0-2. 陸上植物を構成するグループ
0-2-1. 陸上植物

地球上の生物は、およそ40億年前に生きていたと推定されるたった一つの祖先から、時間の流れの上に遺伝情報の樹(系統樹)を作りつつ進化してきたと言われる。

顕生代の地質年代表(単位MYA British Geological Survey: Geological Timechartによる)
古生代 中生代 新生代
カンブリア紀(Cm) オルドビス紀(O) シルル紀(S) デボン紀(D) 石炭紀(C) 二畳紀(P) 三畳紀(Tr) ジュラ紀(J) 白亜紀(K) 新第三紀(Pg) 新第四紀
542 488 443 416 359 299 251 199 145 65 23
緑藻緑藻の1種。細胞は1平面に放射状に並ぶ。

生命の起源から進化の場であった海洋と比べ、陸上は、紫外線が降り注ぎ、乾燥が水分を奪う厳しい条件である一方、海洋の大部分で不足している栄養塩類が土壌に含まれていた。現在の緑藻類に含まれる生物の一部が陸上に進出したのは約5億年前とされる。細胞が立体的に組み合わさった多細胞体と表面を覆うクチクラを獲得して、陸上を主な舞台として進化を続け、陸上植物と呼ばれるグループが生まれた。

ダイコンの子葉の組織ダイコン(アブラナ科)の種子の切片で見られる子葉の組織。表皮とその下の方向性のない組織とが区別できる。

ハマヒサカキハマヒサカキ(ツバキ科|ペンタフィラクス科)の葉の断面(表皮付近)。表皮の上面をクチクラ(純白に見える層)が覆っている。

ツルヨシ
小河川を覆うツルヨシ(イネ科)の群落の冬のようす。川べりの砂地では枯れ上がっているが、温度変化がおだやかな流水中では青々としている。陸上へ進出するには、紫外線や乾燥に加えて激しい寒暖の変化にも適応する必要があった。

陸上植物は藻類[algae]と対置されることが多い。藻類は水中を主な舞台として進化し、現在も水中を主な生活の場としている光合成生物の総称で、陸上植物の祖先が含まれていた緑藻の他に、紅藻・褐藻・珪藻・渦鞭毛藻・シアノバクテリア(藍藻)などさまざまなグループが含まれる。単細胞・細胞群体・多細胞のものがあり、起源もバラバラだ。陸上植物にも、名前に反して、水生のメンバーも含まれているが、藻類でも地表や樹上で生活するものがある。
イシクラゲイシクラゲ
地表性のシアノバクテリア・イシクラゲ

現在まで生き残り、繁栄している陸上植物は、日常生活の上で4つのグループに分けられている。

現生の陸上植物
維管束茎・葉・根配偶体と胞子体受精種子
コケ植物[bryophytes]配偶体≫胞子体(1)精子
維管束植物
[vascular plants]
シダ植物[pteridophytes]+(2)配偶体(前葉体)<胞子体(3)精子
種子植物
[seed plants]
裸子植物
[gymnosperms]
配偶体(胚乳)<胞子体(3)花粉管(4)
被子植物
[angiosperms]
配偶体(胚嚢/花粉粒)≪胞子体(5)花粉管
(1) 配偶体≫胞子体: 胞子体は有性生殖の時だけ配偶体上にできる。
(2) マツバラン類を除く
(3) 配偶体<胞子体: 配偶体は小型で、生育初期のみ。
(4) イチョウとソテツ類では、花粉管から精子が出て、少しだけ泳いで卵に達する
(5) 配偶体≪胞子体: 配偶体は微小で胞子体の中に埋め込まれる。
コケ植物
シダ植物: 狭義のシダ | スギナ | ヒカゲノカズラなど | マツバラン | ハナワラビ | 水生シダ
裸子植物: スギ | ヒノキ | ソテツ | その他

以上はわりと目に止まりやすい違いだが、他にも多数の区別点がある。また、コケ植物・シダ植物・裸子植物はさらに複数のグループに細分することができ、グループ間の違いが結構大きい。グループ間の系統関係は、遺伝子の塩基配列から推定されている。

遺伝子から推定された現生陸上植物の系統関係
タイ類コケ植物
セン類
ツノゴケ類
ヒカゲノカズラなどシダ植物
シダ類(広義)
裸子植物
被子植物
遺伝子から推定されたシダ類(広義)の系統関係
マツバラン
ハナヤスリなどシダ類(狭義)
リュウビンタイなど
スギナ・トクサなど
ゼンマイなどシダ類(狭義)
薄嚢シダ
遺伝子から推定された裸子植物の系統関係
ソテツなど
イチョウなど
マツ科以外の球果類
マツ科
グネツム・マオウ・ウェルウェッチア

現在は生きていないが化石で見つかっている植物の中には、シダとコケの中間のようなもの、シダと裸子植物の中間のようなものなど、さまざまなグループがある。

0-2-2. 植物体の大きさの進化

コケ植物は地表や他の植物に着生しており、生活のあり方は、菌類と単細胞藻類(緑藻かシアノバクテリア)の共生体である地衣[lichen]と似ている。コケ植物は、セン類(蘚類)[moss]・タイ類(苔類)[liverwort]・ツノゴケ類[hornwort]の3つに分けられる。維管束植物の共通祖先は、ツノゴケ類と最も近いという説が有力だ。

マキノゴケマキノゴケ(コケ植物・タイ類)

ミヤベツノゴケミヤベツノゴケ(コケ植物・ツノゴケ類)

ナミガタウメノキゴケナミガタウメノキゴケ(地衣)

ホシダホシダ(シダ植物)

ブナブナ(ブナ科)の樹形(早春)

シダ植物・裸子植物・被子植物は維管束を持ち、おそらくこのために、コケよりはるかに大きく高い植物体を作ることができる。現在の地球上では裸子植物・被子植物の巨樹を見ることができる。

ヒカゲヘゴヒカゲヘゴ

シダ植物の多くは地下茎から葉を広げる低い植物だが、熱帯・亜熱帯地域ではヤシのような姿の木性シダが見られ、古生代石炭期にはリンボクなどのシダ植物が巨大な森林を作っていた。

ノビル
ノビル(ユリ科|ネギ科)の維管束の横断面

0-2-3. 陸上生態系

陸上植物の出現によって陸上は緑に覆われた。維管束を獲得した植物は、湿潤なところでは森林、乾燥したところでは草原など、さまざまな生態系をつくり、水中の生態系をはるかにしのぐ量の生物を支えている。単位面積あたりの生物量は森林>草原>水界の順で、森林では熱帯雨林が最も高く、気候が寒冷に近づくほど低くなる。草原の中では湿地が寒地林に近い生物量を持ち、樹木が混じる疎林・サバンナが続く。ただし、光合成産物の生産速度では、サンゴ礁・河口が熱帯雨林や湿地と同じくらいになる。水界の大部分を占める外洋は、栄養塩類が欠乏していて、生物量も生産量も低い値にとどまる。

面積あたり現存量(g/m2)
熱帯雨林 45000 
熱帯季節林 35000 
温帯常緑林 35000 
温帯落葉林 30000 
寒地林 20000 
疎林  6000
サバンナ  4000
ステップ  1500
ツンドラ  600
草砂漠  700
砂漠  20
耕地  1000
湿地  15000
陸水(河川・湖沼)  20
外洋  3
湧昇流  20
大陸棚  10
藻場・サンゴ礁  2000
三角江  1000

面積あたりの生物量(現存量/バイオマス)をさまざまな生態系で比較したもの(Whittaker & Likens 1973のデータによる)。
上から、森林5タイプ・草地など8タイプ・水界6タイプ。

面積あたりの年間純生産量(g/m2/yr)
熱帯雨林 2000 
熱帯季節林 1500 
温帯常緑林 1300 
温帯落葉林 1200 
寒地林 800 
疎林 600 
サバンナ 700 
ステップ 500 
ツンドラ  140
草砂漠  70
砂漠  3
耕地 650 
湿地 2500 
陸水(河川・湖沼) 500 
外洋  125
湧昇流 500 
大陸棚  360
藻場・サンゴ礁 2000 
三角江 1800 

面積あたりの年間純生産量(光合成量−呼吸量)をさまざまな生態系で比較したもの(Whittaker & Likens 1973のデータによる)。
上から、森林5タイプ・草地など8タイプ・水界6タイプ。

生物の個体重あたりの生産量は、水界>草原>森林の順になる。森林は生物量の4%を生産するが、草原は森林の数倍〜数十倍(生物量の10〜33%、耕地は65%)、水界は数十倍(藻場・サンゴ礁・河口―生物量の1〜1.8倍)〜数千倍(外洋など―25〜42倍)にのぼる。外洋などのように、光合成がおもに単細胞の藻類によるところでは、1gの光合成生物が1年に数十gを生産する。この違いの一部は体重に占めるクロロフィルの比率で説明できる。

年間純生産量/現存量
 .01.1110
熱帯雨林  0.044
熱帯季節林  0.043
温帯常緑林  0.037
温帯落葉林  0.040
寒地林  0.040
疎林 0.10 
サバンナ 0.18 
ステップ 0.33 
ツンドラ 0.23 
草砂漠 0.10 
砂漠 0.15 
耕地 0.65 
湿地 0.17 
陸水(河川・湖沼) 25 
外洋 41.67 
湧昇流 25 
大陸棚 36 
藻場・サンゴ礁 1.0 
三角江 1.8 
 .01.1110

年間純生産量/現存量をさまざまな生態系で比較したもの(Whittaker & Likens 1973のデータによる)。
上から、森林5タイプ・草地など8タイプ・水界6タイプ。

クロロフィル量/現存量
 .001.0111
熱帯雨林 0.007% 
熱帯季節林 0.007% 
温帯常緑林 0.010% 
温帯落葉林 0.007% 
寒地林 0.015% 
疎林 0.027% 
サバンナ 0.038% 
ステップ 0.087% 
ツンドラ 0.083% 
草砂漠 0.071% 
砂漠 0.10% 
耕地 0.15% 
湿地 0.02% 
陸水(河川・湖沼) 1.0% 
外洋 1.0% 
湧昇流 1.5% 
大陸棚 2.0% 
藻場・サンゴ礁 0.10% 
三角江 0.10% 
 .001.01.11

クロロフィル量/現存量をさまざまな生態系で比較したもの(対数軸)(Whittaker & Likens 1973のデータによる)。
上から、森林5タイプ・草地など8タイプ・水界6タイプ。

現存量と純生産量/現存量
面積あたり生物量と個体重あたりの生産量をさまざまな生態系で比較したもの(Whittaker & Likens 1973のデータによる)

陸上植物の進化と森林の出現は、地球の光合成生産のあり方に大きな変化をもたらした。地球表面の3割にあたる陸地が、生物量のほとんどを支え、光合成生産の2/3を担うようになった。

Whittaker RH, Likens GE. 1973. Primary production: The biosphere and man. Human Ecology 1(4):357-369. link
0-2-4. 移動手段の進化―鞭毛・風・動物

単細胞生物は風や水に流されるだけではなく、鞭毛[flagellum]を動かすこと(鞭毛運動)や細胞自身が収縮すること(アメーバ運動)によって移動する。多細胞生物の一歩手前である群体までは、単細胞生物と同じような方法を使っている(ボルボックス―鞭毛運動、粘菌―アメーバ運動)。しかし、多細胞生物になると、細胞一つ一つの運動では生物体全体の運動につながらなくなる。多細胞動物では、神経系と筋肉を発達させることで多数の細胞の動きを集中的にコントロールし、すばやい移動を可能にした。

藻類の中には、最初に現れた多細胞植物は、同じ方法をとらず(あるいは、とることができず)、多細胞体の一部を水底などに固定することで固着生活を送るようになった。そのかわり、有性生殖のため単細胞(卵・精子・受精卵・胞子)になるときに鞭毛運動で移動するようになった。

陸上植物では、胞子(大胞子と小胞子があるときは小胞子の方)を丈夫な殻で覆うことにより、空中を飛散させるようになった。このことによって移動距離はぐっと大きくなったと想像される。ただし、シダ・コケの場合、受精のときは、精子が、雨や地表水の中を鞭毛移動する。

マキノゴケマキノゴケ
マキノゴケ(コケ植物・タイ類)の胞子の散布。胞子は「弾糸」とよばれる糸状の構造と混じっていて、弾糸が伸びるとともに胞子が溢れだす。

ホシダ
ホシダホシダ(シダ植物)。葉の裏にソーラス(胞子嚢群)がつく。ソーラスは、粒状の胞子嚢の集まりで、若いうちは膜(包膜)に覆われているが、熟すると縮んだわら色の包膜の周りに胞子嚢がぎっしりと並ぶようになる。胞子嚢は周囲の3/4くらいが縞目のついた環帯に縁取られている。環帯が収縮すると環帯のない部分が破れて、胞子が出て来る。

種子植物では、精子の代わりに雄性配偶体が花粉管を伸ばして精細胞を卵のそばまで運ぶようになり、受精に水が必要なくなった。イチョウとソテツでは、花粉管が最後の最後で精子を出すが、精子が移動するための水分は雌性配偶体が分泌している。脊椎動物でも、同じように、受精が水中で行われる魚類に対し、体内受精を行う爬虫類・鳥類・哺乳類の方が、水に束縛されない生活をしている(両生類には体外受精を行うものと体内受精を行うものとがある)。

スギスギ
スギ(裸子植物)。春先に大量の花粉を散らす。花粉は「種子錐」(枝先に集まった小さい灰色がかったふくらみ)の中の胚珠につき、花粉管を伸ばして受精する。下の方の大きな緑色のクリのイガのような塊は去年受粉した二年目の種子錐(スギボックリ)。

ソテツソテツの胚珠の先端部に入り込んだ花粉は花粉管を伸ばし(左)、精子(右)を放出する

アケビ
アケビ(アケビ科)の胚珠と花粉管。花粉管の先端は、2枚の種皮に包まれた珠心に入り込む。

カキノキカキノキ(カキノキ科)の種子(縦断面)。双葉を持った胚は、茶色の種皮・半透明の胚乳に囲まれている。

ダイコン
ダイコン(アブラナ科)の芽生え

種子植物では、受精卵から発達した幼い胞子体=胚も硬い殻で覆われるようになった(種子)。これも、爬虫類・鳥類・原始的な哺乳類で胚が炭酸カルシウムの殻で覆われているのとよく似ている。このことにより、種子植物では、種子も移動手段としてはたらくようになった。

チューリップ

花粉と種子の進化は、水に束縛されない生活だけでなく、移動に動物を使う可能性をもたらした。この可能性を最大限に利用しているのが、被子植物である。

チューリップ(ユリ科)の花の中心

被子植物は、以下のような独特の特徴を持つ。

  1. [flower]=茎の先端に雌しべ・雄しべ・花被片(花びら・萼片など)が一定の配列で密集した有性生殖器官をつくる
  2. 種子のもとになる胚珠[ovule]は、雌しべに内蔵されている。花粉は雌しべの先端の特定の部分(柱頭)に付着し、花粉管は雌しべの組織を通って胚珠に到達する
  3. 精細胞と卵細胞が受精するときに、もう1個の精細胞(1個の花粉粒は、2個の精細胞を持つ)も卵細胞の奧にある中央細胞と受精する(重複受精)
  4. 受精した胚珠が種子に変化するのと並行して、雌しべは種子を包む果実[fruit]へと変化する
  5. 導管を持つ
なりたちは大きく違うが、裸子植物の有性生殖器官も、被子植物と同じように「花」と呼ぶことがある

これらの特徴は、被子植物を他のグループからはっきりと区別し、さらに、被子植物がたった一つの共通祖先から進化したグループ(単系統群[monophyletic group])である疑いない証拠とされてきた。一方、あまりに独自性が高いために、現生の裸子植物にも、他の化石種子植物にも結びつけるのが難しく、被子植物がどのような祖先型から起源したかは大きな謎となっている。

他の陸上植物の出現が3億年前以前にさかのぼるのに対して、被子植物の出現は飛び抜けて新しく、1億3千万年前から1億年前にかけて急にさまざまな化石が現れ、新生代(6千万年前)に入ると裸子植物をしのぎ、地球上でもっとも繁栄している生物群の一つとなった。IUCN(国際自然保護連合)が2009年にまとめた統計によると、既知の生物種174万種のうち被子植物は28万種(16.2%)を占め、昆虫(約100万種・57.5%)に次ぐ。コケ植物・シダ植物・裸子植物を合わせても2万9千種で被子植物の1割に過ぎない。

既知の生物種数(左)と割合(右): IUCN(2009)による
脊椎動物無脊椎動物陸上植物
哺乳類54900.3%昆虫100000057.5%コケ
植物
162360.9%地衣170001.0%
99980.6%クモ1022485.9%シダ
植物
120000.7%真菌314961.8%
爬虫類90840.5%甲殻類470002.7%裸子
植物
10210.1%132010.8%
両棲類64330.4%軟体
動物
850004.9%被子
植物
28182116.2%
313001.8%710024.1%
小計623053.6%小計130525075.0%小計31107817.9%小計616973.5%
合計1740330
C. Darwinは、植物学者J. D. Hooker宛ての書簡で、被子植物の急速な多様化を"an abominable mystery"「忌まわしき謎」と呼んでいる。2009年1月にアメリカ植物学会誌は、"On The Origin of Species"(1859)出版150周年を記念して"abominable mystery"特集号(2009年1月)を組んだ。

陸上における光合成生産の主役となった被子植物は、おびただしい量の植食者[hervivor]と分解者の生活を支えてきたが、被子植物の方でも、さまざまな食害防御や食害回避のしくみが進化した。植食者の中には花食者(花粉食者を含む)が含まれていたと思われるが、生殖器官がコンパクトにまとまっていて、胚珠が保護されている被子植物の花では、進化の初期に、花食者(花粉食者を含む)から送粉者(ポリネーター)へ、風媒花から動物媒花への移行が起こった。「動物媒花と送粉者」という相利関係は、被子植物が動物(特に昆虫)の進化を促し、動物(特に昆虫)が被子植物の進化を促すことで、両者がからみあいながら多様化する共進化の出発点となった。

モクレン属の園芸種モクレン属の園芸種
モクレン属(モクレン科)の園芸種の花。小さな甲虫が雄しべを食べている。

ツツジ園芸種ツツジ園芸種(オオムラサキ)(ツツジ科)の花で吸蜜しているジャコウアゲハ
ゲンゲ・セイヨウミツバチ
ゲンゲ(レンゲソウ)(マメ科)の花を訪れるセイヨウミツバチ


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