たくさんの雌しべが花の中心を取り巻くようについている花(キンポウゲ科の多く)と、花の中心に一つだけの雌しべがある花(ミカンなど)とがある。そこで、次のように考えられている。
これは、いくつかの根拠に基づいている。

ナツミカン(ミカン科)の子房断面を見ると後で房になる部屋(子房室)があり、その中に胚珠が入っているのが見える。この例では、12室の胚珠が入った子房と1室の未発達な子房(胚珠が入っておらず、細いスリットのように見える)がある。一つ一つの子房室の外側に1本の維管束、内側に2本の維管束がある(矢印で示す)。外側の維管束は心皮の中軸を通る維管束(中脈―心皮の場合は「背束」という)、内側の2本維管束は心皮のへりを通り、胚珠につながっている維管束(側脈―心皮の場合は「腹束」という)に当たる。
子房の基部の断面。背束と腹束(上の方で2本に分岐する)のペアが13対、同心円上に配列する。未発達の子房室に入る腹束と背束は、他のペアと比べて細く、やや内側に寄っている。へたを取ると、心皮の背束と腹束が筋(筋が取れて透明な点になっているときもある)となって見え、心皮(=袋)の数を数えることができる。



ミカンに限らず、一つの雌しべが実際には複数の単位の集合体であるような種類が多いので、ウマノアシガタの一つの雌しべやミカンの一つの房に当たる単位を「心皮」[carpel]と呼ぶ。心皮の数は、子房の断面に反映し、グループによっては柱頭の形状(角や枝の数)に反映することがある。だから、「心皮」を使って雌しべの形態を次のように表現することができる。
●キンポウゲ科・モクレン科・ヤマゴボウは1心皮からなる雌しべを複数つけている



ヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)

●ユリ・ユッカ・コニシキソウの花は3心皮からなる雌しべを1つ持っている
オニユリ(ユリ科)
タカサゴユリ(ユリ科)。左―子房の横断面、下―柱頭と葯。柱頭は浅く3つに割れている。
ユッカ(キミガヨラン; リュウゼツラン科)。全形・花の拡大
●オクラ(アオイ科)は5心皮からなる雌しべ1つを持つ
オクラの子房断面(左)と柱頭(下)。柱頭(雄しべが合着した筒に囲まれている)は5つの丸い部分からできている。
●ミカン・ヨウシュヤマゴボウの花は多数(数は一定しない)の心皮からなる雌しべを1つ持っている
ヨウシュヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)の花。


●マメ科やサクラ・ウメ・モモは1心皮の雌しべ1つを持つ。
マメ科の花の雌しべは1つだが、ミカンなどと違って1心皮だけからなる。だから、枝豆・サヤエンドウなどマメ科の果実と、ミカンの一房・シキミの1つの雌しべは、よく似た構造をしている。種子は必ず一方の少しへこんだ側のへりについている。種子がついている方のへりには、種子に養分・水分を送る維管束や種子を支える繊維があるため、逆側(種子がついていない方)より硬い。サヤエンドウを料理するときには、種子をついている方のへりを取る作業(「筋取り」)をやっておかないと、食べにくい。
エンドウの果実(中の豆をグリーンピースとして食べる、未熟な段階の果実)
サクラ・ウメ・モモもマメ科と同じように1心皮の雌しべ1つをつける。八重桜の品種では雌しべが1枚の葉に似た形に変化していることがある(例: 普賢象)。雌しべの断面を見ると心皮が"C"の字形に丸まっているのが分かる。合わせ目は少しくびれていて、合わせ目に胚珠がついている。雌しべを外側から見ると合わせ目は細い溝のように見える。この溝は、果実のときにも残っている。




このように、さまざまな雌しべは、単独の心皮、あるいは複数の心皮の集合体とと見なすことができる。心皮には少なくとも3本の維管束(中央に1本、両側のへりに1本ずつ)が通っていて、へりの維管束から細い維管束が枝分かれしてはへりについた胚珠につながっている。
花がシュートの1種だという説明をしたところで、「雌しべは1枚の葉に相当する場合と、複数の葉の集合体である場合とがある」と言ったが、この考えに基づくと心皮が一枚の葉に相当し、例えば、ユリの雌しべは3つの葉の集合体に相当することになる。
花に複数の心皮があって、合わさって(合着して)1つの雌しべになっている場合を「合生心皮の」・「心皮は合生」[syncarpous]と表わし、1心皮の雌しべが複数ある場合を「離生心皮の」・「心皮は離生」[apocarpous]と表わす。花に1つの心皮だけがある場合は「単心皮の」[monocarpous]あるいは単に「心皮は1つ」と表わす。
上の方で出てきた合生心皮の雌しべでは、図の左のように合着して、子房は心皮に対応する子房室に分かれ、胚珠は子房の中心軸に縦列を作る。子房の内部での胚珠のつきかた・並び方を胎座といい、図の左のような胎座を中軸胎座[axial placentation]という。これに対して、図の右のように合着して、子房室が1つとなり、胚珠が子房壁に縦列を作るものは、側膜胎座[parietal placentation]という。
オクラ(アオイ科): 中軸胎座
コスミレ(スミレ科): 側膜胎座


ツメクサ(ナデシコ科)の果実。独立中央胎座に種子がびっしりとついている(白い糸のようなものは、胎座と種子をつなぐ種柄)。
中軸胎座と同様に胚珠が子房の中心軸に並ぶが、子房室を隔てる仕切り(隔壁)ができずに、中心軸が独立した突起のようになっているものもあり、独立中央胎座[free central placentation]という。
