハヤカワ文庫JA811,812、2005年8月発行、ISBN4-15-030811-X,4-15-030812-8)

食卓にビールを4

| コメント(0)

人妻女子高生が遭遇するSF的事件をコメディタッチで描く連作集の4巻目。地鎮祭跡で変な異星人に遭遇するは、手話部の代理に行って変なOBに会うわ、MRIを受けてへんなものを埋め込まれるは、隣の引越し荷物からウサギ耳の双子が覗くは、気弱なライオンを励ますは、物産展で異星人たちの戦いを見物するは、合宿でいつのまにか混じっていた異星人と枕投げバトルをするは、ドラッグストアで捕り物をするは、というドタバタコメディが展開される。お手軽に読めるんでいいんだけど、それ以上につい買ってしまうのは表紙のイラストのせいですな(剣康之氏画)。ライトノベルの戦略にまんまと乗せられてるんだけど仕方がない。

(「食卓にビールを4」小林めぐみ著、富士見ミステリ?文庫、2005年9月発行、ISBN4-8291-6317-8)

前半の表題作は前巻からの続きで、犯罪者の体に移植されているローダンの脳は、行動の自由を得るため、ヤアンツァルで別の体に移植しなおそうとするが、そこにはサイナックハンターが待ち受けている。サイナックハンターの目をごまかすために2重の陽動作戦を展開したローダンは、ぎりぎりでサイナックハンターの手を逃れ、無事新しい体で宇宙に逃れることに成功する。後半の「ユーロクの遺産」では、故郷銀河のポジションを得ようとするローダンは、かつてナウパウム銀河を支配していたが10万年前に自ら故郷惑星に引退し滅亡していった古代種族ユーロクの情報を聞き、高度な文明を誇っていたユーロクなら銀河ポジションを得られるかもしれないと、禁断のユーロクの故郷惑星トレーチャーを訪ねようとする。ヘルタモシュの援助により、銀河学者ガイト・コールとともに搭載艇でトレーチャーを訪れるが、そこで見たのは全面を雲で覆われ、その下ではいまだにユーロクの残した飛行島が漂う世界であった。無人と思われたトレーチャーで突然ミュータントの群れに襲われ、彼らの背後には謎の「神」の存在がちらつく中ローダンたちは銀河の情報を得ることができるのか、というところまで。

(「秘密臓器コマンド出動!(ペリーローダン315)」H・G・エーヴェルス&クラーク・ダールトン著、田中栄一訳、ハヤカワ文庫SF1529、2005年9月発行、ISBN4-15-011529-X)

恐るべき旅路

| コメント(0)

火星探査機「のぞみ」の苦闘を記録したドキュメント。著者の松浦晋也氏は笹本祐一「宇宙へのパスポート」などにもたびたび名前の出てくる気鋭の航空・宇宙分野のノンフィクションライターであり、宇宙や宇宙開発についても「よくわかっている」ライターの1人である。これを読むといかに日本の宇宙政策がお粗末か(いや、そもそもちゃんとした政策などはないと言った方がいいんだろうけど)、そのおかげで厳しい制限の中でギリギリの開発を続け、ほんのちょっとしたトラブルで致命的な痛手を受ける探査機開発の姿を描き出す。そしてトラブルの中で、最後まであきらめずに目標に向かって苦闘する関係者の姿が感動を生む。宇宙研(現在はJAXAの宇宙科学本部)は理学系の研究者も多くいるし、知り合いもいるが「のぞみ」については直接関係者を知っているわけではない。それでも宇宙を研究する人間の1人としては、読み進むにつれ、ここまですさまじい苦闘が続けられていたことに感心した。政治家や官僚にはこうした本を読んで何かを感じ取ってもらいたいが、そもそも感じ取れるような人が上の方にいたらもう少しまともな状況になるんだろうになあ。

(「恐るべき旅路」松浦晋也著、朝日ソノラマ、2005年5月発行、ISBN4-257-03700-8)

小林めぐみの「食卓にビールを」とは別のお話。地球人はかつて地球を失ったことから一念奮起し今では銀河の半分を統べる銀河帝国を作り上げている。銀河帝国には多くの形態の異星人が闊歩しており、多くはヒューマノイドの形態をしており一番高い地位を占めるのが地球系人類(アーシス)である。タヅ星の帝国犯罪捜査局訓練学校の生徒である千高知は愛しのケイマリリにプロポーズしようと待っていた公園で突然何者かに踏み潰された。30分後に蘇生した高知は10才くらいの女の子から、自分がフルサイボーグ化されており、目の前の女の子が銀河皇帝唯一の後継者であるナオシスタ皇女であると知らされる。半信半疑だった高知だが、ナオシスタにつれられ別の惑星での殺人事件の究明に向かう羽目になり、徐々に自分のおかれた現実を受け入れざるをえなくなっていく。ストーリーが進むにつれナオシスタをはじめ銀河皇帝の身辺にも複雑な思惑が交差していることがわかり、今回の事件そのものは決着がつくが、高知はナオシスタの元を離れられない予感があり続編につながりそうである。

(「ぼくがペットになった理由」小林めぐjみ著、富士見ミステリ?文庫、2005年7月発行、ISBN4-8291-6311-9)

人類が不老不死を達成した未来。ジュールズは1世紀以上生きてきて、現在はディズニー・ワールドのマジック・キングダムに住んでスタッフとして働いている。ガールフレンドのリルはこの不老不死化した「ビッチャン世界」の第2世代でジュールズの15%の年齢。2人はホーンテッド・マンションの運営を切り盛りしていたが、ある日ジュールズが見知らぬ女に殺される。すぐにバックアップから復活したジュールズだが、自分たちのホーンテッド・マンションを手に入れようと画策する陰謀があると感じて反撃策を練るが、、、というストーリー。この世界では頭に埋め込まれた機器で常にオンラインになっていてバックアップさえとっておけば、肉体が死んでもバックアップから復活できるし、人によってはわざと死んでリセットすることもできる。人々はアドホック(アドホクラシー)と呼ばれる自発的ボランティアとして各アトラクションを運営し、人からの尊敬度を測った「ウッフィー」という仮想貨幣が使われる。ニール・スティーブンソンの作品への言及があったり、不老不死化社会の描写はすんなりと読めるんだけど、結果的には大きな事件がおきるわけでもなく終わってしまう。ディズニーフリークにはもっと楽しみようがあるのかもしれないが個人的には物足りなく感じた。

(「マジック・キングダムで落ちぶれて」コリイ・ドクトロウ著、川副智子訳、ハヤカワ文庫SF、2005年8月発行、ISBN4-15-011526-5)

小松左京マガジン19号

| コメント(0)

巻頭は慶應大の電気自動車開発者の吉田・清水氏とのインタビュー。370km/h 出るスーパー電気自動車エリーカの開発動機などにせまる。他にも切り絵作家久保修氏との対談も。コラムでは高齋正が自動車レースの原点ともいうべきゴードン・ベネット・トロフィー・レースについて、井上広美氏が寺山修司との出会いと俳句について、田中光二が戦争映画について。堀晃による「小説T・P」後編は唯一の小説だが、同人誌時代の発掘作品の後半。後は京大未来フォーラムでの小松左京の「私の京大時代」の報告や、愛・地球博見学記。「人類裁判」のパトリック・ハーラン氏」による英訳の2回目。小説歴史誌に載った「SFと歴史小説」の収録など。小松左京自作を語るは評論・エッセイの2回目だが、最後に「虚無回廊」の結末にまつわる話題も取り上げてあって興味深い。

(「小松左京マガジン19号」イオ発行・角川春樹事務所発売、2005年7月発行、ISBN4-7584-1054-2)

涼宮ハルヒの陰謀

| コメント(0)

涼宮ハルヒシリーズの新刊。この巻はライトノベルと思えない厚さ(430ページ)だが、厚くてもファンはついてくるとの読みか。前巻までで積み残されていた「涼宮ハルヒの消失」での後始末をプロローグですませ、2月に入ると、部室に1人いたキョンの前でロッカーから現れたのは8日後から来た朝比奈さんだった。しかも、何も知らないまま朝比奈さんを過去に送り出したのはキョン自身だという。これが今回の事件の発端であった。雪山事件を引き起こしたのが、長門のボスである情報統合思念体とは別の宇宙意識らしいということがわかったり、未来人にも朝比奈さんが属するのとは別の一派がいそうだったり、古泉の「組織」と敵対する組織があるらしかったり、しかもそれらが結託しようとしている可能性があり、それに対抗して「組織」と朝比奈さんたちの未来人、情報統合思念体(のうちの長門を含む主流派)が協力したり、といった大きな背景が動き出してくる。朝比奈さんが過去に送り込まれた理由が明らかになると共にハルヒの様子がおかしかったのが実はバレンタインがらみだということが判明して結末に至るが、大人バージョンの朝比奈さんの「近い将来大きな時間分岐点が来る」という発言やエピローグで出てくる鶴屋家所有の山で発見された謎のオーパーツが次巻以降の伏線のようだ。サブキャラだったはずの鶴屋さんが意外にに大きな役割をしそうなとこも注目。

(「涼宮ハルヒの陰謀」谷川流著、角川スニーカー文庫、2005年9月発行、ISBN4-04-429207-8)

と学会年鑑Rose

| コメント(0)

と学会の例会の様子とトンデモ本大賞の選考会を収録したシリーズの新刊。今回は出版社が太田出版から楽工社に変わってるようだ、何でだろう。いちいち内容を説明するようなものではないが、いつもながらよくこんな物件(本だけではなく、マンガ、ビデオ、その他のものまで含まれる)を見つけてくるなあ。一方、大賞の方は、以前のようなSF大会中の企画ではなく、「日本トンデモ本大賞2003」という独立したイベントで選ばれた第12回トンデモ本大賞の選考座談会の模様が収録してある。この回の大賞は下馬評の高かった「ゲーム脳の恐怖」を抑えて「歯は中枢だった」村津和正著であった。巻末の山本会長のあとがきには、「赤と青のリード線」の由来なんかも紹介してあって、最後まで楽しめる。

(「と学会年鑑Rose」と学会著、楽工社、2005年6月発行、ISBN4-903063-00-3)

恋するA・I探偵

| コメント(0)

主人公はAIなんだけど、いつのまにか感情を持ってしまった、という設定のミステリ。IT企業のユニヴァーサル・ライブラリ(UL)社では人工知能パーソナリティー(AIP)と呼ばれるAIプログラムが顧客の検索を手助けするリサーチャーとして使われていた。AIPの中でも飛びぬけて客の評判がよいのがチューリング・ホッパーと名づけられたAIP。しかしチューリングの評判がいいのは実はチューリングに芽生えていた感情のおかげで、チューリングが半ば独立した女の子タイプのAIとなっていたからだった。ある日、チューリングは自分をプログラムしたプログラマのザックがここ数日姿を見せないことに気づいた。ザックらしくない行動に不信感をおぼえたチューリングは、既に自分が感情を持っていることを知っている50代の有能な秘書のモードや、下っ端のコピー係でチューリングを人間の女の子と思っているティムの手助けにより、ザックの行方を追おうとする。調べていくうちにUL社内部で進行する陰謀に気づいたチューリングたちはザックの行方を突き止めることで陰謀への対抗策を見つけようとするが、というストーリー。最後はちゃんとハッピーエンドで続編も3作出ているようだ。全く章立てがなく、チューリングの部分が太字で、人間の部分が通常のフォントになってるだけだし、AIの技術的な問題には立ち入らず、軽いミステリに仕上がっているけど読みやすいので続編も出るかも。

(「恋するA・I探偵」ドナ・アンドリューズ著、島村浩子訳、ハヤカワ文庫ミステリ246-5、2005年8月発行、ISBN4-15-172455-9)

ガイナックスに関わる人々に対するインタビューをまとめたもの。インタビュアーはかつて「ガンダム者」でガンダムに関係する人々へのインタビューをまとめ、近著の「萌え萌えジャパン」では「萌え」についての取材をまとめた実績を持つ堀田純司氏。登場するのは武田康広、庵野秀明、摩砂雪、貞本義行、大月俊倫、佐藤裕紀、大塚雅彦、樋口真嗣、村濱章司、神村靖宏、鶴巻和哉、平松禎史、赤井孝美、渡辺繁、山賀博之の15人。彼らの原点はDAICON3、特にそのオープニングアニメだろうが、その前から武田・岡田のコンビが関西芸人として活躍していたのを目の当たりにしていたのが思い出される。DAICON3のころはこちらも大学院生で、関東でのSF研活動にはまっていたころなんで、なつかしく読める部分多数である。こうして登場人物を眺めると現在のオタク文化の大筋の形成過程が見えるようだ。

(「ガイナックス・インタビューズ」堀田純司・ガイナックス著、講談社、2005年7月発行、ISBN4-06-364643-2)

再び、民族学者の宗像伝奇を主人公にした新シリーズ。掲載誌がメジャーなビッグコミックスだったこともあり連載時に読んだものばかりだった。東北のイタコと遮光器土偶を結びつけた「巫女の血脈」、古代ー中世の金銅鉱山労働者と砂鉄労働者の関係を百足と龍に見立て武田信玄の謎もからめた「百足と龍」、聖徳太子とイエスキリストの関係をめぐってもう一つのシリーズで主役を張る忌部神奈と宗像教授の対決を描く「天平のメリー・クリスマス」、インドを訪問する仏教団に同行した宗像が遭遇した磨崖仏のもとで仏教の教義に関する啓示を受ける「大天竺鶏足記」の4本。このシリーズはまだ間歇的に連載が続いているので、いずれ第2集以降も出るだろうが、この手の伝奇シリーズだけでなく、星野之宣には「ムーンロスト」に続く宇宙ものも描いて欲しいものである。

(「宗像教授異考録、第1集」星野之宣著、ビッグコミックススペシャル、2005年8月発行、ISBN4-09-187822-9)

SFマガジン2005年10月号

| コメント(0)

ロボットSF特集2005。特集の小説は2本。「脱ぐ捨てられた男」ロバート・J・ソウヤーはアンドロイドに心を移し永遠に生きようとした男に対し、心を移した後、人格権を失って施設内で残る人生を送る肉体に残った心が再び外世界に出ようとして人質事件を起こした時、アンドロイドになった男はどう対処するか、という「ターミナルエクスペリメント」あたりにも通じるソウヤーらしい作品。「ベルナルド・ハウス」ジェイムズ・パトリック・ケリーは、主人に奉仕するために作られた家には家事全般からセックスのお相手までする女性型アンドロイドの姿を持つAIがいたが、主人の来訪が途絶えて2年後、迷い込んだ少女を相手に寂しさを紛らすAIの姿を描く作品。他の特集関連には、ウィル・マッカーシイとジェフリー・ランディスのエッセイ、瀬名秀明インタヴューと向井淳、堺三保の解説記事。特集以外では戦闘妖精雪風のOVA完結編を記念した神林長平のインタヴューと、連載が「罪火大戦ジャン・ゴーレ」田中啓文、「霊峰の門、第三話」谷甲州に「白鳥の騎士」高野史緒の前編。

2010年3月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

このアーカイブについて

このページには、2005年9月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2005年8月です。

次のアーカイブは2005年10月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。