7-2. 雌しべと心皮
7-2-1. 心皮

たくさんの雌しべが花の中心を取り巻くようについている花(キンポウゲ科の多く)と、花の中心に一つだけの雌しべがある花(ミカンなど)とがある。そこで、次のように考えられている。

  1. ミカンの1つの雌しべは、ウマノアシガタの雌しべの集合体に対応する。
  2. ミカンの「ふさ」の一つ一つが、ウマノアシガタの1つの雌しべに対応する。

これは、いくつかの根拠に基づいている。

  1. ミカンの1つの雌しべと、ウマノアシガタの複数の雌しべとを足して2で割ったような雌しべがある。ユリ・キミガヨラン・コニシキソウでは、子房にくびれがあり、いかにも3つの雌しべが合わさったようなかたちをしている。柱頭も先が3つに分かれている。同じように、複数の雌しべが合わさった構造が分かりやすいものに、ヨウシュヤマゴボウなどがある。
  2. ミカンのふさ(房)とウマノアシガタの雌しべは、よく似ている。両方ともがま口のようなかたちをしていて、がま口のふたに当たるところをこじ開けると、ふたのへりに胚珠がついている。
  3. ミカン類(ミカン科)の雌しべでは、維管束は雌しべの中に入ってからそれぞれのふさに分かれていくのではなく、雌しべの中にはいる前に房の本数に分かれ、それぞれが独立にふさに入っていく。熟したミカンの実でも、へた(萼)を取って雌しべの付け根だったところを見ると、ちぎれた維管束の筋か、または維管束が取れたあとの穴が同心円上に並んでいる。これの数を数えると、(たまにちょっとずれることもあるが)皮をむかなくてもミカンのふさの数を当てることができる(例→キズ)。
ナツミカン子房断面
ナツミカン子房断面ナツミカン(ミカン科)の子房断面を見ると後で房になる部屋(子房室)があり、その中に胚珠が入っているのが見える。この例では、12室の胚珠が入った子房と1室の未発達な子房(胚珠が入っておらず、細いスリットのように見える)がある。一つ一つの子房室の外側に1本の維管束、内側に2本の維管束がある(矢印で示す)。外側の維管束は心皮の中軸を通る維管束(中脈―心皮の場合は「背束」という)、内側の2本維管束は心皮のへりを通り、胚珠につながっている維管束(側脈―心皮の場合は「腹束」という)に当たる。
ナツミカン子房断面子房の基部の断面。背束と腹束(上の方で2本に分岐する)のペアが13対、同心円上に配列する。未発達の子房室に入る腹束と背束は、他のペアと比べて細く、やや内側に寄っている。へたを取ると、心皮の背束と腹束が筋(筋が取れて透明な点になっているときもある)となって見え、心皮(=袋)の数を数えることができる。

ウンシュウミカンウンシュウミカンウンシュウミカンウンシュウミカン
ウンシュウミカン(ミカン科)の果実、へた、へたを取った痕、中のふさ

ミカンに限らず、一つの雌しべが実際には複数の単位の集合体であるような種類が多いので、ウマノアシガタの一つの雌しべやミカンの一つの房に当たる単位を「心皮」[carpel]と呼ぶ。心皮の数は、子房の断面に反映し、グループによっては柱頭の形状(角や枝の数)に反映することがある。だから、「心皮」を使って雌しべの形態を次のように表現することができる。

キンポウゲ科・モクレン科・ヤマゴボウは1心皮からなる雌しべを複数つけている

ハクモクレンハクモクレン
ハクモクレン(モクレン科)の未熟な果実(左)・雌しべと雄しべ(上)
トゲミキツネノボタン
トゲミキツネノボタン(キンポウゲ科)。花の中心部に、緑色の雌しべがたくさんある。花が終わると、花被や雄しべは落ちて、雌しべ一つ一つがとげの生えた果実になる。

ヤマゴボウヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)
ヤマゴボウ
ヤマゴボウ

●ユリ・ユッカ・コニシキソウの花は3心皮からなる雌しべを1つ持っている

オニユリオニユリ(ユリ科)

タカサゴユリタカサゴユリ(ユリ科)。左―子房の横断面、下―柱頭と葯。柱頭は浅く3つに割れている。
タカサゴユリ

ユッカ(キミガヨラン)ユッカ(キミガヨラン; リュウゼツラン科)。全形花の拡大

オクラ

●オクラ(アオイ科)は5心皮からなる雌しべ1つを持つ

オクラの子房断面(左)と柱頭(下)。柱頭(雄しべが合着した筒に囲まれている)は5つの丸い部分からできている。

オクラ

●ミカン・ヨウシュヤマゴボウの花は多数(数は一定しない)の心皮からなる雌しべを1つ持っている

ヨウシュヤマゴボウヨウシュヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)の花。

ヨウシュヤマゴボウヨウシュヤマゴボウヨウシュヤマゴボウ
ヨウシュヤマゴボウの果実。未熟なときにミカンの房のように見えるのが、個々の心皮で、雌しべ・果実の先端に「ヒゲ」のような花柱・柱頭が見える。花柱・柱頭は心皮ごとに独立している。

●マメ科やサクラ・ウメ・モモは1心皮の雌しべ1つを持つ。

マメ科の花の雌しべは1つだが、ミカンなどと違って1心皮だけからなる。だから、枝豆・サヤエンドウなどマメ科の果実と、ミカンの一房・シキミの1つの雌しべは、よく似た構造をしている。種子は必ず一方の少しへこんだ側のへりについている。種子がついている方のへりには、種子に養分・水分を送る維管束や種子を支える繊維があるため、逆側(種子がついていない方)より硬い。サヤエンドウを料理するときには、種子をついている方のへりを取る作業(「筋取り」)をやっておかないと、食べにくい。

エンドウエンドウの果実(中の豆をグリーンピースとして食べる、未熟な段階の果実)

エンドウ
輪切りにしたところ(左)と種子のつく筋(右)。種子のつく筋(胎座)は、心皮の左右のへりが合わさったもので、種子は2つのへりに交互につく。

サクラ・ウメ・モモもマメ科と同じように1心皮の雌しべ1つをつける。八重桜の品種では雌しべが1枚の葉に似た形に変化していることがある(例: 普賢象)。雌しべの断面を見ると心皮が"C"の字形に丸まっているのが分かる。合わせ目は少しくびれていて、合わせ目に胚珠がついている。雌しべを外側から見ると合わせ目は細い溝のように見える。この溝は、果実のときにも残っている。

セイヨウミザクラ
サクラ(セイヨウミザクラ)(バラ科)の雌しべ(左)・柱頭(右上)・子房の縦断面(右下)。図では子房の右側に溝(心皮の合わせ目)があり、柱頭の切れ込みまでつながっている。

セイヨウミザクラセイヨウミザクラ
セイヨウミザクラの若い果実と断面。種子を取り巻く果皮は、内側の白っぽいところと外側の緑っぽいところに分化しつつある。熟するにつれ、内側の方は硬くなって種子を守る殻(核)になり、外側は果肉になる。

モモ果実
モモ(バラ科)の果実。心皮の合わせ目に由来する一筋の溝がある。

このように、さまざまな雌しべは、単独の心皮、あるいは複数の心皮の集合体とと見なすことができる。心皮には少なくとも3本の維管束(中央に1本、両側のへりに1本ずつ)が通っていて、へりの維管束から細い維管束が枝分かれしてはへりについた胚珠につながっている。

花がシュートの1種だという説明をしたところで、「雌しべは1枚の葉に相当する場合と、複数の葉の集合体である場合とがある」と言ったが、この考えに基づくと心皮が一枚の葉に相当し、例えば、ユリの雌しべは3つの葉の集合体に相当することになる。

花に複数の心皮があって、合わさって(合着して)1つの雌しべになっている場合を「合生心皮の」・「心皮は合生」[syncarpous]と表わし、1心皮の雌しべが複数ある場合を「離生心皮の」・「心皮は離生」[apocarpous]と表わす。花に1つの心皮だけがある場合は「単心皮の」[monocarpous]あるいは単に「心皮は1つ」と表わす。

複数の器官がつながっていることを合着(がっちゃく)という。

7-2-2. 合生心皮の雌しべでの胚珠のつきかた
心皮と胎座

上の方で出てきた合生心皮の雌しべでは、図の左のように合着して、子房は心皮に対応する子房室に分かれ、胚珠は子房の中心軸に縦列を作る。子房の内部での胚珠のつきかた・並び方を胎座といい、図の左のような胎座を中軸胎座[axial placentation]という。これに対して、図の右のように合着して、子房室が1つとなり、胚珠が子房壁に縦列を作るものは、側膜胎座[parietal placentation]という。

オクラオクラ(アオイ科): 中軸胎座

コスミレ
コスミレコスミレ(スミレ科): 側膜胎座

ピーマンピーマンピーマン
ピーマン(ナス科)。果実の基部の断面は中軸胎座。中央部~先端部では側膜胎座。

ツメクサツメクサ(ナデシコ科)の果実。独立中央胎座に種子がびっしりとついている(白い糸のようなものは、胎座と種子をつなぐ種柄)。

中軸胎座と同様に胚珠が子房の中心軸に並ぶが、子房室を隔てる仕切り(隔壁)ができずに、中心軸が独立した突起のようになっているものもあり、独立中央胎座[free central placentation]という。

コナスビ
コナスビ(サクラソウ科)の果実。裂開して、種子が脱落したあと。


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