前半の「分子変形能力者の偵察」では、ガヌール銀河で暗躍する分子変形能力者たちは、青色恒星をめぐる隕石片に見せかけた基地に潜んでいたが、メダイロン星系からフルクースが撤退したのを見て、状況をさぐるべくケルシリアルとトーン=ベルカーンを派遣した。一方、コンセプトのグルケル・アソシェンは≪アイアンデューク≫でゴシュモシュ・キャッスルに向かう。ローダンを見失って地球に戻った≪ソル≫では、アトランが多方面に展開すべき作戦をあげた。ローダンとブルロクの捜索、ネーサンと地球の復活、コンセプトの計画の追及、分子変形能力者への対応、など。ロルヴィクが不可解な現象につかまっているのを何とかしようとするア・ハイヌはグラウス・ボスケッチに化けたケルシリアルをわざと逃がす。後半の表題作では、ゴシュモシュ・キャッスルでアソシェンに化けようとしたベルカーンは、うまく変身できず、≪アイアンデューク≫内でアソシェンとの戦いを続けるが、偶然、分子変形能力者キラーであるサグリアのアミュレットの上に落ちて死んでしまう。また、コンセプトたちの計画がゴシュモシュ・キャッスルを分割して"それ"に吸収された200億の人類の住処にすることだと判明する。分子変形能力者の船≪グドーン・カルス・トバ≫を見つけたグッキーたちは、もう一人を捕えようとテラに向かう。何とか分子変形能力者を助けようとするア・ハイヌは、グッキーとアソシェンが≪ソル≫に戻ったすきにケルシリアルと共に、分子変形能力者の基地であるゴール=チランに向かう。そこにはロルヴィクがいて、基地の元々の持ち主の監視者が目覚める前に支配しようとして弱体化し、分子変形能力者を道連れに死のうとする。分子変形能力者たちは基地が壊滅する前に≪グドーン・カルス・トバ≫で撤退し、ア・ハイヌは≪ソル≫を助けに呼ぶ。ローダンの追跡を急ぎたいアトランだったが、ロルヴィクを救うには数日セネカの能力が必要であり、ロルヴィクを救うことにしたアトランたちは無事、メダイロン星系に戻る。

(「分子変形能力者の基地(ペリーローダン416)」、H.G.エーヴェルス著、五十嵐洋訳、ハヤカワ文庫SF1836、2012年1月発行、ISBN978-4-15-011836-5)

21世紀SF1000

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2001年?2010年に<本の雑誌>の連載「新刊めったくたガイド」に載ったものを集めたSF時評集。JAなので≪ハヤカワSFシリーズJコレクション≫や≪リアル・フィクション≫が中核を形成してSF冬の時代から脱出したと書いてあり、それは一面ではそのとおりだが、この時代はそれだけにとどまらず、ライトノヴェル系でSFが普及したこともまた"SF夏の時代"の到来を告げた面もある。時評集なので、内容に細かく触れる意味はないだろうが、その年ごとにどんなSFが出ていたのかを概観するガイドになると共に、その時をなつかしむ手がかりにもなる。紹介されている各作品は★5つによる大森望の評価つきで、もちろん趣味の問題もあり賛同しかねる評価もあるが参考にはなる。また、巻末には★5つがついた32作品と★4つ+☆がついた68作品を抜き出した00年代の推薦作100も掲載されていて参考になる。葛西日記の続きも出してくれないかなあ。

(「21世紀SF1000」、大森望著、ハヤカワ文庫JA1052、2011年12月発行、ISBN978-4-15-031052-3)

前作では超能力者・小牧ノブをめぐっての壮大な追跡を繰り広げたが、今作では一転して、学園祭前の一時を描く。間近に迫る学園祭での上映に向け、2年B組の面々は自主制作SF映画の撮影をしていたが、ある日、彼らのいる建物だけを地震が襲うという事件が起き、それが始まりだった。標本室で剥製が動き、温室でドラキュラ伯爵が出現してヒロイン役の女の子を攫う。追跡の最中、沖田が出会った永島陽子と名乗る女生徒は実は事故で昏睡状態のはずの子だった。その後も雪女やドラゴンまで出現した事態は、陽子が病院で亡くなるまで続くが、そこで沖田たちが出会った黒服の男は、あの世への案内人を名乗り、沖田たちの記憶を消してパターンA(前半)が終わる。しかし引き続きパターンBが学園祭3日前から再び始まる。ゴジラやラドン、モスラの怪獣たちや、玉蟲の群れ、巨大な宇宙船などなどが現れ、ついに学園祭当日、日本中はわやくちゃになった。夢の現実浸出は止まらず、案内人の提案で事態の収拾のために乗り出すことになった沖田たちは、暗黒の穴に下りていき、パンドラの箱を閉じる。事態は何とか収拾するが、沖田の出した永島陽子を生き返らせるという条件は無理なことがわかり、陽子はあの世へ旅立っていく。最後に陽子の次の輪廻転生という話が出るのがちょっと気になるが、アニメや映画のネタ満載の楽しいお話は一応決着する。次巻からはまた元の路線に戻るそうだ。

(「ハレーション・ゴースト(妖精作戦PARTII)、笹本祐一著、創元SF文庫、2011年12月発行、ISBN978-4-488-74102-0)

リヴァイアサン

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新☆ハヤカワ・SF・シリーズの第1弾。YA(ヤングアダルト)向けの仮想歴史小説、3部作の開幕編。舞台は1914年のヨーロッパ、遺伝子操作された動物を基盤とする英国などの<ダーウィニスト>と、蒸気機関やディーゼル駆動の機械文明を基盤とするドイツらの<クランカー>の両陣営の対立が深まっていた。オーストリア大公の暗殺をきっかけに、追われる立場になった大公の息子アレックの逃避行と、空への憧れから男装して英国海軍航空隊に志願した少女デリンの運命の交錯を描く。母親が貴族ではなかったことから複雑な境遇に置かれることになったアレックは、フェンシング師範のヴォルガ―伯爵やメカニック師範のクロップ師など、大公の忠実な部下に助けられ、からくも城を脱出し、追ってくるドイツ軍の八脚ウォーカーなどを躱し、からくもスイスの秘密の山城に辿り着く。一方、デリンは試験のアクシデントが功を奏したのか、英国が鯨の遺伝子操作で作り出した巨大水素呼吸獣でツェッペリン飛行船なみの巨体で空を行くリヴァイアサンに搭乗することになる。緊急任務で載せた若き女性科学者バーロウ博士は重要な秘密任務を帯びているらしい。コンスタンティノープルに向かったリヴァイアサンはしかし、ドイツ空軍の攻撃を受け、墜落してしまう。偶然に墜落を目撃したアレックは救助に向かい、結果的にはアレックたちの乗ってきたウォーカーのエンジンを流用してリヴァイアサンを再び浮き上がらせることに成功し、迫りくるドイツ軍を振り切ってリヴァイアサンは目的地に向かう。アレックとデリン、そしてバーロウ博士の謎の卵を乗せて。ヤングアダルト向けということで読みやすいが話はまだ導入部といったところか。完結編まで出ているようなので、順調に出ることを祈る。

(「リヴァイアサン」、スコット・ウエスターフェルド著、小林美幸訳、新☆ハヤカワ・SF・シリーズ、2011年12月発行、ISN978-4-15-335001-4)

前半の「テラナーの謀略」では、ヴァルベ星間帝国は重力カタストロフィで大混乱に陥っていた。ヴァルベ人はほとんど動けなくなったが、重力魔術師の欺瞞に気付きだす。損傷した船のオーヴァーホールが終わったローダンは、"ヴァルベの巣"に戻り取り残されている≪ソル≫生まれ三人を救出するとともに具象すなわち重力魔術師とコンタクトを取る作戦を提案する。具象たちもカタストロフィで苦しんでおり、救出に呼んだフルクース艦が失敗を重ねるのに業を煮やし、テラナーに援助を求める。好機と見たローダンは交渉の結果、テラのフルクースと小陛下の撤退という条件を出し飲ませることに成功する。さらに、コルベットで具象をフルクース艦に運ぶと見せかけて、パラライザーで麻痺させ、危険を承知で≪ソル≫に運び入れる。後半の表題作では、捕えられた≪ソル≫の中では第四具象のブルロクが誕生した。クレルマク、ヴェルノク、シェルノクの3具象はブルロクに圧倒され消されてしまう。そしてブルロクはいきなり能力を発揮し、メンタル攻撃で≪ソル≫を完全に制圧してしまう。ミュータントたちですら、対抗できない。そこにチョールクの艦隊が現れ具象を攻撃しようとする。≪ソル≫と共にいると攻撃されるので対策を立てようとするブルロクに、自らを取り込んで逃げればテラナーからの攻撃を受けずにすむとローダンが提案する。そしてテラナーたちのなすすべもないまま、ローダンを取り込んでブルロクは逃亡した。途中、マウスに噛まれて乗員だけがブルロクの精神支配を受けず、ローダンは狂ったその男に噛まれるというエピソードが挟まれるが、これが伏線になsるのか?

(「第四具象(ペリーローダン415)」、ウィリアム・フォルツ著、渡辺広佐訳、ハヤカワ文庫SF1834、2011年12月発行、ISBN978-4-15-011834-1)

1と同じ、大学の図書館にあったので予約していたのが順番が回ってきた。「きらら」に連載された5編+書き下ろし1編。第一話「アリバイをご所望でございますか」では、立川のビルでの女性殺人事件の容疑者にはアリバイがあったが、そのアリバイ証言にある違和感を元に影山の推理がアリバイの秘密を解き明かす。第二話「殺しの際は帽子をお忘れなく」では、浴槽で死んでいるのが発見された女性殺人事件の部屋には、あるはずの帽子がなくなっていた。麗子行きつけの帽子屋の娘の話から、帽子がなくなったことを元に影山が犯人を解き明かす。第三話「殺意のパーティにようこそ」では、学生時代の友人の父主催のパーティに出席した麗子は、学生時代の旧友たちと再会するが、友人の1人の瑞穂が何者かに襲われる事件が起こる。赤いドレスと緑の宝石という目撃証言から、影山は犯人を推定し、麗子の協力で犯人の秘密を暴き出す。第四話「聖なる夜に密室はいかが」では、前日に雪の降ったイブ、殺人事件のあった家への道には被害者の自転車の跡と発見者の足跡しか見当たらなかった。犯人はどうやって現場から脱出したのか。容疑者たちの情報から影山が犯人を推定し、お礼に麗子はミニスカサンタとなって影山のケーキ売りを手伝う。第五話「髪は殺人犯の命でございます」では、家電量販店を展開する資産家の花柳家、主人が交通事故でなくなった家では、従妹の女性が殺される事件が起きる。被害者の長かった髪はハサミで切り焼かれていた。何のために犯人はそのようなことをしたのか。影山の推理が導き出したのは殺人の犯人ばかりではなく、主人の交通事故の真相でもあった。第六話「完全な密室などございません」では、有名画家・松下慶山が自宅アトリエで殺される事件が起きるが、発見者の女性2人がかけつけた状況から慶山は密室で殺されたように見えた。アトリエにあるフレスコ画の秘密を解き明かした影山と麗子は真犯人に襲われるが、それを救ったのは風祭警部だった。徐々に変わってきそうな風祭警部との関係とか、まだまだ続きそうだが、どうなんだろう。原作が続けばTVドラマの続きもできそうだが。

(「謎解きはディナーのあとで2」、東川篤哉著、小学館、2011年11月発行、ISBN978-4-09-386316-2)

火星の挽歌

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クラークとバクスターの≪タイム・オデッセイ≫三部作の完結編。2069年2月、19年の人工冬眠から目覚めさせられたビセサは、魁種族(ファースト・ボーン)による新たな攻撃が迫っていることを知らされる。世界宇宙評議会は新造の反物質エンジンを積む宇宙戦艦<リベレーター>を派遣してQ爆弾と名付けられたそれを阻止しようとする。一方、密かにQ爆弾の情報を得た宇宙に進出した人類であるスペーサーたちは、娘のマイラ共々ビセサを連れ出して独自の対処をしようとする。ビセサが連れて行かれた先は火星の北極であり、そこにはかつて文明を持っていた火星人たちが、ファースト・ボーンの攻撃時に重力の檻でとらえた<眼>があった。そこの<眼>を通じて様々な時代の混じり合ったもうひとつの地球であるミールに再び転移したビセサは、そちらの世界では金星や火星も青い世界であることを知る。<リベレーター>の攻撃が効かないことで別の手を打つことを強いられた評議会は、唯一の手がかりであるビセサを手に入れようと火星に向かったが、人工知性アテナの介入や、火星の物理学者エリーによる、ミールの火星人に連絡を取って<眼>を潰してもらう、という提案を聞き、それを最後の手段とする。フォンを通じて連絡を受けたミールのビセサがエディソンの提案で氷原にメッセージを書くことで火星に通信を送ることを実行し、それを受けたミールの世界の火星にいた最後の火星人は、ファースト・ボーンに一矢報いるために<眼>を捉えている重力の檻を潰す。そして<眼>からの救難信号を受けたQ爆弾は進路を地球から火星へと転じ、Q爆弾の影響で、火星が失われることが決定する。火星が消えた時、そこにいたマイラとミールの<眼>の部屋にいたビセサは何処かへ転移させられ再会を果たし、そこで出会った人物は自らを殿種族(ラスト・ボーン)と名乗り、ファースト・ボーンとの戦へと2人を誘う。珍しく宇宙戦艦なども登場しているが、最後に殿種族を登場させるあたりはクラークらしいかな。これでクラークの作品はやっと一区切りかな。

(「火星の挽歌」、アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター著、中村融訳、ハヤカワ海外SFノヴェルズ、2011年12月発行、ISBN978-4-15-209259-5)

SFマガジン 2012年2月号

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日本作家特集号、といってもSFマガジンでは初登場の作家ばかり、新人に近い作家ばかりだが。創元SF短編賞作家の宮内悠介「ヨハネスブルグの天使たち」は、民族紛争の続く南アフリカでの少年・少女と玩具メーカーの遺した少女アンドロイドの話。ラノベ分野で活躍中の十文字青「小さな僕の革命」は、現在の日本の行く末のような閉塞感の覆われた世界でネットに仕掛けた"祭り"の行方を描く。日本SF新人賞作家の片理誠「不思議の日のルーシー」は、夏の日に少年が出会った少女と並行世界の接触に伴う現象を描く。ポプラ文庫のピュアフル文学賞作家の倉数茂「真夜中のバベル」は、極度に発達した言語機能の少年と幼馴染の少女の夏のひとときを描く。唯一JAで著書が出ている瀬尾つかさ「ウェイプスウィード」は、海面の上昇で巨大な海藻が繁茂し一部の人だけが外世界の知識を受け継ぐようになった地球に調査員の青年が調査に降りてきたところを描く前編。連載陣は≪椎名誠のニュートラルコーナー≫は第29回「海浜自由生活者はいまどこをさすらうか」。山本弘「輝きの七日間」第10回は、オリオノンによる高知能化現象の元での事態の進展。梶尾真治「怨讐星域」第21回「七十六分の少女」は、ノアズアーク号で精密部品作成に従事する技師が、偶然船内に現れた地球からの転送者の少女と出会った事件を描く。夢枕獏&寺田克也「十五夜物語」は十四章。東城和実「完璧な涙」は第22回。≪現代SF作家論シリーズ≫第13回は宮野由梨香の星新一論「なぜ一〇〇一話なのか?」。友成純一はシチェス+アジアフォーカス・レポート。新連載評論として、立川ゆかり「是空の作家・光瀬龍」。他には、上田早夕里『リリエンタールの末裔』刊行記念とチャイナ・ミエヴィル『都市と都市』刊行記念が巻頭で。第32回日本SF大賞&第7回日本SF評論賞選考発表会レポートは、日本SF大賞は上田早夕里『華竜の宮』で、特別賞が横田順彌『近代日本奇想小説史明治編』、特別功労賞が小松左京。評論賞はいずれ詳細が載るだろうからそのときに。

小学館のBIG COMICS SPECIALでの星野之宣の傑作短編集の第2弾。タイトルどおり宇宙ものの短編集といったところか。「詩人の旅」は恒星間宇宙船ミューズの建設現場の閉鎖環境と宇宙に適応した乗組員の姿を描く。「木霊の惑星」は、かつて探査隊のシャトルが墜落した惑星の探査隊に加わったロボットメーカー創始者の老人が再び惑星に赴いた理由を描く。「メリー・ステラ号の謎」は、焦熱地獄の惑星への探査隊の男が赴いた衛星は生きている生物衛星だった。「射手座のケンタウロス」は、"不死"の生物の伝説の調査に赴いた権力者の老人の悲惨な末路を描く。「鯨座の海」では、完全に干上がっているように見える惑星が突然の大雨で海の惑星に変わった時、眠りから覚めた大いなる生物が仲間との会話を始める。「セス・アイボリーの21日」は、女性科学者が遭難した惑星は異常に老化を早める星で、生き延びるためにクローンを作るが、という話。「メビウス生命体」は、ブラックホールの探査隊が拾った球体には、物体の裏側に超次元的に移動できる生物が封じられていた。「ターゲット」では、地球を狙う小惑星破壊任務の部隊が任務を果たすと、そこには次の小惑星が。「ウラシマ効果」は、孤独な任務から50年ぶりに帰還した男は相対論効果で若いままだったが、という話。「大いなる回帰」では、危険な軌道を変更されて金星に落ちたハレー彗星と父・息子の話。「灼ける男」は、水星の昼側から徒歩で基地に帰還しようとした男の話。「WAR OF THE WOLRDS」は、アメコミのヒーローたちが現実に現れたらという楽しいパロディ。「宇宙からのメッセージ」はカトゥーン集。「夜の女神」は、月面基地をめぐる攻防を描く初期作品。これだけが1978年発表で単行本未収録。読んだ記憶はあるけど掲載時かなあ、それとも現代マンガ図書館で掲載誌を探して読んだのがあったけど、それだっけ?単行本未収録作を入れて付加価値にしてるんだろうけど、違和感があるなあ。

(「スターダストメモリーズ」、星野之宣著、小学館 BIG COMICS SPECIAL、2011年10月発行、ISBN978-4-09-184107-0)

シリーズの第5巻。西暦2349年のパラスでの農夫タック・ヴァンディの物語と、情報知性ノルルスカイン誕生からのエピソードが交互に語られる。パラスでの話の流れでは、農夫タックが星間生鮮食品チェーン・ミールストームの進出や一人娘ザリーカの反抗期に悩まされながら農業を続けていたが、地球から来た学者アニーが同居するようになり生活に変化が訪れる。たびたび"脱走"して街に出たがるザリーカが誘拐される事件が起こり、タックとザリーカの正体が判明する。タックはかつて海賊エルゴゾーンの幹部であり、ザリーカはその首領イシスのクローンであり、ドロテアのコントロールのためにイシスの遺伝子を持つ者として誘拐されたのだ。タックたちを密かに監視していた元ノイジーラントの軍艦乗りだったテルッセンによるノイジーラントの哨戒艦の協力でザリーカを取り戻すことができ、パラスでの農業をアニーと共に続ける見通しができる。しかし、この巻の白眉はもう一つのストーリーの方だろう。はるか昔のどこか別の銀河の惑星で原始サンゴ虫様の生物の中で、ふと自我が目覚めたのが情報知性ノルルスカインの誕生だった。自らを本意識流と副意識流に分け、移動後に被展開体として復活することのできたノルルスカインはサンゴ虫たちの惑星を去る異星船に忍び込み宇宙に進出する。そこで出会った別の情報知性ミスチフ(いたずらっ子)と対話をしながら様々な経験を積んでいったノルルスカインだったが、ある時、植物型の生物オムニフロラにミスチフが吸収されてしまう。オムニフロラはゆっくりとだが着実に周囲の空間に勢力を広げ、銀河を制覇する覇権戦略を成功させつつあった。対抗しようと宇宙の各所で進化した生物と協力して様々な手を打つノルルスカインだが、じわじわと勢力を広げるオムニフロラを留めることはついにできなかった。常に希望をつぶされダダー(偽薬作り)のノルルスカインとなった後、ヴォイドによってオムニフロラの進出が阻まれている間に先回りしたノルルスカインだが、地球に辿りついて人類の間での活動を続けていたノルルスカインが気づいた時には、ヴォイドを迂回してこの銀河にたどり着いたミスチフが木星にドロテアを仕込んでいた。最後の断章では小惑星・金剛窟でダダーに気付いた科学者ツェンがミスチフに乗っ取られるところが描かれる(どうも読んだことがあると思ったら「SFマガジン2011年2月号」掲載の短編をここに組み込んだらしい)。情報知性の誕生はイーガンの「ディアスポラ」とかでも描かれているが、今作での描かれ方も面白い。オムニフロラが広がっていく様子、特にヴォイドに一時的に阻まれるところなんか、このような時間的・空間的スケールでヴォイドを描いたものは珍しく素晴らしい。これまで物語の裏で暗躍していたミスチフとダダーのノルルスカインの正体が、これでだいぶ明かされたことになる。続きが楽しみだ。

(「天冥の標V 羊と猿と百掬の銀河」、小川一水著、ハヤカワ文庫JA1050、2011年11月発行、ISBN978-4-15-031050-9)

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