資料3 視覚障害のある学生の履修支援の手引き(全学に配布)

 

 

視覚障害のある学生の履修支援の手引き

 
福岡教育大学 教務委員会
平成13年3月
 
 
 

1.視覚障害のある学生とは

1)視覚障害とは

 視覚に障害のある学生と一口に言っても,その障害の程度は様々であり,これまでの生い立ちによる経験も異なり,当然ながら一人ひとり個性も違っています。したがって,視覚に障害のある学生の特性をまとめて言うことはできませんが,ここでは,大学生活において,どのような点が障害となるのかを述べます。

・盲と弱視

 視覚障害は,教育上の観点からは,視力の程度により盲と弱視に分類されています。

 ・盲・・視覚による教育が不可能,または著しく困難で,主として,聴覚や触覚など,視覚以外の感覚を活用して教育すべき程度の視覚障害。視力はおよそ0.02未満。原則として点字を使用する。

 ・弱視・・視覚による教育が可能であるが,文字の拡大や弱視レンズの使用など,教育上特別な配慮を必要とする程度の視覚障害。視力はおよそ,0.02以上0.3未満。原則として,普通文字を使用する。

 このように一応の分類はありますが,盲と弱視は判然と区別できるわけではなく,境界付近の視力では,文字の選択一つをとっても,視力のほかに視野の障害や将来の視力を見通し,機器による視覚補償の可能性,本人の気持ちなど,さまざまな要因を考慮に入れて決定されます。

 一般の人が,「眼鏡を外せば0.02しかない」などという場合とは異なります。何故なら一般の人は矯正すればよく見えるので,眼鏡を外したときもその体験をもとに見当をつけることができます。弱視の人はよく見えた経験がないので,おぼろげに見えはするものの障害のない人と同じように認知をするのが難しいことが多いのです。

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2)点字による学習

 盲学生は点字を使い,図版やグラフも指先で触って認識します。点字によって日本語はもちろん,英語などの外国語,数学,化学記号,楽譜など,いろいろな文字や記号を表すことができます。また,熟練した読み手であれば,普通の音読の速さに十分ついていく速さで点字を読むことができますし,講義を聞きながら,メモを取る速さにも問題がありません。このように,点字は盲人にとっては最も効率のよい文字だと言えます。

 しかし,点字の問題点は,触ったところだけしか分からないというところにあります。そのため,本をざっと読んで大事そうな所だけを拾うことはできません。また,多くの資料の中から必要な部分を選び出すにも時間がかかります。図版やグラフ,表などを読むときも,一目瞭然に全体像を把握することができませんので,手を動かしながら指先で順に触っていき,その指先の動きを頭の中でつなぎ合わせて全体像を構築するという作業をしなければなりません。この作業には集中力が必要で,時間もかかります。

 点字は表音文字であり,かなだけで書かれた文字と同じです。そこで,文節毎の分かち書きをしたり,長い名詞などには「ますあけ」を入れて,意味をとりやすくする工夫をしています。点字に漢字はありませんので(点漢字というものが考案されていますが一般的には使われていません),かなで書かれた文章にどのような漢字が使われているかは文脈から判断するしかありません。日本語には多くの同音異義語がありますが,日常的に漢字を見たり書いたりすることができない人が,同じ音で表される言葉の文字の違いや意味の違いを理解することはかなり大変なことなのです。日常よく使われている熟語はともかく,聞き慣れない言葉は音だけでは意味がとりにくいのです。しかも漢字を見れば意味が分かるという場合には,点字を使う人だけが意味が分からないことがあります。このような場合は,どのような漢字が使われているか補足説明が必要です。

 点字で数式も楽譜も書き表すことができることは先に述べましたが,普通の文字と違って点字では,それが数式であるか楽譜であるか,見た目だけでは分かりません。日本語も英語も数式も楽譜も,どれも6点の組み合わせによる点字でできており,日本語のアと英語のa,数字の1はどれも同じ文字で,その文字に前置する符号だけで区別されています。また,普通文字で書かれた数式や楽譜は上下にも広がりを持っていますが,点字では横一列に並んだ文字列になってしまいます。例えば,分数は普通の文字では上下に段に書かれますが,点字では,(分子)(分数線)(分母)の順に横一列に書きます。点字で書かれたものを読むときはこの順に読んで,頭の中で上下二段の分数として把握するわけです。したがって,複雑な式になるほど,そのイメージを構築するために時間がかかります。

 このように,点字は,単なる読み書きの速さだけなら普通の文字に比べて大きく差がつくことはないのですが,文章中の漢字を判断しながら読まなければならない場合や,資料の中から必要な箇所を探す場合,数式や楽譜のように一列に書かれた文字や符号を読みながら面としてのひろがりのイメージを頭の中に構築しなければならない場合などには時間がかかるものなのです。

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2.勉学

1)オリエンテーション

(1) 入学前の準備

 オリエンテーションでは,講義要録や各種の案内等が配られますが,これらについては入学以前であってもできるだけ早い段階で視覚障害のある学生に渡す必要があります。そうすることで事前に部分的に点字にしたり,録音したりすることができます。

(2) テキスト・ファイルの準備

 オリエンテーションで必要な資料等は,テキストファイルとしてフロッピーに入れていただくことができれば,コンピューターを使える学生にとってはたいへん便利に使えます。ただし,図表をコンピュータを使って読みこなすことは難しい面もあります。

(3) アシスタントの準備

 講義要録などを点字にすることは膨大な時間と労力が必要になります。したがって学内にいる一人や二人の学生のために準備するのは難しい場合があります。大学によってはチューター制度などを利用して,視覚障害のある学生に朗読サービスをしたり履修の仕方の説明を上級生や大学院生にさせているところもあります。また,職員が履修登録の時に手助けしている場合もあります。

(4) 学内の移動

 学内の建物の位置や教室の配置,トイレの場所は入学以前にある程度覚えておかなければなりません。大学側である程度時間を作り,さしあたって1年生が必要な部分について,独力で移動できるように説明をしている場合もあります。また,上級生に視覚に障害のある学生がいたり,点訳サークル等があれば,一緒に歩きながら説明をしてくれることもあります。

(5) 他の学生への紹介

 視覚障害のある学生は他の学生のサポートを受ける必要が出てくる場合が多くあります。したがって,入学当初のオリエンテーションの期間に,少なくとも同じ学部学科の学生に対しては紹介しておくと,それ以後の関係が作りやすいこともあります。ただ視覚障害のある学生自身がそのことを望まない場合もあります。また,紹介の仕方によっては特別視され他の学生の中に入っていけなくなることもあります。紹介の仕方については学生本人と十分に打ち合わせた上で行わなければなりません。

(6) 履修登録

 視覚障害のある学生はテキストを事前に点字にしたり録音したりする必要があるため,どの授業を履修するかについては早い段階で決めなければなりません。授業によっては年度当初に抽選をしたりする場合がありますが,その時期まで待っているとテキストの準備ができないことがありますので,優先的に履修の登録ができるように配慮することが必要です。

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2)講 義

 視覚障害のある学生が講義に参加している場合,そのことで授業の内容や方法を大幅に変更する必要はありません。しかし,いくつかの点をご留意いただく必要があります。

(1) 録音

 視覚に障害のある学生はノートテークに時間がかかることもあり,講義を録音しておいて,復習のために利用することがあります。したがって,申し出がある場合には,講義の録音を認めて下さい。

(2) 板書

 板書については,可能な限りその内容を口頭で読み上げて下さい。ただし,講義で話されている内容を補う意味で板書している場合には,改めて読み上げる必要はありません。無言で板書をしている時間が長く続くと,重要なことが書かれているのではないかということで不安になりますので,そのような時はなるべく書いた内容が視覚障害のある学生にも伝わるようにして下さい。

 授業担当によっては,板書する内容やキーワードを事前に視覚障害のある学生に渡しておいて,授業中に支障が出ないようにしている場合もあります。特に理数系の場合,数式など読み上げられたものを,聞きながら書き取るのは難しいのでこのような方法は有効です。また日本語以外の言葉の場合,発音されただけではスペリング等わからない場合がありますので読み上げる時には気をつける必要があります。

(3) 指示語

 板書を指し示しながら,「これ」「あの」等,指示語を使うと板書を見ることができない学生にとっては講義の内容がたいへんわかりにくくなります。指示語は具体的な言葉に置き換えるようにして下さい。

(4)テキスト

 大学で使う専門的な内容のテキスト類は一部の分野を除いてほとんどの場合,点訳や音訳(朗読者がテキストを読んで録音すること)がされていません。そのため,講義に間に合うように視覚に障害のある学生が読める形で準備する必要があります。

 準備の方法としては,点訳・音訳・電子テキストでの供給等が考えられます。点訳や音訳はボランティアに依頼することが多く,1冊の本を準備するのには1ヵ月以上はかかります。また,こみあっている場合には,必要なところから順番に用意することになります。電子テキストの場合は,著者や出版社等との交渉に時間がかかったり,交渉が成立しないこともあります。したがって,いずれにしても講義がスタートするよりもできるだけ早い段階で使用するテキストを視覚障害のある学生にお知らせ下さい。

 最近では,OCRの技術が進歩し,スキャナを使って資料をテキストファイルに変換することが容易になってきました。しかし,完璧に変換できる訳ではないので,十分な校正時間が必要となります。

(5) プリント

 個別の講義のために用意されるプリント類は,早い段階での準備が難しいことが多いようです。しかし,分量にもよりますが,可能な限り実際に講義で使用するよりも前に点訳や音訳できるように準備して下さい。最近では,電子メールを利用している学生も多いので,図表を含まない文章だけであれば,メールで送るということも可能です。

(6) 提出物

 講義の中で,学生に意見やコメントを書かせる場合があります。点字で提出しても講義担当者が読めない場合には,講義終了後に提出することを認めなければなりません。ただし余裕がある場合には,他の学生の手を借りて時間内に提出したり,担当者が用意する助手などに書き取らせることもできます。

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3)ゼ ミ

 ゼミ学習では,お互いにレジュメを作り,発表したり意見を述べあったりすることが多くなります。視覚に障害のある学生がゼミに参加するためには次のようなことが考えられます。

 視覚障害のある学生が発表する場合,レジュメ等はたいていコンピュータを利用するなどして,他の学生が読める形で準備することができます。もし,コンピュータが使えない場合は,事前に他の学生やボランティアの手を借りて準備をすることになります。

 逆に,他の学生が発表し,視覚障害のある学生がその発表に主体的に関わっていくためにはレジュメを当日渡されたのでは読むことができません。講義の項でも述べたように事前にレジュメを渡せるようにすることが望ましいわけですが,現実には教員よりもギリギリで作業をしていることが予想されます。しかし,ゼミ全体でなるべく早めに準備することを申しあわせすることで,視覚障害のある学生も参加しやすいようなゼミにしていくことを心がける必要があります。

 また,ゼミで使用する資料やテキスト等もできるだけ早く決められるように他の学生への働きかけが必要となります。

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4)図版・グラフ・表

 図版やグラフ,表などは本来視覚的なもので,視覚に障害のある学生にとっては決して読みやすいものでありません。そこで,以下に示すようないくつかの配慮をお願いします。

(1) 黒板やOHPで示す図は,あらかじめ本人に与えて下さい

 黒板やOHPは,盲学生はもちろん,弱視学生にもほとんど見えません。弱視学生の中には黒板の文字を遠用レンズ(望遠鏡の一種)を用いて読むことができる人もいますが,図版やグラフ・表の場合はレンズを拡大することで,逆に全体像の把握が難しくなってしまいます。そこで,授業中に用いる図版,グラフ,表などは紙にコピーした形で事前に本人に渡していただければ,手元の図版などを見ながら授業についていくことができます。盲学生の場合も事前に図版などを渡していただくことで,それを点訳したり凸図にするなどの準備をして授業に望むことができます。凸図を作る方法はいろいろありますが,一般的に用いられる方法は次の二つです。

 (ア) 立体コピー:熱によってはじける発泡剤のマイクロカプセルが表面に塗布された特殊な紙(カプセルペーパー)を用います。この紙に図版などをコピーするか,黒いインキ(カーボンの入ったもの)で直接描きます。それを専用のランプの下を通すと,黒い部分が光を吸収して発泡し,その部分が浮き出した凸図ができます。

 (イ) 表面作図器:ゴム製の下敷きの上にセロハン紙を載せ,表面にボールペンで図を描きます。ボールペンによってセロハン紙にできる「ひっかき傷」で図を表すものです。複雑な図版には適しませんが,その場で簡単に図を描いて説明するのに適しています。アルファベットや数字も大きめに書けば分かります。本人がグラフや図版を描く場合にも,この器具を用います。専用の用紙はレーズライター用紙として市販されていて,普通のセロハン紙のほか,少し厚みのある半透明のビニールシートや,ビニールに和紙で裏打ちしたものなどがあります。

(2) 順序立った具体的な説明が効果的です

 多数の図版などを使う場合には番号をつけ,どの図版を見ているかが分かるようにして下さい。また,文字が入っていない図では,どちらかが上方向なのかが分かるように,例えば,図なら何をどの向きから見たものか,グラフや表なら,横方向(X軸方向)に何を表し,縦方向(Y軸方向)に何を表したものなのかを説明するか,本人が理解するのを待っていただけると助かります。これらは,目が見えていれば自ずから分かることですが,視覚に障害のある学生にとっては最も理解しにくいところなのです。授業をなさる先生にとっては,余分な時間をとられるとお思いかもしれませんが,ほんの十数秒のことですし,このことがあるかないかで,その後の理解が全く変わってしまうことをご理解頂きたいと思います。また,事前に図版などを本人に渡して頂ければ,予習してくることによって,時間はさらに短縮できます。

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5)視聴覚機器

 近年,OHPやビデオ等,視聴覚機器を利用した授業も多くなってきています。視覚に障害のある学生がこのような授業に参加する場合には,その内容を理解できるようにするため,いくつかの方法が考えられます。

(1) OHP

 OHPを利用する場合には,事前にOHPの内容を点訳するか電子テキストにして学生に渡しておくと授業の中でOHPに映し出されている内容と同じものを確認することができます。図やグラフなど一部点訳が難しいものもありますが,全く何もないよりは格段に理解度があがります。また,授業での疎外感もなくなります。この時,気をつけなければならないのは「講義」の項でも述べたように指示語を避けて具体的な言葉で説明をするということです。

(2)ビデオ

 ビデオを利用する場合は,字幕を読んだり,情景を説明するために,アシスタントをつけることが望ましいと思われます。同じ授業に参加している学生に余裕があれば,その学生達にその役割を担ってもらうことも可能ではないかを思われます。そのことで,お互いに友人関係が広がったり,理解をし合えるという副産物も得られます。しかし,授業に参加している他の学生もそのビデオを見ることで精一杯であると考えられる場合には彼らの学習の妨げになりますので,別の形でのサポートが必要になります。

(3) LL教室

 語学などでLL教室を使う場合は,設置されている機器にもよりますが,一度操作の説明をすることで使いこなすことができるようになります。場合によっては,スイッチやボタンの役割をわかるように点字シールを貼ることもできます。

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6)テスト・レポート

 大学での学業に対する評価は,テストやレポートによって大きく左右します。したがって視覚に障害のある学生がテストやレポートをどのように受けたり提出していくかは重要な問題になります。

 テストについては,原則は他の学生と同じように,試験場に行き,点字や拡大文字で作成された問題に解答するという方式が望ましいですが,状況によってはそのようなことが難しいこともありますので,いくつかの例を挙げます。

 視覚障害のある学生も点字を使用する場合や拡大文字を使用する場合,またどちらにしても不慣れな場合もありますので,それぞれのケースごとに学生と大学側との打ち合わせが必要になります。また,テストの時間は大学入試の実際では点字受験の場合1.5倍,弱視の受験の場合には1.3倍の時間を与えていますが,入学後の試験でもそのような措置をしている大学もあります。

 時間延長や点字・口頭での受験,コンピュータを使っての解答等のために,別室を用意することも多くあります。

(1) 出題

 ・点字または拡大文字

 ・口頭で読み上げ視覚に障害のある学生が書き取る

 ・1問1問口頭で読み上げ解答させる

 ・カセットテープなどに録音する

(2) 解答

 ・点字で解答し,点字で提出させる

 ・点字で解答し,筆記者に読み上げ,筆記者が書き取る

 ・コンピュータを使い,普通文字で解答を作成し,プリントアウトするかフロッピーディスクに保存して提出する。

 ・口頭で解答を述べる

  拡大文字で問題を作成する場合は,可能であればコンピュータを利用して,学生のニーズに合ったフォントのサイズや種類を使った問題を作成することが望ましいのですが,それが無理な場合は拡大コピーを利用することで,ある程度は対応できます。

 点字の問題作成については,学内で作成が無理な場合は,専門的な点訳ができるボランティア・グループに依頼したり,点字図書館等に依頼することもできます。また,全国高等学校長協会入試点訳事業部を利用することもできます。いずれにせよ費用と点訳のための時間が必要となりますので,早い段階での打ち合わせが必要です。

 また,理数系の科目や倫理学・言語学,その他,通常の点字体系では表すことが難しい分野については,テストまでに学習に利用してきたテキストやプリント類を点訳した人がテストを点訳しないと,学生が解答できないこともありますので,ご注意下さい。

 同じテストを受けるということは,公平さを維持するためには重要ですが,何を学んだかという内容を重視する場合には,授業担当者との話し合いで,口頭試問やレポートに置き換えているケースも見られます。しかし,レポートに置き換えたために,テストを受けるよりも資料調べなどに時間を費やしたり,新たな点訳や音訳をボランティアなどに依頼しなければならないなどの状況を生むこともありますので,学生本人と十分相談する必要があります。

 レポートについては,近年視覚に障害のある学生がコンピュータを利用するためのソフトやハードが発達してきたこともあり,独力で漢字仮名まじり文を書けるようになってきました。ただし,点字使用の学生の場合,高校段階までの教育で漢字を実際には使用せずに,点字で読み書きをしてきています。このようなわけで,単なる漢字変換のミスに加えて,漢字への不慣れによる文字の間違いもありますので,配慮が必要になります。

 入学当初,コンピュータをまだ使いこなしていない場合には,友人やボランティアの手助けが必要になることもあります。この場合,とりあえず点字でのレポートを認め,締め切り後に通常の漢字仮名混じり文での提出を受け付けるということも考えられます。ただし,大学側で点字のレポートを授業担当者に読めるような形の普通文字に変換できる場合にはその限りではありません。

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7)実験・フィールドワーク・ラボ

 実験やフィールドワークなどには,もともと視覚的な作業が多く,視覚に障害のある学生には問題が多いものです。しかし,歴史学,文化人類学などフィールドワークが必要な分野や,物理学,化学,心理学など実験が不可欠な分野にも,弱視学生はもとより盲学生も進学し,大学の先生方や友人の協力のもとに勉学しています。また,盲学校もアフターケアとして大学に協力してきました。それらの実績をもとに,視覚に障害のある学生が実験やフィールドワークに主体的に参加するための配慮事項を,こうした学生が科学や物理学の実験を行う場合を中心にして以下に示します。

(1) 本質をふまえた柔軟な対応を

 大学で用意されている実験やフィールドワークの内容は視覚に障害がないことを前提としていますので,そのままでは視覚に障害のある学生には不可能なものが多いのが実情です。しかし,不可能に見えるものでも,個々の内容を具体的に見ていけば,不可能な作業より可能な作業のほうがずっと多く,視覚障害であるためにできない部分は限られていることが分かります。また,実験方法を修正したり実験器具を工夫することで,目的が達成できるものも少なくありません。

 視覚に障害のある学生が,一般の学生と同じ方法でできる場合は問題ないわけですが,なんらかの変更が必要になるとき,授業をなさる先生方が「方法を全く変えてはならない」とお考えになるか,「本質が押さえてあれば内容や方法に多少の変更があっても良い」とお考えになるかで,視覚に障害のある学生にとって,その実験が「できる」か「できない」かは違ってきます。また,どんなに方法を工夫しても,現時点では不可能な実験もいくつかあるのは事実ですから,そのことをどこまで認めていただけるか,何をもって「等価値な」実験やフィールドワークができたと考えられるか(単位を与えることができるか)が最も大きな課題です。こうした学生の立場からは,柔軟なカリキュラムが望ましいことは言うまでもないことです。

(2) 感覚の活用

 視覚に障害のある学生は,日頃から視覚以外の感覚を活用しています。たとえば,コップにジュースを注ぐとき,グラスを持った手が感じる重さと冷たさでジュースの量を知ります。科学実験の場合も,ガスバーナーを使うときは音をたよりに炎の調節をしますし,手で確認しながら実験装置の組み立てを行います。このように感覚を活用することで多くの実験操作が可能になります。このような感覚の使い方はまわりの人には分かっていないことが多いので,実験操作ができるかどうかを考えるときには,必ず本人の意見を聞いてみるようにしてください。

(3) 便利な器具を利用する

 視覚に障害のある学生も,基本的には一般の学生が用いる実験器具と同じ器具で実験を行います。それに加えて,視覚の障害を補うために用いる実験器具のいくつかを次にあげます。

 ・ 感光器

 視覚の代替として光の存在や光の変化を知るために1960年頃に開発された盲人用実験器具で,長さ12cmほどの大きさのものが市販されています。この器具の中には,光によって抵抗値などが変わる半導体などを使ったセンサー(受光部)と,音源,スピーカーなどが組み込まれた電気回路があり,光の強さに応じて音の高さが変化するように作られています。光に関する実験のほか,科学実験で色の変化をとらえたり,沈殿(濁り)の生成を知るために用います。

 ・ デジタル計器のパソコンによる音声化

 電子天秤などデジタル計器をパソコンで音声化することが容易になり,精密な測定ができるようになりました。また,器具とともに持ち歩きが容易なように,パソコンのほうも目的を限定したポケットサイズのものが開発されています。

 ・X−Yレコーダー

 これは通常の実験器具ですが,オシロスコープなどの画面を知るために使います。X−Yレコーダーで画面を記録し,できたグラフを立体コピーで凸図にして観察します。

(4) 基本操作の習得

 これまでに述べたことは,高等学校段階(盲学校高等部)で十分に実験をしてきた学生を想定しています。視覚に障害のある学生の場合は一般の学生の場合以上に高校での実験の積み上げによる基本操作の習得ができているかどうかが重要な要素になります。

(5) 本番前に,場所と器具を知る機会を作る

 視覚に障害のある学生は,新しい環境を知るために時間がかかります。したがって実際に実験を行う前に実験室の位置や構造を理解し,実験机の配列,棚にある物品の確認などをする時間が必要です。また,初めて使う実験器具なども事前にひととおり触ってみる必要があります。

(6) 広い机

 視覚に障害のある学生は一般の実験器具のほかに,特別な器具が必要になることもあるので,一般の学生よりも広い机が必要になります。また,できれば実験室の隅のほうの実験机を使わせるほうがよいようです。

(7) 共同実験者

 基礎実験の段階では,数人のグループによる実験か二人一組での実験が多いので,共同実験者との人間関係が大切な要素となります。始めから視覚に障害のある学生のことを理解している学生はほとんどいないと思われますが,次第に良い協力関係を育てていくことができるよう,毎回グループ編成が変わるよりも,しばらくの間は同じ共同実験者が続くほうが良いと思われます。

(8) TAの必要性

 視覚に障害のある学生の実験の援助と安全確保のためにTAはどうしても必要です。TAは実験操作を熟知した上で,できるだけこうした学生の自主性を尊重した援助をすることが必要で,学生自身ができることをTAがやってしまわないようにしなければなりません。(5)で述べた実験場所や器具のオリエンテーションは,多くの場合TAの任務とされています。

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8)体育実技

 大学によっては体育実技を必修にしていない場合もありますが,視覚に障害のある学生が履修する場合には,本人と十分に相談した上で,設備やスタッフを検討しながら,内容や種目を決めることになります。学生の障害の程度によっては,激しい運動ができなかったり,他の障害を合わせ持っている場合もありますので,授業前には十分な検討がなされなければなりません。

 盲学校の体育の授業では,次のような種目が行われています。

 フロアバレーボール
 盲人卓球
 グランド・ソフトボール
 ゴールボール
 陸上競技
 水泳
 マット,トランポリン
 縄跳び

 ウエイト・トレーニング

 以上の種目の内,球技では,盲人卓球を専用の卓球台を購入して行っている大学があります。他の球技種目はゲームを行うには大人数が必要なため,あまり取り上げられていません。しかし,一般の晴眼者の学生を含めた形で,フロアバレーボールを授業に取り入れている大学もあります。一般に行われている球技は視覚に障害のある学生には参加が難しいことが多いようです。

 視覚に障害があっても,他の学生に混じりながら,水泳やゴルフ,ダンスなどの授業に参加していることもあります。メトロノームの音を頼りにアーチェリーを行った例もあります。また,けがをして一時的に一般のクラスに参加できなかったり,他の身体障害のある学生達と一緒にエアロビクスやウェイト・トレーニング等をしているケースもあります。

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9)情報収集

 視覚障害は情報障害と言われることもあります。そのくらい一般には目が見えていることで得られる情報が多いということになります。視覚に障害のある学生が得られない情報をどのようにカバーしていくかについては次のようなことが考えられます。

(1) 掲示板

 大学では休講の連絡や各種の締め切りの伝達のために掲示板が利用されることがよくあります。大学生活にも慣れ,友人も増えてくると,掲示板から得られる情報は友人に読んでもらえるようになっていきます。しかし,入学直後や友人と一緒でない時には職員の方に読んでいただくことになります。したがって,視覚に障害のある学生が訪ねていった時に,必要な情報を伝えていただける担当者がいることで,いつでも安心して情報を確認することができます。

 掲示板を読む代わりに,電子メールで視覚に障害のある学生に必要な情報を伝達したり,電話で伝えるということをしている大学もあります。また,インターネットの普及により,とくに視覚に障害のある学生のためだけではなく,ホームページを有効に利用している場合もあります。履修登録の前に講義の概要等をホームページで読んで,どの講義にするか決めている学生もいます。ただし,ホームページは作り方によっては視覚に障害のある学生が音声ソフト等を使って読むには困難な場合もありますので,読みやすい形での提供が必要とされます。

(2) 検索のトレーニング

 図書館等で本や論文を探す場合,視覚に障害のある学生は他人に力を借りることが多くなります。そのような時に,視覚に障害のある学生が主体的に検索をするためには,検索のためのテクニックを十分に知っておく必要があります。最近は一般の学生に対しても検索のためのトレーニングをしている大学もありますが,視覚に障害のある学生にとってこのようなトレーニングは重要なことです。

(3) OCRの利用

 講義で必要なテキストは点訳や音訳をすることもできますが,それには膨大な時間と人手が必要になります。少々読みずらくても,ある程度内容をつかんだり,概略を知るためにはOCRが利用できます。視覚に障害のある学生が独力で利用できるものもありますが,チューターやボランティアに依頼し,OCRを使って論文などをテキストファイルにし,校正してもらうことで短時間で資料を作りあげる方法もあります。国立大学ではそのためのアルバイト費用を用意しているところも多くあります。

(4) インターネット

 OCRの技術を使わなくても,すでに電子化された情報を得るために,インターネットを効果的に使うことで多くの情報を入手できます。最近では,視覚に障害のある人がインターネットを使える環境を用意している大学が増えてきており,大学生活に大きな助けとなっています。

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10)図書館

 図書館は視覚に障害のある学生にとってたいへん近づきにくい場所です。それは点字の書籍がほとんどないことと,検索等を自分ですることができないということもあります。しかし,大学生活の中で図書館を有効に使えるかどうかということは,学業面では大きく影響してきます。視覚に障害のある学生が図書館を十分に使えるようにするには,次のようなことが考えられます。

(1) 対面朗読室

 視覚に障害のある学生が図書館で本を読む場合,他の学生やボランティア等に声に出して読み上げてもらうことがよくあります。そのような場合,他の利用者には迷惑がかかります。そこで,多くの大学では,図書館の中,あるいは,校舎の中に対面朗読室を設けています。

 視覚に障害のある学生は,その部屋に本を持ち込み,対面朗読を受けながら録音したり,メモを取ったりすることになります。この部屋には視覚に障害のある学生が操作できるコンピュータ・システム,インターネットへの接続ポート,録音のための装置が設置されているとより便利に学習することができます。最近では,視覚に障害のある学生本人用とサポートをする晴眼者のためのコンピュータを備えている大学も増えてきています。

(2) 検索のアシスタント

 視覚に障害のある学生が図書館で検索をする場合,弱視者に対しては端末に表示される文字を拡大して表示する必要があります。また,画面を確認できるほどの視力がない学生は音声等で情報を得ることになります。そのようなシステムが整っていれば問題はありませんが,そうでない場合は検索の時に手助けが必要になります。

 視覚に障害のある学生は膨大なデータの中からコンピュータから発声される合成音声や拡大文字で必要な箇所を見つけ出すのには晴眼者の何倍もの時間がかかりますので,コンピュータ等の条件が整っていたとしても手助けが必要となります。

 手助けをする人としては,同じクラスの学生や大学院生のチューター,図書館の職員,友人やボランティア等が考えられます。いずれにしても,使いたい時にいつでも,図書館を存分に使えるような体制作りが必要です。

 

引用文献:全国高等学校長協会特殊教育部会全国盲学校長会大学進学対策特別委員会編

 シリーズ 視覚障害者の大学進学2 大学生活 2000.

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