クライブ・カッスラーといえば映画化された「タイタニックを引き揚げろ」を始めとする<ダーク・ピットシリーズ>が有名だが、これはポール・ケンプレコスと組んだ<NUMAファイル>と呼ばれる派生シリーズの最新刊である。舞台は同じNUMA(国立海中海洋機関)だが、ダーク・ピットとは別の特別出動班であるカート・オースチンが主人公のシリーズである。NUMAを統括するサンデッカー提督やコンピュータの魔術師イエーガー、海事史家パールマターなど<ダーク・ピット>シリーズでおなじみの面々も登場するが、どうも読後感があっさりしすぎるきらいがある。カッスラーの名前が大きく出ているが実際はケンプレコスが主に執筆していると思われるのでそのあたりの違いなんだろうけど、<ダーク・ピット>シリーズではピンチを奇想天外な発想で切り抜けたり(バスタブのボートなんかとか)、敵方がかなりしぶとかったりするのが、<NUMAファイル>シリーズでは感じられない。オースチンとチームを組むザバーラやトラウト夫妻などの魅力的な脇役もいるし、ロマノフ王朝の秘密とメタンハイドレートがらみの危機をからめた設定は悪くないと思うんだけで、もう少しどうにかならないかなあ(そういえばロマノフ王朝関係だと名探偵コナンの映画「世紀末の魔術師」もそうだったなあ、お話が作りやすいのか?)。本家のダーク・ピットが年をとってあまり今後の期待ができない以上、こちらがひきついでもらいたいものである。
(「ロマノフの幻を追え」クライブ.カッスラー、ポール・ケンプレコス著、新潮文庫、2004年8月発行、ISBN4-10-217033-2)
2004年11月アーカイブ
忘れたころに出る SF Japan の Vol.10。この号は憑依都市(The Haunted)プロジェクトの特集号。憑依都市プロジェクトはシェアードワールドの系譜に属するもので、コアメンバー(山田正紀、牧野修、津原泰水、森奈津子。瀬名秀明、吉川良太郎)の作成した設定を基に各人がさまざまな作品を発表していく予定だとか。ウェブやそれを応用したネットワーク上のコラボレーション環境が整ってきた現在では、かつてないほどにこのような協業がやりやすくなっているのかも。ただしこの設定が私個人の好みに合っているかというとそれはまた別で、個人的にはあまりピンとは来なかった。できれば野尻抱介、林譲治、笹本祐一あたりの設定で読みたいような気が。他にも日本SF新人賞作家の競作なども載っているが、王立科学博物館に関する記事や黎明期の海外SFドラマの日本放映に関する東北新社の記事などの方が興味深かった。
(「SF Japan Vol.10」徳間書店、2004年11月発行、ISBN4-19-720236-9)
新装版クレギオンシリーズの7巻。ミリガン運送の社長ロイド、船長マージ、航法士見習いのメイの3人組の活躍を描くシリーズだが、作者が野尻抱介なので、結構ハードSF的設定が施してあったりする。シリーズ全体を通して、リング惑星や彗星飛び交う惑星系星雲、スペースコロニーなどなど、天体力学的な知識を踏まえた舞台装置が面白い。この巻では海洋惑星が舞台なので本物の潜水艦が出てきたりするが、ラストで明らかにされる海洋惑星の正体(と推測されるもの)はクラークを思わせる読後感を残している。元々富士見書房で出ていたクレギオンシリーズはこの7巻で打ち切りだったそうだが、せっかくハヤカワ文庫に舞台を変えたからには是非続巻の執筆を期待したいところである。
(「ベクフットの虜(クレギオン7)」野尻抱介著、ハヤカワ文庫SF、2004年11月発行、ISBN4-15-030771-7)
実はBSマンガ夜話はほとんど見ていない。初期はそもそも家にBSのアンテナがなかったので(テレビとビデオはBS対応だったにもかかわらず)見ることができなかった。現在は勤め先の方で見ることができるのだが時間帯のせいでやはりほとんど見ていない。どういう番組かは聞いていて、見ればハマルだろうとも思うのだが。マンガ夜話の本としてはキネマ旬報社からムックが出ているのも知っていたが、見てないのにと思って買っていなかった。今回出たのは別の出版社からセレクションという形で出たもので、収録してあるのは「童夢」「るきさん」「自虐の詩」「弥次喜多inDEEP」である。構成としてはトークだけでなくFAXコーナーや夏目の目のコーナーなども収録し、細かな脚注がつけてある。それから資料編として取り上げた作家の作品目録やいしかわじゅんのコラムもあり、かなり充実した内容で基本的にこうした「情報のつまった」感じのする本は好きである。今回発作的に買ってしまったのはやはり冒頭にとりあげてある(記念すべき第1回放送でもある)「童夢」の回を読みたかったのだが、やっぱり読んだら元本他をいろいろと読み直したくなった。「童夢」は単行本が手元にあるのですぐに読み直しができたけど、「FireBall」は連載時のアクションデラックスが実家にあってすぐには読めないんだよなあ。今度帰省したとき読みなおそう。
(「BSマンガ夜話ニューウェーブセレクション」株式会社カンゼン、2004年11月発行、ISBN4-901782-36-2)
ペリーローダンの305巻。前巻より始まったPAD病(心身性アブストラクト変形)は当初テラナーだけが罹患すると思われていたが、レムール由来のテラナー(アルコン人、アコン人、アラス、スプリンガーなど)にも広がっていく。アトランまでもが攻撃衝動を抑えられなくある。また後半ではPAD病患者に帰郷願望が強まり、植民星からは地球の地を踏みたいという人々が大挙して巡礼船団を作り地球めがけてくる。多大な犠牲を払いながらなんとかこれを防いだローダンだが、自身が再び帰郷願望に取り付かれる。今後の展開はいかに。
(「<星の時>作戦」エーヴェルス・ヴルチェク著、田中栄一訳、ハヤカワ文庫SF、2004年11月発行、ISBN4-15-011492-7)
イーガンの待望の新作(といっても元本が出たのは95年だけど)。今までのイーガンの長編の中では一番長いそうだけど、それ以上に読みでがあった。理由は中身が詰まっているせいだろう。訳者あとがきにもあるとおり長編数冊分のアイデアがみっしりつまっている。第一部は21世紀中盤の世の中の状況の描写に圧倒される。主要な変化はバイオ、コンピュータとネットワークの変化だが、現在のテクノロジーの行く先をいかにもありがちに描くところがイーガンらしい。第2部以降、舞台が人工島ステートレスに移ってからは、表題の万物理論(TOE=Theory Of Everything)をめぐり理論物理学者の国際会議をめぐってストーリーが展開していく。これに関連して出てくるのが人間宇宙論(人間原理)だが、結末とエピローグの読後感の良さは今までのイーガン作品では一番だと思う。原題の Distress は第1部から登場する奇病をさし、これが最終的にTOEとも関連してくるのだが、物語の中心は宇宙を説明するTOEであることを考えると邦題の方が適切な気がする。
(「万物理論」G.イーガン著、山岸真訳、創元SF文庫、2004年10月発行、ISBN4-488-71102-2)
星野之宣の伝奇方面の新シリーズである忌部神奈・女の神話シリーズの単行本化第1弾。ビッグコミックに散発的に掲載されていたので、結構読んでるエピソードもあったが、この手の話はやはりまとめて読める方がよい。星野之宣はごく初期からほとんどの作品を読んでいるはずだが、最近はこのシリーズと宗像教授の新シリーズ(宗像教授異考録)の伝奇作品の系列と、夏に単行本が出たムーンロストなどに代表されるSFらしいSF作品の系列に整理されるようだ。伝奇シリーズも面白く読めるんだけど、個人的な好みならやはりSFの方だ。ずっと前のブルーシティー(バトルブルー?)はどうなったのとかいう話もあるんだけれど、もう少し近いところではベムハンターソードあたりも続きを描いて欲しいものである。
(「神南火」星野之宣著、小学館BIG COMICS SPECIAL、2004年11月発行、ISBN4-09-187821-0)
柳田理科雄(空想科学研究所)の空想科学読本シリーズの映画版の2巻。34本の映画が取り上げられているが、見てるのが「ファインディング・ニモ」「マトリックス」「バック・ツゥ・ザ・フューチャー」「スター・ウォーズ、エピソード2/クローンの逆襲」「千と千尋の神隠し」「タワーリング・インフェルノ」の5本しかなかった。他も話題になった作品ばかりなので、どうゆう作品かはある程度把握していたが、こんなにも見てないとは我ながらなさけない。最近のは子供を連れて見に行ったものばかりになっている。このシリーズは山本弘(と学会会長)あたりにギッタギタにされているが(「こんなにヘンだぞ!空想科学読本」太田出版参照)この本でもつっこみどころ満載である。ティプラーマシンを鉄板で作ってどうするとか、太陽系が銀河系を公転するのに20億年もかかってどうするとか(「タイムマシン」の章)あげていくとキリがない。さあ皆でつっこみどころを探そうというのが1つの読み方か?
(「空想科学映画読本2」柳田理科雄著、扶桑社、2004年10月発行、ISBN4-594-04788-2)
エンダーシリーズの派生シリーズの3冊目。宿敵アシルをめぐって、ヘゲモンであるピーターと派生シリーズの主人公ビーンたちの活躍を描いている。この派生シリーズではネットを通じたメールやセキュリティに関する駆け引きなどが日常的に描かれ時代を感じさせる。世界情勢がこうした天才児たちの糸引きにより動く様は、現実の世界でもこのくらい情勢を見極めることのできる人材がいればなあ、と思わせる。最後でアシルを倒すことにより一番の危機に決着がついて終わるが、すでに続巻の予定があるようで(2005年?)ビーンとペトラのペアの行く末がどうなるか楽しみである。相変わらずカードの文章は読みやすい。この巻は(最近ではめずらしく上下ではなく)単巻だが500ページを超える内容がすらすらと読んでしまえる。そういえばエンダーシリーズの最初の「エンダーのゲーム」の訳者の野口幸夫氏は大学のSF研の先輩で(SFだけでなくマージャンなどでも)色々をお世話になった人だが、残念なことに今年の初めに亡くなられている。ご冥福をお祈りします。
(「シャドウ・パペッツ」オースン・スコット・カード著、田中一江訳、ハヤカワ文庫SF、2004年10月発行、ISBN4-15-011491-9)
