本文中にQL外字を利用しています。これがインストールされていない端末では、中・、上・、下・と表示されると思います。その場合は、・を「月完」という作りの文字に置き換えてよんでください。「月完」は、「かん」と読みます。
本時のねらいは、(1)胃の機能を丸覚えするのではなく、イメージを膨らませ、そこから機能の名称を想起できる力をつけさせる、(2)それぞれの生徒の実態に応じた媒体の教材を用意し、イメージ化を助けること、(3)漢字の学習経験のない全盲の生徒に対しては適切な漢字の説明を行うこと、(4)特に立体コピーを利用している生徒には教材操作の面で個別に支援することなどである。
前時は、臓(肝・心・脾・肺・腎・心包)の復習、腑(胆)の内容の授業を行った。その中から、本時と関連の深い脾の機能とその働きについて発問による復習を行った。
発問「本時の内容と関連の深い脾の復習をする。少しの時間を作るので脾についてイメージを作って、その機能を思い出して下さい。」
答え:運化、昇清
説明「飲食物が入っていったりするんですよね。」
考える時間をおいたあと、少しの解説を入れることで、想起を助けた。Cさんは家庭学習に十分時間が割けないため、前時の復習の際は必ずCさんは一度は当てるようにしている。
解答(C)「運化」
発問「運化とはどういう機能ですか。」
解答(C)「胃内の飲食物から水穀の精微を抽出する。」
板書「運化、胃内の飲食物から水穀の精微を抽出」
Cの発言を利用して板書した。このあと、昇清についても扱った。
説明「今日は、脾の機能と関連の深い腑である胃について取り扱う。まず、胃の位置と形状を押さえ、続いて水穀の流れをイメージしてもらい、その後、用語を皆さんと一緒に整理する。きちんと後にノートを取るのでイメージする時には、しっかりとイメージ作りをしてください。」
イメージ作りの時に結果のみをノートに取ることなく、しっかりとイメージ作りに参加できるよう、授業の流れを説明した。
板書「8)胃
(1)位置と形状
・第12胸椎に付く。
・横隔膜の下にある。
・袋状
・入口→噴門
・出口→幽門 」
点字使用者は板書を見ながら書き取れない、またAとEは難聴があることから、板書内容は何度も繰り返して発声した。Eは漢字学習の経験が無いことから、音のみからではイメージしにくい用語については、その漢字のイメージの説明と共に、用語の説明を入れる。例えば、「噴門の噴は噴火口の噴です。Eさん噴火口は上下のどちらを向いていますか。そうですね上を向いていますね。だから胃の噴門も上を向いた穴なんですよ。」などの説明を入れた。
指示「胃の図で噴門と幽門を確認して、シールを貼って下さい。」
全盲の生徒には図の概要を説明した後、胃をさわってもらい、噴門と幽門だと思われるところを指で指してもらい、合っていれば図中に凸状のシールを貼ってもらった。弱視の生徒には、噴門と幽門だと思われるところを指で指してもらい、合っていれば図中に青色の丸いシールを貼ってもらった。全盲生には立体コピーをコルクボードに固定して示した。これまで立体コピーを触察する際、両手で触ると教材が動いてしまい扱いづらいという問題があった。今回、はじめてコルクボードに固定してみたが、好評であった。
指示「墨字の人は裏にある透明のシートをめくって重ねて下さい。点字の人はもう一枚の立体コピーを重ねます。墨字の人はその透明シートに噴門と幽門に相当する部分にシールを貼って下さい。点字の人は上から押さえて、先ほど貼った幽門と噴門の出っ張ったシールを触って下さい。」
幽門と噴門を体表部に投影させるために次のような方法を取った。弱視生はOHPシート(体表の図を書いたシート)を上から重ね、幽門と噴門の位置を確認してOHPシートにシールを貼ってもらい、その下に白い紙を挟んで、OHPシート(体表部の図)のシールを見やすくした。全盲生は上からもう一枚立体コピー(体表の図を書いたプリント)を重ね上から手で触れて、先ほど貼った幽門と噴門のシールを確認してもらった。
弱視の1名には十分に指示が伝わらなかったようだが、すぐに個別に指示をして解決した。全員良く体表投影できたような反応であった。
指示「体表投影した幽門と噴門の部に対応する任脈上の経穴を考えて下さい。」
発問「噴門に相当する経穴名は何ですか。」
答え、上
解答(A)「中の上の上。」
発問「幽門に相当する経穴は何でしょう。」
答え、下
解答(C)「下、上が上だったから。」
水分、巨闕、中など様々な思考結果が発表されたが、いずれも位置的に近いので体表投影部のみの情報だと仕方がない。しかし、胃に関係があるというポイントから、うまく上と下が導けた。
板書「入口→噴門→上
出口→幽門→下 」
立体コピーをノート中に差し替えた。パソコンでノートしているDには、「」の字が外字であること。音声ソフトではJISコードで読み上げることを助言した。すると「下関」と変換されると言ったので、「それは、胃経の下関である。」ことを助言した。
発問「これから、みなさんには水穀の流れに沿って胃の機能を考えてもらいます。水穀とは何ですか。」
答え、飲食物
解答(E)「飲食物。」
本時は、水穀が多用されることを考慮して、水穀の定義を再確認した。
指示「水穀は口から胃に入って来ますが、胃からすると水穀をどうしていることになりますか、考えてください。」
発問「胃の立場からすると、胃は水穀をどうしていると言えますか。」
答え、受け入れている
解答(B)「受け入れている。」
Aは「侵入する」と答えた。なかなか「胃の立場からすると」とか「胃の気持ちになってみると」などの指示が伝わらなかったと思われる。さらに、納めることも同様に思考してもらった。Eには納めるの「納」は「納税」の「納」であることを確認し、「おさめる」と「のう」の結びつきを確認した。全盲生には手を添えて、水穀が入ってきて貯まる様子を図の上でなぞってもらった。その後、弱視生にはアニメーション教材を提示しながら、「受納」のイメージを確認した。
指示「昔の人はこのように胃の中に貯まった水穀を見て、まるで何のようだと想像すると思うか考えて下さい。」
発問「胃の中に貯まった水穀を昔の人は何に例えたと思いますか。」
答え、海
解答(A)「海」
なかなか出なかったので、以前学習した「脳は髄海」の下りを紹介し、想起を促した。説明の中で「なみなみ」を多用し「海」との関連を強調した。Eには「海」は「海は広いな大きいなの海ですよ。」と、漢字の説明を加えた。全盲生にとっては図の上で動きがないので、図を使用せず「なみなみ」という言葉でイメージしてもらった。弱視生にはアニメーション教材を見せながら「胃は水穀の海」のイメージを確認した。
指示「水穀が胃の中に海のように貯まりました。胃の中に水穀がジーッと貯められていると水穀はどうなりますか。想像して下さい。」
説明の途中で、「醤油や味噌の発酵」と関連づけてもらえるよう「桶の中に大豆などを入れて。」という説明を入れたが、あまり適切でなかったようだ。後で出した「食べ物を冷蔵庫にずっと置いているとどうなるか。」の方が「腐る」につながりやすかったようだ。
発問「胃の中に貯まった水穀は、じっとそこにいるとどうなるでしょうか。」
答え、腐る、熟成
解答(C)「発酵」
解答(A)「腐る」
Bが「発酵」と言いたそうであったが、Bの発言が多くなっていたので、Cに発言を譲った。しかし、できたら「腐る」につなげたかったのでさらに発問を進めたが、ヒントに「菌」とか「蛋白質の分解」など難解な用語を用いたためうまくいかなかった。よって、発問の方向性を変え「食べ物を冷蔵庫に放置したらどうなるか。」としたら、すっと「腐る」が出た。全盲生にとっては図の上で動きがないので、図を使用せず「じっと食べ物が貯められたら腐る」という言葉でイメージしてもらった。弱視生にはアニメーション教材を提示しながら「腐熟」のイメージを確認した。
説明「腐熟は初期的消化というに一致する。」
導入でも触れた、脾の運化、昇清を発問とアニメーションによって復習した。このときもCに当てたが、「水穀の精微」が出なかったのでEに助けてもらった。Eは「栄養分」と言ったが、本質的にはそれでも正しいので良しとした。ただ、用語を押さえておく必要があるので、確実の答えてくれそうなFに「水穀の精微」と答えてもらった。
Dに「昇清」について「精微がどこへ行くのか」(答え、上)と尋ねた。またAには「精微が抜き取られた水穀、その後には何が残るのか」(答え、かすまたは糟粕)と尋ねた。どちらも答えることができた。脾の機能を弱視生にはアニメーションを提示しながら確認した。
発問「胃の中にのこったかすがそのままあったら、次のものを受納できないので、胃はそのかすをどこにやると思いますか。考えてください。」
答え、下
解答(A)「小腸、下」
弱視生にはアニメーションを見せながらかすが下がる様子を確認させた。全盲生には図を触りながら指でかすの動きをなぞり確認した。Dは幽門が上向きに空いているので、「下に行く」という説明がうまくイメージできなかったらしく、図の上で指をうろうろさしていたので、幽門から出て、下に降りる様子を手を添えて示した。
説明「かすを降ろすから、降濁といいます。」
説明「これらの用語をまとめます。よくイメージを思い出して下さい。」
発問「どういう機能を受納といいましたか。」
答え、(例えば)口から取り入れられた水穀を胃内に受け入れ、納める機能
解答(F)「水穀を、受け入れて納めること。」
Fの解答についてどう思うか、クラスに問いかけた。
板書「以下に掲載。」
納めるの「納」を使った熟語をEに尋ねると、「納税」とすぐに出た。点字使用者のために、「受納、6、36、一マス空けて、・・・」という具合に点字でのノートの取り方を口頭で説明した。また分かち書きに迷わないよう、板書内容の説明は、分かち書きに準じて間を入れた。板書が見えない者のために何度も繰り返し板書内容を読み上げた。これらの支援については以下も同じなので、この後は省略する。残り時間が少なくなっていたので当初話し合いのような形式で進めたかったのだが、それでは時間が超過しノートに十分な時間が取れなくなると判断し、発問中心の形式に変更した。
発問「水穀の海はどういう状態、どういった様子を表す言葉ですか。」
答え、(例えば)胃内に水穀がなみなみと貯められた様子
解答(D)「胃の中に水穀がなみなみとたまっていくイメージ。」
他の人にも解答を求め、Dの意見の支持を表してもらった。
発問「腐熟とはどういう機能を表した言葉でしたか。」
答え、(例えば)胃に貯められた水穀を熟成させる初期的消化
解答(E)「腐っていく、」
板書「以下に掲載。」
Eはこのような全体に対する発問には積極的に答えないので、当てた。「腐っていく」までは出たので十分に印象づけられていると思った。さらに「腐熟」の「熟」の字も出して欲しかったので、発問を続けたがそれは出なかったのでCに解答してもらった。Eには「熟成は熟れること」という説明を付け加え、「熟」の字の意味を説明した。
発問「その後、脾が昇清するから、後には何が残りますか。」
答え、かす
解答(E)「かす」
先にEに当てたことで、答える構えができたのか、積極的に解答した。
発問「そのかすをどっちに向いて送り出しますか。」
答え、下
解答(B)「下」
板書「以下に掲載」
下に送ることは、降ろすことであることを付け加えて説明した。最後は、誰か一人に説明してもらった。
板書「(2)機能
受納:口から取り入れられた水穀を胃内に受け入れ、納める機能
水穀の海:胃内に水穀がなみなみと貯められた様子
腐熟:胃に貯められた水穀を熟成させる初期的消化
降濁:運化後、胃内に残ったかすを下へ降ろす機能 」
「本時学習のまとめをする。」
発問をB、C、E、Fに投げかけながら、受納、水穀の海、腐熟、降濁について確認した。最後に、「濁」の漢字の説明を行っていないことに気付き、「濁はにごる。濁音の濁」であることをEに説明した。
基準は次のとおりです。()内は7以降の基準。
| 評価項目 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1, 授業全体の組み立て、流れ | 0 | 0 | 0 | 5 | 1 |
| 2, 授業全体の分かりやすさ | 0 | 0 | 0 | 1 | 5 |
| 3, 声の大きさ、明瞭さ | 0 | 0 | 0 | 0 | 6 |
| 4, 教材の分かりやすさ(内容の分かりやすさ) | 0 | 0 | 0 | 2 | 4 |
| 5, 教材の分かりやすさ(見やすさ、触りやすさ) | 0 | 0 | 0 | 4 | 2 |
| 6, 教材と授業内容の適切さ | 0 | 0 | 0 | 2 | 4 |
| 7, 意欲や関心が高まる授業だったか | 0 | 0 | 0 | 3 | 3 |
| 8, 思考・判断することができる授業だったか | 0 | 0 | 0 | 5 | 1 |
| 9, 活動・表現することができる授業だったか | 0 | 0 | 2 | 2 | 2 |
| 10, 理解しやすく、知識を得られる授業だった | 0 | 0 | 0 | 1 | 5 |
全体的に満足感の得られる内容だった。また、生徒個人の意欲をかき立てる授業の進め方は東洋医学でいうところの陽のを促し、積極的な姿勢で取り組めた。
立体コピーの苦手な私にも適切なアドバイスもあり、よく分かり難解な用語、概念もよく理解できた。
デスクトップのパソコンを使っての授業は、とても理解しやすくて字も見やすい。
はっきりとした声で話してもらっている。
生徒の先々の将来を見据えて授業内容を進めている。
生徒一人一人の学習状況を授業の中で細かくチェックして把握してもらっているような気がする。
緊張感のある授業で油断できない状態にあるので気は引き締まる。
これまで、立体コピーを利用するときは、立体コピーのみを配布していた。これまでの、授業評価では「立体コピーがわかりにくい、苦手」という意見があり、どのような改善策があるか検討した。そして、今回はコルクボードに固定して利用した。すると、両手を使って自由に立体コピーを触察できてよかったということであった。