学生たちが十年か二十年経ってもし、この作品を覚えていたら、公爵のすべてがもっとわかりやすくなるのかもしれない。そういうこともある。何も、授業中にすべてを理解しつくさなくてもかまわない。ずっと後になってわかることが残っていたっていいのだ。
さて、公爵は神父の変装のままイザベラに近づき、アンジェロが昔いわれなく捨てたマリアナと言う許嫁が居り(まったくすばらしい唐突さだが)、彼女は今もアンジェロを愛していることを告げ、彼女に協力してもらって身代わりに彼と寝て貰い、それを楯に二人を結婚させる計画を示し、イザベラもマリアナも喜んでこれに同意する。これも、当時の劇にはしばしばあるパターンなのだとの説明は一応するが、この計画そのものやマリアナに対する疑問や批判も、学生たちの中からは、やはり少しは出て来る。その一方でマリアナに好意を抱く学生も多い。私も個人的にはマリアナは好きである。彼女は不美人だったのではとの解釈もあるようだが
(註7)、イザベラの凛烈な美しさとは違った、暖かい優しさを感じさせる美人であってもよいように思う。彼女への学生たちの評価をまとめて次にあげておく。
学生たちのレポ−トより。
〔マリアナ〕やさしいけっこう気の弱い人だと思う。/ひどい事をされたはずなのに、まだ好きでいられるなんて、弱そうだけどマリアナも案外強い人なのかもしれない。/心やさしいのはいいが、アンジェロからとてもひどいことをされたというのにそれでも好きという気持ちは信じられない。バカだと思う。/イザベラの協力のためとはいえ、そこまでできるマリアナは、おとなしく、お嬢様なだけではないと思う。/マリアナという女性について感じたのは、ここまで人を好きになれるのかということだ。/イザベラの代わりに関係をもってしまったマリアナは、自分に対してプライドを持っていないのかと感じました。/アンジェロを本当に愛していて、すごくいちずな女性だなと思った。/この話の中で私が1番、わからない人物がマリアナです。彼女はそんなことで、アンジェロをつかんで、うれしいのカナ?と思います。/マリアナはアンジェロの心がイザベラに向いていることを気付いているのだろうか。それにアンジェロがイザベラにきたない条件を出したこと。/アンジェロにはマリアナという存在はもったいない気がする。/とてもいい人のような気がした。/かわいそうな人だと思う。もし私がアンジェロの許嫁だったら、たまらないし、やるせないだろう。自分と将来をずっと一緒にくらそうとしている人が、他の人に心が向いているとわかった時、きっとはりさけそうな痛みだと思う。/素直に言うことをきいたマリアナもマリアナだと思う。普通、自分を捨てた男など見たくもないものだと思う。/しゃべる言葉がすくなくわかりにくい。/人がよすぎると思う。/いくらアンジェロを愛していたとしても、自分に気持ちのない人と寝るなんてむなしいと思う。ましてイザベラの身代わりであったのだから・・・。それでも、身代わりでもいいから愛する人に会って抱かれたいと思うのは、私としては女のプライドが許されない。マリアナのような女の人がいるから男はつけあがるんだと思う。男と女で男尊女卑があるから、こういう女の人がつらい思いをするんだと思う。(略)恋愛において相手をより多く愛した者が負けであるといわれるが、マリアナはまさにそうであり、かわいそうだと思った。/まるで旦那が浮気してそれでも旦那と離婚できない妻のようだ。でもイザベラと仲良しになりそうな気がする。/マリアナは、私は好きではありません。いつまでも、くよくよするのはよくないと思うし、許嫁だったのだから、もっとアンジェロにつり合うよう「キゼン」としておくべきだったと思うのです。あと、破談になってしまった人と・・・。だますのはこの場合そんなに悪いこととは言えなくても、私はもっと他の方法をとるべきだったと思います。/(東海短大)
マリアナとイザベラすりかわりの計画はうまく行くが、牢獄でクロ−ディオの赦免状が届くのを待っていた公爵と典獄のもとに来たのは、クロ−ディオを至急死刑にせよという命令書だった。アンジェロは約束を破ったのである。公爵は急遽典獄を説得し、病死した囚人の首を切って届けさせ、クロ−ディオはそのまま隠して、イザベラにも兄は死んだと伝える。ここで、典獄の立場の難しさに少し注目することにしている。そのせいか、この役にはこのあたりから、かなり人気が出てくる。学生たちはそれぞれに、この脇役の人柄や人生に思いをめぐらせているのがレポ−トからはうかがわれる。これも、まとめて紹介しよう。
学生たちのレポ−トより。
〔典獄〕私は、この話の中で典獄が一番好きです。/登場人物の中では、彼が一番共感できるし好きかもしれない。とにかく、彼は、純粋な心を持った人であるように思う。/典獄だけが、この話の中で、1番純粋な人だと思える。この人だけが忠実で気持ちのやさしい人だと思った。/脇役なんだけれど、人間味のあふれたとてもまじめで、忠実な人だというのがわかる感じだった。/人の首を切る人なのに優しい人だと思った。また、真面目な人なのによく公爵の話に従ったなぁと思った。私だったら社会人になって、上司に言われたら上司に従うだろうと思う。/優しい人で死刑囚人と接しているが、人の命の大切さというものをきちんと分かっている。それだけではなく、きっと死刑が行われるたびに心を痛ませているにちがいない。/彼はまじめな人である。イザベラと性格が似ているのではないだろうか。彼の方が情に厚いタイプだと思う。この劇の中で一番まともかもしれない。自分の信じる人の為になら命を投げ出しても惜しくはないであろう。「えんの下の力もち」という所だろうか。/普通、いくらクロ−ディオに同情をよせていたとしても、法にふれるということで、ここまで行動をとれるであろうか。(略)なにも絶対大丈夫であると保障がないのに行動を移したことは立派である。この登場人物の中で1番人間味にあふれ、勇気ある人であると思う。/典獄もアンジェロと同様まじめで法を守る人だが、典獄とアンジェロが違うのは典獄が人を一人守るために法にさからうとこで、権力がないからではなくて、その人の人柄がにじみ出ていると思う。この物語の中で唯一の人畜無害の人間ではないか。/首をすりかえるということはよい思いつきだと思うが、典獄の口からきいたのはショックだった。少しイメ−ジダウンした。/なぜか典獄という人物はすごいと思いました。自分がもし典獄のような場合になったら公爵のような人物の話をしんじてそして自分の身をあぶなくするような事はけしてしないと思います。/情がある。最も人間らしい人間だと思う。彼は自分の身に不安を感じていたが誰だって、その立場にたってみればそう思うだろう。この登場人物の中で、普通の考えに一番近いのが典獄だと思う。/法律も正しく守っているが、自分を含めて人間の温かさ、愚かさ、強さ、弱さなどをよく知っている人だと思う。/はじめはとても手を貸してくれそうにはなかったのに、けっこういきなり手を貸してくれたのは少し不自然だと思った。/わき役にしては大事な事をするいい人物だと思った。/本当は典獄というこの仕事はあまり好きではないんじゃないかと思う。この人は時代劇とかにでてくるくすり売りとか、大工さんのようなのが似合っているんじゃないかと思う。/本人にとっては究極の選択をせまられていたと思います。1人の人間としての考えと、自分の仕事をつとめる任務との間で戦っていたと思います。/俺はいいと思う。/言い訳はしない方がいいと思う。ひきょうすぎる。/何を考えているのかちょっとわからない。/したがうのはもちろん、そればかりでなく、自分がダメだと思ったことは、そうはっきり言えるところにも、まじめな性格が表れていると思った。/じみだが、けっこういい味をだしている。/この人の誠実さとル−シオのまぬけた語りはこの中で安心して読めるところだ。/典獄は公爵代理の命令もまちがっていると強く反対もせずに心の中でひそかに思っていたのではないかと思う。(略)それにもしかしたらずい分前からうすうす公爵のことを気づいていたのかもしれない。/だれにでも頼られる人。(略)もし私がろうやに入っていたら、典獄を頼りにしてしまうかもしれない。/実直である。道理のかなうことであるならば法律も曲げるいい奴。/きまりでも、その場の状況で応用をきかせることのできる柔軟性のある人だと思う。クロ−ディオの身変りを考えつく点は、とっさの判断で頭のいい人だと思った。アンジェロより典獄の方が公爵代理にむいているのではないかと思う。/クロ−ディオを思いやる気持ちがあった。そういう人が典獄だった点ではクロ−ディオは運が良かったと思う。でも、この典獄も誰にでも同情してしまうという事はないと思う。つまり、クロ−ディオの立場というのは、典獄という立場の人間の心を動かしてしまう程かわいそうなものだったのだろう。(東海短大)
さて、これらのレポ−トの中に次のような感想があった。
〔バ−ナ−ダイン〕死刑になるというのに、全く動ようもせず、そればかりか、そんな気分ではないと言ってわがままをいう。罪を犯して囚人になったのだろうが、私はバ−ナ−ダインという人の生き方というか性格が気に入りました。(同上)
私もこの人物が好きなので、紹介しておく。彼は公爵が政務を行っていた頃、投獄されていて、まだ罪が確定していなかったのだが、証拠があがって今は死刑を待つ身である。公爵と典獄ははじめクロ−ディオの身代わりに、彼を処刑しようとするのだが、このバ−ナ−ダインという男は長いこと牢獄にいたためか、すっかりここの環境になじみ、酒をくらって寝てばかりいる。首切り役人たちが頼んでも出て来ない。
「あんたのお友だちですよ、旦那、正副死刑執行人で。ご面倒でも、旦那、起きて死刑になっておくんなさい。」
「(奥で)消えちまいな、糞ったれ!おれは眠いんだ。」
役人たちは「ねえ、バ−ナ−ダインの旦那、死刑になるまで目を覚ましていてくださいよ。あとでぐっすり眠れますよ。」などと頼みこむ。ようやくバ−ナ−ダインは出てくるが、やはり態度は変わらず役人たちを手こずらせる。
「糞ったれ、おれは一晩じゅう飲んでたんだ、そんな気分じゃねえやい。」
「そのほうがいいと思いますがねえ、旦那、一晩じゅう飲んで朝早く死刑になりゃあ、その日は目を覚まさないですみますからね。」
すっとぼけた場面で、バ−ナ−ダインが全裸で監房から踊り出すという演出もあったらしいが
(註8)、
この荒削りなユ−モアが私は殊の外気に入っている。あまりのことに公爵もあきれて処刑をとりやめ、ちょうど病死した囚人がいたのを幸いに(まったく何という堂々たるご都合主義だか)、その首をアンジェロに届けるのである。そして、ラストでは、このバ−ナ−ダインもめでたく恩赦にあずかっている。
(註9)
10 したがってだな、救われるやつもおるし、救われんやつもおる。
(「オセロ−」)
これらの大筋の動きとは別に、後半に入って活躍しはじめるのがル−シオである。と言っても要するに口と舌だけの活躍だが。彼は公爵が変装している神父の前で、それと知らずにさんざん公爵の悪口を言い、ラストでは帰還した公爵の前で、その悪口を言ったのは神父であって自分ではないとぬけぬけと言ってのける。このめちゃくちゃな性格は当然学生たちの反感をかうが、彼が好きだと言う者も結構おり、また変装した公爵がル−シオの前でいらだっているのを快く思うと述べているレポ−トもある。これも、まとめてあげるとしよう。
学生たちのレポ−トより。
〔ル−シオ〕あいかわらず、おちょうしもんで、1人だけ自分のペ−スをくずさない。もうクロ−ディオとイザベラのことなど忘れている感じがする。公爵と二人でマンザイでもしているようだ。/やはり、こういうキャラクタ−も必要だ。/女ったらしで無責任/彼の言っていることが、どこまでが本気でどこまでがウソか、いまいちわからない人だと思う。それはきっと、彼があまりにも率直で、素直な性格だからではないだろうか。また、彼は公爵の悪口を言っていたが、きっととても気に入っているにちがいないと思った。/ル−シオは、どうしてこんなに、いいかげんなんでしょうか。ル−シオは、以前、クロ−ディオと同じ罪をおかしたと、公爵に言ってしまった(公爵とは知らずに)ので、クロ−ディオが死刑になるのなら、ル−シオも死刑になると思います。/すごく、おちょうし者って感じで、一番嫌いなタイプです。/見ている方がハラハラするような人だと思う。/うそつきで、あまり好きではありません。/いい人かもしれないが、人の悪口ばかり言ってもしかたがないと思う。きっと、後でひどいめにあうだろう。/ル−シオをどうこう言っても、あの性格は天性のものだから、仕方がないと思う。/何でもペラペラよくしゃべってとてもバカな人だけれども、とてもおもしろい人なので私はとても好きだ。/うそつきというよりも見栄っぱりな人だと思う。/何となく好きである。/ル−シオと公爵の会話で何だかほっと気をぬくことができて、2人の場面になると何だかうれしい。/口も性格も軽いまぬけな奴だと思った。でもなんとなくにくめない感じもする。/(あ−あ、また本人の前でそんなこと言って!)と、イライラした。でも、どんな結果になっても、この人には同情しない。/典獄の次の私のお気に入りはル−シオ、口から生まれたような人間くさい人、とてもかわいらしく、愛きょうのある人間だ。/話をきいているとすごくおちゃらけている人のような気がする。しかし、いざという時、たよりになるような気もする。/ル−シオはイヤな人なので、話の中にル−シオが登場してくると、とてもいやだけど、話の最後の方では公爵にそれなりの罰を与えられそうな気がするので楽しみです。/アンジェロ、イザベラ、その他の脇役、典獄も含めて、皆、公爵にふりまわされているようで気分がわるかったのだが、ル−シオだけは墓穴をほってはいるものの公爵は、どうもル−シオが苦手なようなので、ル−シオと公爵の会話を見るのはたのしい。/常に目立っていたい、相手に関心を持ってもらいたい、笑ってもらいたいという姿勢はまるで大阪芸人のようだと思った。/(東海短大)
それにしても、これらのレポ−トを読んでいると否応なしに生まれる実感がある。「捨てる神あれば拾う神あり」とでも言おうか、つまりどんな性格の人物でも、誰かに嫌われたら必ず他の誰かに好かれるし、その逆も言えるということだ。私自身幼い頃、全世界のすべての人に嫌われる人間になるのではないかということを心のどこかでいつも脅えていたものだが、現実にはそういうことは、よほど人工的な操作を社会や周囲がしない限り、まずあり得ない。ここにあげたレポ−トはすべて資料として配付しているので、学生たちも皆読んでいる。私でも感じるぐらいだから、彼らはもっとそのことを実感するのではあるまいか。人間の考えや好みが多様であること。それぞれに価値があり、存在が許されること。そして何より、そのことは不愉快でもなく不安でもなく、むしろ愉快で心やすまるものなのであるということを。
11 ああ、公明正大な裁判官様だ!
(「ヴェニスの商人」)
最後の一幕は、すべてウィ−ンの町の入口にある大門の前で演じられる。帰ってきた公爵が、それこそ水戸黄門と大岡越前守と遠山の金さんを足して輪をかけたような、めまぐるしいトリックで皆をはらはらさせてくれる。アンジェロをそれとなくいたぶるやら、イザベラやマリアナを逮捕させかけるやら、そして結局正体をあらわして、アンジェロの罪をあばき、潔く死刑を願ったアンジェロをマリアナと結婚させ、な、な、何と自らはイザベラに結婚を申し込む。イザベラはこれに明確な返事をしておらず(あのイザベラが!)どうなるかいまひとつ気になるが、一応この結婚も成立したと解釈することに従来なっているようである。
公爵のこのかけひきの過程で、クロ−ディオを殺した(とまだ皆思っている)罪でアンジェロを死刑にしようとした公爵に、マリアナは必死で命乞いをし、イザベラにも「いっしょに頼んで」と懇願する。「イザベラにそのように頼むのは道理に反するぞ、かりにアンジェロの許しを求めてひざまずこうなら、兄上の亡霊が冷たい墓を破って飛び出し、妹を地獄に連れ去るだろう。」という公爵の言葉を無視してマリアナは言う。
「イザベラ、お願いです、イザベラ、ただ私といっしょにひざまずき、黙って頭をさげていて。話は私がします。どんな善人も罪から生まれると言います。またたいていの人は少しは悪いところがあるからこそ、だんだんに善人になっていくと言います。私の夫も同じこと、ですからイザベラ、私のためにひざまずいて」
イザベラはこれに応えてひざまずき、ともにアンジェロの助命を乞う。
「慈悲深い公爵様、どうかこの人への宣告を、兄が生きているとお考えになってご再考ください。この人は、私にお目をとめるまで、その職務を忠実にはたされておりました。ですからどうか死刑だけはお許しください。兄は死にあたいする罪を犯しましたので、死刑になったのも当然です。でもアンジェロは、罪の意図を実行するにはいたりませんでした。それは途中で消え去った意図として葬るべきです。心に抱いた考えは現実に存在するものではありません。意図は心に抱いた考えにすぎません。」
イザベラのこの発言と行為には好感を持つ学生が多い。「彼女は冷たいと思っていたけれど、こんな優しい面もあったのか」というような意見が出る。さまざまな経験をして彼女が成長し、情け深くなったとの解釈もあるようだ。だが、私はここでのイザベラは初めとまったく変わっておらず、むしろ彼女の厳しい倫理感が時にはこのようなかぎりない優しさになることもあるのだと考える。
(註10)このことに関して「イザベラは変化したのか?」との題でレポ−トを出してもらったこともある。結果は変わったという意見と同じだというものとがほぼ半々だった。長くなりすぎるので、紹介は省く。
結局公爵は、生きているクロ−ディオを皆に見せてアンジェロを許し、典獄を賞賛し、新しい地位を約束する。あのル−シオは、かつて子どもを生ませて捨てた淫売女と結婚させられることになり、「そのくらいなら鞭打ちや縛り首の方がましだ」と叫びながら連れ去られる。
これはもうお遊びだが、最後に近く、ル−シオと淫売女も入れると四組になる新たに誕生したカップルについて学生たちの意見を聞いたレポ−トを少し紹介しておく。
学生たちのレポ−トより。
「クロ−ディオ&ジュリエットは今回の事で、更にきずなが強くなって、良い夫婦になると思う。クロ−ディオはもうこりて、浮気もしないだろう。」
「公爵はイザベラにふられると思う。イザベラは『いけませんわ』とか言ってかわすと思う。そして修道院に入ると思う。だから公爵はふられると思う。」
「アンジェロも昔のことを思い出してマリアナを幸せにすると思った。この話で私はアンジェロは一人の女性がほしいために人のことを考えずいやなやつと思っていたが、人間には嫌な面といい面があって、私にはみえないいい面がマリアナに見えていたのだと感じました。」
「公爵&イザベラは、これから公爵のモ−レツなプロポ−ズが始まると思う。イザベラは、慎重に返事を考えるだろうから、持久戦になると思う。でも、イザベラは思慮深い女性だから、公爵の奥様には理想的だと思う。ここもハッピ−エンドになると思う。」
「ル−シオ&女 一応結婚はするんでしょうが・・。女の人がラッキ−、玉のこしと考えていたら、ル−シオは一生その女とたそがれた人生を送るでしょう。又、ル−シオが私が考えているより世渡りがうまければ、よそでうまくやりつつ生きるかもしれません。でも希望としては、よそ(の国)でひとはた上げて欲しいですね。」
「特にアンジェロとマリアナ、公爵とイザベラのカップルは今までいろいろあって、それを生かしてすばらしいカップルになると思う。私は個人的にはアンジェロとマリアナのカップルに上手くいってほしいと思います。」
「イザベラは公爵のプロポ−ズを心よく受けると思います。今の日本のロイヤルファミリ−みたいに、同じ宮殿にみんな一緒に住んで、きっと幸せに暮らすのだろう。例えるなら、紀子様的存在がマリアナで、雅子様的存在がイザベラだろう。そして、3組もしくは4組のカップルの間に生まれた子供達みんなを集めて合唱団をつくって町の人々を楽しませてあげそうだ。イザベラが考えそうな事だ。」
「アンジェロもマリアナを愛そうと努力はする。表面的には幸せな家庭をつくるが、アンジェロの心の底にはイザベラが生きつづける。マリアナも少しは気づいているが、『側にいてくれたらそれでいい』とアンジェロに尽くす。イザベラは公爵の求婚を受け入れない。そして、修道院に戻り、修道女となって一生をおくる。公爵も新たな政治をおこない良い世の中をつくる。しかし、公爵も心の中にイザベラがいる一生をおくる。」
「ところで、公爵は何才なのだろう。イザベラに結婚をせまるほどだから、25〜35才のいい男かも。イザベラは性格から考えて、結婚し、いずれ政権を握る。」
「(ル−シオは)妻のいる前では小さくなってて、外では大きな事をいって、妻に『あなた!』ル−シオ『ごめんなさい』となってるような気がする。子供は5、6人いるだろう。それなりに幸せじゃなかろうか。時々、イザベラに会うという理由で公爵の所に行って、またしょうもない事をしゃべるに違いない。」
「アンジェロ&マリアナ 朝・マリアナ『あなた、行ってらっしゃい』アンジェロ『ああ、行ってくるよ』 昼・マリアナ、アンジェロのためにお裁ほうをしている。冬はもちろんセ−タ−。 夜・マリアナ『お帰りなさい。ご飯、できてます』アンジェロ『じゃあ、ご飯にしよう』マリアナ『あなた、今私、あなたのお洋服、つくってるの、サイズ計らせてもらえる?』アンジェロ『ああ、どんなものが出来るか楽しみだな』とかいう会話をしているだろう。」(以上東海短大)
ちなみに、老臣エスカラスについても、公爵にだまされていても、すべてが解決していろんなことがわかったら、「ああ、そうか」と納得して満足しているような性格が結構好きだ、という評価があった。
- 註7(本文へ)
- 松岡和子氏『すべての季節のシェイクスピア』(筑摩書房)の「プロロ−グ 豊かな行間」。私が見ることのできた数少ない「尺には尺を」評論の一つ。私は松岡氏が述べておられるほど、高尚な結末をシェクスピアが書くだろうかという疑問があり、また、この劇も含めてすべての文学作品は、まず単純に解釈し、普通に演じて見ての上での面白さを追求してみるべきと考えているので、ここで述べられた解釈にただちに賛成はできないが、興味ある評論である。授業でじっくり読む機会があれば、このような論も学生に紹介したいものである。
- 註8(本文へ)
- 一九七八年ストラトフォ−ド公演(バリ−・カイル演出)。白水社ブックス『尺には尺を』解説(野崎睦美氏)による。
- 註9(本文へ)
- 「尺には尺を」には、アンジェロの命令によって廃止された売春宿や、逮捕されたそこの女主人や客たちなどの織りなすドタバタ劇が脇筋として相当の量を占めている。残念だが時間の関係で、これらはすべて省略した。見てのとおり省略しても主筋の理解にはまったくといっていいほど不都合はなかった。わずかにからむのが、この部分で、逮捕されていた売春宿の関係者が臨時の首切り役人に雇われるのである。
- 註10(本文へ)
- 少人数の一般の方を相手にした文学講座で読んだ時は、この部分のイザベラの「兄は死刑になって当然」の発言に、強い反発を示した人もいた。