私はここで、あからさまに学生たちに一つの依頼をする。それは「話が進むにつれて、イザベラを嫌いになる人が多いかもしれないけれど、そこを何とか工夫して、好きになるよう努力して見てほしい」ということだ。アンジェロをはじめとした他の人物もそうなのだが、登場人物のいずれをも好きにならないと、この作品は面白くない。中でもとりわけイザベラを理解し愛しておかなければ、この作品は実に暗く苦く、救いようのない雰囲気になる。まあ、そうしか読めなければしかたがないが、できれば楽しく読んだ方がいいと思うので、そう言って、そのように頼むわけである。
「こう考えて見て下さい。あなたたちが女優で、このイザベラの役を演じなければならないとします。あるいはまた監督か演出家で、この劇を上演してヒットさせなければ破産するとします。そうすると、多くの人に喜んでもらうためには、やはり主演女優に人気が出て好かれなければならない。そうするためには、あなたが女優なら、この女性をどのように理解して演じるか。演出家なら、どのように魅力的に描くか。台詞や筋は変えられないのですから、このままの彼女をどのように皆に好かれるように演出するか。ものすごい美人の女優さんを使うというのも一案ですが、とにかく何とか工夫して、この人の魅力を引き出してくださるようお願いします」
こんな念を押すのは、現代では、あるいは日本では、イザベラは嫌われる要素が多分にあると思うからだ。事実、以前にこの劇の一部だけを紹介した時、学生たちの彼女への評判はさんざんだった。とりわけ、陰気な声で読みでもしようものなら、めちゃくちゃになる。この役は、澄んだきれいな声か、あたたかいやさしい声か、かわいい女らしい声の学生に読んでもらうか、それがだめならいっそ男性か教官自身が読んだ方がいい。
さて、イザベラは兄の大事を知って驚き、命乞いをするために修道院を出てアンジェロのもとに向かう。ここで、第二回めのレポ−トを学生たちに書いてもらう。テ−マは「あなたがイザベラなら、どのようにしてアンジェロを説得するか?」である。回答の一部を次にあげよう。これも、コピ−して、次の時間に学生たちに配付している。
第二回レポ−トより。
「自分がイザベラなら、先ず修道院などに入ろうとは思わない。が、それはおいといて、アンジェロを説得する時、先ず、直接会い、クロ−ディオと自分の体がひきかえという話は断って、クロ−ディオを脱獄、国外逃亡させる手段を考え、実行し、なおかつ、裏でこのアンジェロの正体に誇張を加えたうわさを流し、アンジェロの失脚を図る。そして、アンジェロが公爵代理をおろされ、かわりの人がその座についたら、その人の人格をよくみきわめ、クロ−ディオを国内へ戻すか、ジュリエットと子供を国外へ出して、クロ−ディオと一緒にどこか遠い国で幸せになってもらう。」
「私は気が短い上に、がんこでかたくなな人間が嫌いなのでアンジェロのようなやつを説得しようとしても嫌悪感でものも言えないだろうと思う。
で、結局説得できずに腹の中がすっきりしないまま帰ってきてくやし泣きするのではなかろうか。こういう自分の性格はとても嫌いだけれども、アンジェロのような男は更にもっとかなり相当嫌いである。
どっちみちクロ−ディオは法律に反しているのだから、それを正当に理論的に説得してがんこ男の考えを変えさせるなんてとうてい私にはできそうもない。
イザベラでなくてよかった。」
「・ただ身内なので助けたい、という熱意だけではダメ、きちんと理論だててスジの通った理屈で勝負する。
・とにかく、自分の方が正義であることを相手に納得させる。
・相手に何を云われてもひるまず、キ然とした態度を崩さずに、意地でも食い下がる。相手の目を見てしっかりとした口調で、かつ、断定的に話す。」
「理屈に合わないことを、悪にするアンジェロに対してアンジェロが理屈に合わないことを話すように誘導する。
力では、とっても、かなう相手ではないから、女の子の方が、口は達者だと思うので、まずは正面から説得する。
それでも、だめな時はアンジェロに反感を持っている人たちの先頭になって革命を起こす。」
「私がイザベラなら、と言うには、立場だけでなく相手を説得する力や、美しさと言ったようなものも同じであると考える。
イザベラ自身もアンジェロと同じく法や戒律に対するきびしい意見を持っているのが兄を助けなければならない。アンジェロもクロ−ディオをかわいそうだとは思うが、法を守ることを考えなくてはならない。二人とも自分の心の葛藤があるので、イザベラはアンジェロに嘆願し、二人で討論しあう。それでもアンジェロの考えを変えることはできず、イザベラは色じかけというかアンジェロがクロ−ディオの様な立場(もちろん妊娠はしないが・・・)になる様にする。アンジェロもいけないことだと思うが、考えの似かよった二人はひかれあう。この辺りで公爵が帰って来てくれるとうれしい。」
「アンジェロを説得するやり方には3つの方法がある。1、法律そのものが現実のあり方とはくい違っていることは置いておいて、クロ−ディオとジュリエットの関係は1組の結婚を誓った男女のあり方から言ってどこにも問題はなく自然な成り行きであることを説明し、これを敢えて罰することは人道にもとることを訴えること。2、アンジェロの情に訴える。引き裂かれようとするジュリエット、兄を思うイザベラの切実な心情をもって懇願する。3、統治するものの立場、感覚に訴える。愛し合い、将来を誓っている2人であるにもかかわらず、その1人を極刑にすることは統治される人民にとって不条理を強く印象づけ、その支配をあやうくすることにつながるものであることを訴える。3、はあまりに不遜を言い方であるかもしれない。しかし、このいずれのやり方でも、アンジェロのような人物には通用しないと思う。法律がその目的とするものと、その内容があっているかどうかは、彼にとってはどうでもよく、法律を厳正に執行することによってこそ、秩序が保たれる、それが自分の役目という感覚しか持っていない。このstoryのように××の×××××××を××ないかぎり無理であると思う。」
(註3)
「イザベラは修道尼としての物の考え方でアンジェロを説得すると思う。つまり神があの二人を引きあわせ、子供を授けたのだとか言うと思う。他の人もやっていることだ、とは言わないと思う。それに対してアンジェロは飽くまでも考えを変えようとしない。「法にふれた者を罰するだけだ」と言う。イザベラは、泣いてお願いするが受け入れてもらえない。そして明朝死刑が執行される。人ごみの中にジュリエットの姿も見えた。そのジュリエットにイザベラは子供を大切にするように、そしてジュリエットが自分の義姉で嬉しいことを言い残して、まさに処刑されようとしている(鉄砲で撃たれる)兄をかばって自分の命をおとしてしまう。その光景を見た市民はアンジェロを批難し、反抗する。」
「『法律そのものがまちがっています。
新しい生命の誕生は祝福すべき事です。
子どもが生まれ、育てていく事が可能ならばすぐ兄とジュリエットは結婚をし、子どもを産む準備をするべきです。
子どもの父になる人が、今、死んでしまっては、産まれてくる子どもは不幸です。
不幸を作る法律などあっていいはずがありません。なくしてしまうべきです。
私の兄だから言うのではなく、国民の一人として言うのです。
どうか、正しい法律だけを、真に意味のある法律だけを見極め、世の中のためにお使い下さい。国民は皆、幸せを願っています。神もそう願っているはずです。どうかそのことをおさっし下さい。』」
「『法律をやぶったからといって、すぐに死刑というのは、おかしいのではないでしょうか。公爵が今まで、ゆるしていた事を、公爵の代理である、あなたが、いきなり、法律を厳しくすることは、おかしいのではないでしょうか。代理ならば代理らしく、現状を維持することが一番大切なのであって、あなたが法律をむやみに、厳しくすることは、私だけでなく、国民の反発もかって、この国の平和をみだすことに、つながっていきます。国民あっての公爵ですから、もう少し、法律をゆるめてもらえないでしょうか。』」(以上リハ学)
- 註3(本文へ)
- この××の部分に書いてあったのは「公爵が介入して助ける」という意味のことである。先の部分がわかってしまわないように、資料として配付する時はこのようにした。註4をも参照。