6-2. 花=シュートの先端
6-2-1. 花=シュート、花被片・雄しべ・雌しべ=葉
前の方で述べたように、被子植物の花はシュートの先端が変形したもの、そして花被片・雄しべ・心皮(雌しべの構成要素)は葉が変形したものと考えられている。
このため、花被片・雄しべ・心皮を「花葉」ということもあるが、葉腋に花があるとき、その葉のことを"floral leaf"ということもある。また、花と葉をあしらったデザインも、しばしば"floral leaf"と呼ばれる。
この解釈は、ゲーテ(1749-1832)の「植物変態論」(1790)で丹念に論証され、また、裏付ける(この説を使うと説明しやすい)観察結果も、たくさん知られている。
- 花は、茎の先端につく(この茎を「小花梗」pedicel)と呼ぶ)。花がたくさん集まって花の集合体(花序を作るときには、小花梗の分岐は、シュートの分岐と同じように、葉腋で行われる。ただし、小花梗を抱く葉(花苞[floral bract])は普通の葉よりもずっと小さいことが多く、なくなっている場合もある。
- 非常に若いときの花は、芽とよく似ている。頂端を取り巻くように花被片・雄しべ・雌しべの順に原基が形成される。

オオフサモ(アリノトウグサ科)の茎頂
ムラサキケマン(ケマンソウ科)の花の原基

また、花の原基が環境条件によって芽に変わり、むかごとしてはたらくノビルのような例もある。

ノビル(ユリ科)はネギの仲間で、花序もネギ坊主になる(左)。しかし、花のできるべきところに代わりにむかごができていること(右)が多い。
- 維管束の通り方が、花の中心軸は茎と、萼片・花びら・雄しべ・雌しべは葉とよく似ている。ただ、これには例外もある。
- 萼片と花びらがほとんど同じような形をしている種類がある。
- 雄しべが小さな花びらのような形をしていて、そこに葯(anther; 花粉袋)がついている種類がある。また、そういう場合には、雄しべと花びらの中間的な器官がしばしば見られる。
スイレン(スイレン科)



花被片と葯を並べると、連続的に移行しているようすが分かる。いちばん外側の花被片は厚ぼったくて裏側が緑色を帯びている。花びら状の花被片は内側のものほど小さく、最外の雄しべは花びら形をしている。
- 雄しべと雌しべのあいだに中間的な器官が見られるものがある。


ハクモクレン(モクレン科)。
ハクモクレンの花の中心部。ドーム上に盛り上がったところ(花托)の下の方に雄しべが、上の方に雌しべがついている。雄しべは縁からクリーム色の花粉を出している。雌しべは先にピンク色の花柱がある。雌しべと雄しべの境目には、雄しべと雌しべの中間型がある(下の方は縁から花粉を出し、先端には花柱がある)。
同じ写真を白黒にしたもの。雌しべのうち1つをG、雄しべのうち2つをA、雄しべと雌しべの中間型を*で示す。
- 奇形の花の中には、萼片が花びらになったり(またはその逆)、花びらが雄しべになったり(またはその逆)しているものがある。また、萼片・花びら・雄しべが葉のようになったものや、雌しべが複数の葉になっているものがある。園芸ではこのような奇形を積極的に保存し、増殖してきた。例えば、サクラ・ヤマブキなどの「八重咲き」[double flower]は、雄しべ、ときに雌しべも)が花びらになった奇形の品種だ。雄しべがないのだから種子を作ることが出来ないので、野生で生き残ることは難しいはず(実際、野生植物で八重咲きの花はごくまれにしか見つからない)だが、園芸家は、挿し木で人工的に増殖している。

八重咲きのツバキ。雄しべが花びらに変わっているため、花びらがもともとの数(約5)より多い。ふつうの(八重咲きでない)ツバキの画像はここ


八重桜フゲンゾウ(普賢象)の花。雄しべは少なく、どれも少しずつ花びらの特徴を併せ持っている。花びらの中にも、雄しべの特徴を残すものがある。
フゲンゾウの雌しべ。1本の木の中でも、花によってさまざまな形を示す。柱頭から下が葉のようになったものが多い。
ただ、「花=シュートの先端」説と合わない観察事実も知られている。
- モクレン科などの花は上の(3)の「例外」で、まるで複数の茎が合わさったような維管束を持っている。
- 被子植物以外の種子植物(今も生き残っているのは裸子植物だけだが、他にもいくつかのグループが化石に残っている)では、有性生殖器官は、多数のシュートからなる複雑なものである。
これらのことから、「花は複数のシュートの集合体から進化した」という説が繰り返し唱えられているが、支持する研究者はそれほど多くない。
6-2-2. ABCモデル
花の形成においては、ふつうの茎頂では葉に分化する原基(葉原基)が、外側から順に萼片・花びら・雄しべ・雌しべへと分化する。
Coenらは、1991年に、シロイヌナズナ(アブラナ科)のホメオティック変異体(雄しべが花びらになる、など、器官がまるまる別の器官になるような遺伝子突然変異を持つ個体)を使って、花の形成過程に関する仮説を示した(ABCモデル)。
シロイヌナズナの花は非常に小さいが、ナノハナなど他のアブラナ科と同じ花の構成をしている。
-
葉原基を分化させる遺伝子は3つの遺伝子群(A・B・C)に分けられる
-
はたらく遺伝子群により、葉原基は、萼片(Aのみ)・花びら(A+B)・雄しべ(B+C)・心皮=雌しべの構成要素(Cのみ)へと、それぞれ分化する。
-
花になる茎頂は、同心円状の4つの領域1〜4に分けられる(右の図は、茎頂を上から見た図と断面図)
-
遺伝子群Bは2+3ではたらく
-
遺伝子群AとCは同時にはたらくことはなく、両方がはたらくときは、Aは領域1+2、Cは3+4ではたらく。
ふつうの(変異体でない)シロイヌナズナの花の形成は、下の表のように説明できる。
野生型
| 領域 | 1 | 2 | 3 | 4 |
| はたらく遺伝子群 |
| B | |
| A | C |
| 葉原基→ | 萼片 | 花びら | 雄しべ | 心皮 |
また、遺伝子群Aがはたらかない変異体とBがはたらかない変異体の花の形成でも、モデルどおりの結果となる。
A変異体
| 領域 | 1 | 2 | 3 | 4 |
| はたらく遺伝子群 |
| B | |
| C |
| 葉原基→ | 心皮 | 雄しべ | 雄しべ | 心皮 |
B変異体
| 領域 | 1 | 2 | 3 | 4 |
| はたらく遺伝子群 |
|
| A | C |
| 葉原基→ | 萼片 | 萼片 | 心皮 | 心皮 |
ABCモデルは、シロイヌナズナ以外の多くの植物にも当てはまることが確かめられた。また、ABCモデルを改変したモデルが当てはまる植物も知られている。
ABCモデルは、単純なモデルでありながら、萼片・花びら・雄しべ・雌しべという順序で同心円状に並ぶことや、萼片と花びら、花びらと雄しべ、雄しべと雌しべの間に連続性、が見られる例、また、さまざまな奇形の成り立ちをうまく説明している。
シロイヌナズナ(アブラナ科)。小型の一年草。野外では春に道ばたで群生が時たま見られる程度だが、被子植物の「モデル生物」として多数の研究室で実験材料に使われ、遺伝子を通じた植物の理解の進歩に大きく貢献してきた。

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